上 下
20 / 60
ドニー村

絶体絶命

しおりを挟む
 翌朝、音宮が目を覚ますと体が重い。
 なにかが乗っているような違和感を感じる。
 ふと、横を見るとそこに居たのは安藤だった。

 なんで安藤が俺の隣で寝てるんだ。
 今までは一応異性という事もあって寝る時は極力距離を開けて寝るようにしていた。
 この事で安藤の了承を得た訳ではないが、暗黙の了解というやつでわかっていたと思うのだが…

 そんな事を考えていると視線を感じ取ったのか、安藤が目を覚ます。
 ばっちりと目が合ってしまい安藤は徐々に頬が赤くなり照れてしまう。

「あ、あのね。これはその…違うの。えっと…音宮君が苦しそうだったから、それで何とかしようと思って…えっと…」

「安藤さん、落ち着いて。別に気にしてないから。」

 ビックリはしたが気にしていないのは本当だ。
 男が横に居たら不快だが、女子ならただの役得だ。
 安藤を落ち着かせて、一先ず次の目的地を決める事になった。

「音宮君の怪我を治してくれる人を探しに行こう。その怪我、あんまりいい状態には見えないよ。」

 こればっかりは彼女の言う通りだ。
 日に日に悪化している気しかしない。
 歩くことはまだ出来るが、傷跡がズキズキと痛む。

「そうだね。だとすると一番近くてそれなりに栄えてそうな場所がいいかな…」

 地図を広げて見てみるが、近辺には小さな集落しかない。
 何処が栄えているかなんて実際に見るか、誰かに聞かなければ分からないので今の音宮たちには調べようがない。

「変に村に居座っても時間が経つだけだ。ここは思い切って他国に行くのもありかも。リスランダは門番を倒しちゃったから入れないだろうけど、他の国なら大丈夫だと思う。首都の方が治せる人もいるだろうし、時間はかかるけどそれが一番安全かな。」

「わかった。音宮君がそういうならそうしよう。でも、無理だけはしないでね。私だって少しは戦えるんだから。」

 フェルトとの戦いで少しは自信をつけたのだろう。
 自分から意見し行動するようになっている。

 成長したなあ、なんて我が子を見るかのような目で安藤を眺めていると急にコンコンっと家を叩く音が聞こえた。

 ーーしまった…感知するのを忘れていた。
 俺の反音響では誰かまでは大きさなどは分かっても誰かと言った詳しい情報はわからない。
 ざっと探った感じ、馬と人がいるといった感じか。

「家主さんが帰って来たのかな?」

「それはない。自分の家ならノックする必要はない。考えられる可能性は二つ。
 一つ目は家主の知り合いが訪問した来たパターン。この場合は居留守を使うなり、適当に嘘をついて誤魔化せばいいだけだからなんとかなる。
 もう一つは追手が来たパターン。これは最悪だ。
 この村には人がいなかった。今ざっと感知したけどまだ誰も帰って来てない。
 それなのにこの家をわざわざノックしたという事は…」

「音宮響様、安藤桜様、中にいるのは分かっています。
 私は王国騎士団団長を務めさせていただいているセルジール・スクライドです。
 今すぐお戻りください。私とて手荒な真似はしたくない。
 フェルトに勝ったからといって私に勝てるなどと思わない事です。
 5つ数えるうちにこの扉を開け、出てきて下さい。」

 セルジールのカウントダウンが始まる。

「安藤さん、壁を破って逃げるんだ。大丈夫、あいつの他に外には誰もいない。今なら逃げ切れる。」

「うん、わかった。音宮くん、つかまって。」

 安藤が音宮に肩を貸そうとするが一向に動く気配がない。

「音宮くん…?」

「俺はここに残って足止めするよ。残念だけど動けそうにないからね。足手まといになる。」

「そんな!一緒に逃げようよ。大して役に立たないかもだけど、私だって少しは強くなったつもりだよ!だから…」

「早く行くんだ。もう時間がない。安藤さんは強くなったけどまだあいつらに勝てる程じゃない。それに、俺を庇いながら逃げたって二人とも捕まるだけだよ。ほら、もうカウントダウンも終わる。行って…早く!」

 セルジールが扉を開けると同時に安藤が樹木で家に穴をあけ隙間から走り出していった。

「足止めですか…無駄にならなければ良いですね。」

「そんなんじゃねえよ。あいつから聞いてないのか?この状況、追い込まれてるのはお前の方だぞ。」

 フェルトの時と同様に爆音で気を失わせようとしたその時、一瞬にして目の前に現れたセルジールが音宮の両手を掴む。

「聞いていますよ。なにやら不思議なスキルを使ってくると。
 ですが、共通点として貴方は手や指などを動かす予備動作があるという事も聞いています。なんらかのアクションをした後でしか発せない能力なら、すべての動作をさせなければいい。簡単な話です。」

 両手を掴まれたまま、上へと持ち上げられる。
 地面を踏めればそこから音を発生させる事が出来るのに、それさえも封じられてしまった。

 クソっ…此処までか…

 怪我なども相まって朦朧とする意識のなか、音宮の視界に映ったのは一匹の黒猫の姿だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです

狼蝶
恋愛
 転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?  学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...