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それぞれの行方

寧々嶋千里

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 コンコンっとイグニードが王宮内にある部屋をノックする。

「寧々島様、いらっしゃいますか?」

「はいはい。寧々島は俺だけど、どうかしました?」

 寧々島千里。部活は陸上部に所属していて成績は下の方。趣味は登山と少し変わっており休日になると一人でも山に登る程だった。

「実は、音宮様と安藤様を発見する事は出来たのですが逃げられてしまって…その際に兵士の数人が怪我をしてしまいました。我が国としましても反逆罪で捕らえなければならない状況になってしまったのですが、協力して頂けないでしょうか?寧々島様のスキルなら彼らの居場所を探る手掛かりにもなりますし、何より同じ世界から来た貴方なら説得出来るかも知れないのです。」

「えっ!あの2人が兵士の人達に怪我を⁉︎
 そんな奴らじゃなかったと思うんだけど…」

「ああ…ご心配なさらず。
 怪我と言っても大したものではありません。
 いきなり違う世界に来て少し戸惑っているのでしょう。…もしくは魔王軍に操られているか。」

「操られてる⁉︎一体どう言う事ですか?」

「確定ではないのですが、安藤様がビビアンという女性と一緒にいる所を副団長が目撃しております。このビビアンという女はかつて国を襲い、国家転覆を目論んだ大悪党なのです。
 ですので、安藤様の身にもなにか危険が迫っているのではないかと心配で…。」

「…そんな事が!…音宮は、音宮は何処にいるんですか?あいつは賢い奴です。そう簡単にやられる訳がありません。」

「音宮様と安藤様は現在、別行動を取られています。途中までは我々も消息をつかめていたのですが…申し訳ありません。」

「そんな…俺はどうしたら?友達なんです!
 安藤さんとはそこまで話した事はないけど、クラスメイトだし、音宮とは2人で帰り道にコンビニ寄ったり休み時間に色んな話をした友達なんです!お願いします!助けて下さい!」

「我々とて気持ちは同じです。それに、我々などに頼まなくとも寧々島様には十分、二人を助け出す為の力が備わっています。
 改めてお願いします。
 お二人方を助ける為にも、我々に協力して頂けませんか?」

「俺に…2人を助ける力が…?」

「ええ、貴方様の『千里眼』が必要なのです。
 これは貴方にしか出来ない事。
 貴方がお二方を救う勇者なのです!」

「俺だけが…二人を救える…俺こそが…勇者
 これは俺にしか出来ない事」

「ええ、そうです。
 貴方にしか出来ないのです。」

「…イグニードさん。俺やります。
 俺が二人を助け出して見せます。」

「ありがとうございます。
 貴方様にならきっと出来ます。」

 人間は誰しも自分の意見を肯定されたいとう自己肯定感を持っている。
 そして、自分を肯定してくれる者の言葉を信じてしまう。
 特別感も感じさせた。
 自分にしか出来ないなどと言った言葉を掛けられると、自分に自信のないものほど簡単に落ちてしまう。

 イグニードの言葉に寧々島は落ちてしまった。その先に続く道が、地獄に繋がっているとも知らずに。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 一方、騎士団は再度会議を開いていた。
 今回の議題は誰が音宮、安藤を捉えに行くかだ。
 最低でも3名の隊長格が抜ける事になる。
 慎重に選ばなければならない。

「団長さんよお、今度こそ俺に行かせろよ。
 それなりに強えんだろ。今から楽しみで仕方ねえぜ。」

「ギル。兄様の話を聞いていなかったのですか?今回は最低でも私達の中から2~3人出陣する事になるのですよ?」

「ああ!それがどうしたよ。
 その中に1人に俺を入れろっていう話だろうが!」

「貴方の様な連携が取れない人間が選ばれる筈がないとセシリア殿は言いたいのでしょう。」

「流石、フェルトは話が分かりますね。」

「はっ!そもそも俺一人で十分だっての。
 こっち来たばっかでスキル覚えたてのガキ一人にボコボコにされたどっかの間抜け部隊長と一緒にすんな。」

「なんだと!」

「ギル!不用意に人を挑発する様な発言をするな。騎士にあるまじき行為だぞ。
 それにフェルトもだ。
 騎士団団長の身分でたかが勇者一人に敗れるとは…とんだ恥をかかせてくれたものだな。」

「はいはーい。みんな喧嘩しないで下さい。
 全く…どうしていつも喧嘩になるのやら…」

「ナタリー、ありがとう。
 それでは会議に戻るがそもそもの話、彼らが何処に居るかがわかっていない。
 音宮はドニー村を出てから、安藤はビビアンと消えてその後の消息は不明。
 先ずはそこをどうするかだ。
 見つからない状況で無闇に隊長を捜索に出す訳には行かない。」

「俺に任せて下さい!」

 会議室に扉が勢いよく開く。

「イグニード、貴様の仕業か」

「王の御意志だ。
 寧々島様のスキル『千里眼』を使えば2人の行き先など一発で分かるぞ。
 後、彼も一緒に連れて行く様に。
 これも王の御意志だ。
 戦いに慣れて貰うためにな。」

「俺の千里眼なら二人の居場所なんて直ぐに探せるはずです。頭に見たい場所を思い浮かべればその風景が浮かび上がる。
 大体の位置がわかってるなら俺に見つけられないものはない。俺を連れて行って下さい。」

 イグニードがツカツカとセルジールの元へ歩いてきて耳打ちをした。

「それじゃあ、後はお願いしますよ。
 王国騎士団の方々。」

 イグニードはそのまま去って行った。

「……ギル、寧々島千里と共に出発しろ。
 ターゲットはーーーーー以上だ。」

「おいおい、まじかよ…ったく、気が乗らねえから、俺パスしていい?」

「国王の命令だ。従え。」

「わっかりましたよ~と。
 全く俺をそういう役に使うんじゃねえよ…おい!寧々島とかいう小僧!
 さっさと逃げた2人を見つけ出しやがれ!」

「なっ!おい!いきなり引っ張るな!
 やめろよ!おい!」

 ギルは寧々島を連れてその場を去って行った。

「団長。ギルに任せて良かったんですか?」

「構わんよ。勇者を一人消すだけの楽な仕事だ。」

「ーーー!!
 成程…そういう事ですか…随分と早いですね。」

「確かに予定よりはだいぶ早いが構わない。いずれ全員死ぬ運命だ。
 大して変わらないだろう。」

「それもそうですね。」
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