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第二章 商業大国オスヴィン
アンリーヌVSリムガルド
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リムガルドが胸元から指輪を取り出し右手の中指に着けた。
あの指輪は…魔導具だな。なにやら嫌な魔力を感じる。奴の身なりからして、それなりに金を持っている人間だろう。おそらく、貴族か商人だ。魔道具は高価なものだが、まったく流通していない訳ではない。そもそも魔導具とは、普通の武具や装飾品に魔力が宿ったものだ。遺跡などに長年眠っている天然の魔導具もあれば、優秀な鍛冶職人に依頼し、モンスターや人間のスキルを組み込んだ武具を製作する事も可能である。職人に依頼する場合は、素材集めや技術料も込みで莫大な資金がかかる。
リムガルドは商人としてもそれなりに成功しており、金持ちの部類に数えられる。彼は蛇川たちを討伐した際、彼らの能力を魔導具に組み込めないかと考え専属の職人に依頼し魔導具の開発に成功した。本来、人間のスキルが加わった武具を作る際は所有者が魔力を長時間注ぎ続ける必要がある。失敗のリスクも高く、失敗すると死んでしまう危険性もある方法だ。しかし、蛇川は死んでいた。通常であればこの状況で蛇川のスキルを武具に宿す事は出来ない。だが、リムガルドはその方法を思いついていた。魔獣の力を持った武具を作る際はその魔獣を素材として作れば完成する。ならば、魔獣ではなく蛇川の死体を材料に武具を作れば理論上は蛇川のスキルを持った魔導具が出来上がる筈だ。もちろん、非人道的行為であることは理解していた。だが、相手は勇者だ。個人的な恨みはないが、この世界の嫌われ者。リムガルドに蛇川を魔導具に変えることに対する抵抗は一切なかった。そうして、指輪の魔導具が完成した。
「支配の指輪・ウンセギラ。この魔導具の能力は使用する際に多くの魔力を消費してしまうのが難点です。なので普段は外しているのですよ。」
アンリーヌが身構えるが何も起こらない。なぜだ。なにか仕掛けてくるのではないのか?
アンリーヌがリムガルドの一挙手一投足に警戒していると、何やら遠くから足音が聞こえる。
これは、森にいる魔獣たちの足音。全員がこっちに向かって来ている?
「ドリエ!魔獣たちがこっちに向かってきてる。危険だから避難させるんだ!」
「さっきから気付いてやってるよ~。だけど、全然言うこと聞いてくれない…何かに操られてるみたい。」
ドリエは脇谷と戦いながらも森に住む魔獣たちへと近寄らないよう警告していた。ドリエの種族である木妖精《ドライアド》は、森の生物たちと会話する事が出来る能力を持つ、『同化』のスキルを使い大地と同化しながらも呼びかけを行っていたが、突如としてなにかに操られたかのように、一斉にドリエたちが居る方へと魔獣が駆け出して来てしまったのだ。脇谷の停止を直接くらわないように、距離を置き身を隠しながら戦っているが、このままでは決着がつかない。その事は2人ともわかっていた。
「アンリまだ~。正直、こっちもそろそろきついんだけど。この人別に強くないけどやりづらいよ~。2人がかりじゃないと倒せないってば。」
「わかってる、少し待っていろ。どんな能力を持っていようと、使わせなければそれまでだ。」
矢に魔力を集中し解き放つ。
矢は複数に分裂し、リムガルドを追尾するように軌道を変えながら追ってくる。
「追尾する矢ですか…厄介ですね。だけど、それを使うのが少し遅かった。」
矢がリムガルドに当たると思ったその時、リムガルドの周りからモンスターが飛び出し、その身を盾に護った。
「この指輪の効果は一定範囲にいる人間以外の生物を一時的に支配下に出来る能力です。元の所有者は人間でさえコントロールしていたのでそれに比べれば劣化はしていますが、これでも十分強力なスキルです。なんせ、私のスキルと相性がいい。『組織運営』で操る為には対象者の承諾が必要になります。その上、決まった行動しかとらせることが出来ないので奥の手としてしか使えませんでしたがこの指輪のおかげでその弱点もなくなりました。」
リムガルドはスキル『組織運営』発動する。
「そうですね。目標は貴方の捕縛、ミッションは一度も攻撃を受けないと言ったところでどうでしょう。」
「ナメるなよ。この程度のモンスターに遅れをとるとでも思ったか。」
アンリーヌが幾千にも分散する矢を放つモンスター達を迎撃し続ける。しかしーー
「お見事としか言いようがありませんが、流石にこの数相手では厳しいでしょう。その上、モンスター達を必要以上に怪我させないよう手加減していますね。共に森で生きる者達に情が湧いてしまいましたか。その優しさが命取りですよ。」
ふと足元に違和感を感じ下を見るとそこには百足型のモンスターが巻き付いていた。
「こんなもの…」
引き離そうとするが全く離れる様子がない。
なんだ…このモンスターにここまでの力はないはずだ。このモンスター…魔力が増幅している。
「その百足は貴方の攻撃を一度も受ける事なく捕縛する事に成功しました。ミッシュン成功です。ミッシュンを成功させた者には難易度に見合った報酬が与えられます。今回はシンプルに魔力強化といったところですか。…ところでその一体に気を取られていて良いのですか?モンスターはまだまだいますよ。」
百足に気を取られ、攻撃の手を緩めていた隙にモンスターの大群がアンリーヌを捕らえようと接近していた。
