上 下
1 / 60
始まり

プロローグ

しおりを挟む
 蕪木高等学校3年1組

 ごく普通のどこにでもありふれた学校だ。
 クラスは男女合わせて40人。
 この日も3年1組は朝礼の時間まで各々自由に時間を潰してた。
 友人と話すものもいれば、読書したりスマホを触ったりしているもの、ギリギリに登校してくるものもいた。
 そして、最後の生徒が登校してクラスメイトが全員教室に揃ったその瞬間、眩い光に包まれていった。

「なに!なにが起きてるの」「怖い!」
「みんな落ち着いて!」

 ガヤガヤとクラス中の生徒が騒いでいる間に、光はより一層輝きを増しクラス全員が包み込まれてしまった。
 光が収まった頃、教室には誰一人いなくなっていた。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 蕪木高等学校3年1組の生徒たちが目を覚ますと、ゲームなどでよく見る兵士の様な姿をした人々に囲まれている。
 その背後にいる金の冠を被った、これまた見た事があるような王様が話しかけてくる。

「諸君らは勇者に選ばれた。その力でこの国を救ってはくれないだろうか?」

 そんな王の発言に皆戸惑っていると、一人の生徒が声を上げる。

「なに言ってるの?意味わかんない!ここは何処なの?早く帰してよ!」

 ギャルの様な見た目をしているが、人望があり成績もよいリーダー的存在、『久野永遠《ひさのとわ》』の発言に、数名のクラスメイトがそうだそうだと騒ぎ出す。

「おいおい、いちいち騒ぐなよ。なあ、おっさん。痛い目見たくなきゃ詳しく説明しな。楽しければ俺はなんでもいいぜえ。」

 筋骨隆々の巨体にいかつい顔立ち。普段はあまり学校に来ないが偶然出席していた学校一の不良、『鬼頭拳一《おにがしらけんいち》。』

「あんたみたいな屑にとってはどうでもいいかも知れないけど、私たちはこんな所にいる場合じゃないの。人を殴るしか脳のない猿は黙ってて。」

「口先だけの雌豚が、こんな世界だ。法律なんてもんは存在しねえ。今から襲ってやってもいいんだぞ。クラスメイト全員の前でなぁ!」

 2人が睨み合っているなか、クスクスという笑い声が響く。

「誰よ!こんな時に笑ってるのは!」

「いや~だってさあ。君たちこの状況も理解できないの?異世界転移ってやつだよ。
 僕たちは今からこの世界を救う勇者になるんだ!やった…異世界は本当にあったんだ!これで…僕も…」

 オタクで有名な男子生徒、『蛇川順平《へびかわじゅんぺい》』。

「何言ってるの?気持ち悪い…」

「気持ち悪いとはなんだ!見てろよ…おい!王様!今からスキルとかを調べるんだろ?早く教えてくれ!」

「あ…ああ、勇者諸君よ。「ステータス」と唱えれば皆のスキルがわかる筈だ。」

「なんでそんなことしなきゃいけないのよ!帰してって言ってるでしょ!」

「まあまあ、落ち着いて。今は言われた通りにしよう。それに、この国が本当に困ってて、助ける力が僕たちに有るのだとしたら助けるべきだよ。」

「光輝…わかったわよ…」

 しぶしぶといった感じで久野は引き下がる。
 クラス一のイケメンであり文武両道、その上性格もよく女子生徒から人気のある『天野光輝《あまのこうき》』の発言により、クラスメイトは落ち着きを取り戻す。
 皆が「ステータス」と唱え、自身のスキルを確認している中、一人だけ周囲にいる兵士の様子を伺っている者がいた。

 兵士たちは何故俺たちを包囲するように構えているんだ。俺たちを逃さないようにしているようにしか見えない…が、あまり警戒はされていないみたいだ。
 勇者として歓迎しているなら包囲などせず、堂々と構えていればいい。
 考えすぎかも知れないが、そもそも勇者として国を救うなんてのも面倒だ。

