ただ平和な過ごしたいだけなのに

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赤崎は焦っていた。
クラスメイトを身代わりに自分だけは助かる予定だった。しかし、遠藤と堺がどこにもいない…
洞窟内はくまなく探したが見つかる気配はない。

(クソッ…最悪だ…あいつらの首がないと僕まで魔王に殺されちゃうじゃないか!これじゃ何の為に僕は皆んなを殺したんだ)

「赤崎様、帰還の時間です。王国へ戻りましょう。」

「うるさい!まだ勇者が2人いないんだぞ!このままで帰れるわけがないだろう。いいからさっさと見つけ出せ!」

赤崎は声を荒げた。
まだ死ぬわけにはいかない…そう思って必死に探した。

赤崎聖は優等生であった。
勉強は学年首位だし、サッカー部でも次期部長を約束されていた。顔だって良い方だし人当たりも良く、完璧と評価される人間だ。
しかし、赤崎は幼少期に、正義感故に虐められっ子を庇い、イジメの対象になってしまった過去がある。その時に学んだのだ。この世界で生き残るには強い方につく事が大切だと。
別にクラスメイトを見捨てたかったわけではないし、心は痛んだ。だが、仕方がないのだ。結局人は誰だって自分の事が1番なのだから。


遠藤と堺の捜索を始めてから半日が経っていた。
日は落ちはじめており、そろそろ引き上げないとまずいが、赤崎は諦める事ができなかった。

「もうお辞めください。報告の時間に遅れてしまいます。」

「うるさい!じゃあお前らだけで帰ってろ!僕は見つけ出すまで帰らない!そう伝えておけ!」

「そうですか…ならば仕方ありませんね。」

兵士がいい終わると同時に赤崎の胸に槍が刺さった。

「お前…一体何をしている…僕は王国側の仲間だぞ」

「魔王様より申し付けを受けています。赤崎様が勇者の殲滅に失敗した場合は貴方の首を持って帰るようにと。」

「ふ…ざ…ける…な…よ…」

「どうかお許し下さい。我々も報告の時間に遅れると罰が与えられるのです。あなた方に対しては本当に申し訳なく思っています…ただ、私達にも守らなければいけない家族があります。赤の他人と家族の命なら考える間も無く家族を選びます。そうやって生きてきました。」

兵士がいい終えると同時に複数の槍が赤崎の体を貫く。

(なんでだよ…これじゃあ僕は何の為にみんなを裏切ったんだ。ただ、魔王にいいように使われただけって事か…悔しいな…)

「それでは、どうか安らかにお眠り下さい。」

兵士の剣が赤崎の首を刎ねる。

(あーあ…あの2人無事に逃げ出せてるのかなぁ…最後にこんな事思うなんて都合のいい奴だと思われるかも知れないけど、魔王に一泡吹かせてくれよ…)

赤崎は後悔しながら息をひきとった。




「報告致します。勇者殲滅任務ですが、12名中10名死亡。遠藤圭介、堺京香両名が生存。行き先も不明であります。此度の作戦を指示した赤崎聖は両名を取り逃した為、当初の予定通り処罰致しました。」

「うむ、ご苦労。下がれ。」

兵士はハッと返事をすると王の部屋を後にした。


兵士が王の部屋から出た後、魔王が突如現れた。

「へぇ、2人も取り逃しちゃったのか?」

「魔王様、大変申し訳ありません。ただいま調査兵を出していますので時期に見つかるかと…」

「いやいや、別に構わないよ。少しは刺激があった方が面白いだろう。それより、勇者どもの死体は僕の城まで運んでくれよ。」

「はい。かしこまりました。失礼かと思いますが勇者の死体をどうするかお聞きしても?」

「あれ?前にも言わなかったっけ?魔物に食べさせるんだよ。スキルも手に入れられるしね。まあ…それ以外にも使い道はあるんだけどね。それは秘密さ。」

魔王は不気味な笑みをして王の元を去った。





遠藤と堺は未だに村を見つける事が出来ずにいた。
もう外は真っ暗で足元も見えなくなってくる。
遠藤は歩きながら寝床を探していると、人が入れるくらいに大きさの洞窟を見つけた。

