彼の考えがわからない

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湊と雪菜は帰り道を歩いていた。

「なんであんな事言ったの?」

「嫌でしたか?」

嫌という訳ではないのだが、後で揶揄われるのが目に見えているので面倒だと思っていた。
だが、この場合はそもそも変な事を聞いてきた太樹に問題があるので雪菜を責めても仕方ないと思った。

「いや、いいんだけどさ。」

そう答え、再び歩き出した。


雪菜は湊の事が好きだ。
出会ったキッカケは、アルバイトの面接を受けに行ったら、店長の湊が対応したというだけの話だ。その頃は雪菜も特別好きという訳でもなく、歳が近い人が店長で接し易くて良かったくらいにしか考えていなかった。

転機が訪れたのは、雪菜がアルバイトを辞めようとした時だ。学校での勉強が思ったよりも進まず、アルバイトを無断欠勤してしまった。1回無断で休んでしまうと、中々行く事は出来ず、(迷惑かけてるだろうし、誤ってから辞めちゃおう)
そう考えて、意を決して湊に連絡を取った。

(怒られるよなぁ、嫌だなぁ。)

そんな事を考えていると湊からメールが来た。

「今ちょっと忙しくて電話出れないから、お店が閉店した後に来れる?
無理そうなら後日、別の店でもいいけど。」

雪菜はメールを読み、気付いた。
湊が雪菜に気を遣っている事に。
わざわざ、他のバイト仲間がいないタイミングを選んでくれているの。
それに気付いた雪菜は(いい店長だったな)と思い、それと同時にこの人を裏切ってしまったという罪悪感を感じた。
雪菜は閉店後に店に向かう事を決めた。


もうすぐ日付も変わろうとしている頃、雪菜はお店の前に来ていた。
恐る恐る中を除いて見ると、湊が1人で片付けをしていた。
雪菜は意を決して中に入って行った。

「あの…この前は何も言わずにバイト休んじゃってすみませんでした。」

「立ち話もなんだから、座って話そうよ。もう少し待ってて。直ぐに終わるから。」

湊からそう言われて、雪菜は事務所で待つ事にした。

暫くすると湊が入ってきた。

「ごめんね。待たせちゃって。」

「いえ…あの、本当にすみませんでした。バイト辞めます。迷惑ばかり掛けて本当にすみませんでした。」

雪菜は再度謝った。
しかし、湊はあんまり気にしてない様子で

「休んだのは別にいいんだよ。まあ、一言くれた方が良かったのは事実だけど。
何か事情があったんでしょう。話せるなら教えて欲しいな。」

雪菜は話した。学校での勉強に思ったほどついていけてない事や無断欠勤をした手前、この店に来辛い事も。

「別に連絡くれたら。1ヶ月くらいは休んでもいいよ。テスト前だからって休む学生もいっぱいいるし。本職忙しいからって3ヶ月休んでる人もいるよ。でも本当に困った時は来てくれるから助かるんだ。それにたぶんみんな齋藤が思ってるより気にしてないよ。不安なら一緒に入ってあげるからもう少し頑張ってみない?」

湊にそう言われ、雪菜は狡いと思った。
罪悪感を感じているのに、今優しくされたら断れない。

「いいんですか?また迷惑掛けちゃいますよ。」

「連絡したら大丈夫だよ。できれば早めにね。」

「店長って狡いですね。これじゃ辞めれないじゃないですか」

「ごめんね。学生は卒業以外で辞めた事ないんだ。」

笑いながら湊にそう言われた。
そしてその顔を見た雪菜は

(本当に狡い人だなぁ。これじゃ好きになっちゃうじゃん。)


帰る頃には日付も変わっていた。

「暗いけど一人で帰れる?途中まで送ろうか?」

「いいんですか?」

「うん。女の子だし、危ないからね。家までは行かないから安心して適当なとこで俺も帰るから」

「ありがとうございます。店長って本当に優しくっていうか色々考えてくれますね。そこまで気を遣わなくても大丈夫ですよ。」

「これも仕事だよ。優しくしてたら出勤するでしょ。」

「あー、店長ダメですよ。私たちの事甘く見てますね。言いなりにはなりませんよ。」

そんな事を話しながら2人で歩いて帰った。
結局雪菜は湊と話すのが楽しく、家の前まで連れて来てしまった。

「家着いちゃいました。途中で帰るって言ったくせに。」

雪菜がそう言って揶揄おうとすると

「齋藤さんが言ってくれなきゃわかんないよ。まあいいや。じゃあおやすみ。」

そう言って湊はその場を離れた。

雪菜は後ろ姿に向かい「おやすみなさーい!」と叫んだ。
そして少しの間その場に立ち尽くし考えていた。

(あーあ、部屋に誘おうかと思ったのに。ここまで来たらちょっとは期待した私の気持ちも考えて欲しいな。でもまたチャンスあるか。頑張ろう。」

雪菜はこの日からバイトの日は湊と帰るのが日課となった。
一回送ってくれたので「前は送ってくれたくせに」といい、拗ねると大体湊は一緒に帰ってくれる。

そうして雪菜は湊に対し、好意を伝える様になった。
出来る限り真っ直ぐに言葉にして伝える。そうしないと湊は適当に言葉を濁して逃げてしまうからだ。
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