16 / 60
カルチア森林
音
しおりを挟む
フェルトの言葉を聞いて、音宮は迷っていた。
自分ではなく、安藤の事について。
彼女の事を考えるなら王国に預けた方がいい。
彼女がいなくとも俺は食料問題を解決すればいいだけだし、そこまで困らないだろう。
彼女は戦闘能力がないし、現に今も俺たちの戦いについて行けず、木に体を隠しながら震えている。
目の前で人が戦っているのを見ていられないのだろう。
音宮は安藤の元へとゆっくり歩み寄っていく。
フェルトも追撃する気はないようで、安藤の出す答えを待っている様子だ。
「…安藤さん。帰るなら今のうちだ。
俺はこの国に従う気はない…必ず逃げ切ってみせるし、邪魔をするなら誰であろうと蹴散らす覚悟だ。でも、君はそうじゃない。
そもそも、安藤さんの性格上、戦う事に向いていない。
俺もあいつと戦っていて分かったが、この世界では弱い部類の人間だ。
身体能力が全く追いついていない。
今はスキルがバレていないからどうにかなっているけど、それも時間の問題だ。
そんな状況で安藤さんを護りながら逃げ切るなんて事は出来ないと思う。
それを理解したうえで俺と行くか、それとも王都に帰るか。
今すぐに決断した方がいい。奴らもそう待ってはくれない。
どっちつかずじゃいられないよ。」
彼女は決められないだろうな
数時間だけの仲だが、音宮はそう思っていた
だが、意外にも彼女の決断は早かった
「王都には戻りたくない…私も変わりたいから…何にも出来ない自分はもう嫌だから…だからお願い…私が変われるその日まででいいから、私の事を護って。絶対に迷惑だけはかけないから…見捨ててもいいから…音宮君が私の事を要らないって思うまでは傍に居させて。」
初めて聴いた彼女の本音
今までは思っていても口に出す事はしなかった
身長差から自然と上目遣いで、目には薄っすらと涙が浮かんでいる。
不甲斐ない自分を思い出して悔し涙を流している。
それだけ、本気だという事が伝わって来る。
その思いを無下にするほど、音宮の人間性は腐っていない。
「聞こえてただろ?戻りたくないってさ。」
「出来る限り穏便に済ませたかったのですが…残念です。」
「だったら今からでも俺たちの事見逃せよ。
そしたら喜んでお前らの目の前から消えてやる。
お前らは俺たちを見つけることが出来ませんでしたって言えばそれで終わりだ。
俺のスキルで追跡を無効化されたとか言えばいいだろう。
これですべてが穏便に解決する。」
「それは騎士団としての誇りに反します。
それに、私たちにばかりリスクがあってなんのメリットも存在しないではないですか。そんな条件、飲めませんよ。」
「穏便に済ませたいっていうから提案してやっただけだろ。」
音宮は安藤になにやらボソッと耳打ちするとフェルトの元へと歩き出す。
なにかを聞いた安藤は少し驚いた顔をした後、なにかを決意した目をして音宮とは反対方向へと走り去っていく。
「安藤様を逃がしましたか。
ですが、この『雷電の檻』の中にいる限り、逃げ切る事は出来ませんよ。
音宮様を倒した後に安藤様を捉えればそれで終わりです。」
フェルトが攻撃を仕掛けてくる。
「ナイフの切れ味は証明済みだ。
一発でも当たればお前の負けだぞ。」
「ええ、先ほどの切れ味を見るに鎧など紙切れ同然に切り裂かれてしまうでしょう。当たってしまえば掠り傷では済まないでしょうね。ですがーー」
フェルトの拳が音宮の肉体を捉える。
「貴方自身の腕前が足りない。その程度の攻撃を躱せずに騎士団長を名乗ることなど出来る筈もない。どんなに切れ味がよかろtうと、当たらなければ意味がない。」
次から次へとフェルトの攻撃が体にダメージを与えてくる。
一撃一撃が重い。
ダメージに耐えきれず持っていたナイフを地に落としてしまう。
「これで何も怖くなくなった。私のスキル『連撃《コンボ》』の能力は連続して当てた攻撃の威力を増加していくものです。長引けば不利になるのは音宮様の方ですよ。いい加減諦めて下さい。もう、体中ボロボロだ。そんな体でこれ以上戦えば命を失いますよ。我々と一緒に国へ戻りましょう。さあ。」
フェルトが音宮に向けて手を差し伸べる。
たしかに、フェルトの言葉通りもう、戦えそうにもない。
だが、音宮の目はまだ諦めていない。
なにかを待っているよう見える。
「お前…安藤のスキルの事知ってるって言ってたよな。どこまで知ってるんだ?」
「スキル名は『開花』花を咲かせる程度の能力で私が知っている中でも最弱に等しいスキルということですかね。それがなにか?」
「いや、良かったよ。お前らがあいつの事を警戒してなくて。お前は安藤を後を追うべきだったんだ。満身創痍の俺の相手をするよりもな。」
