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相性を確認する為に必要なのです
しおりを挟む・・えーっと、私は確かに魔力が無いからミスティコさんに影響を及ぼす事は無い。だけど、アルケーさんはミスティコさんより魔力が強い、と言っていた。その点は大丈夫なんだろうか?
私が戸惑っていると、ミスティコさんの隣のアルケーさんが「はぁ」と溜息を吐く。
「ミスティコ、オオトリ様が困っておられます。出来たら、勝手な行動は慎んでいただきたい」
「名前を教える、教えないも親鳥の許可が要るのか?うるさい男だな。アルケー、お前その内、オオトリ様に愛想を尽かされるぞ」
あれ、今、ミスティコさん「アルケー」って呼んだ様な・・。
私の表情で察したのか、アルケーさんが「そうです、ミスティコは私の名前を知っています」と言い、簡単ないきさつを説明してくれた。
何でも、アルケーさんとミスティコさんは神殿に奉公に上がった時期が一緒だったそうだ。
アルケーさんは魔力の強さと肌の色、ミスティコさんは知識量と髪の色で、神官見習いの中でも目立つ存在で、大司教様から目を掛けられる事も多く、同期や先輩からは色々嫌がらせを受けたらしい。
そんな周りが面倒だった時期を一緒に過ごした二人に友情っぽいものが芽生えるのは、当然の成り行き。
見習いから正式な神官になる時、お互いの名前を教え合い、それを悪用しないと言う誓いを立てたそうだ。
「・・完全に若気の至りでしたね」
「あぁ、今の俺なら絶対にあんな誓いは立てない」
「そうですか?お話だけ聞くと、少年の友情物語みたいで素敵だなぁと思いました。続編が有ったら間違いなく二人はお付き合いされていたと・・」
そこまで言った所で、ミスティコさんが物凄い苦々しげな表情になった。ミスティコさんの隣のアルケーさんは苦笑いしている。
「す、すいません。いいお話だったもので、つい色々想像してしまいました」
「オオトリ様、想像力豊かなのは結構。だが、アルケーは俺の好みじゃない」
「私だって、ミスティコの様な傍若無人なタイプは無理です」
何だかんだ言って気が合ってるじゃないか。
二人のやり取りを見ていると、自分の学生時代からの友人の事が浮かぶ。彼女の名前は思い出せるのに、彼女が私の事を何と呼んでいたか思い出せない。
「オオトリ様、また明日」
ミスティコさんの一言に我に返る。彼はひらひら手を振ると部屋からようやく出て行った。
アルケーさんの部屋にいつも通りの静けさが戻る。
「また明日ってミスティコさん言ってましたね」
「えぇ、おそらく王城からの返事の件で来るんだと思いますが」
「あはは・・」
私は苦笑いしながらソファからのろのろ立ち上がる。
・・疲れた。もうお昼ご飯は要らないから昼寝がしたい。寝室へのドアノブに手を掛けたところで背後から声を掛けられた。
「明日の件で思い出したんですが、明日は私は早朝から登城しなければなりません。湯あみの準備はどうしましょうか?」
「えーっと・・今夜にお願いしても良いですか?準備ってアルケーさんじゃないと難しいんですか?自分でやりますけど」
「実は、神殿の湯はその都度、魔力で用意しております。なので、魔力の無いオオトリ様には難しいかと・・」
「あー、だから朝、お風呂に入った時に水しか出なかったんですね」
さすが、産まれた時から魔力がデフォの世界だ。給湯器は己の魔力らしい。
多分、これから先も同じ様な事が出て来るんだろう。元の世界の知恵や経験を活かして、その辺を補えられれば良いんだけど。
歴代のオオトリさん達は、このギャップをどうやって埋めていたんだろう。
部屋に戻った私は夕食まで泥の様に眠り、アルケーさんに起こされて夕食と入浴を済ませると、そこからまた眠りについた。
・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
猫をくすぐる様に顎を指でゆっくり撫でられる。自分が飼い猫にでもなったみたいだ。くすぐったくて声が漏れる。
「・・んん」
お香の様な良い香りが近付いて、耳たぶに軽いキスをされる。
あぁ、このキスの仕方はアルケーさんだ。何回目の契約更新だろう。
「行って来ますね」
行ってらっしゃい、と答えたかったけど、眠気の方が勝って舌が絡まり上手く言えない。
言葉に出す代わりにアルケーさんが居そうな方向に両腕を伸ばす。
アルケーさんの身体に腕が触れたので、そのまま自分の胸元へぎゅっと抱き込んだ。彼の後頭部辺りを数回撫でる。
これが挨拶代わりって分かって貰えれば良いんだけど。
胸元辺りに感じる重さもアルケーさんのサラサラの髪の触り心地も何だか落ち着く。
ずっとこうしていたい様な気持ちになる。
「ずっと」っていつまでだろう・・。朝まで?それとも、もっと先?
