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ちょっと残念な気持ちは有りますよ
しおりを挟む・・・・とても、とても非常に気まずい。
アルケーさんは、私に抵抗されて若干正気に戻った様だが、彼の腕は私の身体を支えたままだ。
何かきっかけが有れば、またさっきみたいな状況になりそうだ。
落ち着け、落ち着け。取り合えず無言はよろしくない。何か言おう。
こう言う展開になった時の常套句に『そんなつもりじゃ無かった』と言うのが有るが、えぇ、絶対に言いませんとも。
私はその気になってたんだから。このまま流されても良いと思っていた。
でも、アルケーさんからの一言に違和感を覚えた。
勿体無い様な気もするが、引っ掛かる部分が有るなら、雰囲気に呑まれてすべきじゃ無い。多分。
「・・すいません」
何に謝っているのか、自分でもよく分からないが口を突いて出た言葉はこれだ。日本人の習慣怖い。
「・・どうして謝るんですか?」
う、アルケーさんの声色が固い。何故、止めたんだと言いたげだ。そりゃそうだ、私が逆の立場だったら止められたとしても有無を言わさず胸ぐらい揉んでいたかもしれない。
「・・自分でも上手く説明出来ないんですが・・そのですね、中断させてしまった事は非常に申し訳無いと思いまして、謝罪を・・」
「そうですね、こう言う状態は、その、非常に・・苦しいですね」
「はい、分かります」
アルケーさんの言いたい事は分かる。
私だってキスもせずにあんなにヘロヘロにさせられた。だから「先の展開」にはめちゃめちゃ期待したよ?私も苦しい。
「アルケーさん、あのですね・・『男女の結び付き』ってどうお考えですか?」
私の質問が予想外だったのだろう。アルケーさんは答えに詰まる。
私は心の中で、あんな事になっときながら今更こんな事聞いてすいません、と申し訳無くなるが、異世界人のその辺の考えを伺いたい。
アルケーさんが、どれ位の覚悟で先に進もうとしたのか知りたい。私の認識と落差が有るなら・・対応を考えよう。
「・・愛情表現の一つと考えてますが・・」
アルケーさんが乙女の様に、顔を赤らめ恥ずかしそうに答える。
アルケーさんの答えにちょっと安心する。元の世界と、そう言う行為の意味は大して違わないみたいだ。少なくとも彼にとっては。
それにしても何なんだ、これ。顔を赤くして俯く彼を見詰める。
完全に私の方が羞恥プレイを強要しているみたいじゃないか。
行動は積極的なのになぁ、と思いながら、アルケーさんの琥珀色の瞳を見上げながら尋ねる。
「アルケーさんが愛情表現を受け入れて欲しいのは『私』ですか?『オオトリ』ですか?」
私の質問にアルケーさんが固まる。彼の瞳に動揺が波紋の様に広がるのが分かった。
正直に言えば、心の何処かで『勿論、貴女です』と即答してくれる分岐もほんの少し期待していた。ほんの少し。
もう答えを聞くまでも無い。この表情が答えだ。
「私が拒絶してしまったのは、そう言う訳です。アルケーさんが『貴女としたい』と断言出来る様になったら、その時お願いします」
「・・私が、受け入れて欲しいのは『貴女自身』だ、とすぐに答えられなかった事、責めたりはされないのですか?」
「うーん、正直に言えば、ちょっと残念な気持ちは有りますよ」
私が率直な気持ちを伝えると、アルケーさんが眉をハノ字にして申し訳無さそうな顔をし「すいません」と小さく呟いた。
私はアルケーさんの頬に手を添えた。
謝って欲しい訳じゃないんだけど。私の気持ち伝わるだろうか。
「お互い、もうちょっと理解を深めましょう。その方がもっと気持ちの良いセ・・じゃない『男女の結び付き』になると思うんです」
危ない、危ない。余裕の経験者感を出していたら単語、そのまま言う所だったわ。
私の様子にアルケーさんがクスリと笑うと、顔を近づけて来た。
「そうですね」
そう言いながら、左右の耳たぶを「ちゅ」と音を立てて吸われた。
「・・はぁ」
気を抜いていた所為も有り、予想外の刺激に息を漏らす。私の反応がアルケーさんが私の身体に回していた腕にぐっと力を込めた。
私と彼の身体がピッタリと密着する。
・・・・・お腹の辺りに、感じる違和感はアレだよね?存在を主張してるのは、アルケーさんのアレだよね?
