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桃華の告白を受けた次の日、湊は雪菜と会う約束をしていた。
待ち合わせ場所に湊は10分前に到着したが、雪菜は既に待っていた。
「ごめん。待った?」
「湊さん。早いですね。まだ約束の時間より前ですよ。そんなに私に会いたかったんですか?」
雪菜がそう言いながら笑う。
「そんなこと言ったら、そっちのほうが早くから居たんだから、雪菜こそ俺に会いたかったってことになるよ。」
「はい、私は会いたかったですよ。少しでも長く一緒に居たいんで。だから早く来ました。」
湊はからかわれたので反撃したつもりだったが、逆に雪菜にやられた。
昨日、桃華と会って雪菜のことが好きだと意識してしまっているのでこの状況は非常に不味い。
いつも通りに話せない。つい目線を逸らせてしまう。
雪菜はいつも通り湊と会話をしていたが今日は湊の様子が変だ。
最初のやり取りだってそうだ。いつもなら最後になにか言い返してきて私が負ける。
「俺も会いたかったよ。」くらい言い返してくると思い待ち構えていたのに少し拍子抜けした。
その後買い物や食事、映画などを一緒に行ったが湊の様子ずっと可笑しい。
一度もこちらを見てくれないし、私が近寄ると少しずつ距離を離れていく。
態度もどこか素っ気なかった。
今日は雪菜の誕生日だった。だから湊と一緒に過ごせることが本当に楽しみで昨日から待ちきれなかった。
(湊さん誕生日のこと覚えてくれてたらいいな)
なんて思いながらウキウキしながら昨日は眠った。
今までで一番楽しい誕生日になる予定だった。だが、今日はハッキリ言って全然楽しくない。そして暗い気持ちのまま夜になり、2人の今日一日の予定が終わってしまった。
湊は終始、自分の心を抑えつけるので精一杯だった。
いつも通りに振る舞えると思っていたがそうはいかなかった。
少し雪菜のことを意識しただけ、それだけで見える景色は変わっていった。
普段の何気ない仕草が愛おしく感じる。緊張して顔も見れないし、近づくといい香りがしてどうにかなってしまいそうだ。
そう思い自然と距離を置いてしまった。
結局、一度もまともに話せないまま時間は過ぎていきお別れの時間だ。
(プレゼントを渡したかったが別の日でいいか、今日は自分の身が持たない)
なんてことを考えて、別れ際ようやく雪菜のことをまともに見ることが出来た。
そして気が付いた。自分の過ちに。
一目見てわかってしまった。雪菜が寂しがっていることに。
ああ…なんて自分勝手なことをしていたんだろう。相手の気持ちを何も考えてなかった。
湊は決心した。
「じゃあ、これで帰りますね。今日はありがとうございました。楽しかったです。」
雪菜は帰ろうとする。
「ちょっと待って。その、今日はゴメン。楽しくなかったよね。」
「なんでそんなこと言うんですか…楽しかったですよ…」
「ううん。わかってる。今日の俺ちょっと素っ気なかったよね。」
「そんなことないです。」
「嘘つかなくてもいいよ。分かってるから。」
「やめてください。私が楽しかったって言ってるんだからいいじゃないですか。なんでそうやって決めつけるんですか。」
「なんでそういう時に意地張るかな。わかるよ。だって今日一緒に帰ろうって言わなかったじゃん。」
「どうしてそういうのだけちゃんと聞いてるんですか。別に意地張ってる訳じゃないです。私は会えただけで嬉しいし、楽しいです。でも本音をいうならもう少し私の事見て欲しかったなぁって思っちゃっただけです。今日はちょっとだけ特別な日だったんで…」
雪菜は涙目になっていた。
湊は恥じた。今まで散々待たせた挙句、ここまで自分を思ってくれている。そんな子に対してまた、先送りにしてその場しのぎをしようとしたそんな自分に。
