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デルトナ村

肉屋の店主

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肉屋の店主から聞いた話によると、新鮮な肉を持ってきてくれるのであれば大体の生物なら買取可能との事だった。
状態にもよるが、オオカミ一頭で金貨1枚と交換してくれるらしい。
オークやゴブリンなんかは食べられない為、デルトナ村では換金できないとの事だ。
討伐依頼が出るようなモンスターであれば、冒険者ギルドのある街に持っていくと案金可能になる。

2人はとりあえず村付近にある森に来ていた。
この森ではそこまで危険なモンスターはいないため、村人が生活の為に動物を狩る為の狩場との事だったが、快く教えてくれた。

「向こうの方に豚?みたいな生き物が群れで歩いてる。
数は…10匹くらいかな。どうする?」

豚が1頭で銀貨5枚なので全部捕まえて金貨5枚分か…
持ち運びが面倒だが、嫌とも言ってられないか。

「出来る限りいい状態で持ち帰った方が高く買い取ってくれるみたいだから、傷はつけないようにしよう。」

音宮は弓矢を構える。
これまでの戦闘を踏まえて分かっていた事だが、『空間転移』には攻撃手段があまり存在しない。転移して直に体術で倒すことも出来なくはないが、狩りにおいて獲物に姿を見せるなど愚の骨頂でしかない。
以前から武器の所有を考えていた音宮は弓矢とナイフの購入を決意した。
金銭面の関係で矢は10本しか買えず、武器屋の店主からは別の武器を勧められた。
当たり前だ。どんな使い手でも百発百中には無理がある。弓矢などの飛び道具を使う場合は予備を準備しておくのが鉄則だ。
だが、音宮が弓矢を使えば必ず命中する。なんせどこに向けて撃とうが相手を視認さえできていれば転移させられるのだ。
狩りを行うには10本もあれば十分すぎる。
ちなみに、安藤にも弓矢を使えないか試させてみたがそもそも弓を引く腕力がなかったので当初の予定通り山菜集めをして貰っている。

最後尾から順に狙っていく。
スキルの性質上、最低でも3秒のインターバルが空いてしまう。獲物にばれてバラバラに散られてしまっても面倒だ。出来る限り慎重に、一体ずつ仕留めて行かなければ…

矢を放ち、頭部へと転移させ確実に頭を射貫いていく。1頭1頭確実に仕留める。

「音宮くん、どうかしたの?」

安藤は山菜を取り終えた後、音宮のもとへ向かうと立ち尽くし何かを見つめ思い悩んでいるように立ち尽くしていた。

「ああ…仕留めたはいいんだけどね。
これ…どうやって持って帰ろうか。」

音宮が指さした先には、豚やイノシシ、オオカミといった動物たちの死体が積み重なっていた。弓矢での狩猟が思いの外楽で上手くいったため、調子に乗って狩りすぎてしまった。
気付いた頃にはもう遅く、死体の山が出来上がっていたのだ。置いて行くにしても、金になるし腐らせるのも勿体ない。結局2人は地道に時間を掛けてすべてを運ぶことにしたのであった。狩りに行くときは台車を借りよう。そう誓った。2人の狩猟は運ぶのに時間が掛かったことを除けば、十分すぎる成果を上げていた。

今日一日で金貨15枚分稼ぐことが出来た。
これだけあれば、備品は揃えられるだろう。
同じ村に長居し過ぎると兵士に見つかる恐れもある。速く村を出るに越したことはない。
備品全てを揃えると残る金銭は金貨5枚程度。
1泊は出来るだろうが少し心許ない金額だ…さて、どうするか。

