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第二章 商業大国オスヴィン

アンリーヌVSリムガルド①

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「警戒しておいて正解でした。ずっと考えていたんですよ。彼はどうやって私の『真実』の効力から逃れたのかと…質問に対して曖昧でどっち付かずの返事をして逃れていたとは…私のミスです。ですが、そう何回も騙されると思わないで下さい。今回は見破りましたよ。」

「本当に違うんです!あいつとは知り合いだけど、でも仲間とかじゃなくて…え~と、ほら!勇者って知りませんか?俺たち2人ともそれに選ばれてたんですよ。音宮はこっちに来てからすぐいなくなったのに何故か今、此処にいるし…兎に角、俺もなにが起きてるかわかんないんですよ!」

「貴方と彼の関係は後で詳しく話して貰います。今、彼女たちに何を言っても無駄です。私でさえも貴方を疑わざるを得ない状況です。これが音宮の策だとしたら私たちは上手く嵌められてしまったということでしょうね。」

リムガルドは目の前にいる敵を分析する。

数は3人…人数的にも不利な上に今、私が連れてきているのは脇谷のみ。アーロイドとマリアーネが居たらこの場を乗り切ることは容易いでしょうが私と脇谷は本来サポートがメインの能力。クロエの捕縛を目的としていたので脇谷を連れてきましたが、戦闘においては及第点といったところ。音宮が近くにいるかもしれない状況で手の内は明かしたくない…仕方がない、ここは一先ず退くか。

リムガルドがこの場を収めようとしたその時、足元に矢が突き刺さる。

「動くな。お前たちは今、信頼を失っている状況だ。仮に音宮の仲間ではないのだとしたら我々が彼を捕縛するまでその場でじっとしていろ。それが私たちに出来る最大限の譲歩だ。」

アンリーヌが矢を構え、こちらを牽制している。

悪くはない条件だ。この場にいるだけで音宮を捕らえてきてくれる可能性があるのだから。戦闘能力だけでみるなら彼女たちの方が音宮より上だろう。だが、音宮は他人を欺くことに長けている。逃げられてしまう可能性は十分にある。仮に彼女たちが逃がしてしまえば我々はただ足止めをくらっただけ。その上、そう簡単に開放する事もないだろう。それでは任務失敗に繋がってしまう。

「脇谷、彼女たちを迎撃し音宮を追います。スキルを使いなさい。もうコントロールは出来ますね。」

「ハイ!かしこまりました。」

「交渉決裂だな…仕方ない。シルは音宮の後を追ってくれ。ドリエと私は彼らを倒した後すぐに追いつく。」

「気を付けてね。」

シルフィーユが音宮が消えた方向へと飛び去って行く。

「人数の利を捨てて良かったのですか?まさか、そこまで侮られているとは…」

「別に侮っている訳ではない。彼女は戦闘要員ではないのでな。もとより戦いは私たちの得意分野だ。」

「なんで私まで…」

「ドリエ、文句を言うな。」

「仕方ないな~やっちゃうよ~。」

ドリエが木々に手を触れるとドリエの姿が消え、木が生き物のように動き出しリムガルドと脇谷を捕らえようとする。2人は辛うじて躱しているが森林の中と言うこともあり、木々の数が多すぎる。捕まるのも時間の問題だ。そう思った時、木の動きが突然止まった。

「私のスキルは『停止』。その程度の攻撃通用しません。」

脇谷がスキルでドリエの攻撃を防いだ。

「も~、なんかあの人のスキルやだ!木に入ってたら動けなくなる。」

ドリエが木の中から出てくる。

「彼のスキルの前ではあらゆる攻撃は通用しませんよ。私達も争いは好みません。この辺りで手を引いて下さりませんか?」

「馬鹿な事を…完璧な能力などない。必ずどこかに穴がある筈だ。例えば、なぜドリエは動くことができた。彼女の能力は同化。認識としては先ほどまでの彼女は木そのものだ。木の動きを止めればドリエの動きも止まるのが必然。それが出来ないと言うことは能力の条件として、目に見えないものは停止出来ないのではないか?ならば攻略法は簡単だ。見えない攻撃を放てばいい。」

この声は…あのエルフか。一体どこに…

背後から何かが迫って来る気配を感じリムガルドは回避する。すると先ほど彼が居た場所に矢が刺さっていた。

あれは…エルフの矢か。一体どこから?

「私のスキルは『無音』。能力は分かりやすく音を消すというものだ。そこまで使える能力ではないが、狩りでこれほど役に立つ能力もない。音の出ない武器だ。じわじわと命を削られる感覚を味わえ。」

何処にいるのかがわからない…これだけ草木が多い場所で一切の音が出ない事もありえない。推測だが、彼女は武器以外の音も消すことが出来る。自身の行動で出た音のすべてを消すことで気配を消している。だが、気配がわかりずらいと言うだけで見えない訳ではない。まだ未熟な脇谷には無理だが、私ならある程度は察知することが出来る。ここは協力して彼女の動きを止め、捕縛する。

「脇谷、エルフの動きを止めます。私に合わせなさい。…聞いているのですか?脇谷!」

リムガルドが呼びかけるが、脇谷は一向に振り返らない。なにが起きているのか理解できていない様子だ。呼びかけ続けていると漸く脇谷がこちらを向いた。

なにかを叫んでいる?なんだ?聞こえない…聞こえないだと。

「私は自身から発される音を消していた訳ではない。初めから貴様に聞こえる音を消していたのだ。なにも聞こえない世界はどうだ。」

アンリーヌの矢がリムガルドの肩に刺さる。

「辛うじて急所は避けたか…だが、その矢には痺れ薬が塗ってある。貴様はもう戦えまい。…まあ、この言葉も聞こえていないか…」

「いえいえ、そんな事はありませんよ。私に聞こえる音を消していたんですね。判断が遅れてしまいました。聴力が使えないというのは思ったよりも厄介なものですね。しかし、私も商人の端くれ。読唇術は使えます。なので会話は出来ますよ。」

「ほう…だが、貴様が不利な事には変わりないだろう。向こうの男もスキルは強力だが本人の実力が伴っていない。ドリエと睨み合いを行うのが精一杯だろう。貴様を助ける余裕などない。こちらが終わり次第、私が加勢したらそれまでだ。」

「まったく、貴方の言う通りですよ。勇者のスキルだよりなところにはつくづく呆れます。私とて不利な事は理解していますが金銭を頂いている以上、任務を失敗するわけにはいかないでね。少し、本気を出させて頂きます。」
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