名前を忘れた私が思い出す為には、彼らとの繋がりが必要だそうです

藤一

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つい虐めてしまう

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私は自分の口を押えたまま、こくこく頷く。
赤の他人に、こんな声が漏れ聞こえたら「可愛い」では済まない。とんでもなく気まずい。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、アルケーさんは「そうですねぇ」と胸を揉んだまま少し考え込む。
考え込んでいるから、愛撫がなおざりになっているかと言うと全くそうでは無くて、きちんと強弱を付けて一番感じやすい所を摘まみ上げるのも忘れない。
アルケーさんは涼しい顔で考え事をしているのに、私だけこんなに息を荒くしているのが恥ずかしいやら情けないやらで泣きたくなる。

「あぁ、そうだ」

アルケーさんは何かいい案が思い付いた様で、顔をほころばせる。
今までの経験上、こう言う状況での「良い事、思い付いた」は大概、良い事ではない。
下腹部がじんじんして、このままソファに倒れ込みそうなっていた私の肩をアルケーさんが強めの力で押す。

「わっ」

胸に意識が集中していた私は簡単にソファに転がされ、天井が視界に入る。
仰向けになった私にアルケーさんがのしかかって来た。
見上げると、アルケーさんの銀の髪がさらりと私の頬に落ちて来た。
この体勢だと最終確認まで行ってしまうのでは。私は慌ててアルケーさんの肩をガシッと掴む。

「アルケーさん!ちょ、ちょっと待って下さい」
「何でしょう?」
「ど、どうしてアルケーさんと相性の確認が必要なんですか?」

私の質問にアルケーさんは自分の肩を掴んでいる私の手を丁寧に剥がしながら「ふふ」と楽しげに笑う。

「良い事を教えてあげましょう。私も候補の一人なんです」
「候補って・・アルケーさんも『トマリギ』候補なんですか?」
「そうです。だから、相性の確認が必要なんですよ。今日の第5王子とは男女の結び付きまでは無かった様ですが。まぁ、その辺りの事は、いざとなれば身体に聞いてみましょう」

そう言いながら、アルケーさんが私のスカートの裾から手を差し入れて、足の付け根までゆっくり指を這わせる。
一番奥の部分には触れず、ぎりぎりの所をくすぐる様な動きに私は唇を噛んで堪える。
アルケーさんは、私が声を我慢する様子をじっと見詰め、彼の口からは時折「はぁ」と言う熱っぽい声が漏れる。
私を見詰めていたアルケーさんは、私が思わず「はぁ、んん!」と声を上げると、それを合図にしたかの様に覆いかぶさる。私の耳元に彼の唇と吐息が触れる。

「・・もう我慢出来ません。ねぇ、私に一番最初を下さいませんか?貴女の鳴き声を一番最初に聞きたいのです」

声だけなのに、背筋がゾワゾワして、下腹部がきゅうと縮まるのが分かった。
う、う、回りくどい言い方だが、これって誘われてるんだよね?はっきりお誘いされてるんだよね?

こういう事は、もっとお互いを知ってから、って思ってたしアルケーさんにも伝えた。
それでも、一線を越えて来ようとしているのは彼なりに色々思う所が有るのだろう。
ど、どうしよう。身体の方は臨戦態勢だけど、気持ちの整理が追い付かない。
私が黙っていると、足の付け根ぎりぎりの位置に置かれていたアルケーさんの手が、私の太ももを甘ったるい感じで撫で回し始めた。

「・・あっ!」

油断していた所に、愛撫を再開されて声を上げる。不意打ちは止めて欲しい。
太ももを撫で回すアルケーさんの親指が下着越しに、偶然なのかわざとなのか敏感な部分をかすった。
待ち望んでいた刺激に身体が震える。

「あぁん!・・あ、あの・・そこ駄目です」
「あぁ、わざとでは無いんですが、刺激が強かった様ですね。それにしても本当に貴女の鳴き声は可愛らしい」

アルケーさんはうっとりした様に言うと、今度は二本指で花芽の部分をぐりっと押した。

「ひゃっ!ぅあ・・あぁ・・」

形を確認する様に、何度か同じ部分を刺激されてとろとろしたものが溢れて来るのが分かった。
私は頭を振って「駄目」と嬌声を繰り返す。下着越しに、こんな風にされると「直接触って」と口走ってしまいそうだ。