「しまっーー」
大群に吞み込まれ、次に姿を現した時にはアンリーヌは意識を失っていた。
「捕縛完了です。皆さんお疲れさまでした。」
あの指輪は…魔導具だな。なにやら嫌な魔力を感じる。奴の身なりからして、それなりに金を持っている人間だろう。おそらく、貴族か商人だ。魔道具は高価なものだが、まったく流通していない訳ではない。そもそも魔導具とは、普通の武具や装飾品に魔力が宿ったものだ。遺跡などに長年眠っている天然の魔導具もあれば、優秀な鍛冶職人に依頼し、モンスターや人間のスキルを組み込んだ武具を製作する事も可能である。職人に依頼する場合は、素材集めや技術料も込みで莫大な資金がかかる。
リムガルドは商人としてもそれなりに成功しており、金持ちの部類に数えられる。彼は蛇川たちを討伐した際、彼らの能力を魔導具に組み込めないかと考え専属の職人に依頼し魔導具の開発に成功した。本来、人間のスキルが加わった武具を作る際は所有者が魔力を長時間注ぎ続ける必要がある。失敗のリスクも高く、失敗すると死んでしまう危険性もある方法だ。しかし、蛇川は死んでいた。通常であればこの状況で蛇川のスキルを武具に宿す事は出来ない。だが、リムガルドはその方法を思いついていた。魔獣の力を持った武具を作る際はその魔獣を素材として作れば完成する。ならば、魔獣ではなく蛇川の死体を材料に武具を作れば理論上は蛇川のスキルを持った魔導具が出来上がる筈だ。もちろん、非人道的行為であることは理解していた。だが、相手は勇者だ。個人的な恨みはないが、この世界の嫌われ者。リムガルドに蛇川を魔導具に変えることに対する抵抗は一切なかった。そうして、指輪の魔導具が完成した。
「支配の指輪・ウンセギラ。この魔導具の能力は使用する際に多くの魔力を消費してしまうのが難点です。なので普段は外しているのですよ。」
アンリーヌが身構えるが何も起こらない。なぜだ。なにか仕掛けてくるのではないのか?
アンリーヌがリムガルドの一挙手一投足に警戒していると、何やら遠くから足音が聞こえる。
これは、森にいる魔獣たちの足音。全員がこっちに向かって来ている?
「ドリエ!魔獣たちがこっちに向かってきてる。危険だから避難させるんだ!」
「さっきから気付いてやってるよ~。だけど、全然言うこと聞いてくれない…何かに操られてるみたい。」
ドリエは脇谷と戦いながらも森に住む魔獣たちへと近寄らないよう警告していた。ドリエの種族である木妖精《ドライアド》は、森の生物たちと会話する事が出来る能力を持つ、『同化』のスキルを使い大地と同化しながらも呼びかけを行っていたが、突如としてなにかに操られたかのように、一斉にドリエたちが居る方へと魔獣が駆け出して来てしまったのだ。脇谷の停止を直接くらわないように、距離を置き身を隠しながら戦っているが、このままでは決着がつかない。その事は2人ともわかっていた。
「アンリまだ~。正直、こっちもそろそろきついんだけど。この人別に強くないけどやりづらいよ~。2人がかりじゃないと倒せないってば。」
「わかってる、少し待っていろ。どんな能力を持っていようと、使わせなければそれまでだ。」
矢に魔力を集中し解き放つ。
矢は複数に分裂し、リムガルドを追尾するように軌道を変えながら追ってくる。
「追尾する矢ですか…厄介ですね。だけど、それを使うのが少し遅かった。」
矢がリムガルドに当たると思ったその時、リムガルドの周りからモンスターが飛び出し、その身を盾に護った。
「この指輪の効果は一定範囲にいる人間以外の生物を一時的に支配下に出来る能力です。元の所有者は人間でさえコントロールしていたのでそれに比べれば劣化はしていますが、これでも十分強力なスキルです。なんせ、私のスキルと相性がいい。『組織運営』で操る為には対象者の承諾が必要になります。その上、決まった行動しかとらせることが出来ないので奥の手としてしか使えませんでしたがこの指輪のおかげでその弱点もなくなりました。」
リムガルドはスキル『組織運営』発動する。
「そうですね。目標は貴方の捕縛、ミッションは一度も攻撃を受けないと言ったところでどうでしょう。」
「ナメるなよ。この程度のモンスターに遅れをとるとでも思ったか。」
アンリーヌが幾千にも分散する矢を放つモンスター達を迎撃し続ける。しかしーー
「お見事としか言いようがありませんが、流石にこの数相手では厳しいでしょう。その上、モンスター達を必要以上に怪我させないよう手加減していますね。共に森で生きる者達に情が湧いてしまいましたか。その優しさが命取りですよ。」
ふと足元に違和感を感じ下を見るとそこには百足型のモンスターが巻き付いていた。
「こんなもの…」
引き離そうとするが全く離れる様子がない。
なんだ…このモンスターにここまでの力はないはずだ。このモンスター…魔力が増幅している。
「その百足は貴方の攻撃を一度も受ける事なく捕縛する事に成功しました。ミッシュン成功です。ミッシュンを成功させた者には難易度に見合った報酬が与えられます。今回はシンプルに魔力強化といったところですか。…ところでその一体に気を取られていて良いのですか?モンスターはまだまだいますよ。」
百足に気を取られ、攻撃の手を緩めていた隙にモンスターの大群がアンリーヌを捕らえようと接近していた。
「しまっーー」
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