異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうなので早めに逃げ出す事にします

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カルチア森林

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 フェルトの言葉を聞いて、音宮は迷っていた。
 自分ではなく、安藤の事について。
 彼女の事を考えるなら王国に預けた方がいい。
 彼女がいなくとも俺は食料問題を解決すればいいだけだし、そこまで困らないだろう。
 彼女は戦闘能力がないし、現に今も俺たちの戦いについて行けず、木に体を隠しながら震えている。
 目の前で人が戦っているのを見ていられないのだろう。
 音宮は安藤の元へとゆっくり歩み寄っていく。
 フェルトも追撃する気はないようで、安藤の出す答えを待っている様子だ。

「…安藤さん。帰るなら今のうちだ。
 俺はこの国に従う気はない…必ず逃げ切ってみせるし、邪魔をするなら誰であろうと蹴散らす覚悟だ。でも、君はそうじゃない。
 そもそも、安藤さんの性格上、戦う事に向いていない。
 俺もあいつと戦っていて分かったが、この世界では弱い部類の人間だ。
 身体能力が全く追いついていない。
 今はスキルがバレていないからどうにかなっているけど、それも時間の問題だ。
 そんな状況で安藤さんを護りながら逃げ切るなんて事は出来ないと思う。
 それを理解したうえで俺と行くか、それとも王都に帰るか。
 今すぐに決断した方がいい。奴らもそう待ってはくれない。
 どっちつかずじゃいられないよ。」

 彼女は決められないだろうな
 数時間だけの仲だが、音宮はそう思っていた
 だが、意外にも彼女の決断は早かった

「王都には戻りたくない…私も変わりたいから…何にも出来ない自分はもう嫌だから…だからお願い…私が変われるその日まででいいから、私の事を護って。絶対に迷惑だけはかけないから…見捨ててもいいから…音宮君が私の事を要らないって思うまでは傍に居させて。」

 初めて聴いた彼女の本音
 今までは思っていても口に出す事はしなかった

 身長差から自然と上目遣いで、目には薄っすらと涙が浮かんでいる。
 不甲斐ない自分を思い出して悔し涙を流している。
 それだけ、本気だという事が伝わって来る。
 その思いを無下にするほど、音宮の人間性は腐っていない。

「聞こえてただろ?戻りたくないってさ。」

「出来る限り穏便に済ませたかったのですが…残念です。」

「だったら今からでも俺たちの事見逃せよ。
 そしたら喜んでお前らの目の前から消えてやる。
 お前らは俺たちを見つけることが出来ませんでしたって言えばそれで終わりだ。
 俺のスキルで追跡を無効化されたとか言えばいいだろう。
 これですべてが穏便に解決する。」

「それは騎士団としての誇りに反します。
 それに、私たちにばかりリスクがあってなんのメリットも存在しないではないですか。そんな条件、飲めませんよ。」

「穏便に済ませたいっていうから提案してやっただけだろ。」

 音宮は安藤になにやらボソッと耳打ちするとフェルトの元へと歩き出す。
 なにかを聞いた安藤は少し驚いた顔をした後、なにかを決意した目をして音宮とは反対方向へと走り去っていく。

「安藤様を逃がしましたか。
 ですが、この『雷電の檻』の中にいる限り、逃げ切る事は出来ませんよ。
 音宮様を倒した後に安藤様を捉えればそれで終わりです。」

 フェルトが攻撃を仕掛けてくる。

「ナイフの切れ味は証明済みだ。
 一発でも当たればお前の負けだぞ。」

「ええ、先ほどの切れ味を見るに鎧など紙切れ同然に切り裂かれてしまうでしょう。当たってしまえば掠り傷では済まないでしょうね。ですがーー」

 フェルトの拳が音宮の肉体を捉える。

「貴方自身の腕前が足りない。その程度の攻撃を躱せずに騎士団長を名乗ることなど出来る筈もない。どんなに切れ味がよかろtうと、当たらなければ意味がない。」

 次から次へとフェルトの攻撃が体にダメージを与えてくる。
 一撃一撃が重い。
 ダメージに耐えきれず持っていたナイフを地に落としてしまう。

「これで何も怖くなくなった。私のスキル『連撃《コンボ》』の能力は連続して当てた攻撃の威力を増加していくものです。長引けば不利になるのは音宮様の方ですよ。いい加減諦めて下さい。もう、体中ボロボロだ。そんな体でこれ以上戦えば命を失いますよ。我々と一緒に国へ戻りましょう。さあ。」

 フェルトが音宮に向けて手を差し伸べる。
 たしかに、フェルトの言葉通りもう、戦えそうにもない。
 だが、音宮の目はまだ諦めていない。
 なにかを待っているよう見える。

「お前…安藤のスキルの事知ってるって言ってたよな。どこまで知ってるんだ?」

「スキル名は『開花』花を咲かせる程度の能力で私が知っている中でも最弱に等しいスキルということですかね。それがなにか?」

「いや、良かったよ。お前らがあいつの事を警戒してなくて。お前は安藤を後を追うべきだったんだ。満身創痍の俺の相手をするよりもな。」

「先ほども言いましたが、彼女が逃げたところで何の影響もありません。安藤様のスキルは戦闘には一切役に立たない。この場において脅威になりえないのです。」

「決めつけは良くないぞ。ほら、そろそろ時間だ。」

「ーーな!!」

 雷電の檻の一部分に木が生える。何本もの巨木が。
 発生源は安藤桜。彼女は木をトンネルのように張り巡らせ、檻の中から脱出しようとしていた。
 雷電の檻に触れた木が雷を受け、燃え始めるが、中にいる安藤に届くまでには至らに。徐々に燃え始めて来た時には既に遅く、安藤は脱出に成功していた。

「はぁ…はぁ…音宮くん!出たよ!」

 安藤が檻の外から音宮に向かって叫ぶ。

「まさか…安藤様のスキルにあんな使い方があったとは…
 安藤様だけでも逃がそうという考えだったとは思いもしませんでした。ですが、音宮様を捕まえてその後すぐに捕まえればいいだけの事。」

「ハハ…なにを言ってるんだ、お前。俺は別に安藤だけを逃がそうとしていた訳じゃない。邪魔だったんだよ。この中に居られると巻き添えになってしまうから…」

 突如、音宮とフェルトを囲むように木が檻のように重なる。

「これでやっと本気が出せる。お前は強そうだから加減は無しだ。最大火力をくらえ。」

 大して動けずとも出来る武器がある。
 これは門番相手にも使ったがあの時は近くに安藤がいたので威力を抑えていた。
 それでも門番は気を失い、耳を塞いでいなかった住民たちは倒れ込んでいる。
 今、音宮とフェルトは安藤の作った木の檻と、魔導士部隊の『雷電の檻』の2つの檻に囲まれている。
 音宮からしてみればこの状況は絶好のチャンスになりえる。

「なにをーー」

 ーーーーーーーーーー!!!!!!

 いわゆる指パッチンの動作をしたその瞬間、音が爆発したかのように響き渡る。
 その音は魔導士部隊にまで襲い掛かり、頭痛や眩暈を引き起こし魔力の維持が出来なくなり『雷電の檻』が解除される。
 そんな中、音宮から事前に耳を塞ぐように言われていた安藤だけがなんとか耐えていた。

 どっちが勝ったの?

 木の檻を解除する。
 安藤の目に映ったものは、倒れ込んでいる音宮と、それを見下ろしているフェルトの姿だった。
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