10 / 126
あれは神殿でも気の利く方でしてな
しおりを挟む「此度は貴殿のおかげで私の大切な家族が助かった。礼を言う」
王は立ち上がり俺に頭を下げたのだ。それに倣い、後ろに控える王子殿下、王女殿下。そして、両側に控えている貴族やお妃様方までただの人間兵器でしかない俺に頭を下げるのだ。
もはやパニック!!
「あ、え、い、あの、たいした事をしたわけではないのですから、お顔をどうかあげてください」
しどろもどろに俺が言葉を口にすると、漸く王が頭をお上げになってくださり、皆もそれに倣ってくれたので、俺は心底ほっとしたわ。
「貴殿が施したことがたいしたことなどないとは、絶対にそれはありえぬ。実際我らができぬことを貴殿が行ってくれた。感謝しかないのだよ」
「そのお気持ちだけで結構です。私ができることをしたまでですから。それにジオルド殿下のお気持ちが痛いほど私に伝わってきました。正直そのお気持ちがなければ私は行動を起こしておりません。感謝はジオルド殿下にお願いいたします」
実際、ジオルドの弟を思う気持ちがなければ俺は解呪をしていない。解呪をしたその先が不透明だからだ。だけど、彼の思いは純粋な愛が多分にあったから助けただけにすぎないのだ。
「そうであったか。ジオルド、お主のその気持ちがジルフォードとサーシャを救ったのだな。よい子を私は持った」
「有り難きお言葉」
陛下とジオルドの表情は心が安らぐくらい穏やかで、そして慈しみに溢れていた。
羨ましい。
俺には家族と呼べる者が一人もいなくて、慈愛など向けられたことすらない。
それに、
「しかし、スイ殿。何度も言うが、貴殿のおかげなのだ。貴殿がこの世界に召喚されていなければ、私はもう少しで愛おしい二人を亡くしていたのだ。何度でも礼を言わせてくれ」
もう堪らなかった。
我慢の限界だった。
目から止めどなく水が溢れ、止めることが難しいほど俺の感情は乱されて。
「スイっ!?」
ジオルドが俺に駆け寄ってきて、抱きしめてくれる。
「どうした?何が悲しいの?何が駄目だった?」
ジオルドの腕の中で俺は頭を横に振る。
「ちが、だ、って、俺、今まで感謝されたことない・・・・・心のこもった感謝なんて一度もないんだよ・・・」
「っ!!スイ、君はいったいどんな生活を強いられていたんだ・・・・・」
聞かれても応えられない。だって、その生活が「当たり前」だっただけで、決して不幸と思ったことはないのだ。だから「強いられた環境」だとは思ってもいなかった。
ジオルドは俺の頭をゆっくりと優しく撫で、
「いつか君のことをゆっくりでいいから教えてくれ」
言葉に出来ない俺は、頷くことしか出来なかった。
ジオルドは胸からチーフを取りだし、俺の目元をそっと拭う。
もう涙は涸れ、水滴だけが残っていたようだ。
「もう、大丈夫・・・・・ごめ・・・んじゃない、ありがとう」
「うん、どういたしまして」
ジオルドはその場から立ち上がり、元の位置に戻っていった。その姿はやはり神々しくて、そして、愛おしくて・・・・・・。
もう、俺の心はたぶん、ジオルドに捕まってしまったんだろうな。
と、一人感慨に耽っていたのに、こそっと「やはりジオルドの妃に相応しいわ!」というお言葉が聞こえて参りましたとも。このお声の主は絶対にジオルドのお母様のサーシャ様だ。
そのお姿を目に留めると、「うふふ☆」とにっこりと笑い、手を振ってくれるが、目が超マジで怖いんですけどぉぉぉぉぉ!!
「ごほん!もうそろそろ話を進めても良いかな?」
「あ、話の腰を折り大変申し訳ございません」
本当に本当に本当に申し訳ないし、人前で泣くなんて恥ずかしいし、つか何年ぶりに泣いた俺?記憶にございません!
