名前を忘れた私が思い出す為には、彼らとの繋がりが必要だそうです

藤一

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お探しの物はこれだと思いますよ

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結局、数日は私は部屋に籠って、外に出しても不信者に思われない位になるまでバシレイアーの常識の勉強。食堂が開いている時間帯(朝と夜)は様子を見ながら、可能なら食堂で食事を取る。お昼はどちらかが我が家に食事を運ぶ事などが決まった。
二人に昼食の為に帰って来て貰うとか、私って本当に給餌を待つ雛だな、と思う。

「早速ですが、夜はどうされますか?食堂に行ってみられますか?」

ミスティコさんに聞かれ、ちょっと考え込んでから「今日はパスしときます。何だか疲れちゃって」と答える。
そう、疲れたのも有るが、私はまだやらなくてはならない事が有る。下着探しだ。本当はアルケーさんに聞けば良いんだろうが、流れ的に「サイズが有ってるか確認させて欲しい」とか言われそうな気がする。
私は小さな流しで使ったカップを拭きながら、寝室の何処に下着が仕舞って有るのか考える。うーん、クローゼットは見たけど鏡台付近はまだ見てない所も有るし。
すると、私の背後に良い香りのする人がぴたりとくっ付いて、腰に手を回して来た。

「オト、非常に申し訳無いんですが、私は神殿での仕事が残っているので、夕方まで留守にしますが大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。お仕事頑張って下さいね」

私は手を止めて、後ろのアルケーさんを見る。アルケーさんは首を傾げて「どうでしょう?」と言う。

「頑張れるかどうか分かりません。オトが応援してくれないと・・」

そこまで言った所で、アルケーさんが「痛ぁ」と苦痛の声を漏らした。後ろからミスティコさんがアルケーさんの銀髪を引っ張ったのだ。

「無駄話してる暇が有ったら、さっさと行って来い。お前の決裁待ちの書類が溜まってるのが嫌でも目に入ったんだが」
「手を出すんじゃなくて、口で注意して下さい。それに北の仕事の件は、東の副司祭には関係無いでしょう」
「うるさい。やる事やってから文句を言え」

ミスティコさんは眉間に皺を寄せて「とっとと行け」と言わんばかりにアルケーさんを追い払う様に手を振っている。アルケーさんは名残惜しそうに私の腰に巻いていた腕を解いて「玄関まで付いて来ていただいても?」と甘える様に聞いて来た。玄関でのお見送り位ならお安い御用だ。

「行って来ます。良い子にしていて下さいね」
「アルケーさんもお仕事頑張って下さいね」

私は小さく手を振って彼を見送った。何だか、本当に新婚さんみたいだな。
リビングに戻ると、ミスティコさんは、アルケーさんが運んで来た箱の中を確認していた。テーブルの上に畳まれたブラウスとスカート、後は私が持って来た表紙に「繁栄と象徴」と書いて有る本が置いて有った。

「こちらが着替え、本の方はこちらの世界の勉強に役立つはずです。読んどいて下さいね」
「ありがとうございます。本の方も了解です」

私は置いて有った服をひっくり返したりして確認するが、やっぱり下着が無い!文化?文明?その辺りが違うとは言え、こっちの世界にだってパンツ位は有った。実際、お風呂に入った時とかそれだけは用意して有ったし。私がミスティコさんに下着の件を聞こうかどうか迷っていると、彼の方から声を掛けて来た。

「難しい顔をされて、どうかしましたか?」
「え?いや、その・・ちょっと探し物って言うか」
「足りない物でも?必要な物が有れば、遠慮なく仰って下さい」

ミスティコさんは挙動不審な私を本気で心配している様だ。
えぇい!聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥だ!勇気を振り絞って、ミスティコさんの顔を見ない様にして尋ねる。

「お言葉に甘えてお尋ねしますが、えーっと、そのですね!わ、私の下着、何処に有るか知りませんか?」

一瞬、時が止まったんじゃないかと言う様な静けさが流れた。反応が無いのが怖い。
恐る恐るミスティコさんの方へ顔を向けると、最初は私の言っている事が理解出来ない様な呆気に取られた表情をしていたが、私と目が合うと口元を押さえて顔を赤くした。

「あ、あの・・すいませんでした!気が利かなくて!」

そう私に謝罪すると、ミスティコさんは頭を抱えて「はーぁ」と大きく溜息を吐いてその場に座り込んでしまった。こんなに動揺するミスティコさん、初めて見たかも。
取り乱したミスティコさんを見たお陰か、私の方は若干落ち着きを取り戻した。ミスティコさんの傍に私もしゃがみこんで、隣で一生懸命フォローする。

「あの、そんなに落ち込まないで下さい。ミスティコさんの所為じゃないですよ?多分、この部屋の何処かに有ると思うんですけど」
「あ、有りますか?どうしてオオトリ様はそうお思いに?」

顔を上げて私の方を見るミスティコさんは耳の辺りを少し紅潮させ、眉をハノ字にさせている。言い出しっぺの私が言うのも何だが、私の下着位でそこまで狼狽えなくても。

「だって、服はアルケーさんが手配してくれていて、クローゼットにきちんと有ったんですよ。あの人の事ですから下着も準備してくれているんじゃないかと」
「・・そうですか」

アルケーさんの名前を出すと、しどろもどろになっていたミスティコさんも幾分落ち着きを取り戻す。座り込んだまま、口をへの字にして考え込んでいたが何か思い出したのか立ち上がった。

「・・もしかしたら・・ちょっと失礼」

そう言うと、主寝室の方へさっと引っ込んだ。
ミスティコさんは心当たりが有るのかもしれないが、探してるのって私の下着ですよね!私も慌ててミスティコさんに続く。ミスティコさんは寝室の入り口で部屋全体をぐるりと見回していた。

「あちこち開けてみますが宜しいですか?」
「ど、どうぞ」

ミスティコさんは私が探した場所、つまりクローゼットの扉を手際良く開けて確認して行く。しかし、やはりブツは無い。続いて、鏡台の傍の収納も確認するが、替えのシーツやらカバーやらが入っていた。此処もハズレだ。

「やっぱり無いんですかね?」

私がそう言うと、ミスティコさんは「いいえ。絶対に有ります」と言い、ベッドの傍にしゃがみこんでベッドの下に腕を突っ込んだ。かなり奥まで突っ込んだ所で、ミスティコさんは「もうちょっと」と言いながら何かをベッドの下から引きずり出して来た。
ベッドの下から取り出したものは蓋付きの白い箱だった。高さは20センチ位で、縦横は40センチ程度。

「恐らくお探しの物はこれだと思いますよ」

ミスティコさんは膝を払いながら、立ち上がり「確認されては?」と私に促す。
確かに私の下着かもしれないが、独身男性がベッドの下に隠してた物・・別の可能性も有るのでは?アルケーさんの私物かも知れないので、彼に確認を取らずに開けるのは少し躊躇われる。

「あの、私の世界では男性がベッドの下に隠している物はむやみやたら見てはいけないって言う習慣と言うか風習が有りまして・・」
「まぁ、人が隠してる物は、余り明らかにしない方がお互いの為かもしれませんね。分かりますよ」

私の意見に同意してくれたものの、それとこの箱は別らしくミスティコさんは「早く確認しろ」と無言で圧を掛けて来る。

こ、こ、この箱の中身が、エロ本だったり何か妙な形をしている怪しげな道具だったら、どうするんだ!
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