異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうなので早めに逃げ出す事にします

sou

文字の大きさ
上 下
6 / 60
始まり

出逢い

しおりを挟む
「うわ~凄い!」

 外の世界を見回し安藤が声を上げて驚いてる。
 王都の外に広がっていたのは、広大な平原や荒野。
 遠くには森なんかも見え、まるでゲームの中に入ったかの様な世界に感動していた。

 安藤は音宮と行動する様になって…いや、この世界に来てから少しずつではあるが変わっていた。
 今までは、誰にも自分から声をかける事も出来ずに俯いているだけの生活だったが、音宮に声をかけたあの瞬間から少しずつ心を開く様になっていた。
 安藤は、子供の頃に勇気を出して話しかけた相手に無視されたり、後で陰口を言わたりした事を知ったのが原因で自分から人と話す事が出来なくなっていた。
 しかし、音宮は安藤の言葉をしっかり受け止め、普通に会話をしてくれた上に、こうして今も一緒に行動してくれている。
 安藤が知っている音宮は、クラスでも有名な生徒だった。
 勉強も運動もそつなくこなしているし、人当たりも良く、優しいという評判を良く聞く。
 女子の噂話が聞こえて来た事があったが、音宮の事を好きだと言っている女子も少なくなかった。

 やっぱり音宮くんは優しいな…
 あの頃から変わってない。

 高校1年生の時に、安藤と音宮は出会っていた。
 あれは安藤が図書委員に抜擢されてしまい、断れず作業を押し付けられた日の事だ。
 図書委員に自分から立候補する人は少ない。
 ましてや、後片付けなんて誰もしたがらないので断れない安藤はいつもこの作業を押し付けられてしまう。
 もうこれも半年続いているので慣れてしまった。
 時間はかかるが、一人でもできない事はないので大丈夫だ。
 今日も帰りは20時くらいになっちゃうな。
 一人で片付けをしていると、不意につまづいてしまい、本棚の本が落ちてしまった。

 あーあ、22時過ぎちゃうかな。
 お母さんにメールしておかないと。

 そんな事を考えながら、落ちた本を片付けているとふと声をかけられる。

「安藤さん、大丈夫?手伝うよ。」

 それが音宮だった。
 実は音宮も別クラスの図書委員だったのだ。

「ええっと…大丈夫…です。
 私の仕事なので…」

「いつもこれ一人でしてたの?
 大変だったでしょう。
 終わるまで手伝うよ。」

「…あっ…」

 安藤は断ったが音宮には聞こえていなかったのか、話を無視して手伝っていた。
 断ろうと思ったが、声などかけれる筈もなく無言の空間が出来上がってしまった。

 ああ…またやっちゃった。
 音宮くんもこんなの嫌だろうな。
 また私、嫌われちゃったな。
 その内帰っちゃうだろうな。

 今までも優しい人が手伝いに来てくれた事はあった。でも、私が話せない事が原因で空気が悪くなり、途中で適当な理由を作って帰ってしまう人しかいなかった。

 私が悪いんだ…気も効かないし、面白い話の一つもできない私が…

 音宮くんもそのうち帰るだろう。
 そう思って作業を進めていたが、そのまま2時間が経過していた。
 片付けも、もう殆ど終わっている。
 音宮が最後の一つを本棚に直した。

「疲れたね。外ももう暗いし。
 これ毎日やってたなんて凄いね。
 明日からも手伝うよ。大変そうだし。」

 そう言い残し、音宮は図書室を出て行ってしまった。時計は18時半を刻んでいた。

 久しぶりに早く終わったな。
 明日も来てくれるのかな…なんて。
 社交辞令に決まってるよね。
 でも、本当に来てくれたら…

 そしてその後も1年生が終わるまで、音宮と安藤は2人で作業を行なっていた。
 その度に安藤は声をかけようと思っていたが、結局一度も会話が行われた事はなかった。
 しかし、そんな空間を安藤は気に入っていたのだった。

 一方、音宮がなぜ安藤の手伝いをしたのかと言えば、ただ目に入ったから…それだけだ。
 音宮は学校では基本的に良い人に見られる様に行動する。
 そこに相手が誰だとかそんな事は関係ない。良くも悪くも相手を選ばない。
 そして音宮は一度してしまった約束は破らない。本当は断って欲しかった。
「友達が手伝ってくれるから大丈夫」とでも言ってくれれば嘘だとわかっていても行かなくて良かったのに…
 約束を破るという行為はデメリットが大きい。
 噂というのは恐ろしいもので、一度広がればそれを止める術はない。
 良い様に見られるには継続が必要だが、悪い様に見られるのは一瞬だ。
 だから決して気を抜いてはいけない。
 音宮響は校内では決して隙を見せないのだ。
 彼が無言の空間に耐えれるのは当たり前である。
 会話をしなくて良いのなら、彼も別に話したくはないのだから。
 なんなら、あの空間を居心地がいいと思っていたのは音宮も一緒である。

 音宮はこの出来事を覚えていない。
 図書委員の女子という認識しかしていなかった為、あれが安藤桜だとは思いもしていないのだ。

 音宮は、王都の外に広がる世界を見て感動している安藤を見ていた。

 コイツなに感動してんだ。
 何もない平原しかないじゃないか。
 お気楽に眺めてる暇があったらさっさと出発したほうがいいに決まってんだろうが。
 やっぱり、連れて来たのは間違いだったか…
 よし決めた。次の町で捨てよう。
 顔はそこそこいいんだ。どっかの変態貴族に捕まってよろしくやるだろう。
 死ぬよりマシだ。よかったな。

 音宮は安藤を見捨てる決意を固めていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

処理中です...