「スイ殿、謝らなくて良い。話の続きだが、君に褒美を与えたいのだ。欲しい物は何かないか?何でも良い、金でも地位でも、私が与えられる物に限るが」
「では、私はこの世界に来たばかりで、衣食住全てを持ち合わせていません。ですので、仕事と住む家をいただきたい」
「それには心配は及ばん。ジルフォード」
「はい、陛下」
ジルフォードは手に黒の布を持って俺の前に来て、俺の服のエポーレットにその布を留めたのだ。
「スイレン・フウマ、貴殿に第四騎士団団長の任を与える」
「っ!!ドウイウコトデスカ?」
「俺は一生部屋から出ることが出来ないと思っていたから、専属の騎士団がないのだ。でも、スイのおかげで俺は国のために動くことができる。そのためには俺にも騎士団が必要だ。だから、その団長を君に勤めて貰いたい。ということで、これで職に関しては問題ないな。後は住居だけど・・・」
何故かジルフォードは兄のジオルドを見る。
「とりあえず住むところは何カ所か候補があるから心配はしなくていいよ。私が責任をもってスイの生活を支えるから」
と、何故か夫婦みたいな言い方をジオルドにされました。
だからさ~何でサーシャ様は喜んでんの!?めっちゃ「きゃっ☆」という声聞こえてますからね!!
「スイ殿、君が望んだ物は既にこちらで手配済みなので、他の物で欲しい物はないのか?」
「今は特にありません。不自由なく暮らせることが私の欲しい物です」
こちらの世界に来て、森で生きていこうと思った。俺にとって煩わしい人間に関わらず、動植物たちとだけ関わる生活を望んだ。だけど、愛しい者たちが出来てしまった。この者たちが不自由なく暮らせる世界を作りたい。それだけが本当の望みだ。しかし、俺の考えは陛下にはお見通しで、
「・・・・・・スイ殿の想いはとてつもなく重く、そして、愛おしい。約束をしよう。貴殿も不自由なく暮らせるよう誠心誠意尽くそうと」
「有り難き幸せ」
再び俺は頭を下げる。感謝でまた涙が出てきそうだ。俺こんなに涙脆かったか?
「それに、貴殿にはジオル、お、これはまだ言ってはならなんだな。ま~おいおい話していこう」
陛下、何か気になることをおっしゃられようといたしませんでしたでしょうか?どうか途中でお止めにならないでください!それが一番俺が知りたい内容かもしれないのですから!!
「さて、では、貴殿には我が国の騎士団の団長副団長と一戦を交えて貰う。それで、正式な騎士団長の就任となる」
「御意に」
王は立ち上がり俺に頭を下げたのだ。それに倣い、後ろに控える王子殿下、王女殿下。そして、両側に控えている貴族やお妃様方までただの人間兵器でしかない俺に頭を下げるのだ。
もはやパニック!!
「あ、え、い、あの、たいした事をしたわけではないのですから、お顔をどうかあげてください」
しどろもどろに俺が言葉を口にすると、漸く王が頭をお上げになってくださり、皆もそれに倣ってくれたので、俺は心底ほっとしたわ。
「貴殿が施したことがたいしたことなどないとは、絶対にそれはありえぬ。実際我らができぬことを貴殿が行ってくれた。感謝しかないのだよ」
「そのお気持ちだけで結構です。私ができることをしたまでですから。それにジオルド殿下のお気持ちが痛いほど私に伝わってきました。正直そのお気持ちがなければ私は行動を起こしておりません。感謝はジオルド殿下にお願いいたします」
実際、ジオルドの弟を思う気持ちがなければ俺は解呪をしていない。解呪をしたその先が不透明だからだ。だけど、彼の思いは純粋な愛が多分にあったから助けただけにすぎないのだ。
「そうであったか。ジオルド、お主のその気持ちがジルフォードとサーシャを救ったのだな。よい子を私は持った」
「有り難きお言葉」
陛下とジオルドの表情は心が安らぐくらい穏やかで、そして慈しみに溢れていた。
羨ましい。
俺には家族と呼べる者が一人もいなくて、慈愛など向けられたことすらない。
それに、
「しかし、スイ殿。何度も言うが、貴殿のおかげなのだ。貴殿がこの世界に召喚されていなければ、私はもう少しで愛おしい二人を亡くしていたのだ。何度でも礼を言わせてくれ」
もう堪らなかった。
我慢の限界だった。
目から止めどなく水が溢れ、止めることが難しいほど俺の感情は乱されて。
「スイっ!?」
ジオルドが俺に駆け寄ってきて、抱きしめてくれる。
「どうした?何が悲しいの?何が駄目だった?」
ジオルドの腕の中で俺は頭を横に振る。
「ちが、だ、って、俺、今まで感謝されたことない・・・・・心のこもった感謝なんて一度もないんだよ・・・」
「っ!!スイ、君はいったいどんな生活を強いられていたんだ・・・・・」
聞かれても応えられない。だって、その生活が「当たり前」だっただけで、決して不幸と思ったことはないのだ。だから「強いられた環境」だとは思ってもいなかった。
