上 下
18 / 68
ドニー村

味噌汁

しおりを挟む
「これは…」

「誰もいないね」

ドニー村に入った2人は村中を歩き回って見たが、人の気配がまるで無かった。
家は畑はそこら中にあり、特に荒らされている様子もない為、モンスターや盗賊に襲われた可能性は低いだろう。
一体この村でなにがあったのだろうか。

「すみません。どなたか居ませんか。」

音宮が近くの家の戸をコンコンとノックしながら呼びかけて見るが、返事はない。
それを村中の家に繰り返して見るが結局どの家からも人が出てくる事はなかった。

「どうする?」

「もう日も暮れてるし、流石に今から別の村を探すのは効率悪いしなぁ。仕方ないから適当な家を借りさせて貰おう。」

「うん。そうだね。」

今日の宿が決まった。

◇◇◇◇◇◇

トントントンとリズム良く食材を刻む音。
現在2人は料理をしていた。
他人の家の物を勝手に使うのは…とは思ったが、昨日からまともに食事を摂っていなかった事もあっていい加減ちゃんとした物が食べたかった。
2人が持っている食材といえば、森林で倒したオオカミの肉とそこら辺で採れた山菜やキノコの様な物。安藤が見つけた果実などだ。
一応、音宮が王都で見た図鑑に載っていた物だけを選んでいるので食べられる筈の物だ。

「音宮くんって料理も出来るんだね。」

「出来るって程じゃないから期待しないで欲しいけど…一応、一人暮らししてるからね。
自炊しないとお金足りなくなっちゃうから。」

「えっ!音宮くんって一人暮らしなの⁉︎
そんな話まったく聞いたことなかった…」

「そうだね。よく考えたら誰にも言って無かったかな。安藤さんが初めてだね。
…別に一人暮らしって言っても両親はいるよ。ただ、子供の頃から放任主義なところがあってね。自分に出来る事は自分でやれって感じでさ。親に学校に送って貰ったりとかした事もないな。幼稚園からバスとか電車使って言ってた。親よりも周りの大人が心配してくれて、幼稚園の先生なんかはバス停で毎日わざわざ俺が来るのを待っててくれてたな。」

「そうなんだね。だから音宮くんはなんでも出来ちゃうんだ…。私の親とは大違いかも。
両親の事は大好きだし、喧嘩とかもした事ないんだけどね…。ほら、私ってこんな性格だから何か決めたりするのが遅くって、家でもそんなんだから両親が過保護になってきて、私がする事になんでも「こうしなさい」「ああしなさい」て先に言うようになっちゃったんだ。本当はやってみたい部活とかもあったんだけど、親にもそれを言う事が出来なくって…ほんと駄目だよね…私。」

安藤のこの自己肯定感の低さは思ったよりも深刻かも知れないな。
一緒に行動している時も、俺の意見を聞いてばかりで自分の意見をあまり言っていない。
正直、この状態の方が扱い易くはあるのだが…なんというか、どうにも一緒に居ると居心地が悪い。
何かをやらせて自信を付けれると良いのだが…

「…ああ、そうだ。
安藤さんってなにか料理作れたりする?
2人いるんだから、一人ずつ作った方が効率いいし。」

「ええ!無理だよ、無理!
私、料理なんてお味噌汁くらいしか作った事ないし…それに…その…家族以外の人に食べて貰った事ないから…」

「そんなの俺だってそうだよ。大丈夫。
この家に味噌みたいなのあったから、それ使わせて貰おう。」

安藤の扱い方はもう慣れて来た。
良くも悪くもこっちが決めた事には出来ないなりに忠実に従うのだ。
ならば、出来る事をやらせて、俺が褒める。
これを繰り返す事で、安藤は徐々に自信を得る事ができるだろう。
とりあえずは味噌汁からだ。
徐々にレパートリーを増やして貰いゆくゆくは調理全般をやらせる。
このプランで行こう。

料理が出来上がった頃には、安藤の手がぼろぼろになっていた。

「大丈夫?ほら、手出して」

「……ほんとにごめんね。
やっぱり私、音宮くんの足引っ張ってばかりだ…」

音宮が少し目を離すと安藤はすぐ包丁で自分の手を切ってしまっていた。
そのせいで結局、料理が出来上がるまでにかなりの時間がかかったのだ。
音宮が作っていた、オオカミ肉と山菜の炒め物はとっくに冷めてしまっていた。

「安藤さんも…ほら、食べよう。
せっかく作った味噌汁が冷めちゃうよ。」

音宮はとりあえず最初に自身が作った炒め物を口にした。
まあ、可もなく不可もなくといったところか。いつも通り家で食べている味だ。
問題はこの味噌汁。
正直、あの包丁捌きを見ている限り、どう考えても料理は下手だ。
だとするとこの味噌汁が美味しい可能性がかなり低い。
だが、食べない訳にもいかない。
なぜなら先ほどから安藤がチラチラこちらの様子を伺っているからだ。
まあ、そうだろう。
自分が作った料理に相手がどういう反応をするにかは気になって当然だ。

音宮は覚悟を決めて味噌汁を口にした。

「…あっ…美味しい。」

それはお世辞ではなく、心の底から漏れた一言だった。

「ほんと!!」

「うん。これ美味しいよ。
濃さがちょうど良いっていうか…疲れれた体が癒されていく気がする。」

「なんか…ちょっと照れちゃうね///」

料理を食べ終わった2人は特にやる事もないので眠りにつく事にした。
結局、この日住人が帰ってくる事はなかった。

安藤は意外と、料理の才能があるのかもしれない。
今まで何かに挑戦した事がなかっただけで、やってみたら出来る事もあるのだろう。

今日は一つ発見ができた。
これで安藤が少しでも自信を持ってくれたら良いのだが…そう思いながら音宮は眠りに着いた。

◇◇◇◇◇◇◇

暗闇の中、動物が駆ける音がする。
白馬に乗った、甲冑を纏いし騎士。

「音宮奏、安藤桜、彼らがどうして…フェルトをあんな目に…この目で確かめ無ければ!」

リスランダ王国騎士団長
セルジール・スクライド
     攻撃力S+
     防御力S+
      魔力S-
     敏捷力S-
       運A
専用スキル『希望《ホープ》』
魔術スキル『光魔法《ひかりまほう》』
魔術スキル『魔力探知《まりょくたんち》』
魔術スキル『力量探査《りきりょうけんさ》』
兵士スキル『騎士長《きしちょう》の栄光《えいこう》』
兵士スキル『剣術《けんじゅつ》』
兵士スキル『盾術《たてじゅつ》』
兵士スキル『騎術《きじゅつ》』
兵士スキル『気配察知《けはいさっち》』


リスランダ王国が誇る、騎士団長セルジールがドニー村へと向かっている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!

udonlevel2
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。 皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。 この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。 召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。 確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!? 「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」 気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。 ★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします! ★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

処理中です...