「今日はね。ちょっと雪菜に言いたいことがあって。でもさ。その事を考えてると雪菜と普通に話せなくなっちゃって。変だよね。いつも通り話したらいいだけなのにそれが出来なくて。少し意識しただけでこんなにも違うものなんだって思って。
自分の事ばっかり考えて、今日は誕生日だったのにちゃんと見てなくてごめん。
今さらなんだけど、雪菜の事が好きです。笑った顔も、ちょっと小馬鹿にしたような態度も、一生懸命なところも、一途に思いを伝えてくれるところもすべてが好きです。こんな俺でよかったら付き合ってください。」
とうとう伝えた。
その瞬間、体にドンッと衝撃が走った。
下を見ると雪菜が抱き着いて来ていた。
「なんなんですか。ご機嫌取りのつもりですか。それなら嬉しくないですよ。」
「そんなんじゃないよ。」
「じゃあ、なにかのドッキリとかですか。」
「違うよ。」
「本当なんですか。私、本気にしますからね。今更嘘だって言っても遅いですよ。」
「どれだけ信用ないんだよ…」
「だって、湊さんから告白してくれるって思ってなかったから。」
雪菜は湊の胸元で泣いた。
雪菜が泣き止み、2人はベンチで話していた。
「本当に本当なんですね。私たちってもう付き合ってるってことでいいんですよね。」
「いや、まだでしょ。まだ返事貰ってないよ。」
まったくこの人は本当に狡くて意地悪だ。
他人の不幸は喜ぶし、平気で人の悪口をいう、告白は適当な返事で流すし、人の話は聞かない癖に自分の話は自慢げにする。それに今は人が恥ずかしがるとわかっていて、なんと答えるか分かったうえで返事を待っている。本当に嫌な人だ。
だけど、優しい。困っていると助けてくれて、相手の気持ちを読み取り欲しい言葉をかけてくれて、会話をしていると楽しいと思える。いい人でもある。
この人は本当に普段なにを考えているのかわからない。だけどそんな湊さんが私は好きだ。好きになったら相手がどんな人でも許してしまう。そういうものだ。
人が何を考えているかなんて誰にもわからないのだから自分が思うように信じればいい。
「こちらこそ、お願いします。」
待ち合わせ場所に湊は10分前に到着したが、雪菜は既に待っていた。
「ごめん。待った?」
「湊さん。早いですね。まだ約束の時間より前ですよ。そんなに私に会いたかったんですか?」
雪菜がそう言いながら笑う。
「そんなこと言ったら、そっちのほうが早くから居たんだから、雪菜こそ俺に会いたかったってことになるよ。」
「はい、私は会いたかったですよ。少しでも長く一緒に居たいんで。だから早く来ました。」
湊はからかわれたので反撃したつもりだったが、逆に雪菜にやられた。
昨日、桃華と会って雪菜のことが好きだと意識してしまっているのでこの状況は非常に不味い。
いつも通りに話せない。つい目線を逸らせてしまう。
雪菜はいつも通り湊と会話をしていたが今日は湊の様子が変だ。
最初のやり取りだってそうだ。いつもなら最後になにか言い返してきて私が負ける。
「俺も会いたかったよ。」くらい言い返してくると思い待ち構えていたのに少し拍子抜けした。
その後買い物や食事、映画などを一緒に行ったが湊の様子ずっと可笑しい。
一度もこちらを見てくれないし、私が近寄ると少しずつ距離を離れていく。
態度もどこか素っ気なかった。
今日は雪菜の誕生日だった。だから湊と一緒に過ごせることが本当に楽しみで昨日から待ちきれなかった。
(湊さん誕生日のこと覚えてくれてたらいいな)
なんて思いながらウキウキしながら昨日は眠った。
今までで一番楽しい誕生日になる予定だった。だが、今日はハッキリ言って全然楽しくない。そして暗い気持ちのまま夜になり、2人の今日一日の予定が終わってしまった。
湊は終始、自分の心を抑えつけるので精一杯だった。
いつも通りに振る舞えると思っていたがそうはいかなかった。
少し雪菜のことを意識しただけ、それだけで見える景色は変わっていった。
普段の何気ない仕草が愛おしく感じる。緊張して顔も見れないし、近づくといい香りがしてどうにかなってしまいそうだ。