ジオルドは俺の頭をゆっくりと優しく撫で、
「いつか君のことをゆっくりでいいから教えてくれ」
言葉に出来ない俺は、頷くことしか出来なかった。
ジオルドは胸からチーフを取りだし、俺の目元をそっと拭う。
もう涙は涸れ、水滴だけが残っていたようだ。
「もう、大丈夫・・・・・ごめ・・・んじゃない、ありがとう」
「うん、どういたしまして」
ジオルドはその場から立ち上がり、元の位置に戻っていった。その姿はやはり神々しくて、そして、愛おしくて・・・・・・。
もう、俺の心はたぶん、ジオルドに捕まってしまったんだろうな。
と、一人感慨に耽っていたのに、こそっと「やはりジオルドの妃に相応しいわ!」というお言葉が聞こえて参りましたとも。このお声の主は絶対にジオルドのお母様のサーシャ様だ。
そのお姿を目に留めると、「うふふ☆」とにっこりと笑い、手を振ってくれるが、目が超マジで怖いんですけどぉぉぉぉぉ!!
「ごほん!もうそろそろ話を進めても良いかな?」
「あ、話の腰を折り大変申し訳ございません」
本当に本当に本当に申し訳ないし、人前で泣くなんて恥ずかしいし、つか何年ぶりに泣いた俺?記憶にございません!
「スイ殿、謝らなくて良い。話の続きだが、君に褒美を与えたいのだ。欲しい物は何かないか?何でも良い、金でも地位でも、私が与えられる物に限るが」
「では、私はこの世界に来たばかりで、衣食住全てを持ち合わせていません。ですので、仕事と住む家をいただきたい」
「それには心配は及ばん。ジルフォード」
「はい、陛下」
ジルフォードは手に黒の布を持って俺の前に来て、俺の服のエポーレットにその布を留めたのだ。
「スイレン・フウマ、貴殿に第四騎士団団長の任を与える」
「っ!!ドウイウコトデスカ?」
「俺は一生部屋から出ることが出来ないと思っていたから、専属の騎士団がないのだ。でも、スイのおかげで俺は国のために動くことができる。そのためには俺にも騎士団が必要だ。だから、その団長を君に勤めて貰いたい。ということで、これで職に関しては問題ないな。後は住居だけど・・・」
何故かジルフォードは兄のジオルドを見る。
「とりあえず住むところは何カ所か候補があるから心配はしなくていいよ。私が責任をもってスイの生活を支えるから」
と、何故か夫婦みたいな言い方をジオルドにされました。
だからさ~何でサーシャ様は喜んでんの!?めっちゃ「きゃっ☆」という声聞こえてますからね!!
「スイ殿、君が望んだ物は既にこちらで手配済みなので、他の物で欲しい物はないのか?」
「今は特にありません。不自由なく暮らせることが私の欲しい物です」
こちらの世界に来て、森で生きていこうと思った。俺にとって煩わしい人間に関わらず、動植物たちとだけ関わる生活を望んだ。だけど、愛しい者たちが出来てしまった。この者たちが不自由なく暮らせる世界を作りたい。それだけが本当の望みだ。しかし、俺の考えは陛下にはお見通しで、
「・・・・・・スイ殿の想いはとてつもなく重く、そして、愛おしい。約束をしよう。貴殿も不自由なく暮らせるよう誠心誠意尽くそうと」
「有り難き幸せ」
再び俺は頭を下げる。感謝でまた涙が出てきそうだ。俺こんなに涙脆かったか?
「それに、貴殿にはジオル、お、これはまだ言ってはならなんだな。ま~おいおい話していこう」
陛下、何か気になることをおっしゃられようといたしませんでしたでしょうか?どうか途中でお止めにならないでください!それが一番俺が知りたい内容かもしれないのですから!!
「さて、では、貴殿には我が国の騎士団の団長副団長と一戦を交えて貰う。それで、正式な騎士団長の就任となる」
「御意に」
1
お気に入りに追加
133
あなたにおすすめの小説
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。
黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。
差出人は幼馴染。
手紙には絶縁状と書かれている。
手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。
いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。
そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……?
そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。
しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。
どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる