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それぞれの行方
魔力
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此処はユーダティア洞窟。
リスランダとオスヴィンの国境付近に存在する洞窟で、中級冒険者が修練や金稼ぎで訪れる場だ。
洞窟内にはオーガやミノタウロスなどの身体能力に特化したパワーファイター系の魔獣たちが存在している。
そんな中、数十体もの魔物に包囲されながらも、敵の攻撃をいなし続けている男がいた。
音宮響だ。
近くでクロエが彼の姿を壁に寄り掛かりながら音宮の戦いを見守っている。
魔物はクロエには襲い掛かろうとしない。
少しでも理性のあるものなら理解出来る程の力の差を理解しているからだ。
数は…12体か…数は多いが攻撃は大振りだ。
力は強いけど当たらなければ問題ない。
この程度の攻撃なら余裕で躱せる。
くそっ!こんなの広範囲攻撃で纏めて倒せるってのにーーー
音宮はユーダティア洞窟に来る前の出来事を思い出す。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「お!起きた。体調は良くなった?
毒は抜けたみたいだけど、もう少し寝てた方が良いよ。」
グレイウルフに噛まれた傷跡が塞がっている。
赤黒く変色していた肌も元通りだ。
「俺はどれくらいの間寝てた?」
「う~ん。半日くらいじゃないかな。」
「そうか。…世話になったな。」
「別にいいよ。それより、治ったんだから私のお願い事聞いて貰うからね。
起きたんならご飯食べながら話そっか。ちょうどもうすぐ出来るし。」
クロエの手元を見れば魚がもうすぐ焼き上がる頃だった。
猫人族《ワーキャット》というだけの事はある。
食の好みは猫と一緒か。
「私のお願い事を聞く前に、まず貴方には強くなって貰わないといけない。
今のままだとあんまり役に立たないからね。」
「だったらなんで俺にしたんだ?
俺を見捨てて別の人間を助けるっていう手段もあっただろ。」
「それもそうなんだけどね。
この世界の住人が私と手を組んでくれる可能性は低いからね。
私、それなりに有名な犯罪者だから出来れば何も知らない異世界から来た人間が良かったの。
でも勇者はこの国に来たその時から国で管理される。
そう簡単に接触できる存在じゃないの。
リスランダ王国が勇者を召喚するって噂を聞いてどうにか接触できないかなって思ってたら貴方と出会ったってわけ。
次に出会える機会なんていつ来るかわかんないし貴方に賭けるしかないの。」
「俺の他にももう一人女がいただろ。
そいつに接触していればセルジールと戦う必要もなかったし楽だったんじゃないのか?」
「あの子ねえ…まあ、ぶっちゃけた話、私のお願い事はある人間を倒す手伝いをして欲しいの。私がそいつと集中して戦えるように他の奴らを引き付けて置ける存在を求めている。でも、あの子はどう見ても戦闘向きじゃない。スキルとかじゃなくて性格の話ね。じっくり育てればどうにかなるかもだけど私もそこまで暇じゃないわ。
手っ取り早く目的を叶える為には貴方が最適なの。
拒否権はないわよ。貴方は私に助けて貰った。その事を忘れないで。」
まあ別に強くなる分には構わない。
グレイウルフ程度のモンスター相手にこのざまだ。
今まではスキルの強さでなんとかなっていたが徐々に対策され始めている。
追手が来る以上、戦いは必須。
逃げるにしても能力の向上は必要不可欠だ。
「わかったよ…だが、期間はきっちり決めて貰う。
俺もお前の目的にいつまでも付き合っている訳にはいかない。
修行を含めても半年以内に終わらせるのが条件だ。」
「それでいいわ。私としても早いに越したことはないからね。
ただ、修行が足りなくて死んだりしても私の事恨まないでよ。」
こうして今に至る。
音宮の修行とは接近戦の強化だ。
グレイウルフの時もそうだが、敵の動きについて行けず音宮はいままでの戦闘で必ず傷を負ってきている。
そのような戦い方では命がいくつあっても足りない。
クロエの説明によるとこの世界の生物には魔力というものが流れているらしい。
この力を認知し、コントロールする事で身体強化を行ったり、魔法を使っているそうだ。
俺たちのように別世界から来た人間にも魔力は例外なく流れているそうで、大小あるものの魔力を持っていない人間は存在しない。
魔力を認知する事はそう難しい話ではなく、魔力の高い人や濃度の高い場所、魔法を傍で感じ続けることが出来れば体が自然と覚えてくる。
この世界には魔導具という物が存在し、魔力を込める事で火を点けたりできるような家庭用品から武器までと様々な種類が存在し、生活には欠かせないものとなっている。
そのため、この世界の子供たちは幼少期から魔法を近くで感じ続ける為、大人になる頃には自然と魔力を使う事が出来るのだとか。
では、俺たち勇者はどうやって覚えるのかといえば、高位の魔術を近くで感じ続ける事。これが一番手っ取り早い手段だ。
くしくも俺は、フェルトの魔法部隊やセルジールの魔法をこの身に受けていた為、基盤は出来ていたようで、3日間ほどクロエの魔法をスキルで打ち消すといった特訓をしている間に自然と存在を認識することが出来た。
魔法を使うには更なる修練が必要との事だが、身体強化だけなら問題ない。
今行っているのはスキルを使わずどれだけ動けるようになっているかを確認する訓練をしている。
戦闘経験の少ない音宮には実戦を行わせる事が一番最適な方法だ。
敵の隙を付き、一体一体確実に剣で薙ぎ払っていく。
剣は音宮のスキルと相性が良いためメイン武器として扱うよう、クロエが調達してきたものだ。
最後の一体を倒し終える。
「うん。スキルなしでこのくらい動けるなら及第点ってとこかな。
じゃあ、今度は実戦形式でスキルありの戦いをやってみよっか。
まだまだ強くなって貰わないと困るし、頑張ってね。」
音宮の修行は順調に進んでいた。
リスランダとオスヴィンの国境付近に存在する洞窟で、中級冒険者が修練や金稼ぎで訪れる場だ。
洞窟内にはオーガやミノタウロスなどの身体能力に特化したパワーファイター系の魔獣たちが存在している。
そんな中、数十体もの魔物に包囲されながらも、敵の攻撃をいなし続けている男がいた。
音宮響だ。
近くでクロエが彼の姿を壁に寄り掛かりながら音宮の戦いを見守っている。
魔物はクロエには襲い掛かろうとしない。
少しでも理性のあるものなら理解出来る程の力の差を理解しているからだ。
数は…12体か…数は多いが攻撃は大振りだ。
力は強いけど当たらなければ問題ない。
この程度の攻撃なら余裕で躱せる。
くそっ!こんなの広範囲攻撃で纏めて倒せるってのにーーー
音宮はユーダティア洞窟に来る前の出来事を思い出す。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「お!起きた。体調は良くなった?
毒は抜けたみたいだけど、もう少し寝てた方が良いよ。」
グレイウルフに噛まれた傷跡が塞がっている。
赤黒く変色していた肌も元通りだ。
「俺はどれくらいの間寝てた?」
「う~ん。半日くらいじゃないかな。」
「そうか。…世話になったな。」
「別にいいよ。それより、治ったんだから私のお願い事聞いて貰うからね。
起きたんならご飯食べながら話そっか。ちょうどもうすぐ出来るし。」
クロエの手元を見れば魚がもうすぐ焼き上がる頃だった。
猫人族《ワーキャット》というだけの事はある。
食の好みは猫と一緒か。
「私のお願い事を聞く前に、まず貴方には強くなって貰わないといけない。
今のままだとあんまり役に立たないからね。」
「だったらなんで俺にしたんだ?
俺を見捨てて別の人間を助けるっていう手段もあっただろ。」
「それもそうなんだけどね。
この世界の住人が私と手を組んでくれる可能性は低いからね。
私、それなりに有名な犯罪者だから出来れば何も知らない異世界から来た人間が良かったの。
でも勇者はこの国に来たその時から国で管理される。
そう簡単に接触できる存在じゃないの。
リスランダ王国が勇者を召喚するって噂を聞いてどうにか接触できないかなって思ってたら貴方と出会ったってわけ。
次に出会える機会なんていつ来るかわかんないし貴方に賭けるしかないの。」
「俺の他にももう一人女がいただろ。
そいつに接触していればセルジールと戦う必要もなかったし楽だったんじゃないのか?」
「あの子ねえ…まあ、ぶっちゃけた話、私のお願い事はある人間を倒す手伝いをして欲しいの。私がそいつと集中して戦えるように他の奴らを引き付けて置ける存在を求めている。でも、あの子はどう見ても戦闘向きじゃない。スキルとかじゃなくて性格の話ね。じっくり育てればどうにかなるかもだけど私もそこまで暇じゃないわ。
手っ取り早く目的を叶える為には貴方が最適なの。
拒否権はないわよ。貴方は私に助けて貰った。その事を忘れないで。」
まあ別に強くなる分には構わない。
グレイウルフ程度のモンスター相手にこのざまだ。
今まではスキルの強さでなんとかなっていたが徐々に対策され始めている。
追手が来る以上、戦いは必須。
逃げるにしても能力の向上は必要不可欠だ。
「わかったよ…だが、期間はきっちり決めて貰う。
俺もお前の目的にいつまでも付き合っている訳にはいかない。
修行を含めても半年以内に終わらせるのが条件だ。」
「それでいいわ。私としても早いに越したことはないからね。
ただ、修行が足りなくて死んだりしても私の事恨まないでよ。」
こうして今に至る。
音宮の修行とは接近戦の強化だ。
グレイウルフの時もそうだが、敵の動きについて行けず音宮はいままでの戦闘で必ず傷を負ってきている。
そのような戦い方では命がいくつあっても足りない。
クロエの説明によるとこの世界の生物には魔力というものが流れているらしい。
この力を認知し、コントロールする事で身体強化を行ったり、魔法を使っているそうだ。
俺たちのように別世界から来た人間にも魔力は例外なく流れているそうで、大小あるものの魔力を持っていない人間は存在しない。
魔力を認知する事はそう難しい話ではなく、魔力の高い人や濃度の高い場所、魔法を傍で感じ続けることが出来れば体が自然と覚えてくる。
この世界には魔導具という物が存在し、魔力を込める事で火を点けたりできるような家庭用品から武器までと様々な種類が存在し、生活には欠かせないものとなっている。
そのため、この世界の子供たちは幼少期から魔法を近くで感じ続ける為、大人になる頃には自然と魔力を使う事が出来るのだとか。
では、俺たち勇者はどうやって覚えるのかといえば、高位の魔術を近くで感じ続ける事。これが一番手っ取り早い手段だ。
くしくも俺は、フェルトの魔法部隊やセルジールの魔法をこの身に受けていた為、基盤は出来ていたようで、3日間ほどクロエの魔法をスキルで打ち消すといった特訓をしている間に自然と存在を認識することが出来た。
魔法を使うには更なる修練が必要との事だが、身体強化だけなら問題ない。
今行っているのはスキルを使わずどれだけ動けるようになっているかを確認する訓練をしている。
戦闘経験の少ない音宮には実戦を行わせる事が一番最適な方法だ。
敵の隙を付き、一体一体確実に剣で薙ぎ払っていく。
剣は音宮のスキルと相性が良いためメイン武器として扱うよう、クロエが調達してきたものだ。
最後の一体を倒し終える。
「うん。スキルなしでこのくらい動けるなら及第点ってとこかな。
じゃあ、今度は実戦形式でスキルありの戦いをやってみよっか。
まだまだ強くなって貰わないと困るし、頑張ってね。」
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