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翠川達が去ってからは暫く無言で歩き続けていた。
正直、遠藤と堺があそこまで強いとは驚いた。
訓練を途中で抜け出していたのでやる気がないものだと思っていたが、下手したら俺たちよりもスキルを使いこなしている。
堺は、まあわかる。そもそも「聖女」という高位スキルを持っている。弱いはずがない。
しかし失ってから暫く経った部位を治せるとは思っていなかった。おそらく全員そうだろう。
切られた腕がある状態でくっつける事が出来るくらいだと思っていた。それでも十分凄いが。
そして遠藤だ。目に見える範囲しか転移出来ない。あまり役に立たないと思っていたが大間違いだ。
目に見える範囲にいる相手と位置を入れ替われるのであれば、遠距離攻撃はほぼ無意味だ。
翠川のように一瞬で場所を入れ替わって自分の攻撃をくらう羽目になる。
たぶんCグループがミノタウロスを倒す時に作戦を立てたのは遠藤だろう。
頭を使ってスキルを最大限に活用している。
(成程…高位のスキルを持っていても使いこなしている者には勝てないか…この世界ではスキルの熟練度が大事かもしれないな。)
柳原が考えながら歩いていると赤崎が声を上げた。
「あの…ちょっと悪いんだけど一ついいかな?
その…俺のグループが迷惑かけてゴメン!
本当に悪かったと思ってる。
でさ…その…俺のグループが誰もいなくなっちゃって1人なんだけど、どうしたら良いかなって思って。
図々しいとは思ってるけど仲間に入れて貰えるとありがたいんだけど。」
確かに赤崎が現状パーティに入っていないままだった。
まあ、普通に考えればスキルの能力値的に遠藤達のグループに入るのが妥当だろう。と柳原が思ったが遠藤から
「それだったら、柳原くん達のグループがいいんじゃない?こっちのグループだと赤崎くんのスキルを上手く使えないんだよね。みんなのスキルに出来ることが限られてるから、それなりに作戦決めてきてるからさ…急にメンバー増えると作戦考えなおさなきゃいけないからごめんね。柳原くん達だってバランスの取れてて回復も出来る「剣聖」のスキルがあると戦いやすくなるんじゃない?」
確かにそうだ。
遠藤達はおそらくそれなりに時間をかけて作戦を練ってきている。急な変更でイレギュラーが起こるのは嫌なのだろう。
それに赤崎がこちらに入ると助かるのも事実だ。
俺達4人で出来る事を赤崎は殆ど1人でこなせる。
ミノタウロスの攻撃を防ぐ防御魔法、攻撃をいなす動体視力、回復魔法も使いこなせ、更には斬撃を飛ばす事も出来るみたいなので、遠距離攻撃まで可能だ。ミノタウロスを1人で倒し切ったのだから威力も十分だ。
「わかった。赤崎くんはこっちのグループでも大丈夫?」
「うん。ありがとう。入れて貰えるだけ助かるよ。正直…1人で戦ってた時は不安んでさ…俺が負けるとみんな死んじゃうって思って、必死に戦ってたんだ…。」
一同はミノタウロスを倒しながら、洞窟の奥に進んでいった。
両グループ、先程戦った時よりもスムーズに倒せていた。俺たちが強くなっているというよりも、最初に戦った時よりも緊張がなくなっている。
平和な日本で生活していた彼らにとって、どんなに強力な能力を手に入れても化け物と戦うというのは怖い。どう頑張っても体は硬直してしまう。
しかし、戦い続ける事で緊張は少しずつ緩和して本来の力を使えるようになってきた。
赤崎、柳原、峰、山岸は1人でも倒せるようになっていた。
藤田は攻撃手段がないので戦いには参加出来ないが、広範囲へのバフやデバフをマスターしていた。
藤田のお陰で4人は安心して戦う事ができていたのは間違いない。
遠藤グループは、兵士から聞いていた通り同じ作戦で戦い続けていたので能力に変化があったのかはわからなかったが、森内や橘の顔からも笑顔が見えていた。不安がなくなってきている証拠だ。
「この奥にミノタウロスの巣窟があります。今回の任務は、ここの魔物を倒して頂ければ完了となります。」
兵士達に案内をして貰いとうとう目的地に辿り着くとそこにはミノタウロスの大群がいた。
数はザッと数えて50体近くいる。
(数が多すぎるな…慎重に作戦を練らないと不味いか…)
柳原が作戦を考えていると足音が聞こえたので振り返った。
すると兵士が出口の方にいて何やら魔法を唱えている。悪い予感がする。
「それではご武運を」
兵士がそう告げると魔法により足場が崩れ、一気にミノタウロスの巣窟へと放り出されてしまった。
急な出来事にみんなパニックになる
(このままでは不味い…全滅してしまう)
「みんな誰とでもいいから近くにいる人とパーティを組むんだ!今は生き残る事だけを考えろ!」
柳原は叫び辺りを見渡した。柳原の近くには赤崎がいた。
「柳原くん!」
赤崎は柳原と目が合うと直ぐに合流し、背中合わせの体制になった。
「一体どうなっているんだ?」
「俺達が落ちる時、兵士が魔法を使っていた。なんの目的かは知らないけど、王国は俺たちを殺すつもりだ。」
「そんなっ!じゃあ他のみんなは?王国にいるクラスメイト達はどうなってるんだよ!」
「俺にもわからないよ!ただ少なくとも洞窟に一緒に来た兵士たちは俺たちをミノタウロスの巣窟に落とした。これは事実だ。」
柳原にそう告げられ、赤崎は冷静さを取り戻した。
「ごめん。柳原くんに当たっても仕方がない事なのに…冷静さを失ってしまって。」
「大丈夫だよ。とりあえず今はここから抜け出す事だけを考えよう。」
柳原はミノタウロスを倒しながら他のメンバーがどうなっているかを確認した。
峰、山岸、藤田は3人で陣形をとって戦っていた。とりあえずは安心だ。
そう思った瞬間何かに躓いた。
恐る恐る足元を見るとそこには斧で斬られたような傷をつけた森内が倒れていた。
「森内くん!大丈夫か!」
赤崎が叫びながら回復魔法をかける。
すると森内は遠くを指差しながら声にならない声を出した。
「向こうに…橘…さん…が…たす…け…て…」
その声を理解した柳原は一目散に走った。
間に合え!そう思い辿り着いた場所にいたのは数体のミノタウロスに囲まれ、四肢がなくなり血塗れで倒れている橘の姿だった。
「橘さん…」
柳原は立ち尽くした。
産まれて初めて人が死んでいる姿を見てしまった。この出来事は想像していたよりも大きかった。
怖い…俺もあんな風に死んでしまうのか…
考えなくてもいい事が頭の中を過ってしまう。
柳原がショックを受けていると今度は、声にならない叫び声のようなものが聞こえた。
振り返ってみると山岸の両腕がなく、峰も血塗れで倒れている。
(そうだ!あそこには藤田がいる。回復さえ出来ればなんとかなる!)
藤田を探すと大量の矢が刺さり生気のない目をした藤田の姿があった。
(なんで…ミノタウロスは斧しか使わないんじゃ…)
そう思っていると山岸と峰の上空から矢が降り注いできた。
柳原は叫んだが、どうする事も出来ず2人は絶命した。矢が飛んできた方向を見上げると兵士たちが弓矢を打っていた。
「なんでこんな事をするんだ!俺たちは魔王を倒す為に来たんじゃないのか?なんでここで殺されなきゃならないんだ。」
柳原は兵士達に向かって叫んだ。すると
「私達にも知らされてはいません。しかしこれが命令ですので。怨んで頂いて構いません。」
そして、またもや攻撃を再開してきた。
「ふざけるなよ!納得できるか!」
柳原は生きている仲間を探し出した。
幸いな事に兵士達の攻撃でミノタウロスの数も減っている。残り10体といったところだ。
赤崎は生きている。残りは遠藤と堺だ。
堺のスキルがあれば山岸達も助かるかもしれない。そんな期待をしていたが2人の姿は何処にもない。
(2人もやられてしまったのか!クソッ!)
柳原が2人を探している間に赤崎がミノタウロスに囲まれていた。
不味い!。そう思い柳原は慌てて助けに行った。
影を移動し赤崎の背後に向かい、背中合わせの形でミノタウロスの攻撃に構えた。
ミノタウロスの猛攻が迫ってくる。捌くのでやっとの思いだ。少しでもミスったらやられる。そう思った次の瞬間、ミノタウロスの斧が柳原の剣を弾き飛ばした。
(しまった‼︎)
斧が頭上に迫ってくる。
(こんな死に方してたまるか!!!)
柳原の体は自然に自分の影に手を置く形になり、その瞬間、影が無数の枝のように分かれ、ミノタウロス達を串刺しにした。
(これは…新しい力だ。)
「グサッ!」
刃物が刺さる音が響き渡った。
柳原が下に目を向けると胸から剣が突き出ていた。
「なんで…お前が…」
「全く、しぶといな君は。僕だってこんな事はしたくなかったのに…ミノタウロスに殺されないんじゃしょうがないじゃないか。僕がやらないと。」
赤崎だった。
赤崎は剣を柳原から抜くと兵士達の元まで壁を蹴って移動した。
「一体…いつから…」
「最初からだよ。君はさ。この世界おかしいとか疑問に思わなかったの。」
「なにがだよ…」
「はあ…本当に気付いてないんだね。まあいいけど。僕が気付いたのはスキルの判定が終わった後だ。僕達40名のクラスの中で戦う意志を表明したのはたった12人だけだった。それなのに王国はまるで気にしていない。それどころか魔王討伐が終わるまでに生活も保障すると言った。いつ終わるかもわからない戦いなのにだ。流石に可笑しいだろう。
だから僕は訓練の後、王様の部屋を盗み聞きしていた。すると聞いたんだよ。魔王と会話をする王様の声が」
-----------------------
「魔王様、此度の勇者召喚は成功致しました。数は40名で戦闘の意志のないものが26名です。こちらは直ぐにでも魔王様の元へお届けできます。」
「よくやった。これで国民の無事は約束してやる。
ああ…後残りの勇者は始末しておけよ。隠れてコソコソ勇者を育てようものなら国ごと滅ぼす。その力が私にある事を忘れるな。」
「承知しました」
「勇者は50年に1度しか召喚出来ないからな。
お主の王国で召喚を行い、育つ前に殺す。そうしたら私は心配する事なく暮らせる。全く、完璧だとは思わぬか?お主の王国もこれで平穏が保たれるのだからな。」
そういうと魔王は笑った。
「して疑問なのですが、26名の勇者はどうされるのですか?殺すのであれば此方でも対処可能ですが…」
「ああ…魔物に食わせるんだよ。勇者は基本スキル持ちだからな。知ってるか、スキルを持った相手を喰らうとスキルが手に入る場合もあるんだ。まあ、魔物にしか出来んだろうがな。」
「すみません!お初お目にかかります!赤崎聖と申します。魔王様にお話があって参りました。」
赤崎は今しかないと思った。
ここでの会話で生きるか死ぬかが決まる。
「ほう…お主は勇者の1人か。今の会話を聞いておったな。何故出てきた?殺されると思わなかったか?」
「魔王様を目の当たりにして私が盗み聞きしているのはバレていると思いました。魔王様…どうか私を魔王様に従わせては貰えないでしょうか?」
「何故だ?理由を言ってみろ。つまらなかったり嘘を付けば殺すがな」
「私は死にたくありません。ただ、それだけです。しかしその為ならなんでも出来ます。」
赤崎は素直に答え、ただ真っ直ぐに魔王の目を見ていた。
「いいだろう。ただしお前を除く12人の勇者を殺してこい。そうしたら側近にしてやる。」
「ありがとうございます!」
-----------------------
「わかったかい。僕らは殺される為に呼ばれたんだ。まあ僕だけは生き残るけどね。」
(クソっ!そんな事ってあるかよ。)
柳原は一矢報いようとするが、その瞬間赤崎の飛ぶ斬撃が直撃した。
赤崎が倒れている柳原に近寄り、首を切断した。
「はい。これで終わり。じゃあみんな帰ろっか?」
赤崎は兵士と帰り支度を整える。
報告の為に全員の首が必要なので集めていくと2つ足りない。
遠藤と堺が見当たらない。
(いつからだ。あいつらが姿を消したのは!?)