「あのね、音宮くん。ちょっと話があるんだけど、今いいかな?」

考え事をしていると珍しく安藤から声を掛けてきた。

「言おうかどうか迷ってたんだけど、一応音宮くんには話しておいた方がいいと思って…この村の人たちなんだけどなんかちょっと変じゃないかなって思ってるんだ。私って他人の目を人一倍気にしちゃう方なんだけど、なんだか村の人みんなに見られてる気がして…最初は勘違いかなぁとか旅人だからかなぁとか思ってたけど、もう何回もあっているのになんか警戒するように見られちゃってる気がして…。それにね。この村に来てから子供に一人もあってないんだ。でも、服とかは干してあるのが見えたからいない訳はないと思うんだけど、なんかおかしい気がして…勘違いだったらごめんね。ただちょっと気になっちゃって…」

「いや、ありがとう安藤さん。
たぶん、この村の人たちは俺たちが王国に追われてる事を知っているんだと思う。
だから、俺たちも疑われないよう会話は店を構えている大人たちが受け持っている。
親なら危険な人間に子供は近付けたくないから家に隠している。大人たちが見るのも監視の意味だろう。騎士団長から逃げ切ったんだ。次はそれなりの部隊で攻めてくるに決まっている。だとしたら、彼らの役目は普通の村を演じて可能な限り足止めをする事。準備は終わったしもうこの村を出よう。
向こうもこっちが出ていくと言えば危害を加えてくることはない筈だから。」

迂闊だった。
フェルトが一日で救出された時点でなにかしらの連絡手段があることは想定していたではないか。この感じだと、国土の村や街中に知れ渡っていると考えた方が良さそうだ。

「お前たち!もう行くのか?今晩くらいゆっくりしたらどうだ。」

「いえ、先を急ごうと思います。
いろいろ教えて下さりありがとうございました。やっぱりに行こうと考え直したのだ、道が全く逆になっちゃいますからね。早く出発しないと。」

「…わかったよ。王国兵たちにはそう伝えておいてやる。全く、何があったかは知らねえがそんな若いのに追われる身とは大変だな。
坊主!男なんだから嬢ちゃんは守ってやれよ。」

「…何のことを言っているのやら。人違いではないですか?」

「隠すな。お前たちが音宮奏と安藤桜で王国兵に追われている事は村中が知っている。というよりリスランダ王国の国土内全域に広まっているだろう。王国兵はな、各村に警備兵と伝令兵を必ず置くんだ。今朝伝達があった。おまえ、騎士団長から逃げ切ったんだってな。やるじゃねえか。俺はな、どんな相手だろうと人は差別しねえんだ。犯罪者であろうと客は客。客を騙すような真似は商売人としてしちゃいけねえ。それにお前が取ってきてくれた肉はかなり質が良かったからな。
情報はオマケだ。あとこれも持ってけ。干し肉だ。長旅になるんならあって困らないだろう。困ったら家に来い。肉を取って来る間だけは世話してやるよ。」

黒い肌に大柄の中年男性である肉屋の店主がニカッと笑う。

「恩に着る。気が向いたら寄らせてもらうよ。」

2人は村を後にした。

「肉屋の店主さんいい人だったね。…って音宮くん⁉どこに向かってるの?ハーベスティアに行くには山を越えないといけないんだよ。この道だと遠回りだよ。」

「予定変更する。ハーベスティアには行かない。」

「なんで?あの人も協力してくれるって言ってたし…」

「信用できない。仮に肉屋が言わなくても他の村人にバレている可能性が高い。そんなところにのこのこと出向いたら待ち伏せされるのが落ちだ。」

あんな今日会っただけの人間を簡単に信用できるか。何が商売人としてだ。信念を持って商売するやつなどごく僅かだろう。みんな金が入るから商売をするのだ。無償で何かを渡す人間はこの世で一番信用できないんだ。
だが、貰って損のないモノは貰っておく。
精々利用させて貰うよ。もう二度と会う事はないだろうからな。さてと、目的地を変えるとするならば目下の課題は金銭問題だ。
金稼ぎとなると手っ取り早いのは冒険者か商人。となると、向かう国はレゼスターかオスヴィンとなる。さて、どっちに向かうとするか。
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