名前を忘れた私が思い出す為には、彼らとの繋がりが必要だそうです

藤一

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『トマリギ』に相応しいのかどうか※

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アルケーさんが何やら悪巧みをすると分かっていても話し合い自体はしなければならない。と言う事は、何か起こった場合、傷口を最低限にするしかない、と言う事だ。出来るんだろうか。相手は腹黒気質の有るアルケーさんだし。
ミスティコさんは眼鏡を外すと、眉間を押さえて諦めた様な溜息を吐いた。

「俺から城に連絡する。日にちが決まればお前に伝える。それで良いか?」
「勿論です。楽しみにしておきますね」
「楽しみ、ねぇ・・」

「楽しみ」・・これって絶対に予告ホームランと言うか「何かしますよ」というアルケーさんからのアピールだよね。当日に向けて心の準備と、出来る事ならミスティコさんと打ち合わせをしとかないと。アルケーさんの口を押える方法も考えておこう。最悪、本当に最悪の場合は、もう私が泣いてしまおうッ!話を中断させる事位なら出来るかもしれない。私がカップの底に残った紅茶の模様を見詰めながら考え込んでいると、隣のアルケーさんが身体を寄せて来た。

「ふふ、良からぬ事を考えているのは、私じゃなくてオトの方ですよね。良いですよ、しっかり考えておいて下さいね」

アルケーさんの言葉にびくりと肩が揺れる。私が驚いた視線をアルケーさんの方へ向けると、彼の指が私の唇に触れた。琥珀色の瞳がゆっくり三日月の形になる。

「・・私を楽しませて下さいね♡」

ご、語尾がハートなんだけど。私は引き攣った笑いで誤魔化す事しか出来ない。

不穏な夕食の後、アルケーさんが言っていたようにミスティコさんは「残っている仕事が有る」と言って、神殿へ戻って行った。仕事に戻る前に「明日が面会日になる可能性が有るから、体調に気を付ける様に」と私に向かって注意をした。これ、風邪を引くな、とかそういう意味合いじゃないよね。私は目を合わさずに「気を付けます、すいません」と小声で答えた。

ミスティコさんが仕事に行ってしまった後、二人きりになった部屋でアルケーさんは私の頭を優しく撫でた。

「オト、頑張りましたね。お陰で王子と直接の話し合いが出来そうです」
「あの、話し合うのは良いんですけど・・あんまり、その、何と言うか・・王子に変な事言わないで下さいね?」

私の言葉にアルケーさんは「ふふ」と笑うだけで「分かりました」とは言ってくれない。じっと視線を逸らさずに彼を見詰めていると、アルケーさんが少し眉を下げ「困りましたね」と呟き、私の目を手で覆って耳元に唇を寄せた。視界が急にふっと暗くなり、アルケーさんの声と息遣いにぞくりと背筋が震える。

「・・私はオトを困らせたいなんて、これっぽっちも思っていないんですよ」

じゃあ、どうしてあんな不穏な事を言ったんだろう?私が考えている事が分かったのかアルケーさんは私の目を覆ったまま言葉を続けた。

「ただ、私は知りたいだけなんですよ。・・彼が『トマリギ』に相応しいのかどうか」
「えっと・・相応しいかどうか?・・でも『トマリギ』にするかどうかは、私が決めて、良いんですよね?」
「えぇ、勿論そうです。第5王子以上に、トマリギの条件に合う男性は今の所、居ないでしょうね」

アルケーさんはそこまで言うと「あぁ」と思い出した様に呟いた。

「・・ミスティコも、条件的には申し分ないですね。エナ様よりずっと上位の家門ですし条件には十分合致しますね」

突然、ミスティコさんの話題が出て心臓がきゅっとなる。ミスティコさんから馬車の中で「俺が『トマリギ』になっても良い」と言われた事を鮮明に思い出す。アルケーさんに目隠しされていなければ、確実に目が泳いでいただろう。私は話題を変えようと口を開く。

「で、でも、トマリギって・・条件じゃなくて・・私の・・」

私がそう言い掛けたところでアルケーさんは目元から手を外し、今度は口を塞いだ。私と目線を合わせ、ちらりと目配せをする。

「・・話の続きはあちらでしましょう。・・手加減はしますよ。貴女との約束なので」

アルケーさんの視線の先は寝室だ。寝室で話し合いって!絶対に絶対にアルケーさんに有利じゃないか!頭の中では分かっているけど、アルケーさんの香りに包まれて、熱を孕んだ目で見詰められると「いや」とは言えない。
アルケーさんだって分かっている筈だ。私が「嫌だ」と言えない事を。アルケーさんの思い通りになっている様な気がして何だか悔しい。八つ当たりなのは分かっているが、眉間に皺を寄せてアルケーさんを睨む。アルケーさんはそんな私を見て、くすりと笑う。

「おや、そんな顔をして。成程、手加減されるのはお嫌、と言う事ですか?」

違う違う!私を揶揄って遊んでいるんだと思うけど、ここでスルーしたら絶対に「手加減無し」になってしまう。口元を押さえられているから、私は頭を振る。すると、アルケーさんがゆっくり手を外してくれた。