赤崎は記憶を辿っていく
(兵士達が足場を落とすまでは確かにいた。落ちた後から姿が見えなくなった。何処だ…。そうか!しまった。遠藤のスキルは「転移」だ!)
「洞窟内を隅々まで探せ!まだ勇者が2人残っている。急いで見つけろ!まだどう遠くには行ってない筈だ。)
(クソッ!もしかしてあいつらも気付いてやがったのか。ふざけやがって!絶対に殺してやる。)
一方、2人はとっくに洞窟から出て、見知らぬ土地を歩いていた。
「助けてくれてありがとう。ところで遠藤くん。他のみんなは助けないで良かったのかな。」
「みんなは難しいね。結局誰が裏切り者かわかんなかったし。堺さんだけで精一杯だったよ。」
「そうなの?でも誰が裏切り者かあらかた検討はついてたんじゃないの?」
「まあ、赤崎だと思ってはいるよ。赤崎みたいにいい奴なら、みんなを訓練に参加するよう説得するのが定石だけど、それを一度もやらずに自分だけ一心不乱に訓練してたからね。裏があるとは思っていたよ。」
「それだけで疑うのは可哀想じゃない?まあ私も赤崎くんだと思っているけど…だってあの人いつも誰かがやられた後でしか行動しないんだもん。小心者といえばそれまでだけれど…」
「まあ誰でもいいよ。核心を持てなかったから、こうして2人だけで逃げた訳だし」
「そうだね。でも遠藤くんには聞きたい事が色々あるんだけどいいかな。」
「いいけど、とりあえずは行き先決めようよ。話は歩きながらでもいいし。」
「わかった。先ずはどこか村に寄りたいかな。地図や食料が必要だしね。」
「了解。じゃあ村がありそうな方に歩こうか?」
「うん。でもこれからどうする?遠藤くんは何か決めてるの?」
「特にないけど、俺は平和に過ごせたらそれでいいなぁ」
「ふふ、魔王がいるんだよ。遠藤くん変なの」
「笑わなくてもいいのに。」
2人は笑いながら村に向かって歩き出した。
正直、遠藤と堺があそこまで強いとは驚いた。
訓練を途中で抜け出していたのでやる気がないものだと思っていたが、下手したら俺たちよりもスキルを使いこなしている。
堺は、まあわかる。そもそも「聖女」という高位スキルを持っている。弱いはずがない。
しかし失ってから暫く経った部位を治せるとは思っていなかった。おそらく全員そうだろう。
切られた腕がある状態でくっつける事が出来るくらいだと思っていた。それでも十分凄いが。
そして遠藤だ。目に見える範囲しか転移出来ない。あまり役に立たないと思っていたが大間違いだ。
目に見える範囲にいる相手と位置を入れ替われるのであれば、遠距離攻撃はほぼ無意味だ。
翠川のように一瞬で場所を入れ替わって自分の攻撃をくらう羽目になる。
たぶんCグループがミノタウロスを倒す時に作戦を立てたのは遠藤だろう。
頭を使ってスキルを最大限に活用している。
(成程…高位のスキルを持っていても使いこなしている者には勝てないか…この世界ではスキルの熟練度が大事かもしれないな。)
柳原が考えながら歩いていると赤崎が声を上げた。
「あの…ちょっと悪いんだけど一ついいかな?
その…俺のグループが迷惑かけてゴメン!
