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第二章 商業大国オスヴィン

武器

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「おいおい、手応えねえなぁ。もっと楽しませろよ!」

 このキューブ、思ったよりも厄介だ。転移で外から物体を飛ばすことが出来ない。
 予測だが、外部からの力を受け付けないように出来ているのだろう。
 俺が転移出来るのはこのキューブ内のみ。その上、仙術もまともに使えない。
 キューブ内に転移したところで3秒のインターバルがある限り、ファングの攻撃を避けきる事は不可能。唯一の救いは、ファングが奪ったスキルを2つ以上使う事が出来ないという点だ。同時に使えるならとっくに俺は殺されている。
 今は『奇術』を使っているから他のスキルを使われる心配はない。
 だが、それもいつまで持つか…

 防戦一方だ。そもそも、ファングが剣を持っているのに対し、音宮は武器を持っていない。仙術が使えているのであれば肉体強化されている為、その程度の武器はどうとでもなるのだが、この空間内においてそれ程の仙術を発揮することが出来ていない。
 感知しなければスピードに反応出来ない、かといって肉体強化をやめれば一撃が致命傷となる。結局音宮は、仙術を感知と肉体強化の半々に使うことでかろうじて延命をしている状況だった。このままではじり貧だ。そんな時ーー

「なんだ?」

 キューブの周りをモンスターが取り囲んでいる。四方八方を塞ぎ、どうにかして中に入ろうと齧ったり、体当たりをしているがキューブが解ける様子は一ミリもない。
 だがーー

「これはこれは…やっと見つけたと思えば、一体どういう状況なのやら。」

 モンスターが道を開け、姿を現したのはリムガルドだ。

「今お楽しみ中だ。邪魔すんじゃねえよ。」

「そうもいきません。私も彼には様があります。殺すのは構いませんがその後にして下さい。」

「嫌だね。俺は命令される事が大っ嫌いなんだよ。こいつの次はお前だ。」

「野蛮なお方だ。貴方の事は知っていますよ。ファング・グリードさん。盗賊と言えば商人の敵ですからね。個人的な恨みはありませんが、商人を代表して今、この場で殺して差し上げてもいいのですが。」

「はっ!やってみるか?」

 ファングが手を叩くと、一瞬にしてリムガルドがキューブの中へと現れる。

「あのモンスター共はどうせお前が操ってたんだろ。挑発されたからってわざわざ外に出るかよ。戦いってのは自分のフィールドに誘い込むのが基本だ。さあ、やり合おうか…なんなら、二対一でも俺は構わないぜ。」

 あの男の戦い方を見ていたが、あれは人を操るタイプの人間だ。
 本人もある程度は戦闘経験がありそうだが、俺やファングよりは下だろう。
 わざわざ姿を現してまで挑発したんだ。なにか秘策があるんだろうが…一体なにをするつもりだ。

 リムガルドが音宮の方へとゆっくり歩いて来る。
 戦う気があるようには見えない。一体なんだ?

「音宮奏。手を貸しなさい。」

「………はっ⁉お前なに言ってんだ」

「ファングにこのようなスキルがあるというデータは私が調べた限り存在しませんでした。予想外です。私のスキルは指示に従う人間がいて初めて真価を発揮するものです。あなた一人ではどうせ倒せないのでしょう。だとしたら、手を組むのは当然ではないでしょうか?」

「お前…まさか、なんの手段も考えないまま俺たちの前に姿を現したのか?奴の事を知っているなら『剥奪』のスキルも知っているだろう。警戒して身を隠すのが当然だ。お前は馬鹿なのか。」

「失礼な。秘策ならあります。だが、こんなところで使うべきものではない。それに私は貴方を救出するためにこの場に立っているのです。貴方には今後やってもらいたい事がある。前払いとしてこれを貸しましょう。どうにかしてこの場を切り抜けて下さい。それが出来たら合格です。」

 上から目線で物を言われると腹が立つ。がしかし、リムガルドは俺が断れない状況になるのを分かってこの場に来ているのだろう。そういう所もむかつくのだが。

 リムガルドから渡されたのは1本の小さな針だった。

「貴方はこのような武器がお好みでしょう。苦痛の魔針・ホーネッツ、魔導具です。麻痺、睡眠、神経、魔力を込めることで所有者が望むあらゆる毒へと変換させることが出来ます。ただ、この魔導具には欠点があり欠陥品とされてきました。
 1つ目は圧倒的なリーチの短さ。戦いにおいて間合いは重要な意味をなす。故に暗殺以外では使えない。
 2つ目は一度ミスしたら二度と使えないという点です。暗殺はバレてしまっては意味がない。故に、正面から戦闘する羽目になるのですが、そうなった場合はリーチが短すぎる。そこで投擲を試みたものがいたのですが、外してしまえば二度と使えないという事に気付き断念。その日以降、この魔導具が欠陥品とわかり所有者が現れませんでした。しかし、貴方ならそのような事はないでしょう。なんど外しても転移で手元に戻せるのですから。」

 たしかに、こういう暗殺向きの道具は俺に向いている。
 思わぬところでいい物を貰ったが、準備が良すぎるな。
 この手の男が対価もなしにこんなことをするはずもない。そうとう面倒な事を頼んでくるはずだ。それは避けたいところだが…

 目に映るのは退屈そうにあくびをしながらこちらの出方を待つファングの姿。

「まだか~。待ってやってんだから楽しませろよな。」

 逃げ切れない以上は仕方ないか…どうしてこうなってしまったんだか。
 クロエのことなんてとっとと見捨てておけば良かったのだろうか…
 はあ…ついてない。


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