「先ほども言いましたが、彼女が逃げたところで何の影響もありません。安藤様のスキルは戦闘には一切役に立たない。この場において脅威になりえないのです。」
「決めつけは良くないぞ。ほら、そろそろ時間だ。」
「ーーな!!」
雷電の檻の一部分に木が生える。何本もの巨木が。
発生源は安藤桜。彼女は木をトンネルのように張り巡らせ、檻の中から脱出しようとしていた。
雷電の檻に触れた木が雷を受け、燃え始めるが、中にいる安藤に届くまでには至らに。徐々に燃え始めて来た時には既に遅く、安藤は脱出に成功していた。
「はぁ…はぁ…音宮くん!出たよ!」
安藤が檻の外から音宮に向かって叫ぶ。
「まさか…安藤様のスキルにあんな使い方があったとは…
安藤様だけでも逃がそうという考えだったとは思いもしませんでした。ですが、音宮様を捕まえてその後すぐに捕まえればいいだけの事。」
「ハハ…なにを言ってるんだ、お前。俺は別に安藤だけを逃がそうとしていた訳じゃない。邪魔だったんだよ。この中に居られると巻き添えになってしまうから…」
突如、音宮とフェルトを囲むように木が檻のように重なる。
「これでやっと本気が出せる。お前は強そうだから加減は無しだ。最大火力をくらえ。」
大して動けずとも出来る武器がある。
これは門番相手にも使ったがあの時は近くに安藤がいたので威力を抑えていた。
それでも門番は気を失い、耳を塞いでいなかった住民たちは倒れ込んでいる。
今、音宮とフェルトは安藤の作った木の檻と、魔導士部隊の『雷電の檻』の2つの檻に囲まれている。
音宮からしてみればこの状況は絶好のチャンスになりえる。
「なにをーー」
ーーーーーーーーーー!!!!!!
いわゆる指パッチンの動作をしたその瞬間、音が爆発したかのように響き渡る。
その音は魔導士部隊にまで襲い掛かり、頭痛や眩暈を引き起こし魔力の維持が出来なくなり『雷電の檻』が解除される。
そんな中、音宮から事前に耳を塞ぐように言われていた安藤だけがなんとか耐えていた。
どっちが勝ったの?
木の檻を解除する。
安藤の目に映ったものは、倒れ込んでいる音宮と、それを見下ろしているフェルトの姿だった。
自分ではなく、安藤の事について。
彼女の事を考えるなら王国に預けた方がいい。
彼女がいなくとも俺は食料問題を解決すればいいだけだし、そこまで困らないだろう。
彼女は戦闘能力がないし、現に今も俺たちの戦いについて行けず、木に体を隠しながら震えている。
目の前で人が戦っているのを見ていられないのだろう。
音宮は安藤の元へとゆっくり歩み寄っていく。
フェルトも追撃する気はないようで、安藤の出す答えを待っている様子だ。
「…安藤さん。帰るなら今のうちだ。
俺はこの国に従う気はない…必ず逃げ切ってみせるし、邪魔をするなら誰であろうと蹴散らす覚悟だ。でも、君はそうじゃない。
そもそも、安藤さんの性格上、戦う事に向いていない。
俺もあいつと戦っていて分かったが、この世界では弱い部類の人間だ。
身体能力が全く追いついていない。
今はスキルがバレていないからどうにかなっているけど、それも時間の問題だ。
そんな状況で安藤さんを護りながら逃げ切るなんて事は出来ないと思う。
それを理解したうえで俺と行くか、それとも王都に帰るか。
今すぐに決断した方がいい。奴らもそう待ってはくれない。
どっちつかずじゃいられないよ。」
彼女は決められないだろうな
数時間だけの仲だが、音宮はそう思っていた
だが、意外にも彼女の決断は早かった
「王都には戻りたくない…私も変わりたいから…何にも出来ない自分はもう嫌だから…だからお願い…私が変われるその日まででいいから、私の事を護って。絶対に迷惑だけはかけないから…見捨ててもいいから…音宮君が私の事を要らないって思うまでは傍に居させて。」
初めて聴いた彼女の本音
今までは思っていても口に出す事はしなかった
身長差から自然と上目遣いで、目には薄っすらと涙が浮かんでいる。
不甲斐ない自分を思い出して悔し涙を流している。
それだけ、本気だという事が伝わって来る。
その思いを無下にするほど、音宮の人間性は腐っていない。
「聞こえてただろ?戻りたくないってさ。」
「出来る限り穏便に済ませたかったのですが…残念です。」
「だったら今からでも俺たちの事見逃せよ。
そしたら喜んでお前らの目の前から消えてやる。
お前らは俺たちを見つけることが出来ませんでしたって言えばそれで終わりだ。
俺のスキルで追跡を無効化されたとか言えばいいだろう。
これですべてが穏便に解決する。」
「それは騎士団としての誇りに反します。
