異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうなので早めに逃げ出す事にします

sou

文字の大きさ
上 下
60 / 60
リスランダからの脱出

油断

しおりを挟む
「ふう…痛ってえなぁ。
 ったく、軟弱な勇者にしてはちったぁやるみたいじゃねえか。」

「お前…傷はどうした…?
 俺は確かに斬ったはずだ。」

 そんな筈はない…あの剣には確かな手応えがあった。
 手を緩めた訳でもない。
 なんせ、殺すつもりだったのだから。
 なのに何故だ…何故奴の体にはーー

「きずぅ~?傷なんてどこにある。
 見当たらねえなぁ。」

 ギル・オーガイの体には音宮が付けたはずの傷が無くなっていた。

 目視でも確認した。
 だが実際にギルの体には俺の付けた傷がない。
 だとすれば、あの時俺が斬ったのは一体何だったんだ…?
 俺には奴を斬った手応えが確かにあった。
 幻だということはないだろう。
 考えられるのは何らかの手段で治したという線だが、スキルは割れている以上、治癒魔法という線しか残っていない。
 魔導具の能力の可能性も考えたが、ぱっと見奴が持ち合わせている武具にそれらしいものも見当たらない。
 とりあえず、もう一発食らわせて確認してみるか。

「やる気満々じゃねえか。イイねぇ~。
 そう来なくっちゃ!!!!」

 音宮の短刀とギルの折れた剣がぶつかり合う。

「さっきの出来事をもう忘れたか!」

 超振動ブレードと化した音宮の短刀がギルの剣に食い込み。
 短刀はそのままギルの剣を更に切り裂き、半分程に折れていた剣は更に短くなる。
 しかし、ギルも全く学習していない訳ではなく、体への直撃は避けた。

「ふぅ~、危ねえ危ねえ。」

「へらへらしてんじゃねえよ。
 お前の剣はもう殆ど残ってねえぞ。
 もう諦めたらどうだ。」

「バカな事言ってんじゃねえよ。
 まだまだこれからが楽しいところじゃねえか。」

 ゲラゲラと笑い声を上げながら馬鹿正直に正面から向かって来る。

 まったく…何がそんなに楽しいんだか…
 俺が強くなったというのもあるだろうが、騎士団隊長にしては弱すぎる。
 ただ他の奴より少しタフなだけだろ。
 治癒魔法のレベルがどんなに高かろうとネタさえ割れていればなんて事ない。
 回復する前に首を刎ねて仕舞えば終わりだ。
 どんな人間でも、死んだ後に蘇生出来るなんて馬鹿げた芸当は不可能な筈だ。
 こんな奴にかまってる時間が勿体無い。
 次でケリをつけるか…

 セルジール程の魔法を持っている訳でもなければ、ファング程の身体能力を持っている訳でもない。
 その上、どこに隠し持っているかはわからないが魔導具の効果は破れている。
 恐れる要素は何もない。
 音宮はギルを迎え討つかのように走り出した。

 まだだ…奴の剣が短くなっている今がチャンス。
 確実に短刀を突き刺せる間合いギリギリまで接近する!

「おいおい、そんなに近ずくなんて俺の事少し舐めすぎちゃいねえか。」

「お前だって剣が折れてんだ。
 間合いはまだだろ。」

「は!誰の剣が折れてるってぇ。
 よく見てみろよ。」

 折れた剣を振り下ろすギル。
 あの剣の短さではどう考えても届かない。
 そんな間合いなのに躊躇なく振り下ろす。
 何かある。
 そう思いギルの剣に注目していると、いつの間にか刀身が治っており、最初の長さへと戻っていた。

 しまった!あの剣が魔導具か!!

 慌てて防御に回った音宮はなんとか剣を受け切る事が出来たものの、体勢を崩されてしまう。

「形成逆転って感じだなぁ。」

「もう忘れたのか?
 お前と俺の剣じゃ切れ味が違うんだよ。」

 刀身を超振動ブレードに変え、再び剣を斬ろうとする音宮だったが、どんなに振動数を上げようとも刃が全く通らない。

「ご自慢の切れ味とやらはどうしたぁ。
 お前がやらねえんならこっちからいくぜぇ。」

 次の瞬間、ギルから今まで感じた事のない程の魔力を感じる。

 これは……戦う前より魔力量が上がってる。
 おいおい…この量、フロントフェンリルより多いんじゃないか…?
 これは、戦う相手を間違えたっぽいな…

 自然と汗が落ちてくる。
 ギルの速度が今までとは比べものにならない程に上昇し、目では動きを捉えきれない。
 その速度はスキルを使用したファングと同等だ。
 恐るべきはそれをスキルなしの単純な魔力による身体強化で行っているギルの底なしの魔力量である。

 焦るな…目で追えずとも俺には反音響がある。
 所詮相手は人間。
 心臓か首を狙えばそれで終わりだ。
 勝ち目がなくなった訳じゃない。

「よう、戦闘中に考え事か?
 随分と余裕だな。」

 いつの間にか目の前へと迫り、音宮の胴体目掛けて剣を振り抜こうとしているギル。
 しかし、音宮も感知しており超振動ブレードで対抗しようと受け止めるように短刀を前に出す。
 ギルの剣と音宮の短刀がぶつかり合った瞬間、砕け散ったのは短刀の方だった。

「なに…!」

「お前は終わりだ。
 ちょっとは楽しめたぜ。」

 剣の勢いは劣える事なく、そのまま音宮の体を横凪に切り裂いた。
 鮮血が宙を舞う。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...