 ステータスと呟くとクラスメイト同様に自身のスキルが浮かび上がる。

 音宮響《おとみやひびき》 スキル『音響《サウンド》』
 スキルが出てくると同時に自然と使い方を理解した。

 名前の通り音を響かせる能力か…意外と使えるな。
 このスキルがあれば、ここから逃げ出せるかも知れない。
 今なら兵士たちの警戒心も薄い。やるしかないか。

 国王が国の状況や俺たちに与えられた能力について説明している最中、音宮はひっそりとスキルを発動させた。

「何事だ!…これは、耳が…皆!急いで耳を塞げ!」

「うう…頭が割れそう…」

 兵士の声に従い、クラスメイト達は全員耳を塞ぎ始める。
 音宮は王の声を利用し、声の響きを増幅させ爆音とすることで自身から周りの目を遠ざけた。
 当然、スキルの使用者である自分には効かない。

 今なら、兵士たちは見ていない。逃げ出すか

 音宮が部屋を出ていくと同時に音が鳴りやむ。

「鳴りやんだか…今のは一体何だったんだ…まあ良い。場内を探り原因を調べよ。」

「「「「はっ!!」」」」

 兵士は返事を返すと同時に数人を残し部屋から出て行った。

「勇者の諸君。ここまでの説明は理解出来ただろうか。では改めて、勇者達よ…この国を救ってくれ…えっ!一人足りない?一体どこに?」

 国王が勇者達に話している最中の残った兵士から告げられた事実に驚愕する。

 1人…2人…3人と人数を数えていく。

 39人…確かに一人足りない。
 40人召喚した筈だ!一体どこに?
 …最初からいなかったのか?
 馬鹿な!そんな訳はない。
 というか、なんでいなくなった?
 先程の説明でなにか気に入らなかったのか?
 訳がわからない。
 王の頭の中は混乱していた。
 過去にこの様な事例は一度としてなかったのだから。

 ◇◇◇◇◇◇◇

 一方、音宮は既に王宮を抜け出し街中を歩き回っていた。
 音宮は学年トップクラスで頭が良く、抜かりない性格をしている。
 スキルをエコーロケーションのように使い、王宮の情報をいち早く感じ取った音宮は適当な服と兵士の物と思われる布袋から金を少々奪い取っていた。
 勝手に連れて来られたんだ。
 このくらいしてもバチは当たらないだろう。

 王宮から逃げ出したのは、なにもこの国が気に入らないとかそんな理由ではない。
 ただ単純に、面倒事に巻き込まれるのが目に見えてわかったからだ。

 クラスは全員で40人もいるんだ。
 自分一人が抜けてもまだ39人もいる。
 それなのに俺がわざわざ世界を救うなんて事をやる必要はない。
 俺は面倒事には一切関わらない主義で今まで生きてきた。
 運動も勉強もそれなりに出来る方だ。
 だが、あまりに出来すぎると委員会やら応援団やらを頼まれる事になるのでどちらもほどほどの成績で留める様に努力してきた。

 クラスメイトにも特別な感情を抱く事はなく、特に友達と呼べる人物もいない。
 だから奴らがどうなろうと構いやしない。
 なんなら、俺の為にその身を賭して精々頑張ってくれとしか思っていない。
 あいつらの内一人でもいいから魔王やらなんかを倒したらどうせ元の世界に帰れるのだ。
 要は誰かが倒すまで生きていればいいだけの話。
 それなら俺は適当な場所で程々の生活を送って帰還を待つだけだ。

 音宮は地図を探して街を徘徊していた。
 地図さえあれば、大まかな位置を把握でき、拠点を探すのも随分と楽になるからだ。

 エコーロケーションで探せない事もないが、広すぎる範囲は疲れるし国全体となれば調べることも出来ないだろう。
 さあて、これからどこに向かおうか。

 この物語は、音宮響が面倒事を避ける為に世界中から逃げ回る物語。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです

狼蝶
恋愛
 転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?  学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...