それに、私たちにばかりリスクがあってなんのメリットも存在しないではないですか。そんな条件、飲めませんよ。」
「穏便に済ませたいっていうから提案してやっただけだろ。」
音宮は安藤になにやらボソッと耳打ちするとフェルトの元へと歩き出す。
なにかを聞いた安藤は少し驚いた顔をした後、なにかを決意した目をして音宮とは反対方向へと走り去っていく。
「安藤様を逃がしましたか。
ですが、この『雷電の檻』の中にいる限り、逃げ切る事は出来ませんよ。
音宮様を倒した後に安藤様を捉えればそれで終わりです。」
フェルトが攻撃を仕掛けてくる。
「ナイフの切れ味は証明済みだ。
一発でも当たればお前の負けだぞ。」
「ええ、先ほどの切れ味を見るに鎧など紙切れ同然に切り裂かれてしまうでしょう。当たってしまえば掠り傷では済まないでしょうね。ですがーー」
フェルトの拳が音宮の肉体を捉える。
「貴方自身の腕前が足りない。その程度の攻撃を躱せずに騎士団長を名乗ることなど出来る筈もない。どんなに切れ味がよかろtうと、当たらなければ意味がない。」
次から次へとフェルトの攻撃が体にダメージを与えてくる。
一撃一撃が重い。
ダメージに耐えきれず持っていたナイフを地に落としてしまう。
「これで何も怖くなくなった。私のスキル『連撃《コンボ》』の能力は連続して当てた攻撃の威力を増加していくものです。長引けば不利になるのは音宮様の方ですよ。いい加減諦めて下さい。もう、体中ボロボロだ。そんな体でこれ以上戦えば命を失いますよ。我々と一緒に国へ戻りましょう。さあ。」
フェルトが音宮に向けて手を差し伸べる。
たしかに、フェルトの言葉通りもう、戦えそうにもない。
だが、音宮の目はまだ諦めていない。
なにかを待っているよう見える。
「お前…安藤のスキルの事知ってるって言ってたよな。どこまで知ってるんだ?」
「スキル名は『開花』花を咲かせる程度の能力で私が知っている中でも最弱に等しいスキルということですかね。それがなにか?」
「いや、良かったよ。お前らがあいつの事を警戒してなくて。お前は安藤を後を追うべきだったんだ。満身創痍の俺の相手をするよりもな。」
「先ほども言いましたが、彼女が逃げたところで何の影響もありません。安藤様のスキルは戦闘には一切役に立たない。この場において脅威になりえないのです。」
「決めつけは良くないぞ。ほら、そろそろ時間だ。」
「ーーな!!」
雷電の檻の一部分に木が生える。何本もの巨木が。
発生源は安藤桜。彼女は木をトンネルのように張り巡らせ、檻の中から脱出しようとしていた。
雷電の檻に触れた木が雷を受け、燃え始めるが、中にいる安藤に届くまでには至らに。徐々に燃え始めて来た時には既に遅く、安藤は脱出に成功していた。
「はぁ…はぁ…音宮くん!出たよ!」
安藤が檻の外から音宮に向かって叫ぶ。
「まさか…安藤様のスキルにあんな使い方があったとは…
安藤様だけでも逃がそうという考えだったとは思いもしませんでした。ですが、音宮様を捕まえてその後すぐに捕まえればいいだけの事。」
「ハハ…なにを言ってるんだ、お前。俺は別に安藤だけを逃がそうとしていた訳じゃない。邪魔だったんだよ。この中に居られると巻き添えになってしまうから…」
突如、音宮とフェルトを囲むように木が檻のように重なる。
「これでやっと本気が出せる。お前は強そうだから加減は無しだ。最大火力をくらえ。」
大して動けずとも出来る武器がある。
これは門番相手にも使ったがあの時は近くに安藤がいたので威力を抑えていた。
それでも門番は気を失い、耳を塞いでいなかった住民たちは倒れ込んでいる。
今、音宮とフェルトは安藤の作った木の檻と、魔導士部隊の『雷電の檻』の2つの檻に囲まれている。
音宮からしてみればこの状況は絶好のチャンスになりえる。
「なにをーー」
ーーーーーーーーーー!!!!!!
いわゆる指パッチンの動作をしたその瞬間、音が爆発したかのように響き渡る。
その音は魔導士部隊にまで襲い掛かり、頭痛や眩暈を引き起こし魔力の維持が出来なくなり『雷電の檻』が解除される。
そんな中、音宮から事前に耳を塞ぐように言われていた安藤だけがなんとか耐えていた。
どっちが勝ったの?
木の檻を解除する。
安藤の目に映ったものは、倒れ込んでいる音宮と、それを見下ろしているフェルトの姿だった。
0
お気に入りに追加
612
あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。




備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる