名前を忘れた私が思い出す為には、彼らとの繋がりが必要だそうです

藤一

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アルケーさん、好きです

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・・ど、どうそ、と言われましても。私が手短に話したとして、それに対するアルケーさんの色々が「短く」済むんだろうか?

「・・しょ、正直言います。でも、その前に朝食にしても良いですか?その、お腹空いてて・・」

王子の所から帰って来てから、ずっとアルケーさんに貪られていて夕食を食べるタイミングが無かった。アルケーさんはちょっとばつの悪そうな顔になった。

「・・そうですね、それは私の責任です。まずは朝食しましょう。こちらにお持ちしましょうか?」
「動けるので大丈夫ですよ。ありがとうございます」

あっさりアルケーさんが引き下がってくれたので心の中でガッツポーズをする。よし、朝食を食べている間に模範解答を考えよう。
アルケーさんは私を支える様にして食卓に掛けさせると朝食の準備を進めてくれた。果物やパンの切り分けるアルケーさんと目が合う。

「こうやってると本当に『親鳥』になった気分です」
「う、何時も頼りきりですいません」
「いえ、元々、大司教様から仰せつかったのは『オオトリ様のお世話』でしたし。こうやって四六時中、オトが不自由が無い様にするのが、私の本来の役目でしょう。東のが言う様に夫でも恋人でも無い」

ぐ、めちゃくちゃミスティコさんの言葉を引き摺っている。

「・・あの、アルケーさん」

私が名前を呼ぶとアルケーさんは「はい」と返事をした。私はなるべく自然に仰々しくならない様に普段の感じで彼に語り掛ける。

「ミスティコさんは『夫でも恋人でもない』って言いますけど・・それって昔からの決まりって言うかしきたりかもしれませんけど、私は・・アルケーさんの事、ちゃんと・・す、好きですよ」

アルケーさんがぴたりと動きを止めた。分かりづらいけれど、彼は耳まで赤くなる。給仕をしていた手を止めて、私の隣に腰掛けた。

「・・オト、先程『時間が無い』とお伝えしましたよね?」
「えっと・・はい」
「東のにも『今日は休まない』って私が言っていたの聞いてましたよね?」
「う、はい」
「じゃあ、手短に済ませましょうか」

アルケーさんは私の隣でそう言うと、やや紅潮した顔のまま微笑んだ。凄く嬉しそうな表情だが、この笑顔は良くない笑顔だ!しかも「手短に済ます」って何を!私が分かりやすく警戒していると、アルケーさんは椅子を少しだけずらして、私の名前を囁いた。

「オト、いらっしゃい」

音量も小さくて柔らかい声。強制力なんて無い。けれど、私は彼の言葉に逆らえない。立ち上がると、ぎこちなくアルケーさんの膝にまたがって向かい合って座る。アルケーさんは、子どもを褒める時みたいに私の頭を撫でて髪に指を通した。

「ねぇ、オト。さっき言った事、もう一度言って下さい」

うぅ、アルケーさんの言う「さっき言った事」って「好き」だよね?この体勢で言うのはマズくない?それで終わる?私のお腹が空いている事、アルケーさん、忘れてないよね?
私が考え込んでいると、目の前のアルケーさんが眉をハの字にして大げさに困った表情を浮かべた。

「私も、大切なオトが空腹なままなのは大変、心苦しいのですが」

分かっているなら、取り敢えず朝食を済ませたい。アルケーさんは私の考えている事が分かったのか、私の腰にするりと腕を回した。

「朝食の後でも良いですが・・それだと手短に済ませてあげられないかもしれませんよ」

腕に力がこもり、身体がアルケーさんにより密着する。結果、彼の固い「もの」が私の割れ目にぐっと押し付けられる。眼の前の彼に散々快楽を覚え込まされた私の身体は、彼の固い感触だけで快感を「きちんと」拾ってしまう。私が「んッ!」と息を呑むと、アルケーさんはゆっくり腰を揺すり始めた。夜のベッドじゃなくて、朝の食卓の椅子が音を立てる。
こ、こんなの絶対に声が出てしまう。私は奥歯をぎゅっと噛み締め、アルケーさんの屹立から少しでも逃れようと身体をずらした。

「・・ほら、そうやってオトは物欲しそうな顔をするでしょう?」

アルケーさんが私の耳元に唇を寄せ、恥ずかしい指摘を流し込んで来た。私は表情を隠す為、慌ててアルケーさんの肩口に顔を伏せた。
も、物欲しそうな顔って何!私、どんな表情してたんだろう。アルケーさんはそんな私の背中をよしよしと擦った。

「あぁ、恥ずかしがらないで下さい。オトのその表情はとても可愛らしいんですから。でも、これで分かったでしょう?オト。今、私の言う事を聞いた方が貴女の為なんですよ」

ぐぬぬ、こんなの完全にアルケーさんのペースだ。詭弁だ。アルケーさんの肩口に顔を埋めたまま、どう反論しようかと考えていると、アルケーさんが私の腰をぐっと両手で掴んだ。「あ、何かされる!」と思った瞬間には既に手遅れで、アルケーさんに腰をガッチリ固定され逃げられない。アルケーさんの「ふふ」という楽しげな笑い声が聞こえる。

「さぁ、もう一度、言って下さい」

アルケーさんがガツッと腰を突き上げた。私の敏感な部分とアルケーさんの屹立が布越しにごりごりと擦り合わされる。さっきまでの悪戯の様な緩やかな刺激とは違う。はっきりとした「愛撫」に思わず声を上げた。

「あッ!やッ・・んんッ♡」

直接ではない。けれど、アルケーさんの屹立は下着越しに私の花芽を正確に突いて来る。とろりと蜜が漏れ出すのが分かった。お腹の奥辺りで「もっともっと」と何かが燻り始める。アルケーさんの香りも一層強くなって、自分の理性が端っこからぐずぐずになって行く。彼の首元に自分の額を押し付けながら、はぁはぁと湿度の高い溜息を零す事しか出来ない。

「・・このままだと、私の朝食は・・貴女になっちゃいますね。私は、それで構いませんが」

アルケーさんはくすりと笑い、より一層いやらしく腰を揺らす。

「あ゛ぅッ!んぁ♡」

アルケーさんは、すっかり乱れてしまったワンピースの裾から手を入れ、下着を横にずらそうとした。
私は溶け掛けていた理性を何とか奮い立たせ、ガシッとアルケーさんの腕を掴んだ。彼に体を預けた状態で言葉を発する。

「いッ言います!私、アルケーさんの事、す、す、好きです!大好きです!」

半ばヤケクソな言葉でも彼の琴線に触れたのか、えらくあっさりとアルケーさんはワンピースから手を抜くと、私の肩にそっと手を添えた。

「おや、オトにそう言っていただけて大変光栄なのですが・・オトが顔を赤くしながら言っているところを私は見たいです。さぁ、良い子ですから私の顔を見ながら、もう一度、仰って下さい」

しゅ、羞恥プレイ!そうだ、アルケーさんってこういう人だ。もうこうなったら、さっきみたいに、私じゃなくてアルケーさんの方を恥ずかしがらせてやる!私はそう決心し、顔を上げるとアルケーさんの首にゆっくり腕を回し、お互いの呼吸が溶け合う距離で見つめ合う。薄暗い寝室じゃないから妙に緊張する。

「・・アルケーさん、好きです。その・・大好きです」

ゆっくり、けれどはっきり言葉を紡ぎ、首に回していた腕に力を入れた。彼の頬にそっと唇を触れさせる。右、左・・一旦、顔を離してもう一度、琥珀色の瞳を見つめ彼に告げる。

「アルケーさん、大好き」

甘く囁き、自分からそっと唇を合わせた。

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