異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou

文字の大きさ
上 下
35 / 68
黒牙の盗賊団

猫人族

しおりを挟む
クロエ・ルメイラは、獣人の中でも特殊な存在だった。
獣人は他の種族の特徴を持ち合わせており、基本的には身体能力が高いが、その反面、魔力適正は低い事が多い。
クロエの種族は猫人族《ワーキャット》、俊敏な動きが得意だが、他の獣人と同じで魔力適正は低い。
だが、彼女は捨て切れなかったのだ。
魔術への憧れを…

「クロエ・ルメイラ…お前は今、弱っているのか?俺がお前の『収集』を手離せない理由がそれだ。
俺にはこのスキルが役に立つ様には思えねえが、このスキルを奪ってからお前は魔術を使わなくなった…いや、使えなくなったと言った方が正しいのか。一体どうなっている。」

「スキルの使い方は人それぞれって事でしょ。貴方みたいに奪ってばかりで他人のスキルに浮気してちゃ、見えないものだってあるのよ。」

「教える気はねえ…か。
お前、まさか俺より強えと思ってねえか。
理由はどうあれ魔術を使えなくなったお前にこの俺が倒せるかよ。」

「試してみる?」

「言われなくても」

身体能力強化のスキルを発動し、もうスピードで移動するファング。

「はあ…私って獣人のくせに魔術が凄いみたいな感じで覚えられちゃってるから、貴方みたいに忘れてる人多いのよね。」

あの女、なにを言ってやがる
無防備に立ち尽くしている
この速度なら防御しても間に合わない
死角から確実に息の根を止めてやる!

猛スピードでクロエの首元に目掛け刀を振るう。

クロエは振り返る様子もない
奴は確実に気付いていない、貰った!

あと少しで刃が当たると思った瞬間、気付けばやられていたのはファングの方だった。

なにが起きた。
あのタイミングで反撃出来る訳がねえ。

握っていた剣は刃が砕け散っており、ファング自身も体に深い傷を負っていた。

くそ!
体の内側を破壊されたみたいに痛みやがる。
内臓を数カ所やられた様だな。

コツコツと足音が近づいてくる。

「私は獣人よ。当然、身体能力も優れているわ。それなのにみんな魔術ばかり警戒するのよね。」

「そうか…そんな単純な事を忘れていたか。」

「スキルを返しなさい。
そしたら命までは取らないわ。」

「ハッ…俺は盗賊だぜ。
奪ったものを返す趣味はねえ。
取り戻したきゃ、俺を殺しな。」

「そう…残念ね。来世では良い人に生まれ変わる様に願ってるわ。」

クロエが爪を伸ばし、ファングの喉を引き裂く。

さてと…あの少年は無事だろうか。
一応、鍵を届けてくれた礼くらいはしてやるか。
そう思い、音宮の方へと歩き出した瞬間、体が何かに拘束される。

ーーこれは…動けない。

「いやあ…一か八かだった。
普段のお前になら気付かれた筈だが、俺が弱っていたからか、気を抜いたな。
俺は50以上のスキルを奪ってきた。
使えないスキルが大半だが、俺は記憶力が良い方でな。覚えてはいるんだよ。
さっきのは『分身』っていってもう一人自分を作るスキルなんだが…ここ分身動かねえんだよ。だから実質、人形だ。まさかこんなとこで使い道が出てくるとはなあ。
因みにそれは『拘束《バインド》』のスキルだ。
持って1分ってとこだが…俺には十分過ぎる時間だな。」

先程とは立場が逆になり、今度はファングがこちらへ歩み寄ってくる。

「楽しかったぜ。あばよ。」

ファングは懐からナイフを取り出し、クロエの首を刎ねたかの様に思えたーーしかし

感触がねえ、馬鹿な!
あそこから逃げられる手段を持っていたのか⁉︎

クロエのいた場所を見るが、そこには人影もない。

どこだ!どこに隠れている。

刹那、背後に気配を感じ飛んできた何かを弾き返した。

矢…弓使いだと。新しい敵か。
ーーいや、違う。これは

気付いた時には既に遅く、ファングの上空から檻が降り注いで来た。

「生きてたんだね。良かった。」

「勝手に殺すな。
お前こそ、あんなに強かったとはな。
正直、驚いた。」

クロエの拘束が解ける。
首を刎ねられる瞬間、音宮の転移によって助けられた。

「あの程度じゃ死なないよ。
トドメ刺さないと。」

「待て、俺がやる。
お前は俺がやられた時に備えておけ。」

「…貴方、どうしたの?
ハッキリ言ってこんな事する性格じゃないでしょ。
外で一度私たちの事見捨てたの聞こえてたんだからね。猫の耳なめないで。
正直、助けてくれるとも思ってなかった。
私を助けて、貴方はなにが目的?」

「大した意図はない…体力が回復するまでの間、お前らの戦いを見て、試したい事が出来た。ただ、それだけだ。
安心しろ。スキルは必ず戻してやるよ。」

「ハッキリ言って、貴方じゃ彼に勝ち目はないわ。幾ら消耗しているからって実力差がありすぎる。貴方もわかってるんでしょ。」

「ああ、わかってるさ。
俺と戦った時は、全く本気じゃなかった事も。だが、お前も勝てないだろ。俺を助ける時に放った光線。あれがスキルを盗られたお前の使える最後の魔術だった。」

「ーー貴方気付いたの?」

「わかったなら黙って見ていろ。
ぶっつけ本番は、性に合わないが今はそんな事を言ってる場合じゃない。」

檻が崩れ落ち、ファングがこちらに向かって歩いてくる。

「作戦会議は終わりか。
まったく…生きていたとはなぁ。
だが、お前はさっき『粉砕』しか使っていない俺に負けたんだぞ。
今の俺に勝てるわけがねえ。」

「話はそれだけか。
御託はいいからさっさとかかって来い。」

「クロエの体力回復が目的ってところかな。
させねえよ。直ぐに決着《けり》をつけてやる。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!

うどん五段
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。 皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。 この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。 召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。 確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!? 「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」 気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。 ★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします! ★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

処理中です...