そう思い自然と距離を置いてしまった。
結局、一度もまともに話せないまま時間は過ぎていきお別れの時間だ。
(プレゼントを渡したかったが別の日でいいか、今日は自分の身が持たない)
なんてことを考えて、別れ際ようやく雪菜のことをまともに見ることが出来た。
そして気が付いた。自分の過ちに。
一目見てわかってしまった。雪菜が寂しがっていることに。
ああ…なんて自分勝手なことをしていたんだろう。相手の気持ちを何も考えてなかった。
湊は決心した。
「じゃあ、これで帰りますね。今日はありがとうございました。楽しかったです。」
雪菜は帰ろうとする。
「ちょっと待って。その、今日はゴメン。楽しくなかったよね。」
「なんでそんなこと言うんですか…楽しかったですよ…」
「ううん。わかってる。今日の俺ちょっと素っ気なかったよね。」
「そんなことないです。」
「嘘つかなくてもいいよ。分かってるから。」
「やめてください。私が楽しかったって言ってるんだからいいじゃないですか。なんでそうやって決めつけるんですか。」
「なんでそういう時に意地張るかな。わかるよ。だって今日一緒に帰ろうって言わなかったじゃん。」
「どうしてそういうのだけちゃんと聞いてるんですか。別に意地張ってる訳じゃないです。私は会えただけで嬉しいし、楽しいです。でも本音をいうならもう少し私の事見て欲しかったなぁって思っちゃっただけです。今日はちょっとだけ特別な日だったんで…」
雪菜は涙目になっていた。
湊は恥じた。今まで散々待たせた挙句、ここまで自分を思ってくれている。そんな子に対してまた、先送りにしてその場しのぎをしようとしたそんな自分に。
「今日はね。ちょっと雪菜に言いたいことがあって。でもさ。その事を考えてると雪菜と普通に話せなくなっちゃって。変だよね。いつも通り話したらいいだけなのにそれが出来なくて。少し意識しただけでこんなにも違うものなんだって思って。
自分の事ばっかり考えて、今日は誕生日だったのにちゃんと見てなくてごめん。
今さらなんだけど、雪菜の事が好きです。笑った顔も、ちょっと小馬鹿にしたような態度も、一生懸命なところも、一途に思いを伝えてくれるところもすべてが好きです。こんな俺でよかったら付き合ってください。」
とうとう伝えた。
その瞬間、体にドンッと衝撃が走った。
下を見ると雪菜が抱き着いて来ていた。
「なんなんですか。ご機嫌取りのつもりですか。それなら嬉しくないですよ。」
「そんなんじゃないよ。」
「じゃあ、なにかのドッキリとかですか。」
「違うよ。」
「本当なんですか。私、本気にしますからね。今更嘘だって言っても遅いですよ。」
「どれだけ信用ないんだよ…」
「だって、湊さんから告白してくれるって思ってなかったから。」
雪菜は湊の胸元で泣いた。
雪菜が泣き止み、2人はベンチで話していた。
「本当に本当なんですね。私たちってもう付き合ってるってことでいいんですよね。」
「いや、まだでしょ。まだ返事貰ってないよ。」
まったくこの人は本当に狡くて意地悪だ。
他人の不幸は喜ぶし、平気で人の悪口をいう、告白は適当な返事で流すし、人の話は聞かない癖に自分の話は自慢げにする。それに今は人が恥ずかしがるとわかっていて、なんと答えるか分かったうえで返事を待っている。本当に嫌な人だ。
だけど、優しい。困っていると助けてくれて、相手の気持ちを読み取り欲しい言葉をかけてくれて、会話をしていると楽しいと思える。いい人でもある。
この人は本当に普段なにを考えているのかわからない。だけどそんな湊さんが私は好きだ。好きになったら相手がどんな人でも許してしまう。そういうものだ。
人が何を考えているかなんて誰にもわからないのだから自分が思うように信じればいい。
「こちらこそ、お願いします。」
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