・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
「おい!オオトリ、起きろ!」
ドアを殴っているんじゃないかという位の激しい音と、ミスティコさんの大声で飛び起きた。
最悪な目覚めだ。
私は慌てて扉の鍵を開ける。目の前には物凄ーく機嫌の悪そうなミスティコさんが居た。
私も機嫌の悪さを隠さず、ミスティコさんに尋ねる。
「・・まだ、朝早いですよね。東の副司祭さん・・」
「そうですね。ですが、朝一番でトマリギ候補が神殿まで馳せ参じる予定ですので、ご協力願いします」
「あぁ、分かりました。それにしても、あんなにドアを激しく叩かないで下さいよ。壊れたら、ミスティコさんが直してくれるんですか?」
「なら、とっとと起きて下さいよ。こっちだって殴りたくて殴ってた訳じゃないです。北の副司祭はどうやって貴女を起こしてたのか知りたいですよ。全く」
ミスティコさんも私に負けず劣らず不機嫌そうに答える。
う、アルケーさんには猫の様にくすぐられて起こされてます、とか言える訳が無い。
「本当なら、北の副司祭が準備を手伝う所ですが、あれは城へ上がっているので俺がお手伝いします」
「何か特別な準備が必要なんですか?無ければ一人で大丈夫です」
「そうですね・・今回は神殿での面会になるので、特に必要な物はございません」
じゃあ何でこんな早朝に起こすんだ、とむっすりしていると、考えている事が分かったのかミスティコさんが「朝食を取りながらご説明します」と言い、私をアルケーさんの部屋に招き入れた。
昨日とよく似た朝食をミスティコさんと向かい合って取る。
私は昨日は無かった緑色のトマトの様な野菜を口に入れた。思ったより酸っぱいぞ。
「本日、神殿にいらっしゃるのは、バシレイアーの第5王子です」
ミスティコさんの言葉に思わず先程、口に入れた野菜を吹き出しそうになる。
「お、王子様ですか?」
「えぇ、第5王子です。いや、本当にオオトリ様は幸運な御方だ」
「・・どの辺りが幸運なんでしょうか?」
「第5王子は眉目秀麗で、名前を呼ぶ習慣の無い我が国では、その美しさから『春を呼ぶ王子』と呼ばれている程です」
要するに、ミスティコさんは「イケメンだ、喜べ」と言いたいらしい。
私は「大変な栄誉にあずかり光栄です」と抑揚の無い口調で答えた。
正面のミスティコさんは私の様子に一つ溜息を吐くとベーコンをぱくっと口に入れた。
「・・まぁ、トマリギ候補の筆頭です。家柄、容姿共に文句のつけようが無い」
「性格に難あり、とか言わないですよね?」
ミスティコさんは首を傾げて「さぁ?」としらばっくれる。彼がやたら容姿を推してくるのは、もしかしたら性格に難が有る所為かもしれない。
私がフォークを持ったまま、じとっと睨んでいるとミスティコさんは口角を上げた。
「・・オオトリ様、性格の悪い男とお付き合いされた事は?」
う、正直に言うと付き合った事は無いが好きになった事は有る。私は答えに詰まる。
「そう言う事です。俺にとって『難』であったとしてもオオトリ様にとっては違うかもしれない。ですから会ってご確認を」
「そうですね、ミスティコさんの言う事も一理あると思います」
「白狸から聞いていましたが、素直な方で助かります」
そう言うと、ミスティコさんがにこりと笑った。きつめの紫の瞳が柔らかくなるから、ミスティコさんもアルケーさんみたいにいつも笑顔で居れば良いのに。
「あの、第5王子と面会したら、どうすれば?お話したりすれば良いんですか?」
「子どもの見合いじゃないんですから、もっと確認しなきゃいけない事があるでしょう。そうですね・・口づけ位は済ませて帰って来て下さいよ」
「は?初めて会う相手ですよね?初見で?」
「えぇ、もう一度言いますが、口づけ位は済ませて下さい。ま、私も鬼じゃないので、男女の結び付きまでは求めません。ご安心を」
無理ゲーだ・・。初見、しかも非常に高貴な方にキスをして来いとか無理だろう。もし、不敬罪に問われたらどう責任を取ってくれるのか。
それとも、こっちの世界ではお見合い初回で一線を越えてしまうのは普通なのか?色々すっ飛ばし過ぎだろう。
私が頭を抱えている様子を眺めていたミスティコさんがこほんと咳払いをする。
「まぁまぁ、口づけ位、減るもんじゃないですし。相性を確認する為に必要なのです。どうぞご協力願います」
そう言い終わると、ミスティコさんは丁寧に頭を下げた。その真剣な様子に黙り込んでしまう。
えー・・初見の『春を呼ぶ王子』にキスを迫るとか、とんでもないチャレンジだ。
・・あぁ、麗しい王子が涙目になって裸足で逃げ出したら、マジでどうしよう。立ち直れないかもしれない。
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