アルケーさんの積極的過ぎる行動に、驚いて彼の顔を見上げると、澄ました顔で「どうかしましたか」と聞かれる。
「何でもありません・・」
アルケーさんの普段通りの様子に、悔しいがそう答えざる得ない。
涼しい顔して、こんなえっちぃ事するの本当に止めて欲しい・・。
その後、二人でお茶を飲んで少し落ち着いた所で、アルケーさんが「そろそろ時間ですね」と言いながら、近くに掛けてあった紺色のローブをシャツの上に羽織った。
「アルケーさんのは、色が違うんですね」
「あぁ、言い忘れましたが、オオトリ様の茶色が神官見習いや新人の神官。その上がこの紺色。次がグレーのローブなんです。大司教様は白なので、何処にいらしてもすぐ分かりますよ」
そう言うと、アルケーさんは私のローブのフードを深く下ろした。
視界がフードで遮られ狭くなる。ちょっと不便だな、と思っているとアルケーさんが「神官見習いはこうやって顔を隠すのが決まりです」と教えてくれた。
「『北の副司祭様』、外では私の事は何とお呼びになるのですか?」
「神官見習いは役職が有りませんので『おい』とか『そこの』とかになるでしょうね」
う、神殿とはパワハラ気味の職場らしい。ご縁が有ったら茶色のローブ組には優しく接する様にしよう。
私が一人決意していると、アルケーさんが出入り口の扉近くで私を呼んだ。
柔和な笑顔でなくて、つんとした、不愛想に近い様な表情だ。きっとこれが神殿でのアルケーさんの仮面なんだろう。
「取り合えずの注意事項はお伝えしました。『そこの』、付いて来なさい」
「はい。『北の副司祭様』」
言われた通り、アルケーさんの傍まで駆け寄り、緊張しながら初めて部屋の外に出た。
こんな時に何だが、北の副司祭バージョンのアルケーさんに命令されるとプレイっぽくてドキドキするな。
廊下の床はモザイク画の様な模様が有り、ピカピカ。右手側は窓でアルケーさんの部屋から見たのと同じ様な景色が見えた。
神殿ってもっと質素かと思っていたので、瀟洒な作りにおっかなびっくりアルケーさんの後に続く。
数人の茶色のローブ組とすれ違い、階段を上がると立派な扉から灰色のローブ組が数人出て来た。
アルケーさんより偉い人達だ。その内の一人がアルケーさんに声を掛ける。
「北の副司祭、見習いを付けているとは珍しい」
「・・はい、西の司教様。気分転換とでも申しましょうか」
「ほうほう、そなたが気に入る程の見習いとは・・実に興味深い」
ローブを目深に被っているから『西の司教』の表情は分からない。ただ、上から下までじっとりした視線を感じる。
居心地が悪くて、視線から逃れる様に俯く。西の司教は、その仕草を「恥ずかしがっている」と解釈したらしい。
「ふむ、初々しい見習いとは・・確かに教え甲斐が有りそうだ。今度、私にも貸して貰おうか」
ぎぇぇぇ、思わず声を上げそうになるが、身体を固くして我慢する。
アルケーさんは私をさっと背中に隠す。
「西の司教様、これは、『東の副司祭』にも仕える予定ですので、違う見習いをお探し下さい」
このおじさんと言うか西の司教に教えを請わなければならない見習いが気の毒だ!
って言うか『東の副司祭』って誰!私がアルケーさんの背後で突っ込んでいると、西の司教の声色が明らかに不機嫌になった。
「東?」
どうやら、このおじさんは『東の副司祭』の事が嫌いらしい。
「はい、東の副司祭と二人で教育しろ、と大司教様から仰せつかっております」
アルケーさんの嘘か本当か分からない一言に、西の司教は不快そうに鼻を鳴らし「次、良い見習いが入ったら、私に知らせる様に」と言い、階段を下りて行った。
私はアルケーさんの後ろから、頭をちょっとだけ出してグレー組の皆さんが去って行ってたのを確認する。
『大司教様』の単語で引き下がるとは。やっぱり大司教様の影響力は絶大らしい。
「さぁ、この扉のもう一枚向こうが大司教様の部屋です」
アルケーさんは周りに誰も居なくなった事を確認すると、いつもの柔らかい表情で私に教えてくれた。
「この扉を抜けると、そこは面会までの待機場所です。待機場所の奥の扉を開けると大司教様と面会出来ます」
そう言いながら、扉を開けてくれた。
待機場所は丁度、教会の礼拝堂の様に左右に長椅子が幾つか置かれていて、礼拝堂だったら祭壇になる場所に扉が有った。
あれが、大司教様の部屋への扉か。私はごくりと喉を鳴らす。
「オオトリ様、申し上げました様に大司教様がお二人での面会をご希望ですので、私はここまでです」
「・・はい」
アルケーさんは私の右手を取り、手の甲に自分の額を押し付ける。私は左手をアルケーさんの頭にぽんと乗せる。
「・・アルケーさん、大丈夫ですよ」
「・・えぇ、そうですね」
アルケーさんは笑顔を向けて来たが、目が全然笑っていない。
何で、私より彼の方が緊張してるんだ。
「行って来ます。そこでいい子にしてて下さいね」
私はアルケーさんにそう言い、覚悟を決めると奥の扉に向かい、大司教様と相見えた。
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