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ドニー村
寝顔
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おかしい…もう4時間以上はここにいる気がする。こんなに黙っていられるものか?
とうとうこの空気に耐えられなくなった音宮が、隣に座る安藤の横顔をチラリと覗いて見る。
髪が邪魔で見えない
…顔立ちがいいんだから、もう少し髪を短くしたらいいのに…そうすれば少しは話しかけて貰える機会もあっただろうにな
安藤は恥ずかしがり屋なせいか、クラスでもよく顔を隠していてハッキリと見た事はない。俯いた姿勢でいつも本を読んでおり、顔を隠すかのように降ろされた髪。
そこから見え隠れする顔立ちは決して悪くない。不意に肩に何かが乗ったような感触があり、見てみると安藤が肩に顔を乗せてきていた。声を掛けようと思ったが、彼女の顔を見て止めた。
なるほどな。道理でなにも喋らないわけだ。
安藤は安らかな顔で眠っていた。
普段から運動をあまりしない彼女にとって、異世界での旅は予想以上に体力を使うものだった。
その上、昨日は洞窟で一晩過ごしたのだ。
年の近い異性が近くにいる状況も初めてだったことも相まって、安藤は昨日あまり眠れていなかったのだ。俯いている間に、自然と眠ってしまっていた。
あまりにも気持ちよさそうな顔で眠っていた為、音宮は起こすことを止めたのだ。
◇◇◇◇◇◇◇
あれ…私…そうだ。あのまま眠っちゃったんだ。音宮くんはもう行っちゃったかな。仕方ないよね。私…役立たずだし…
あれ?ていうか私って何に寄りかかって…
「ーーーご…ごめん!
えっ!でもなんで音宮くんがここに…」
「いや、さすがに置いてはいけないなって思って。
なんかごめんね。傷付けちゃったみたいで。」
「ううん!音宮くんが謝ることない!
悪いのは私だから…私、もう行くね。
起きるまで待っててくれてありがとう。
もう大丈夫だから。」
安藤はそう言い残し、この場を去ろうとした。
「待って!安藤さんはこれからどうするつもり?」
なにも答えられない。
わかっている。一人じゃ何も出来ない事くらい。このまま此処で音宮と分かれたら、宿に泊まることすら出来ないだろう。
知らない人に話しかける事が出来ないのだ。
ましては知らない世界の住人で、通貨に関しても詳しく知らない。
今までは音宮が傍にいたから何とかなっていたが、一人ではそうはいかない。
そんなこと安藤自身も理解している。
「………どこかに寝れるところないか探そうかなって」
「それなら、せめて宿までは一緒に探そう。
こんな小さい村じゃ何件もあるとは思えないし、2人で探した方が効率良いよ。」
「でも…やっぱり悪いよ。
私、また迷惑かけちゃうかも知れないし。」
音宮には分かっていた。
このまま放っておけば、彼女は村に入らず適当な場所で寝る羽目になるだろうと。
彼女の性格だと、結局誰とも話さずに済む野宿を選ぶだろう。その証拠に彼女は寝れるところを探すと言っていた。
普通なら、宿とか泊めてくれる家とかそういう言い方をするだろう。
良くも悪くも彼女は素直だ。あまり嘘をつけるタイプではない。
この世界はそれ程治安がいいとは思えない。
ひ弱な少女が野宿していたら野党に襲われるかも知れないし、昨日みたいにオークに襲われる可能性だってある。
俺がいくら他人への関心があまりないとはいえ、危険な目に合うと分かっていて放っておくのは少し気が引ける。
それに安藤とは少なからず、時間を共にした仲だ。多少の情というものは湧いている。
死ぬのであれば、もっと晴れ晴れとした顔で別れを遂げた後に全く自分と関係のないところで死んで欲しい。少なくとも、こんな近くで死なれたらまるで自分のせいかの様に思えてしまい、夢見が悪くなりそうだ。多少、強引だが無理やりにでも連れて行った方がいいだろう。
「別に、そんな事思ってないよ。ほら、行くよ。このままだと日が暮れちゃう。食料も買えるなら買っておきたいしね。」
音宮に手を引かれる形で安藤はドニー村へと入っていった。
とうとうこの空気に耐えられなくなった音宮が、隣に座る安藤の横顔をチラリと覗いて見る。
髪が邪魔で見えない
…顔立ちがいいんだから、もう少し髪を短くしたらいいのに…そうすれば少しは話しかけて貰える機会もあっただろうにな
安藤は恥ずかしがり屋なせいか、クラスでもよく顔を隠していてハッキリと見た事はない。俯いた姿勢でいつも本を読んでおり、顔を隠すかのように降ろされた髪。
そこから見え隠れする顔立ちは決して悪くない。不意に肩に何かが乗ったような感触があり、見てみると安藤が肩に顔を乗せてきていた。声を掛けようと思ったが、彼女の顔を見て止めた。
なるほどな。道理でなにも喋らないわけだ。
安藤は安らかな顔で眠っていた。
普段から運動をあまりしない彼女にとって、異世界での旅は予想以上に体力を使うものだった。
その上、昨日は洞窟で一晩過ごしたのだ。
年の近い異性が近くにいる状況も初めてだったことも相まって、安藤は昨日あまり眠れていなかったのだ。俯いている間に、自然と眠ってしまっていた。
あまりにも気持ちよさそうな顔で眠っていた為、音宮は起こすことを止めたのだ。
◇◇◇◇◇◇◇
あれ…私…そうだ。あのまま眠っちゃったんだ。音宮くんはもう行っちゃったかな。仕方ないよね。私…役立たずだし…
あれ?ていうか私って何に寄りかかって…
「ーーーご…ごめん!
えっ!でもなんで音宮くんがここに…」
「いや、さすがに置いてはいけないなって思って。
なんかごめんね。傷付けちゃったみたいで。」
「ううん!音宮くんが謝ることない!
悪いのは私だから…私、もう行くね。
起きるまで待っててくれてありがとう。
もう大丈夫だから。」
安藤はそう言い残し、この場を去ろうとした。
「待って!安藤さんはこれからどうするつもり?」
なにも答えられない。
わかっている。一人じゃ何も出来ない事くらい。このまま此処で音宮と分かれたら、宿に泊まることすら出来ないだろう。
知らない人に話しかける事が出来ないのだ。
ましては知らない世界の住人で、通貨に関しても詳しく知らない。
今までは音宮が傍にいたから何とかなっていたが、一人ではそうはいかない。
そんなこと安藤自身も理解している。
「………どこかに寝れるところないか探そうかなって」
「それなら、せめて宿までは一緒に探そう。
こんな小さい村じゃ何件もあるとは思えないし、2人で探した方が効率良いよ。」
「でも…やっぱり悪いよ。
私、また迷惑かけちゃうかも知れないし。」
音宮には分かっていた。
このまま放っておけば、彼女は村に入らず適当な場所で寝る羽目になるだろうと。
彼女の性格だと、結局誰とも話さずに済む野宿を選ぶだろう。その証拠に彼女は寝れるところを探すと言っていた。
普通なら、宿とか泊めてくれる家とかそういう言い方をするだろう。
良くも悪くも彼女は素直だ。あまり嘘をつけるタイプではない。
この世界はそれ程治安がいいとは思えない。
ひ弱な少女が野宿していたら野党に襲われるかも知れないし、昨日みたいにオークに襲われる可能性だってある。
俺がいくら他人への関心があまりないとはいえ、危険な目に合うと分かっていて放っておくのは少し気が引ける。
それに安藤とは少なからず、時間を共にした仲だ。多少の情というものは湧いている。
死ぬのであれば、もっと晴れ晴れとした顔で別れを遂げた後に全く自分と関係のないところで死んで欲しい。少なくとも、こんな近くで死なれたらまるで自分のせいかの様に思えてしまい、夢見が悪くなりそうだ。多少、強引だが無理やりにでも連れて行った方がいいだろう。
「別に、そんな事思ってないよ。ほら、行くよ。このままだと日が暮れちゃう。食料も買えるなら買っておきたいしね。」
音宮に手を引かれる形で安藤はドニー村へと入っていった。
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