異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

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リスランダからの脱出

ベンガンザ

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「武器がねえと戦えないとでも思ったか。」

剣を砕かれたギルだが、一切臆することなく拳での戦闘へと切り替える。
ギルの野性的な喧嘩闘法に対して、クロエの方は中国武術のような構えで迎え撃つ。

なんだ…この女の肉体は…硬え

ギルの拳が確かに当たっているのだが、まるでダメージを受けている様子はなく、逆に殴っているこちらの拳の方が傷んでいる気がする。
その上、向こうの攻撃は掠るだけでも危ない。
掌底のような攻撃をしてくるが、少しでも掠ると内部から破壊されるような鈍い痛みを感じる。
当たるだけでもこれだ。
まともにくらってしまえば最後…意識を失うだろう。

ギルはクロエと距離をとり、懐から何かを取り出し拳にガントレットのようなものを装着した。

「ーーそれは⁉︎」

「ああ…やっぱり知っていたか。
本当は音宮奏と戦う時まで取っておきたかったんだがなぁ。
お前、大したもんだよ。
王国に来たらそれなりの地位で働けるぜ。」

「それはご遠慮したいわね。
私が行ったところ捕まるのが目に見えてるし…」

「へえ…やっぱり何処かで名の通った人物だったか…
他国、もしくは反逆者ってところかねぇ。
それなら相応の対応をしなきゃ失礼ってもんだ。」

ギルの魔力に呼応するように、ガントレットから異質な黒いオーラの様ものが溢れてくる。

「こいつは俺の専用魔導具、憾みのガントレット・ベンガンザ。
こいつは過去に王国が討伐した魔人族から作られた武器だ。」

ギルが接近してくる。
スピードには変わりない。
身体能力に影響を及ぼすものではないのか…
だとすると、問題なのはあの魔導具だ。
あれに触れるのは極力避けたいけど…流石に厳しいか

回避に専念するクロエだったが、流石に接近戦をしておきながら拳を避け続けるのには無理があると判断し、距離を取ることにした。

「なんだ、逃げんのかよ!これからがいいとこじゃねえか!」

「わざわざあんたのテリトリーで戦う必要なんてないでしょう。」

クロエがスキル『収集』を発動し、大気中から魔力を集める。
本来であれば魔力が可視化する事などないが、クロエが集めた魔力は圧となり、その場にいる誰もが感じ取れるものとなっていた。

「おいおい…なんて魔力してやがるんだ…
こんな奴が相手だなんて、聞いてねえぞ。」

「貴方と長く戦っててもいい事なさそうだしね。
悪いけど、一気に決めさせてもらうわよ」

魔力が形となり、クロエの目の前に巨大な魔方陣が現れた。

「これで終わりよ。せめて安らかに眠りなさい。」

魔法陣から巨大な光の矛の様な光線が発射される。
これは、光属性の上位魔法、神聖な矛先ホリーブラントだ!

避けきれねえ……が、これを待ってたぜ。

ギルがベンガンザを突き出し、魔法を受け止める。
しかし、完全には受け止めきれず徐々に体は押され始め近くの木々をなぎ倒しながらも必死に抵抗している。
数メートル離れたところで漸く受けきったが、ギルの体はボロボロだった。

「あれを受けきったのは褒めてあげるけど、その体じゃ勝ち目ないわよ…
降参したら?」

「何言ってやがるんだ。戦いはこれからだろうがよぉ!」

ギルの叫び声に呼応するように体中から魔力が溢れてくる。

あの男は神聖な矛先ホーリブラントを確実にくらったはず。
それはこの目で確認したし間違いない…
だとすると、この魔力の上昇は一体なんだ?
戦いを始めた頃よりもさらに魔力が上がっている。
体はボロボロの筈なのに…一体どうして…

「訳がわからねえって顔だな。教えてやるよ。
俺の魔導具、ベンガンザの効果は自身が受けたダメージをそのまま魔力に変換する能力だ。俺はさっきお前の魔法をこの体で受け止めた。
つまり、今の俺はさっきの魔術で消費した魔力をすべて奪った状態ってわけだ。
まあ、生半可な持ち主じゃ先に体がもたなくなるって王宮で放置されてたんだけどな…俺にはピッタリの魔導具だ。さあ、続きをやろうぜ!」

まずい…さっきので魔力をかなり消耗してしまった。
仙術も解除してしまったし、練り直す必要がある。
ここはいったん距離をとって…

「おいおい、逃げんなよ。」

魔力を奪ったギルのスピードはクロエの想定を超えており、気付くと目の前まで接近されていた。

ーーしまった!やられる。

反射的に目を閉じてしまい、痛みを覚悟していたが、一向に襲ってこない。
ゆっくりと目を開けるとクロエの目の前には見知った男の背中が映っていた。

「とりあえずなんか危なそうだったから遠くに飛ばしといたが…何が起きてるか説明しろよ。」

「かなで!」
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