「ふふ、手加減しろ、と言う事ですね。全く残念ですね」
「う、アルケーさん、私を揶揄って楽しんでますよね?」
「さぁ、どうでしょう?そんな事より話の続きの前に、シャワーを浴びますか?」

私が頷くより前にアルケーさんは手際良くお風呂の準備を始める。彼に全部を任せる訳にはいかないので、私は寝室から自分とアルケーさんの着替えを用意する。あぁ、やっぱりアルケーさんの思い通りになってしまっている。

普通にお風呂を済ませ、リビングで考え事をしているとアルケーさんが「そろそろ寝室に行きましょうか」と声を掛けて来た。う・・「寝ましょうか」じゃないのが怖い。私が覚悟を決めて立ち上がろうとした時、窓がコツンと鳴った気がした。アルケーさんも気が付いたようだが確認する素振りはない。

「あの、窓の外に何か・・」

私がカーテンの閉まった窓を指差して言うと「そうですね」といつもよりずっとずっと素っ気ない返事が返って来た。

「・・多分、城からの返事でしょう」
「・・お城からの返事・・?あッ!もうですか!」
「早ければ良いってものじゃないですけどね。一晩位、放っておけば良いですよ」
「で、でも、明日がその面会の日に決まってたら・・」
「まぁ、何とかなるでしょう」

アルケーさんは自分の髪を緩くくくりながらそう言う。い、いつもはきめ細やかなアルケーさんがめちゃくちゃアバウトになっている・・。仕方が無いので、私が窓の外を確認しに行こうとした時、後ろからアルケーさんに抱き締められた。首筋に彼の息が掛かる。

「・・後から私が確認しますから。このままで」

その声は少し強張っていた。普段の調子だったら、きっと「一応、確認しとかないと」と答えたと思う。けれど私はそのまま力を抜いて、肩に回された彼の腕に頬を寄せた。それで私の意思が十分伝わると思ったから。すると、アルケーさんの唇が私の首筋に押し付けられ、私がたまらず吐息を漏らすと、アルケーさんが「・・寝室に行きましょうか」と耳打ちした。

・・寝室では・・いつも通りというか「話し」をする雰囲気は一切無く、私も完全にアルケーさんの雰囲気に呑まれてしまって、そのまま身体を重ねる事になってしまった。
その時の私は「話し合いはこの後なんだ」ぐらいにしか思っていなかった。アルケーさんが・・目的の為なら手段を選ばないタイプだと言う事をすっかり忘れていたのだ。

・・アルケーさんが私と舌を絡めながら、花芽をくすぐっている。すっかり充血してぷっくり膨らんでいるであろう場所を指先でやわやわと撫でられる。

「んッ!あ、あぁ・・♡あ・・はぁ♡」

ぐちぐちと蜜を掻き混ぜる音と自分の嬌声が寝室に広がる。それはいつも通りなんだけど、ただいつもよりずっとじれったい。普段のアルケーさんなら甘い刺激の合間に、指を中に入れたり、胸の先を甘噛みしたりする事も有るが、今夜はずっと緩くて甘ったるい刺激だけだ。

『絶対に焦らされてる』

分かってはいるけど、身体の奥で燻っている熱は自分ではどうしようもない。目の前の彼だけが鎮める手段を持っている。私は我慢出来ずに「ぁん♡」と腰を浮かせて、アルケーさんの指を中へと誘う。すると、アルケーさんは花芽を弄ぶ指は止めずに唇だけを離した。見詰められながら、くるりくるりと滑りの良くなった花芽の周りを撫でられる。じわじわと快感がお腹の奥に溜まって行くのがはっきり分かった。

「・・中に入れて、欲しいですか?」
「ゃ、あ゛ぁん・・。そこ、ばっかり、だ、だめぇ・・」
「ふふ、駄目?本当に?こんなに、蜜を零しているのに?」

やはり、アルケーさんは指も屹立も中に入れてくれない。ただ、私の反応を見ながら花芽をやんわり可愛がる。夜気にさらされた太もも辺りのシーツが冷たい。こんなに解されているのに、決定的な刺激はまだ貰えない。

「ゃぁ・・♡ん゛!やぁぁ・・んん♡」

「気持ち良い」と「もどかしい」がぐちゃぐちゃに混ざり合う。決定的な刺激は無いけれど、ゆるゆると絶頂に向けて追い詰められている感覚は有る。熱が溜まるのと比例して理性の「たが」が外されて行く。

「ぁんッ♡だめぇ・・♡ゆ゛、指で、イッちゃう・・ッ!な、中にぃ・・♡」

逃しきれない快感が怖くなって、アルケーさんの腕にしがみ付いて「中に」と懇願する。すると、アルケーさんの表情から落ち着いた笑みが消えて、瞳の奥に暗い炎が揺らめく。その炎が灯るのと同時にアルケーさんが私に覆い被さって来て、屹立が私の中への入り口にあてがわれる。求めていた刺激が、もうちょっとで手に入る。そう思った私は溜息を零す。

「・・ぁはぁ♡・・アルケー、さん・・」
「・・ねぇ、オト。話の続き、始めましょうか?」
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