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第二章 商業大国オスヴィン

物思いに耽る

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コルケーマを旅立ってから3日、音宮は道に迷っていた。

リスランダで旅をしていた時は地図を持っていたので道に迷う事はなかったのだが、オスヴィンの地図は未だに入手できていない。それもその筈、今まではクロエが案内してくれていたのだ。道案内出来る人がいるのであればわざわざお金を払ってまで地図を買う人間はいない。その為、今まで地図を買っていなかったが3カ月以上旅をしていなかったせいか、音宮はそのことをすっかり忘れて出発していたのだ。

もう、ずっとこの森の中にいる気がするな…仙術のお陰で感知能力はあるから動物は見つけることが出来るし、食料には困らないが、流石にきつい。人並みの生活を送っていたせいだ。この程度、安藤と一緒に居た頃に比べたらどうって事ない筈なのに……そういえば、安藤のやつどうしてるんだろうな。

音宮は1人、同じ森をぐるぐると彷徨いながら、過去に自分が見捨てた仲間の事を思い出す。とは言っても忠告はしたのでどうなっていようが自己責任だとは思っているが…

◇◇◇◇◇◇
首都、オスヴィンにある商人街

「わあ~、凄く賑わってますね。見たことないものがいっぱいある。」

店先に並ぶ商品の数々を、目を輝かせる少女・安藤桜。

「こら、買い物に来たわけじゃないでしょ。そういうのは後にして頂戴。」

「すみません。でも、今から会う予定の人ってどんな方なんですか?」

「う~ん。まあ、簡単に言えば嫌な爺ってとこ。そいつが目的っていうよりかは、そいつが持ってる情報が狙いよ。さあ、着いたわ。」

ビビアンの視線を追うと、とても大きいな屋敷がそこにはあった。

こんなの日本で見たことない…お城みたい。

「此方はブロワス様のお屋敷です。部外者は直ちに引き返して下さい。」

「ビビアン・グレモアナが会いに来たと伝えなさい。彼ならわかるはずよ。」

「ですが…」

「その必要はない。」

「あら、盗み聞きでもしていたのかしら?」

「なあに、貴様がこの街に到着した事は既に私の耳に入っていた。商人にとって情報は命。お前の行動など読めない訳がなかろう。」

ブロワス・アロイーズが此方に向かって歩いてくる。様々な金色の装飾品を身に纏った姿はゲームでしかみた事ない悪役の姿そのものだった。

「だったら要件はわかっているわよね。」

「立ち話は好かん。上がるといい。」

ブロワスの案内で屋敷の中に入ると、外見と同等かそれ以上に金一色で埋め尽くされていた。

「悪趣味ね。」

「この国において、金は命よりも大事な物だ。部屋を金で飾るのは力の誇示でもあるのだよ。誰だって強者には逆らわないだろう。」

そのまま部屋まで案内してもらい、ソファへと腰掛ける。

「要件とは音宮奏とかいう奴の事だな?」

「ええそうよ。彼の情報が欲しいの。貴方なら知っているでしょう。」

「知っているとも。だが私は商人だ。なにを行うにしても対価が発生する。この国のルールを知らないわけではあるまい。」

「はぁ…だからこの国は嫌いなのよ。」

ビビアンは金貨を3枚取り出すとブロワスの元へと投げつける。

「随分と野生的だな。だが、これでは教えることは出来ん。」

「はぁ…これじゃあ足りないっていうわけね…一体なにがお望みなのかしら。」

「金で買いたいなら金貨20枚と言ったところかな。私しか知らない情報という点とこの情報の希少性を考えた結果だ。払えんのなら横の女を売ってもいいぞ。ちょうどそのくらいの年齢の娘が欲しいという客がいるんだ。」

「笑えない冗談はやめなさい。…それに、貴方が思っているよりこの子は強いわよ。」

「ほう、戦闘能力まで備わっているとは、ますます買い手が付きそうだが…今回は辞めておこう。今は貴様に構っている暇などないのでな。こちらからの条件は、ある獣人を探して私の元へと連れて来ること。その獣人と交換で音宮奏の情報はくれてやる。」

「…それだけ?その程度なら貴方の私兵で十分なんじゃないかしら。」

「既にこちらから送っているが、逃亡された後だった。それに、奴は強い。そこら辺の輩ではいくら魔導具を持たせよと敵う相手ではない。」

「へえ…久しぶりに腕が鳴るわね。いいわ、引き受けてあげる。」

「交渉成立だな。獣人の情報はおってこちらから伝令をだす。街の宿屋にでも泊まっていろ。」

「わかったわ。」

ビビアンと安藤はブロワスの屋敷を後にする。

「さっきの人ってビビアンさんの知り合いですか?」

「会うのは初めてだけど、名前なら知っていたわ。商業大国であるオスヴィンの中でも一番の金持ちと言われているブロワス・アロイーズ。国王は別にいるけど、実質この国を牛耳っているのは彼よ。彼自身が強い訳ではないのだけれど、彼の兵力が厄介でね。金に物を言わせて、魔導具を根こそぎ集めてるって話を聞いたことがあるわ。」

「ビビアンさんって魔導具を警戒してますけど、そんなに凄いんですか?」

「凄いというよりも、相手にスキルがもう一つ増えるイメージよ。急にスキルが増えたら厄介でしょう。それに、弱い人でも何の修行もせずに力を使えるようになる魔導具が嫌いなのよ。そんなものに頼るくらいだったら、自分のスキルを一から見つめ直せばいいのに…」

ビビアン自身、恵まれたスキルではなかった。それでも必死に努力して手に入れる事が出来た力を、一瞬で手に入れてしまう。そんな魔導具の事をビビアンは好きにはなれなかった。
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