名前を忘れた私が思い出す為には、彼らとの繋がりが必要だそうです

藤一

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どうしても『ダメ』なんですよね?

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私とアルケーさんと、ミスティコさんで家族用の居住区に住み始めて、二日目の夜。
ベッドが一つしか無いからアルケーさんと同じベッドで寝る事になる訳で。広いベッドだから有効活用して半分ずつ使っても良いんでは?と思っていたが、アルケーさんには「棲み分け」と言う考えが無いらしい。
広いベッドの真ん中で抱き枕の様にぎゅうぎゅうに私を後ろから抱き締めて過ごしている。ついでに言うと、私のお尻辺りに違和感が有る。

「き、昨日も思ったんですが、これでアルケーさんの疲れ、取れますか?」
「オトとこうして一晩過ごせるだけで、とても癒されます。どうぞご心配なく」

アルケーさんはそう言うと、私の肩の辺りに顔を埋めた。アルケーさんが感じる「良い香り」とやらを嗅いでいるらしく吐息が掛かってくすぐったい。

「・・んッ」

私が我慢出来ず声を漏らすと、アルケーさんの腕の力がより強まって『アレ』が一層押し付けられ、我慢出来ない、と言う風に一度だけお尻に擦り付けて来た。

『駄目ですか?』

アルケーさんは一言も何にも言って来ないが、お誘いの圧が凄い。私は頭を振って拒否の姿勢を表す。
お願いだから、ミスティコさんが一緒に居る間は、そう言う事は出来ない、と理解して欲しい!あの時は雰囲気に呑まれてしまったが、やっぱり、こう言う事は落ち着いた雰囲気で二人きりの時に限る!少なくとも私は。
私が身体を固くしていると、アルケーさんは私の肩から顔を離して、頭のてっぺん辺りにキスを落とした。

「・・ねぇ、オト。オトはこっちに来た時の事、覚えてますか?」
「えーっと、覚えてますよ。電車で居眠りしてて、それで目が覚めたらこっちの世界に来てたみたいで・・・凄く驚きました」
「デンシャ?」
「あーっと、大勢の人を運ぶ乗り物って言ったら想像出来ます?」
「馬車の大きい感じですか?」
「動力は馬じゃないですけど、まぁそんな感じです」
「ソレに乗っている時に眠ってしまったら、こちら側に召喚されていた、と言う事ですか?」
「・・私が覚えている限りだとそんな感じかと」

何で突然、そんな事聞くんだろう?と不思議に思っていると、アルケーさんがまた私の肩辺りに顔を埋めた。

「・・眠っている最中にこちらに来たなら、還る時もオトが寝ている時かもしれませんね」
「え」
「朝、起きたら・・隣で眠っていた貴女が居なくなってしまうかもしれない」

続けてアルケーさんが不安気な声で「眠るのが怖くなりました」と呟く。

「ちょ、ちょっと待って下さい。だってオオトリって短期間で居なくなったりしないんですよね?此処に来て、まだ一週間位ですよ。当分居ますよ!大丈夫ですって」

口に出してから、かなり無責任な発言だな、と自分でも少し後悔した。今までのオオトリがそれなりの期間こちらに居たからと言って、私もそうだとは限らない。
私のフォローではアルケーさんの不安は払拭されない様で、うんもすんも答えてくれない。

「ちょっと良いですか?」

私は一つ思い付いて、アルケーさんに断ってベッドから出ると鏡台の引き出しを開け、紺色のリボンを取り出した。
それをベッドで横になっているアルケーさんの手首に結んで、自分の手首にも同じ様に結ぼうとしたが上手く行かない。私の様子にアルケーさんはくすりと小さく笑うと、起き上がり向かい合って私の手首のリボンを上手く結んでくれた。

「どうですか?こうやってたら私が還る時、アルケーさんも向こうに引っ張って行けるかも」
「ふふ、繋がっているのが良いですね。とても気に入りました。夜はずっとこうしてましょう」

・・ずっと?ずっとは遠慮したいかな・・と言いたいが、アルケーさんの満足気な笑顔に押されて「アルケーさんがそう言うなら」と口走ってしまう。
アルケーさんは繋がれている反対の手でリボンをいじりながら「ねぇ、オト」と話し掛けて来た。

「問題は日中ですね。神殿からここまでの長さの紐はさすがに難しいですね」
「へ?日中?」
「オトが昼寝をしたら、その間に還ってしまうかもしれないじゃないですか」

・・アルケーさんがすっごい真顔だ。何とか別の方法で、日中も私と繋がれないかと考えている顔だ!

