異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうなので早めに逃げ出す事にします

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始まり

出逢い

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「うわ~凄い!」

 外の世界を見回し安藤が声を上げて驚いてる。
 王都の外に広がっていたのは、広大な平原や荒野。
 遠くには森なんかも見え、まるでゲームの中に入ったかの様な世界に感動していた。

 安藤は音宮と行動する様になって…いや、この世界に来てから少しずつではあるが変わっていた。
 今までは、誰にも自分から声をかける事も出来ずに俯いているだけの生活だったが、音宮に声をかけたあの瞬間から少しずつ心を開く様になっていた。
 安藤は、子供の頃に勇気を出して話しかけた相手に無視されたり、後で陰口を言わたりした事を知ったのが原因で自分から人と話す事が出来なくなっていた。
 しかし、音宮は安藤の言葉をしっかり受け止め、普通に会話をしてくれた上に、こうして今も一緒に行動してくれている。
 安藤が知っている音宮は、クラスでも有名な生徒だった。
 勉強も運動もそつなくこなしているし、人当たりも良く、優しいという評判を良く聞く。
 女子の噂話が聞こえて来た事があったが、音宮の事を好きだと言っている女子も少なくなかった。

 やっぱり音宮くんは優しいな…
 あの頃から変わってない。

 高校1年生の時に、安藤と音宮は出会っていた。
 あれは安藤が図書委員に抜擢されてしまい、断れず作業を押し付けられた日の事だ。
 図書委員に自分から立候補する人は少ない。
 ましてや、後片付けなんて誰もしたがらないので断れない安藤はいつもこの作業を押し付けられてしまう。
 もうこれも半年続いているので慣れてしまった。
 時間はかかるが、一人でもできない事はないので大丈夫だ。
 今日も帰りは20時くらいになっちゃうな。
 一人で片付けをしていると、不意につまづいてしまい、本棚の本が落ちてしまった。

 あーあ、22時過ぎちゃうかな。
 お母さんにメールしておかないと。

 そんな事を考えながら、落ちた本を片付けているとふと声をかけられる。

「安藤さん、大丈夫?手伝うよ。」

 それが音宮だった。
 実は音宮も別クラスの図書委員だったのだ。

「ええっと…大丈夫…です。
 私の仕事なので…」

「いつもこれ一人でしてたの?
 大変だったでしょう。
 終わるまで手伝うよ。」

「…あっ…」

 安藤は断ったが音宮には聞こえていなかったのか、話を無視して手伝っていた。
 断ろうと思ったが、声などかけれる筈もなく無言の空間が出来上がってしまった。

 ああ…またやっちゃった。
 音宮くんもこんなの嫌だろうな。
 また私、嫌われちゃったな。
 その内帰っちゃうだろうな。

 今までも優しい人が手伝いに来てくれた事はあった。でも、私が話せない事が原因で空気が悪くなり、途中で適当な理由を作って帰ってしまう人しかいなかった。

 私が悪いんだ…気も効かないし、面白い話の一つもできない私が…

 音宮くんもそのうち帰るだろう。
 そう思って作業を進めていたが、そのまま2時間が経過していた。
 片付けも、もう殆ど終わっている。
 音宮が最後の一つを本棚に直した。

「疲れたね。外ももう暗いし。
 これ毎日やってたなんて凄いね。
 明日からも手伝うよ。大変そうだし。」

 そう言い残し、音宮は図書室を出て行ってしまった。時計は18時半を刻んでいた。

 久しぶりに早く終わったな。
 明日も来てくれるのかな…なんて。
 社交辞令に決まってるよね。
 でも、本当に来てくれたら…

 そしてその後も1年生が終わるまで、音宮と安藤は2人で作業を行なっていた。
 その度に安藤は声をかけようと思っていたが、結局一度も会話が行われた事はなかった。
 しかし、そんな空間を安藤は気に入っていたのだった。

 一方、音宮がなぜ安藤の手伝いをしたのかと言えば、ただ目に入ったから…それだけだ。
 音宮は学校では基本的に良い人に見られる様に行動する。
 そこに相手が誰だとかそんな事は関係ない。良くも悪くも相手を選ばない。
 そして音宮は一度してしまった約束は破らない。本当は断って欲しかった。
「友達が手伝ってくれるから大丈夫」とでも言ってくれれば嘘だとわかっていても行かなくて良かったのに…
 約束を破るという行為はデメリットが大きい。
 噂というのは恐ろしいもので、一度広がればそれを止める術はない。
 良い様に見られるには継続が必要だが、悪い様に見られるのは一瞬だ。
 だから決して気を抜いてはいけない。
 音宮響は校内では決して隙を見せないのだ。
 彼が無言の空間に耐えれるのは当たり前である。
 会話をしなくて良いのなら、彼も別に話したくはないのだから。
 なんなら、あの空間を居心地がいいと思っていたのは音宮も一緒である。

 音宮はこの出来事を覚えていない。
 図書委員の女子という認識しかしていなかった為、あれが安藤桜だとは思いもしていないのだ。

 音宮は、王都の外に広がる世界を見て感動している安藤を見ていた。

 コイツなに感動してんだ。
 何もない平原しかないじゃないか。
 お気楽に眺めてる暇があったらさっさと出発したほうがいいに決まってんだろうが。
 やっぱり、連れて来たのは間違いだったか…
 よし決めた。次の町で捨てよう。
 顔はそこそこいいんだ。どっかの変態貴族に捕まってよろしくやるだろう。
 死ぬよりマシだ。よかったな。

 音宮は安藤を見捨てる決意を固めていた。
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