上 下
46 / 68
リスランダからの脱出

幕引き

しおりを挟む
ーー此処は…なぜ俺はこんなところにいる?
あの女は何処だ…いた。近くに男も居るな。

「おい、小僧!あの男が音宮か。」

「え…ああ!奏!俺だよ!真琴だ!
寧々嶋真琴。ほら、同じクラスだっただろ!
お前今までなにしてたんだよ。
みんな心配してたんだぜ~。」

「あの男って奏の知り合いだったの?」

「まあ、知ってると言えば知ってるけど…
はあ…ったくこんなところでクラスメイトの会うとか面倒くさい事しやがったな。」

音宮の逃走プランはクラスメイトに見つかる事なく進むのが大前提だった。
そうしなければ、自分だけが逃げて楽をしようとした事がバレてしまう。
それは避けなければならない。
なぜなら、音宮は世間体を人一倍気にする人間だからだ。

少し離れたところで寧々島が大きく手を振っている。
状況を理解できていないのだろう。

「仙術の修行は?もう終わったの?」

「俺が入ってからどのくらい時間が過ぎてるんだ?
途方もない時間、霧の中を歩いたらお前が危なかったんで急いで転移してきた。
だから、修行が終わったかなんてさっぱりわからない。」

「そんなパターン初めて聞いたわよ。
相手は魔導具まで持ち出してきてる。
仙術なしで勝てるような相手じゃないわ。」

「そんなこと言われても知るかよ。お前、仙術使えるんだろ?
あいつ何とか出来ないのか?」

「さっき魔力を使いすぎたから無理。それに奏の修行の邪魔にならないよう、この辺りに結界張っちゃっててそれにも魔力使っちゃってる。」

肝心な時に使えない奴だな…やっと出られたと思ったらいきなりピンチだな。
さて…どうするか。

「おい!何してんだよ!一緒に帰ろうぜ。」

寧々島が手を振りながら距離を詰めてくる。
こいつは本当にアホだな。
何も知らない人生も気楽で良さそうだ。

「悪いけど、王国には戻れないよ。
そうだな…向こうの男性に俺を追わないよう説得し得てくれるなら考えない事もないけど…」

「お前、何言ってんだよ。まあ…そんくらい良いけど。」

ギルの名を叫びながら説得に向かう寧々島。

「よし、今の内だ。あいつは扱いやすい馬鹿だ。
ろくに頭も使わず、他人に言われたことを実行に移す。
あの兵士の足止めを頼んでいるからこの隙に逃げるぞ。」

「ーーダメよ!そんなの全く意味ないわ。今すぐ引き返すよう言って!」

「何言ってるんだ?仮にも勇者だぞ。そんな簡単にやられるわけないだろう。
少しくらい時間を稼いでくれるはずだ。」

「そういう事じゃない。彼らがなぜあの子を連れてきたか考えてたけど、やっと意味が分かったわ。王国は、あの子を殺すつもりよ!」

この女はいきなり何を言い出すんだ。
いくら王国とは言え、勇者がいなければ魔王の討伐が出来ないじゃないか……まさか…感じていた違和感の正体がわかった気がする。だとすると……寧々島!

慌てて、寧々島をこちらへ呼び戻そうと思ったが振り返った音宮の目に映ったのはギルの腕が寧々島の体を貫通している姿だった。

「な……んで……」

「…まったく、邪魔してんじゃねえよ。お前の任務はこいつらを見つかる事だけだ。
それさえ済めば用済み。後は仲間の指揮を上げるため、魔王軍に殺された哀れな勇者として名を残してくれ。」

倒れ込んだ寧々島が音宮の方を向きながら手を伸ばす。
しかし、その手が届くことはなく寧々島は何も分からないまま死んでいった。

「どうした?目の前で友達が死んでいく姿は思ったよりもショックだったか?」

ギルが音宮へと近寄り、頭をぺちぺちと叩いて来る。

「…別に友達だった訳ではないが、会話くらいはしたことがある。
お調子者なところがあるが、基本的には良い奴だったよ。
…はは…ショックねえ……確かにそう言われればそうかもな。
ショックだよ……クラスメイトが死んでも全く心が痛まない自分に。」

ーーしまった!不用意に近づき過ぎた…

音宮が掌を腹部に押し付ける。
ーーこれは…クロエと同じ掌底か!

掌から霊力が浸透し、ギルの体内を破壊する。

クソが!クロエのは掠っただけだったが、今のは急所に貰った。
肉体へのダメージが深刻だ。

「汚ねえ手段使いやがるぜ。まさか、悲しんでるふりして、俺をわざと自分の方へと近寄らせるとはな。それになにが仙術使えねえだよ。クロエと同じこと出来てんじゃねえか。」

「霧の中からクロエを見つけれた時点で俺はなんらかの感知スキルを得たことは理解していた。ただ、それが仙術かどうかがわからなかっただけだ。決して嘘はついていない。」

「へ!お友達はどうなんだよ。
目の前で死んだんだぜ。なんか思う事あるだろ。」

「別に…確かに最初は驚いたが、よくよく考えたらお前ら側についてる方が悪いからな。そんな事よりも、確認したいことがある…これは大事な事だ。絶対に答えてもらうぞ。……この世界に魔王軍は本当に存在するのか…過去、元の世界に帰った人物は存在するのか?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!

udonlevel2
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。 皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。 この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。 召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。 確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!? 「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」 気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。 ★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします! ★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

処理中です...