「アルケーさんの心配は十分、分かりました!昼寝はしない様に気を付けます!だから安心して下さい!」

私が誓いを立てるみたいに手を上げて慌ててそう言うと、アルケーさんがくすくす笑いながらこつんと額を合わせた。琥珀色の瞳を柔らかく細め、両手で私の頬を包んだ。

「大丈夫です。ちょっと意地悪を言ってみただけです。夜、眠れない日も有るでしょうから、昼はゆっくりして下さい。寝てても良いし、休んでも良いです」

何だ冗談か、と安心して頷くが、今「夜、眠れない日」って言ってたよね?それってどう言う意味だ。一瞬、いやらしい意味に考えてしまった。
そんな邪な考えが浮かんだ所為で、一人で勝手に恥ずかしくなる。目の前のアルケーさんに思ってる事が伝わりそうな気がして顔を逸らす。
すると、私が自分から視線を外すタイミングを待っていたみたいに、アルケーさんががばっと私に覆いかぶさって来た。

「うわッ!」

不意打ちを食らった私はアルケーさんを支えきれず、そのまま後ろに倒れ込んでしまう。ベッドの上で押し倒されてしまった。上からアルケーさんのサラサラの髪が落ちて来る。
恐る恐る自分の上に圧し掛かっているアルケーさんを見上げると、困った様な顔をしていた。

「・・どうしても『ダメ』なんですよね?」

健康な成人男性に我慢を強いて申し訳無い、と思いながらこくこく頷く。私の反応にアルケーさんは「今日は我慢しますけど」と頬を膨らませる。
何だかその様子が可愛らしくて、お詫びの意味を込めて頭を撫でると、アルケーさんは私に身体を預けて来た。
アルケーさんの頭が私の胸元辺りに有り、少し重くて息苦しい。

「重くないですか?」
「ちょっと」

正直に答えると、胸の辺りでアルケーさんは「すいません」と謝るが、私の上からどける様子は無い。今夜はこのままかもしれない、と覚悟を決める。

「こうやってると、オトの心臓の音が近くて貴女を独占している感じがしますね」

私は何も言わずアルケーさんの頭を撫でる。それから黙ってお互いの体温だけ感じていた。
アルケーさんをよしよししている内に慣れてしまったのか息苦しさも消えて、私はいつの間にか眠ってしまった。

朝、部屋に入って来る光で目が覚めると、隣に居たアルケーさんと目が合い頬にちゅっとキスをして来た。

「アルケーさん、おはようございます」
「おはようございます、オト」

挨拶を交わすと今度は頬ではなく左右の耳朶にちゅっと吸い付かれた。背筋に快感が走ってぶるりと震える。

「オトは此処が弱いですね」

アルケーさんに耳元でそっと囁かれる。カアッと頬に熱が集まるのが分かった。さっき起きたばかりの人をからかわないで欲しい。
空気を変えるべく「顔洗ってきますね」とベッドから出ようとしたら、ぐんっと左手を引っ張られ、手元を見てみると犯人は紺色のリボンだった。そうだ、昨日の夜、二人でリボンを結んだんだった。私がリボンを解こうとしたら、アルケーさんに止められた。

「オト、ちょっと待って下さい」

アルケーさんはそう言うと、リボンで繋がれたまま私の傍に立つ。そして紺色のリボンを右手で、強度を確かめる様にくいっと引っ張る。

「折角なので、神殿に行くまではこのままで。良いでしょう?」

いや、良くない。私がそう言うより前に、アルケーさんは私をベッドに無理やり座らせると膝裏と背中に腕を入れて、ぐっと持ち上げてお姫様抱っこしてしまった。私は体勢を崩して落ちない様に慌ててアルケーさんの首に腕を回す。

「あ、あの、アルケーさん、リボン付けたままでも良いですから、その・・下ろして下さい」
「嫌です」

アルケーさんはそう言うと、このままの状態でリビングに向かった。
あー、今の時間帯には、もう絶対にリビングにはミスティコさんが居る。こんな格好見られたら、すっごい呆れた顔をするに決まっている。

リビングに入ると、ミスティコさんはテーブルで何か読んでいたが、ドアの音でこちらに視線を向け、アルケーさんが私を抱っこして現れたので、めちゃくちゃ嫌そうな顔をした。朝の挨拶も忘れる位には呆れているらしい。

「・・す、すいません」
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