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カルチア森林

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「そろそろご決断を。
我々と共に王国へ帰るか…それとも、反逆者としてその罪を背負って生きて行くか。」

「どっちもお断りだ。
大体、勝手に連れて来てるんだ。
元の世界に帰すくらいは選択肢に入れやがれ。」

「勇者を召喚する術はそう便利なものではないのです。我々の技術では帰すことは出来ません。」

「随分と自分勝手だな。
そんなやつに従うと思うか?」

「…勇者様方には悪いと思っています。
これ以上の会話は無意味でしょうね。
仕方ありません。反逆罪と見做し、多少強引ではありますが、捉えます。」

フェルトがこちらへと向かってくる。
流石は部隊長といったところか。かなりのスピードだ。
だが、「空間転移」の前では速度など関係ない。
見たところやつの武器は剣だけ。
接近させなければ負ける事はない。
そう思っていた。

不意にフェルトは急停止し、足をこちらに向かって振り抜いた。

…こいつ、なにして……
ーーーしまった!目が!

フェルトは砂をこちらに飛ばす事で視界を封じて来たのだ。

こいつ!ヤンキーみたいな戦い方しやがって。
騎士なら正々堂々とかいうバカみたいなプライド持ってろよ。

「我々の方がスキルに関しては熟知しています。貴方のスキルは視認しなければなにも出来ないのでしょう?勇者様のスキルにはそのような物が多いのです。ならば、視界を封じてしまえばそれまでのこと。そしてーー」

フェルトの蹴りが、音宮の腹部に突き刺さり、後方の木まで吹き飛ばされる。

「身体能力では、我々の方が圧倒的に有利です。なんせ、生きてきた環境が違う。」

これはまずいな。
まるで車にでも轢かれたみたいだ。
まあ、体も丈夫になっているようなので平気だが。

「まだやりますか?
実力差は理解したでしょう。
大人しくしていて下さい。
悪いようにはしませんので。」


「…つくづく癇に触るやつだ。
お前、さっき自分で言ってたろうが…視認さえしなければ、何も出来ないって。俺は今、お前の事を視認してるぞ。」

音宮がフェルトの上空を指差す。

ーーー油断し……えっ…

「嘘だよ、バカが。
簡単に引っかかりやがって。」

ーーーしまっーーー!!

フェルトの近くに転移してきた音宮の拳が突き刺さる。

音宮はフェルトの上空を指差したが、その時点ではなにも転移させていなかった。
しかしフェルトは指に釣られてしまい、上空を警戒した。音宮はその隙をついて、無防備なフェルトの側へと転移してその顔面に拳を打ち込んだのだ。

「なるほど…誘導でしたか。
音宮様はスキルの使い方が上手いですね。
それ程の技量があれば魔王軍とも戦えるでしょう。…仕方ありませんね。私もスキルを使わせて頂きます。御覚悟を。」

フェルトが斬りかかってくる。
音宮は冷静に、近くに倒れていた兵士の剣を手元へと転移させ、受け止める。
一合、二合、三合と斬り結ばれる。

「ほう…どうやら剣の心得をあるようですね。太刀筋が綺麗だ。ですがーー」

徐々にフェルトの一撃が重く感じていく。
これはーー

次の瞬間、音宮は確かに受け止めていた。
だが、周りの木々や大地を抉る程の一撃に、音宮の体は耐え切れず、遥か彼方へと吹き飛ばされる。

「ーーーー音宮くん!!!」

遠くに見える音宮の姿は血塗れで息も絶え絶えと言った様子だ。
安藤は慌てて駆け寄った。

「私の専用スキル『連撃《コンボ》』は連続で攻撃をする程、その威力は倍増していく。
途中で敵の攻撃を受けると意味はなくなるが…まあ、今回は関係なかった様ですね。」

フェルトが音宮は捕らえようと近づいてくる。

「…待って下さい。…今度は私が相手です。」

音宮の前に立ち塞がる安藤。
だが、その体は震えており、怖がっているのが目に見えてわかる。
目には薄ら涙まで浮かべているが、音宮を護ろうと必死なのだろう。

「安藤様はどうやら戦いがお嫌いな様だ。
無理をなさらないで下さい。
何もこれ以上危害を加えるつもりはありません。王国に着いてきて下されば、治療も出来ます。さあ、一緒に参りましょう。」

手を差し伸べるフェルト。
安藤が差し出された手を掴もうとした瞬間、何かに引っ張られる感触があった。
安藤が別の事に気を惹かれ、視線をフェルトから逸らした刹那の出来事だった。

何かがフェルトの頭上に落ちた。

なんだ、これは…袋?

気を取られていたフェルトの背後に何者かの気配がした。音宮だ。

「相変わらず隙をつくのは上手なようですが残念ですね。今は『気配察知』のスキルを使っています。間合いである半径約2m以内に接近した者の気配を見逃す事はありません。」

「気配だけか…それならよかった。」

フェルトは音宮の方へと振り返ろうとしたが体が動かない。

ーーーまさか!

「お前らの痺れ薬だよ。
せめて自分達は効かないように耐性くらい持っておけよ。だからこういう事になるんだぞ。
まあ、他の兵士たちがやられた時点でお前も耐性を持ってる可能性は低いと思ってたからな。上手くいって良かったよ。」

音宮が、フェルトの甲冑へと掌を当てる。

「確か、身体能力では自分達が上だって言ってたよな。まあ、確かにそうかも知れないが、一応俺にも武術の心得があってね。
子供の頃から色々習ってたんだ。だけど、実際に人相手に使う機会なんて向こうの世界ではなかったから丁度いいや。試させて貰う。」

足を踏み込み、拳を押し込むと甲冑は砕かれ、フェルトは吐血し地に伏せた。

「発勁って言って中国拳法の一種…まあ、俺たちの世界の技術だ。体内から破壊された様な衝撃だろ。暫くは動かない方が身の為だ。
動きたくても痺れてて動けないだろうがな。」

音宮は倒れたフェルトにそう言い放ち、安藤の方へと歩いて行く。

「あの人たち大丈夫なの?
何かに襲われたりしないかな。」

「たぶんだけど、崖上で倒した魔術師みたいな人達は痺れ薬くらってないからなんとかしてくれると思うよ。
それよりも、俺たちこそ早めに逃げないとどこにも行けなくなっちゃうからね。」

「そうだね。…でも最初は音宮くんの治療が優先だよ。いっぱい怪我しちゃってるから…」

「そうだね。ちょっとキツイかも。
暫くは転移使って行こうか。
急いだ方がいいし、歩きたくないしね。」

2人は手を繋ぎ、その場を後にした。
次の目的地は、ドニー村だ。
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