本当に悪かったと思ってる。
でさ…その…俺のグループが誰もいなくなっちゃって1人なんだけど、どうしたら良いかなって思って。
図々しいとは思ってるけど仲間に入れて貰えるとありがたいんだけど。」
確かに赤崎が現状パーティに入っていないままだった。
まあ、普通に考えればスキルの能力値的に遠藤達のグループに入るのが妥当だろう。と柳原が思ったが遠藤から
「それだったら、柳原くん達のグループがいいんじゃない?こっちのグループだと赤崎くんのスキルを上手く使えないんだよね。みんなのスキルに出来ることが限られてるから、それなりに作戦決めてきてるからさ…急にメンバー増えると作戦考えなおさなきゃいけないからごめんね。柳原くん達だってバランスの取れてて回復も出来る「剣聖」のスキルがあると戦いやすくなるんじゃない?」
確かにそうだ。
遠藤達はおそらくそれなりに時間をかけて作戦を練ってきている。急な変更でイレギュラーが起こるのは嫌なのだろう。
それに赤崎がこちらに入ると助かるのも事実だ。
俺達4人で出来る事を赤崎は殆ど1人でこなせる。
ミノタウロスの攻撃を防ぐ防御魔法、攻撃をいなす動体視力、回復魔法も使いこなせ、更には斬撃を飛ばす事も出来るみたいなので、遠距離攻撃まで可能だ。ミノタウロスを1人で倒し切ったのだから威力も十分だ。
「わかった。赤崎くんはこっちのグループでも大丈夫?」
「うん。ありがとう。入れて貰えるだけ助かるよ。正直…1人で戦ってた時は不安んでさ…俺が負けるとみんな死んじゃうって思って、必死に戦ってたんだ…。」
一同はミノタウロスを倒しながら、洞窟の奥に進んでいった。
両グループ、先程戦った時よりもスムーズに倒せていた。俺たちが強くなっているというよりも、最初に戦った時よりも緊張がなくなっている。
平和な日本で生活していた彼らにとって、どんなに強力な能力を手に入れても化け物と戦うというのは怖い。どう頑張っても体は硬直してしまう。
しかし、戦い続ける事で緊張は少しずつ緩和して本来の力を使えるようになってきた。
赤崎、柳原、峰、山岸は1人でも倒せるようになっていた。
藤田は攻撃手段がないので戦いには参加出来ないが、広範囲へのバフやデバフをマスターしていた。
藤田のお陰で4人は安心して戦う事ができていたのは間違いない。
遠藤グループは、兵士から聞いていた通り同じ作戦で戦い続けていたので能力に変化があったのかはわからなかったが、森内や橘の顔からも笑顔が見えていた。不安がなくなってきている証拠だ。
「この奥にミノタウロスの巣窟があります。今回の任務は、ここの魔物を倒して頂ければ完了となります。」
兵士達に案内をして貰いとうとう目的地に辿り着くとそこにはミノタウロスの大群がいた。
数はザッと数えて50体近くいる。
(数が多すぎるな…慎重に作戦を練らないと不味いか…)
柳原が作戦を考えていると足音が聞こえたので振り返った。
すると兵士が出口の方にいて何やら魔法を唱えている。悪い予感がする。
「それではご武運を」
兵士がそう告げると魔法により足場が崩れ、一気にミノタウロスの巣窟へと放り出されてしまった。
急な出来事にみんなパニックになる
(このままでは不味い…全滅してしまう)
「みんな誰とでもいいから近くにいる人とパーティを組むんだ!今は生き残る事だけを考えろ!」
柳原は叫び辺りを見渡した。柳原の近くには赤崎がいた。
「柳原くん!」
赤崎は柳原と目が合うと直ぐに合流し、背中合わせの体制になった。
「一体どうなっているんだ?」
「俺達が落ちる時、兵士が魔法を使っていた。なんの目的かは知らないけど、王国は俺たちを殺すつもりだ。」
「そんなっ!じゃあ他のみんなは?王国にいるクラスメイト達はどうなってるんだよ!」
「俺にもわからないよ!ただ少なくとも洞窟に一緒に来た兵士たちは俺たちをミノタウロスの巣窟に落とした。これは事実だ。」
柳原にそう告げられ、赤崎は冷静さを取り戻した。
「ごめん。柳原くんに当たっても仕方がない事なのに…冷静さを失ってしまって。」
「大丈夫だよ。とりあえず今はここから抜け出す事だけを考えよう。」
柳原はミノタウロスを倒しながら他のメンバーがどうなっているかを確認した。
峰、山岸、藤田は3人で陣形をとって戦っていた。とりあえずは安心だ。
そう思った瞬間何かに躓いた。
恐る恐る足元を見るとそこには斧で斬られたような傷をつけた森内が倒れていた。
「森内くん!大丈夫か!」
赤崎が叫びながら回復魔法をかける。
すると森内は遠くを指差しながら声にならない声を出した。
「向こうに…橘…さん…が…たす…け…て…」
その声を理解した柳原は一目散に走った。
間に合え!そう思い辿り着いた場所にいたのは数体のミノタウロスに囲まれ、四肢がなくなり血塗れで倒れている橘の姿だった。
「橘さん…」
柳原は立ち尽くした。
産まれて初めて人が死んでいる姿を見てしまった。この出来事は想像していたよりも大きかった。
怖い…俺もあんな風に死んでしまうのか…
考えなくてもいい事が頭の中を過ってしまう。
柳原がショックを受けていると今度は、声にならない叫び声のようなものが聞こえた。
振り返ってみると山岸の両腕がなく、峰も血塗れで倒れている。
(そうだ!あそこには藤田がいる。回復さえ出来ればなんとかなる!)
