名前を忘れた私が思い出す為には、彼らとの繋がりが必要だそうです

藤一

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お間違えの無き様

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私は箱をサイドボードに置いて考える。ミスティコさんも言っていたし、ほぼ確定で私の下着だと思うが、私が妄想している物だったらどうしよう。
「あの柔和なアルケーさんに限って、そんないかがわしい物を隠している訳無い」とか言い切れない所が辛い。
万が一を考えて、ミスティコさんに開けて確認して貰う手も有るが、箱の中身が私の探している物だった場合、私のダメージが甚大だ。

「分かりました。確認してみます」

まぁ、そっち系のおもちゃが出て来たら、それはそれで収穫かも知れない、と思い直す。そういう雰囲気になった時に「どうですか?試してみます?」と突然出されるより、事前に存在を知っている方が心の準備が出来る。
ドキドキしながら、箱の蓋をちょっとだけずらして中身を確認すると・・きちんと私の下着だった。ちょっと残念な様な安心した様な拍子抜けした様な微妙な気持ちで蓋をそっと戻しミスティコさんに頭を下げる。

「あのぅ、見付かりました。ミスティコさん、ありがとうございます。・・何でベッドの下に・・何処かに入れ忘れて、そのままになってたんでしょうか?」

私が疑問を口にすると、ミスティコさんは低く嗤い「そんな訳無いでしょう」と肩を竦める。

「昔から、アレは何かを隠す時はベッドの下なんです。だから忘れたとかでは無くアルケーが『意図的に隠した』んですよ」
「何でそんな面倒くさい事・・」
「さぁ?慌てふためいて探し回るオオトリ様を見たかったとか?後は、オオトリ様に下着を身に着けて欲しく無かった・・」

そこまで言った所で、またミスティコさんが耳の辺りを紅潮させて頭を抱え込んでしまった。うぅ・・私も頭を抱えたい。
下着が見付かって、めでたしめでたしなのに、私もミスティコさんも無駄にダメージが大きい。
手元の箱の対応を考えてみるが、犯人によってまた隠されかねないので、今度は私が箱の中身だけ何処かに隠してしまおう。箱だけベッドの下に戻しておく事にした。夕方までに済まさなくては。
ミスティコさんの方へ視線を向けると、彼もぐったりしている。私の視線に気付くと紫の瞳を細めて苦笑いした。

「お疲れでしょう。お茶でもいかがですか?甘い方が良いですよね。俺が用意します」

ミスティコさんはそう言うと主寝室から出て行った。
私は一人になった寝室で箱から下着だけ取り出し、取り合えず替えのベッドカバーの間に隠しておく事にした。何だか私の方がエロ本を隠そうとしてるみたいじゃないか。納得いかぬ・・。
まぁ見付かって良かった、と思うしミスティコさんに感謝だ。彼はアルケーさんや他の人に対しては尊大な態度だが、オオトリである私には色々丁寧に教えてくれるし、気を配ってくれる。さっきみたいに甘いタイプのお茶のチョイスとか。
でもこうやって、色々お世話になっているが彼は『トマリギ』候補じゃない。トマリギの選出が一段落した時には、お世話になり続ける訳には行かないだろうな。

「どうぞ」

リビングではミスティコさんが、温かくて甘いミルクティーを用意してくれた。何で私の好きな物が分かるんだろう。
私がほこほこしながらお茶をいただいているとミスティコさんは持って来た箱の中から紙の束を出して目を通し始めた。
リビングでテーブルを挟んで向かい合うミスティコさんは、グレーの髪を邪魔そうに耳に掛けながら眉間に皺を寄せている。

「あ、そう言えば・・ミスティコさん、少し良いですか?」
「何でしょう?他に何か困り事でも?」

ミスティコさんは視線を書類から離さず、私に聞いた。

「困っている事は無いんですが・・アルケーさんから、トマリギの条件の話を聞きました」

私がそう言うと、ミスティコさんがすっと視線を上げて私の方をじっと見詰めた。

「・・そうですか。まぁ、オオトリ様とトマリギの平穏な関係の為に色々条件を付けさせていただきました。何か気になる事でも?」
「気になるって言うか・・私だけじゃなくて、他のトマリギを守るって言う条件、凄くその通りだと思います。上手く言えないんですけど、この条件を付けて下さってありがとうございます」
「・・まぁ、お礼を言われるのは悪い気はしないんですが。トマリギ同士の諍いは、オオトリ様の利益には全く成らないですからね」

そう言い、ニコッと嘘っぽい笑顔を私に向けると、また書類に目を落とした。あぁいう笑顔を向けられると、また話し掛けるのは躊躇われるが、もう一度改めてお礼を言う。

「・・本当にありがとうございます。トマリギ同士の争いで、アルケーさんに何か有れば私も絶対に後悔すると思うので」

私がそう言うと、ミスティコさんは書類の束をばさっと机に置いて眼鏡を外した。

「その感謝は、アルケーに危険が及ぶ可能性が減った事に対しての感謝ですよね?」
「え」
「俺はオオトリ様の為に条件を付けたのであって、アルケーや他のトマリギ候補の為ではないです。お間違えの無き様」

ミスティコさんの少し苛立った口調に面食らって、私は思わず「すいません」と謝る。どうやらミスティコさんの地雷を踏んでしまったらしい。さっきの会話のどの辺がが気に入らなかったんだろうか。

「・・すいません。少し感情的になってしまいました」

私が委縮している様子に気が付いたミスティコさんがそう言って、頭を下げた。何だか「大丈夫ですよ」とは言い辛い。
私はこの機会にミスティコさんに聞いてみたかった事を思い切って尋ねた。

「・・あの、ミスティコさんはどうして『オオトリ』に対して、そんなに気を配るって言うか配慮してくれるんですか?」
「どうしてって・・」

目の前のミスティコさんは上手い答えが見付からないらしく、髪を掻き上げたりしながら考え込んでいる。

「ミスティコさんは蔵書庫の賢者と言われている位だから、私の事を研究対象として気を遣っているんですか?」

私が彼の方を真っ直ぐに見詰めて、そう問い掛けるとミスティコさんは絞り出す様な声で答えた。

「・・貴女の事を研究対象として見た事なんて一度も有りませんよ」

ミスティコさんはそう言うと立ち上がり私の隣の椅子に腰掛け、私の方にぐっと身体を寄せた。ミスティコさんからアルケーさんとは違う仄かな香りが漂って来る。

「何故、貴女をこんなに気に掛けるのか、その理由、本当に分かりませんか?」

私が頭を振ると、ミスティコさんが私の髪を一房取って口付けた。

「・・その答えは私の先祖が『オオトリ』だからです。私はバシレイアーに残ったオオトリの子孫なんです」
「は?え、えぇッ!」

還れなかったオオトリ(ミスティコさん曰く『還らなかった』らしいけど)が居る事は聞いていたが、子供まで作っていたのか!しかもその子孫がミスティコさんだったとは。
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