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リスランダからの脱出
門出
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蛇川を倒したリムガルドは『調教師』のスキルで支配されていた者たちを解放していた。
奴隷商から奪われたものは、店へと返却していく。
ただし、無償で働くことは決してせず、最初に金銭を払っていないものからは、きっちりと請求してから引き渡す。
その他のリムガルドから連れて来られた者や、道中で蛇川がテイムしたモンスターなどはリムガルドの屋敷で世話をする事になった。
今回の戦いで、リムガルドは兵力の重要性を再確認した。
アーロイドとマリアーネ以外にも兵はいるが、それでも数は多いにこしたことはないだろう。
国王の意識は戻ったが、王国兵や国王の無力さを実感した。
オスヴィンという国ではそもそも商人が個人的に契約している兵士がおり、そちらの方が強いので王国兵に頼ることがない。
弱い事はわかっていたが此処までとは思っていなかった。
自分の身を護れるのは自分自身しかいない。
さらに屋敷の警備を固めなければ。
「これで大体は片付きましたね。
…ところで貴方はどうされますか?」
リムガルドが床に座り込んでいる放心状態の脇谷に話しかける。
「この国で勇者と呼ばれる存在はあなた一人になりました。このまま王宮に残っていれば、それなりには優遇される事でしょう。
この国の兵士たちは弱い。
貴方でも騎士団長くらいにならなれますよ。
ただし、もっと強くなりたければ私の元へ来なさい。私の兵となり、その力を存分に振るいなさい。
ちょうど戦力が欲しくなったところです。」
リムガルドから手を差し伸べられる。
この男は蛇川くんを殺した男だ…友達の敵…
そのはずなのに、俺にはなぜだか恨めない。
分かってるんだ。どっちが悪いかくらい。
ごめん…蛇川くん…僕は、君の敵を取ろうとは思えない。
脇谷はリムガルドの手を取った。
「契約成立と言うことでよろしいですか?」
「はい、僕は今から貴方の兵となり戦います。」
「よろしい。素直な人は好きですよ。」
脇谷はリムガルドの兵となり、勇者という肩書を捨てた。
この日、オスヴィンから勇者が存在がいなくなった。
◇◇◇◇◇◇
場面は変わり、オルゲネスト山脈の麓では、音宮の後を追っていたギル・オーガイと寧々島真琴がクロエと対峙していた。
「やっと追いついた…が、肝心の音宮奏の姿が見当たらねえなぁ。
そこの獣人。一体どこに隠した。今なら見逃してやってもいいぜ。」
「そんなのいう訳ないじゃない。貴方って頭悪いでしょ。」
「隠したって無駄だ!俺の千里眼に見えないものなんてないんだからな。
待ってろよ!今見つけてやる……って、あれ?見えない?
なんで?ここに来る前までは見れたのに。」
見つからないとなると、結界かなにかでスキルを阻害されている可能性があるな…
可能性としたら…この山か。
オルゲネスト山脈は過去に見かけたこともあるが、この霧はなんだ?
依然見かけた時はこんなものなかったぞ。
「…まあ、いいか。考えるのは性に合わねえし、てめえを倒して聞き出せばわかることだ。」
「俺も加勢するぜ!」
「馬鹿か。大人しくしてろ。
勇者程度で敵う相手じゃねえよ。」
ギルが剣を抜き、クロエに向かい振り降ろす。
型などあったものではない。荒々しく、力任せの野生の剣だ。
それ故に、軌道を読むことが出来ない。
全く持ってやりづらい…
仕方ない…久しぶりだが、やるしかないわね
クロエが回避を止め、目を閉じその場で立ち尽くした。
体に力を入れている様子は見られず、完全に脱力し切っている。
ーーなにを考えてやがる…罠か…いや、考えても仕方ねえ。実際に攻撃して確かめればいいだけの事だろうが!
無防備なクロエ目掛けて、剣を振り下ろす。
ギルの剣は確実にクロエの肉体を捉えたが、驚くべき事に肉体に触れた剣の刃が砕け散ってしまった。
「は?…バカな…」
「なにをよそ見してるのよ。戦闘中よ。
私以外に気を取られちゃうなんて、やきもちしちゃうわ。」
クロエの掌底が腹部へと突き刺さる。
ーー重っ!!
掌底をくらったギルは吹き飛ぶ体をなんとか踏ん張ったが、その身に受けたダメージは大きく、吐血していた。
「てめえ、どんな体の作りしてやがるんだ。
獣人でも、ここまで固え奴は初めてだぞ。
見たところただの猫人族にしか見えねえが…一体何者だ。」
「なにって言われてもねえ。ただの獣人よ。
それに、女の子に体の事言っちゃダメよ。
女性っていうのは秘密の多い生き物なの。」
なんなんだよ、こいつら。
なんでこんなに強いんだ。
勇者である俺たちより強いじゃないか。
俺たちがこの世界に来た意味ってあるのか?
2人の戦いを見ながら、寧々島はこんなことを考えていた。
奴隷商から奪われたものは、店へと返却していく。
ただし、無償で働くことは決してせず、最初に金銭を払っていないものからは、きっちりと請求してから引き渡す。
その他のリムガルドから連れて来られた者や、道中で蛇川がテイムしたモンスターなどはリムガルドの屋敷で世話をする事になった。
今回の戦いで、リムガルドは兵力の重要性を再確認した。
アーロイドとマリアーネ以外にも兵はいるが、それでも数は多いにこしたことはないだろう。
国王の意識は戻ったが、王国兵や国王の無力さを実感した。
オスヴィンという国ではそもそも商人が個人的に契約している兵士がおり、そちらの方が強いので王国兵に頼ることがない。
弱い事はわかっていたが此処までとは思っていなかった。
自分の身を護れるのは自分自身しかいない。
さらに屋敷の警備を固めなければ。
「これで大体は片付きましたね。
…ところで貴方はどうされますか?」
リムガルドが床に座り込んでいる放心状態の脇谷に話しかける。
「この国で勇者と呼ばれる存在はあなた一人になりました。このまま王宮に残っていれば、それなりには優遇される事でしょう。
この国の兵士たちは弱い。
貴方でも騎士団長くらいにならなれますよ。
ただし、もっと強くなりたければ私の元へ来なさい。私の兵となり、その力を存分に振るいなさい。
ちょうど戦力が欲しくなったところです。」
リムガルドから手を差し伸べられる。
この男は蛇川くんを殺した男だ…友達の敵…
そのはずなのに、俺にはなぜだか恨めない。
分かってるんだ。どっちが悪いかくらい。
ごめん…蛇川くん…僕は、君の敵を取ろうとは思えない。
脇谷はリムガルドの手を取った。
「契約成立と言うことでよろしいですか?」
「はい、僕は今から貴方の兵となり戦います。」
「よろしい。素直な人は好きですよ。」
脇谷はリムガルドの兵となり、勇者という肩書を捨てた。
この日、オスヴィンから勇者が存在がいなくなった。
◇◇◇◇◇◇
場面は変わり、オルゲネスト山脈の麓では、音宮の後を追っていたギル・オーガイと寧々島真琴がクロエと対峙していた。
「やっと追いついた…が、肝心の音宮奏の姿が見当たらねえなぁ。
そこの獣人。一体どこに隠した。今なら見逃してやってもいいぜ。」
「そんなのいう訳ないじゃない。貴方って頭悪いでしょ。」
「隠したって無駄だ!俺の千里眼に見えないものなんてないんだからな。
待ってろよ!今見つけてやる……って、あれ?見えない?
なんで?ここに来る前までは見れたのに。」
見つからないとなると、結界かなにかでスキルを阻害されている可能性があるな…
可能性としたら…この山か。
オルゲネスト山脈は過去に見かけたこともあるが、この霧はなんだ?
依然見かけた時はこんなものなかったぞ。
「…まあ、いいか。考えるのは性に合わねえし、てめえを倒して聞き出せばわかることだ。」
「俺も加勢するぜ!」
「馬鹿か。大人しくしてろ。
勇者程度で敵う相手じゃねえよ。」
ギルが剣を抜き、クロエに向かい振り降ろす。
型などあったものではない。荒々しく、力任せの野生の剣だ。
それ故に、軌道を読むことが出来ない。
全く持ってやりづらい…
仕方ない…久しぶりだが、やるしかないわね
クロエが回避を止め、目を閉じその場で立ち尽くした。
体に力を入れている様子は見られず、完全に脱力し切っている。
ーーなにを考えてやがる…罠か…いや、考えても仕方ねえ。実際に攻撃して確かめればいいだけの事だろうが!
無防備なクロエ目掛けて、剣を振り下ろす。
ギルの剣は確実にクロエの肉体を捉えたが、驚くべき事に肉体に触れた剣の刃が砕け散ってしまった。
「は?…バカな…」
「なにをよそ見してるのよ。戦闘中よ。
私以外に気を取られちゃうなんて、やきもちしちゃうわ。」
クロエの掌底が腹部へと突き刺さる。
ーー重っ!!
掌底をくらったギルは吹き飛ぶ体をなんとか踏ん張ったが、その身に受けたダメージは大きく、吐血していた。
「てめえ、どんな体の作りしてやがるんだ。
獣人でも、ここまで固え奴は初めてだぞ。
見たところただの猫人族にしか見えねえが…一体何者だ。」
「なにって言われてもねえ。ただの獣人よ。
それに、女の子に体の事言っちゃダメよ。
女性っていうのは秘密の多い生き物なの。」
なんなんだよ、こいつら。
なんでこんなに強いんだ。
勇者である俺たちより強いじゃないか。
俺たちがこの世界に来た意味ってあるのか?
2人の戦いを見ながら、寧々島はこんなことを考えていた。
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