「すいません。鳴き声が聞きたくて、つい虐めてしまう」

アルケーさんはそう言うと、一旦、指を止めた。
さっきからアルケーさんは『オオトリ様』と言う単語を口にしない。私自身が求められていると思って良いのだろうか。
私が先程の刺激を逃そうと呼吸を整えていると、アルケーさんはワンピースの中からするりと手を抜いて、身体を起こした。

これは、相性確認はここで終了なのか?と思って、身体を起こしたアルケーさんを視線で追うとアルケーさんの腕が背中と膝裏に回され、そのままグイッと持ち上げられる。

「わっ!」

アルケーさんに突然お姫様抱っこをされ、慌てて彼の首に腕を回す。私の様子にアルケーさんは苦笑いをする。

「大丈夫、落としたりしませんよ」
「す、すいません。吃驚して」
「あぁ、突然抱き上げれば驚きますよね。すいません。さて、あちらの寝室に行きましょうね」

アルケーさんは「良いでしょう?」と囁く様に言う。彼の一言に顔が赤くなるのが分かった。それって、寝る為に寝室に移動するとかでは無く、そう言う事をする為だよね・・。

「あぁ、そう言えば、事前に言っておかないと駄目でしたよね。これから二人で気持ち良くなりましょうね。これで良いですか?」

ストレートな物言いに恥ずかしくて俯く私とは対称的にアルケーさんは上機嫌だ。
私は答える代わりに、アルケーさんの首元辺りに甘える様に顔を寄せる。やっぱり良い匂いがする。いつもより強い位だ。
アルケーさんは私の額にキスをして、寝室への扉に足を向けた、その時・・


「おい、北の。オオトリ関連の資料を・・」

ノックも挨拶も無しに出入り口の扉がバンッと開いて、ミスティコさんが両手に本を抱え、ドアを蹴って入って来た。

部屋に入って、二歩目位で、こちらの状況に気が付いたらしい。一瞬、時間が止まったみたいに三人とも固まる。
ミスティコさんは何も言わずに本をテーブルに無造作に置くと、腕組みをして私たちに声を掛けて来た。

「これはこれは大変失礼しました。食事中だと思ってましたが、違う食事だとは・・気が利きませんで申し訳無い」
「はぁ、気が利く聞かない以前の問題です。ノックもせずに入って来るとは感心しませんね」
「へぇ、面白い事を言う。俺だって抜け駆けは感心しない」

ミスティコさんの「抜け駆け」と言う単語にアルケーさんが言葉に詰まる。
アルケーさんがそっと私を下ろす。
た、助かった。さすがにお姫様抱っこの状態で二人の舌戦に巻き込まるのは耐えられない。

「オオトリ様」

ミスティコさんが下ろされた私に声を掛ける。本当は気まずいから、このまま寝室の扉を開けて引っ込みたいが、そうも出来ずミスティコさんへ視線を向ける。
アルケーさんに嫌味を言う時とは違い、私に向ける表情は眉間に皺を寄せて、少し苦しげだ。

「差し出がましいとは重々承知しておりますが、こういった事は、その・・雰囲気に流されず冷静に・・判断いただければ」

ミスティコさんの言いたい事は分かるが、素直に「はい」と頷く事が出来ない。
私が黙って、ミスティコさんの紫の瞳を見詰めると、何故か彼の方が目を逸らす。

「・・貴女がアルケーに惹かれる気持ちは理解しているつもりです。でも・・」
「ミスティコ、用事は済んだのでは?これ以上、私たちの睦言の邪魔をしないで下さい」

ミスティコさんが私に何か言い掛けたが、アルケーさんがそれをきつめの声色で遮る。
二人は良く言い合いをするけれど、こんなに雰囲気が悪くなった事は無いと思う。
・・う、まただ。このまま二人残せない空気だ。しかも今回の原因は明らかに私だ。私は仕方なく、二人にもう一度同じ事を言う。

「夕食!今度こそ夕食しましょう!」
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