「ちょっと中見てくるね。」

遠藤はそういうと洞窟の中に入っていった。

(2人だとちょっと狭いかもだけど、仕方ないか。でもこれで遠藤くん私のこと意識するかも…)

堺が考え事をしていると遠藤が洞窟から出てきた。

「特に動物がいる痕跡とかなかったし大丈夫だよ。じゃあ、俺は別の洞窟探すからまた明日ね。」

「えっ…ちょっと…」

「どうしたの?あぁ、そう言えばご飯まだだったね。食べれる山菜とか魚ないか探してみるね。」

「あ…うん。そうだね。ちょっと待って私も行く。」

堺は遠藤の後を追った。

(遠藤くん本当に別の洞窟で寝る気なのかな?なんで?普通はこういう時一緒に寝るもんじゃないの?それでお互い意識しちゃうみたいな感じだと思ったのに…。本当に私の事に興味ないのかな…なんかムカつくな)

堺は遠藤が自分に全く興味がない事に苛立ちを覚えていた。
今まで数多くの異性から好かれてきた。殆どの男子はこぞって私と付き合いたいと言ってきたし、言葉に出せない人も私から話しかければ好意を持つようになる。どこにいっても心のそこから本心で話せる友人は出来なかった。それが嫌になり高校では無愛想に振る舞うようにした。だが、そんな時に遠藤を見つけた。
遠藤は堺に興味がない素振りだった。堺はそんな遠藤が気になり、本当に自分に興味がないか確かめる様にさりげなくアピールする様になった。未だに続いているが遠藤が自分に興味を持っていないのは嬉しい事の筈だった。しかし、全く気にされないのはそれはそれでムカついた。

「お、川じゃん。魚いるかな。」

遠藤が川に魚がいないか覗き込んで覗き込んでいる。

(本当になに考えてるんだろう?学校でも思ってたけど全く読めないな…)

「見つけた。」

遠藤が川辺でそう呟くと、遠藤の真横に突如魚が現れた。「転移」のスキルだ。恐らく見つけた瞬間に自分の横に転移させたんだろう。
遠藤のスキルのお陰で食料調達は思ったより早く終わった。


2人は火を焚き、調達した魚を焼き食べていた。

「へー、堺さんのスキルって火も出せるんだね。」

「うん。結構色々出来るよ。火の他にも水とかも出せるし。っていうかさ…遠藤くん本当に別の洞窟探すの?もう遅いし危なくない?」

「いや、大丈夫だよ。ちょっと当てがあるから気にしないで。」

遠藤は洞窟を出ていった。

「本当に出て行っちゃった…せっかく呼び止めたのになんで行っちゃうかな…もう知らない!」

堺は洞窟の入り口に結界を作った。これで結界を破らない限り誰も入って来れない。どうせ暫くしたら遠藤は戻ってくる。まあ、今更入れて欲しいと言われても入れるつもりはないが…堺はそのまま眠りについた。

一方、堺とわかれた遠藤は、しばらく歩き続けていた。

「ここら辺でいいかな…あんまり遠くだと合流するの面倒だし。」

遠藤はそういうと目を閉じてスキルを発動した。
訓練で身に付けたスキル「感知」
このスキルは周囲の敵の気配を感じ取るスキルだ。しかし、遠藤は訓練の時間以外でもこのスキルを使い続け能力を最大限まで強化していた。
その効果は森全体を覆う程の範囲で、生き物の気配だけではなく、何処になにがあるかもおおまかに把握する事が出来る。
遠藤は、「感知」を使い森全体を探った。すると、幸いな事に堺の洞窟の近くに人一人入れるくらいの洞窟を発見した為、すぐに洞窟に移動した。
洞窟は感知で探った通り遠藤が一人で寝るには十分な広さだった。

「ここなら寝れそうだな…一応やっとくか…」

遠藤は「感知」を洞窟内を覆う大きさで発動し、寝る事にした。こうする事でもし何者かに襲われそうになった時も、対応出来るからだ。
遠藤は日常生活で継続的にスキルを使用し続ける事で能力を強化していた。

(とりあえずはこれで安心かな…)

遠藤は眠りにつく事にした。
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