異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうなので早めに逃げ出す事にします

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カルチア森林

寝床

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  2人が暫く歩いていると、洞窟が見えてきた。

 そこまで大きい洞窟ではないが、2人が入るには十分な大きさだろう。
 スキルを使い、洞窟内を調べてみる。
 至って普通の洞窟だ。洞窟内に何かが住んでいた形跡もない…
 ここなら寝れそうだ。

「うん。ここなら大丈夫。特に何かが住んでいる気配もない。」

「よかった~。今日は眠れないのかと思ってたよ。 」

 ぐぅぅぅ~

「あっ…これは…違っ…」

 獣のうめき声の様な音がなり音の方角に顔を向けてみると安藤がお腹を押さえて頬を赤く染めていた。

 ああ…お腹が空いているんだな。
 それもそうか。
 今日一日、俺もろくに食事を取っていない。
 安藤は王宮にいたが、晩飯前に出てきてしまったんだろうな。

「ちょっとだけ出て行くから少し待ってて」

 音宮が洞窟内から少しの間席を外し、木の枝や乾燥した落ち葉を大量に集めて戻ってきた。

「何してるの?」

「火を起こそうかと思って。
 動物っていうのは火を怖がるものだし、この中も少し寒いしね。それに味の保障は出来ないけど肉も焼けるから食事できるよ。
 少しは食べないと体力が無くなっちゃうからね。こんな世界で飢え死になんてしたくないし。」

 ナイフで枝をいい感じに切って板のような形の木と枝を用意した。以前テレビで見た事があるだけだが、きりもみ式火起こしと呼ばれる方法で枝を回転させて火を着けるものだ。しかし、素人がやってそう簡単に火がつくものでもない。

 火が点かないまま暫く同じ動作をしているとふふっと笑い声がした。

「あっ!ごめんね。馬鹿にしてる訳じゃなくて…音宮くんでも出来ないことあるんだなぁって思っちゃって。」

「そんなのいくらでもあるよ。俺だって人間だし。安藤さんから見て俺ってどう見えてるの?」

「学校での音宮くんは、なんでも出来て優しい完璧な人って感じだったなぁ
 だからこうして出来ないことあるってわかったのがちょっと嬉しいんだ。
 少しだけだけど、距離が縮まった気がして。」

 安藤は微笑みながら音宮の方を向いていた。
 その笑顔に音宮は目を奪われてしまった。
 肩よりも少し下まで伸びている綺麗な黒髪にメイクなどは一切した事はないのだろう。
 素朴で少し子供っぽさが残る幼い顔立ち。
 自分で言ってて照れたのか、恥ずかしくなり直ぐに赤く染まっていった頬。

 自分と違って、人付き合いは下手くそで何事にも不器用な安藤。
 だが、何事にも一生懸命で自信がない割に一生懸命やろうとする意思はある。
 おそらく、この一面を周りの人達に見せる機会があれば、彼女にも友人が出来るだろう。
 それもかけがいのない、心から話し合える親友が…
 対して、人付き合いが上手く器用で何事も卒なくこなす音宮。
 だがその分、何かに熱中する事もなく適当に事を片付けてしまう。
 一見、友人が多く見えるが学校外で会う人間はいない。ましてや音宮自身は友人とすら思っていないのだ。心を許すなど言語道断だと思っている。

 安藤を見ていると、どうにもイライラしてしまう。
 なにやってるんだ。もう少し器用にこなせないのか。そんな事も出来ないのか。
 と自分が出来る事を全く出来ない彼女に対して。
 他の人にはそんな事思わないのに…
 今までなら、適当にあしらって二度と関わらないようにしていた。
 だが、彼女は妙に気になってしまう。
 その原因もなんとなくわかってはいるのだが…

 たぶん俺は彼女の事を羨ましく思っていたんだ。
 不器用ながらも、心から思った事を口に出せる彼女に。
 ああ…俺にもそういう生き方が出来ればどんなに…

「音宮くん?どうしたの?」

 いけない。ついボーっとしてしまった。

「ううん。なんでもないよ。」

 カチカチと石を再度擦り合わせる。

「あっ、点いた!」

「よかった。これでご飯が食べられる。」

 先程倒したオオカミの肉を調理する。
 調理と言っても塩をかけて焼くだけなのだが。
 味気ない事はわかっているが、王都で必需品を買い揃えてはいたが、他の調味料まで見つける事が出来なかった。
 現在持ち合わせているのは、バッグ・塩・ナイフ・地図・布切れくらいだ。
 安藤の方はなにも持っていないので、次の村でそれなりに買い揃える必要があるが、金が足りるかどうか…所詮は盗んできたものだ。大して金は持っていない…
 はぁ…働くしかないのか

 肉が焼ける。そろそろ食べ頃だろう。
 一口食べてみる。…まあ、塩だけなのだ。こんなものだろう。
 決して美味しくはないし、生臭さも残っているが食べれない訳ではない味だ。

「どう?美味しい?」

 安藤が期待した様な目でこちらを見てくる。
 止めろ。そんな目で見るな。本当の事が言い辛くなる。かと言って美味しといえば嘘になる。俺はバレる嘘はつかない主義だ。

「…まあ、癖のある味かな。
 食べれない事はないよ。」

 そう言い、肉を安藤に渡す。
 安藤も意を決したように一口かじった。

「…本当だ。音宮くんの言う通りだね…」

 美味しくはない。だが、そう贅沢を言ってられる状況でもない事は理解出来ているのだろう。2人とも肉は残さず食べ切った。

 食事を終えた音宮は、安藤からクラスメイトのスキルなどを聞いていた。
 リーダー格のスキル名しかわからないようだが、なにも知らないよりマシだ。
 名前から能力をある程度は予測できる。
 もし、奴らとこの世界で出会う事があればそれは敵同士の立場を意味するだろう。
 そうなった場合の対策として情報は武器になる。
 一通り話し合えた頃には外はもう完全に日が落ちていた。

 先程の戦闘で噛まれた傷口が痛む。
 正直、傷自体は動けるしどうでもいいのだが、問題は菌だ。
 現代でも狂犬病など恐ろしい病にかかる事がある。
 本音を言えばあの場で身を削るような真似はしたくなかったのだが、そうしなければ命を失う可能性があった。
 今のところはなんともないが、どうなるかは不明だ。
 治療方法を知っている訳でもないし、今はとりあえず寝るしかない。
 出来る限り早く街について誰かに診て貰うのが一番か…

 布切れを床に敷き、少し距離を置いて音宮と安藤は眠りについた。
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