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私以外には言わない様にして下さいね?
しおりを挟むアルケーさんの隣に腰掛けると、彼の香りがふわりと流れて来て妙に意識してしまう。でも、隣のアルケーさんはいつも通りだ。昨日、身体を繋げたのは夢だったんじゃないか、っていう位いつも通りだ。私だけドキドキして、不公平と言うか何と言うか。
私はなるべく普段通りを装って隣のアルケーさんに声を掛けた。
「えーっと・・おはよう、ございます・・って、そんな時間じゃないですよね・・。私だけ寝ててすいません」
「ふふ、オトは疲れていたんですから・・お気になさらず」
私の言葉に対してアルケーさんは机の上に広げられていた書類を片付け、私に視線を向けにこっと笑う。アルケーさんとバチッと視線が合う。色々思い出してしまって慌てて目を逸らす。「今日のオトは変だ」と思われているに違いない。
ど、どうしよう。何時もならアルケーさんの隣は落ち着く筈なのにそわそわしてしまう。此処は一旦、寝室に引っ込んだ方が良いかもしれない。落ち着かない私を観察する様なアルケーさんの視線をビシビシ感じる。すると、アルケーさんが少しだけ私の方へ身体を寄せて来た。
「・・それに、貴女を疲れさせたのは、この私なんですから」
アルケーさんが私の太ももを指先でするりと撫でながら耳元で低く囁く。彼の湿度の高い囁きと意味有り気な指の動きにびくりと肩が跳ね上がる。
こ、これはアレだ。話題を変えないと、このまま流されてしまうパターンかもしれない。頭の中で黄色信号が灯る。私は太ももに置かれたアルケーさんの手に自分の手を重ね、これ以上の悪さをしない様に指を絡ませ力を込める。そして、不自然過ぎる位の声の大きさで隣のアルケーさんに話し掛けた。
「あッ!あのですね!アルケーさん、今日は、その、えーっと・・お仕事の件、すいませんでした!」
「・・仕事?」
アルケーさんは一瞬、きょとんとした表情になったが、すぐに私の言っている意味が分かったのか「あぁ」と小さく呟く。
「今日の遅刻の事ですか?オトが謝る事なんて何も無いですよ」
「・・そうかもしれないですけど、遅刻の一因が私にも有ると言うか・・何と言うか、その・・」
しどろもどろになる私を遮るでもなく急かすでもなくアルケーさんは私の言葉に耳を傾けていたが、此処で私は悪手を打ってしまった。
ミスティコさんの名前を出してしまったのだ。
「えーっと・・後、あの、ミスティコさんに何か言われませんでした?」
私の一言にひゅっと周りの空気が変わった。
・・絶対に気の所為じゃない。不穏な予感に思わず「あっ」と言う言葉が口から漏れる。・・これは地雷を踏んでしまった・・かもしれない。じわりと嫌な汗をかく。
アルケーさんが「ふふ」と意味有り気に笑う。アルケーさんが私の太ももの内側へとゆっくり指を這わせ始めた。さ、さっきまで大人しかったのに!
「えぇ、東の副司祭には色々言われましたよ。そうですね、確か・・」
アルケーさんは一旦、言葉を切り芝居がかった感じで考え込んだ。
手元は如何わしい動きなのに、声色も表情も至って穏やかで理性的だ。手の動きを止めて欲しくて、アルケーさんの方を見詰めつつも自分の手に力を籠めるが一向にやめてくれる気配は無い。感触をじっくり楽しむみたいに足の付け根へと指を這わせる。そして、部屋着越しとは言え昨日、散々暴かれた場所に彼の指が到達して「ひぇッ!」と声を上げて反応してしまう。そんな私のリアクションは目に入っていないみたいにアルケーさんの表情は変わらない。
「遅刻をするなんて緊張感が足りないだとか、これから当分休み無しだとか、えぇ、それはそれは酷い言われ様でした」
言い終えると、アルケーさんは「彼の言葉に傷付いた」とでも言う様に大げさに肩を落とす。気落ちした雰囲気を醸し出しているが、ダイニングテーブルの下では私の秘所をくにくにとをくすぐっている。
「・・そう、です・・か」
それだけ言うのが精一杯だ。私は嬌声を上げない様に唇を噛んで俯く。
彼から与えられるもどかしい刺激に堪えながら「ミスティコさんの名前を出すんじゃなかった!!」と心から思った。多分、ミスティコさんがアルケーさんの遅刻に関して嫌味を言ったのは事実だろう。でも、アルケーさんは余裕の笑みで受け流したに違いない。
きっと・・あくまで私の考えなんだけど・・アルケーさんは、私がミスティコさんの様子を尋ねたのが気に入らないのだ。だからこうやって「快感」という感情で、私の頭の中から「ミスティコさん」を追い出そうとしているんだ・・多分。
「オトが癒して下されば・・きっと東の副司祭の言葉も忘れられると思うのですが」
アルケーさんは、私の頬を撫で自分の方へ向かせると、膝の辺りを指差し座っている自分の上に乗る様に促す。私は促されるまま、ぼうっとした頭でふらりと立ち上がり椅子に座っているアルケーさんと向かい合う。
「あぁ、『これ』は邪魔ですね」
アルケーさんはそう言いながら、ワンピースの裾から手を入れて私の下着に手を掛けた。するりと太もも辺りまで下着を下げられると、濡れた場所が晒されて心許ない。そのひやっとした感触にぼうっとしていた頭が少しクリアになる。
「・・あ」
わ、私、リビングで下着を脱いで・・アルケーさんに跨ろうとしてた?ひぇぇッ!下着無しでアルケーさんに跨ってしまったら、そんなの対面座位の体勢じゃないか。悪戯の所為であそこが濡れ始めたこの状態で、そんな体勢になったら理性なんかどっか行って絶対に!絶対に!最後まで流されてしまう。リビングでセックスとかよ、よろしくない!対面座位になる前に気が付いて良かった!
「え!いや、無理ですッ!」
我に返った私は慌てて部屋着のワンピースの裾を押さえ、下着を最後まで脱がしに掛かっていたアルケーさんの手を追い出す。
「どうして?」
アルケーさんがこてんと首を傾げる。私が「無理」と言った理由が全く分からないと言った風だ。
「だ、だって、此処、リビングで・・み、みんなでつ、使う場所ですよ!だ、だから、そんな事、したら駄目と言うか恥ずかしいと言うか」
そうだ、こんな所で致したら、ミスティコさんが一緒の時に色々思い出してしまうかもしれない。そんな事になったら挙動不審になってしまう自信が有る。そんな私を見たミスティコさんに色々勘付かれるかもしれない。間違い無く気まずくなる。それだけは避けたい。
アルケーさんは物凄く残念そうな表情になる。
「此処ではしない!」と力強く思ったが、それは言い換えれば「リビング以外ならセックスしても良い」と言える訳で・・。
「なら、皆で使う場所以外なら良いんですね?例えば・・そうですね、寝室・・後は」
座っているアルケーさんが私の腰に腕を回し、甘えるみたいに胸元辺りにすりっと顔を寄せる。視線を落とすと、私に寄りかかってこちらを見上げるアルケーさんと目が合う。
「・・ねぇ、今日は特別に浴室・・オト、良いでしょう?」
「うぅ・・」
「東の副司祭の言葉に傷付いた私を、そこでゆっくり慰めて下さるでしょう?」
駄目押しをする様に、アルケーさんが胸元にもう一度顔を押し付けた来た。犬が甘えて来る時に似ている。こんなの断れる筈が無い。
・・無言は肯定だ。私がじっと黙っていると、アルケーさんも椅子から立ち上がり、何も言わず私の肩をそっと抱く。そして、そのままお風呂場までエスコートされてしまった・・。
・・結局、お風呂場で一回致す事になった。声が響く場所だから防音魔法を掛けて貰ったが「もっと声を出しても良いんですよ?」とか「我慢せずに啼いて下さい」とかアルケーさんが煽るから、突かれながら場所も忘れて啼いてしまった。
アルケーさんに身支度を整えて貰い、よろよろとリビングに戻りながら「・・本当にこれからは言葉に気を付けよう」と心から思った。何度も同じ様な事、誓っている様な気もするが。
私がリビングで余韻でぼうっとしていると、アルケーさんは何事も無かったみたいに普通に夕食の準備を始めた。私が手伝おうとすると、アルケーさんは「オトは疲れているから、そのままで」とぱぱっと食卓を整えてくれた。
いつも通り、二人で向かい合って食事をしていると、アルケーさんが「あ、そう言えば、オト」と何かを思い出したらしく私に声を掛けた来た。
「はい、何でしょう?」
私は手を止めてアルケーさんの方へ視線を向ける。落ち着いた声色でアルケーさんが「昨日の事ですが・・」と口を開く。
・・昨日の事?どれだ?私は昨日起こった事を思い返す。
「他のトマリギの前で、セックスの最中に『たくさん出して』と強請ってはいけませんよ」
「ッッ!!」
予想外な方向からとんもない「モノ」が飛んで来たぞ!思いも寄らない指摘に恥ずかしさで息が詰まる。口に入れていたスープを吹き出すかと思った。
私がこんなにも動揺しているのに、アルケーさんは涼しい顔で私にナプキンを差し出し「大丈夫ですか?」と心配そうに尋ねる。だ、だ、誰の所為で吹き出しそうになったと思っているんだ。私は「すいません・・」と小声で言うとナプキンを受け取り、口元を拭う。
何故、どうして・・明日の予定を話すみたいに普通の調子で、躊躇う様子も無く卑猥な事が言えるんだろう?アルケーさんが素な分だけ、私の方が色々思い出すじゃないか!夜の事からさっきまでの事を思い出すと、体温が急に上がる。ナプキンを机の上に置くと恥ずかしさで俯く。そんな私の羞恥はお構いなしにアルケーさんが追い打ちを掛けて来た。
「オトの世界では一般的な文言かもしれませんが、アレはいけません。私以外には言わない様にして下さいね?」
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