藤田を探すと大量の矢が刺さり生気のない目をした藤田の姿があった。
(なんで…ミノタウロスは斧しか使わないんじゃ…)
そう思っていると山岸と峰の上空から矢が降り注いできた。
柳原は叫んだが、どうする事も出来ず2人は絶命した。矢が飛んできた方向を見上げると兵士たちが弓矢を打っていた。
「なんでこんな事をするんだ!俺たちは魔王を倒す為に来たんじゃないのか?なんでここで殺されなきゃならないんだ。」
柳原は兵士達に向かって叫んだ。すると
「私達にも知らされてはいません。しかしこれが命令ですので。怨んで頂いて構いません。」
そして、またもや攻撃を再開してきた。
「ふざけるなよ!納得できるか!」
柳原は生きている仲間を探し出した。
幸いな事に兵士達の攻撃でミノタウロスの数も減っている。残り10体といったところだ。
赤崎は生きている。残りは遠藤と堺だ。
堺のスキルがあれば山岸達も助かるかもしれない。そんな期待をしていたが2人の姿は何処にもない。
(2人もやられてしまったのか!クソッ!)
柳原が2人を探している間に赤崎がミノタウロスに囲まれていた。
不味い!。そう思い柳原は慌てて助けに行った。
影を移動し赤崎の背後に向かい、背中合わせの形でミノタウロスの攻撃に構えた。
ミノタウロスの猛攻が迫ってくる。捌くのでやっとの思いだ。少しでもミスったらやられる。そう思った次の瞬間、ミノタウロスの斧が柳原の剣を弾き飛ばした。
(しまった‼︎)
斧が頭上に迫ってくる。
(こんな死に方してたまるか!!!)
柳原の体は自然に自分の影に手を置く形になり、その瞬間、影が無数の枝のように分かれ、ミノタウロス達を串刺しにした。
(これは…新しい力だ。)
「グサッ!」
刃物が刺さる音が響き渡った。
柳原が下に目を向けると胸から剣が突き出ていた。
「なんで…お前が…」
「全く、しぶといな君は。僕だってこんな事はしたくなかったのに…ミノタウロスに殺されないんじゃしょうがないじゃないか。僕がやらないと。」
赤崎だった。
赤崎は剣を柳原から抜くと兵士達の元まで壁を蹴って移動した。
「一体…いつから…」
「最初からだよ。君はさ。この世界おかしいとか疑問に思わなかったの。」
「なにがだよ…」
「はあ…本当に気付いてないんだね。まあいいけど。僕が気付いたのはスキルの判定が終わった後だ。僕達40名のクラスの中で戦う意志を表明したのはたった12人だけだった。それなのに王国はまるで気にしていない。それどころか魔王討伐が終わるまでに生活も保障すると言った。いつ終わるかもわからない戦いなのにだ。流石に可笑しいだろう。
だから僕は訓練の後、王様の部屋を盗み聞きしていた。すると聞いたんだよ。魔王と会話をする王様の声が」
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「魔王様、此度の勇者召喚は成功致しました。数は40名で戦闘の意志のないものが26名です。こちらは直ぐにでも魔王様の元へお届けできます。」
「よくやった。これで国民の無事は約束してやる。
ああ…後残りの勇者は始末しておけよ。隠れてコソコソ勇者を育てようものなら国ごと滅ぼす。その力が私にある事を忘れるな。」
「承知しました」
「勇者は50年に1度しか召喚出来ないからな。
お主の王国で召喚を行い、育つ前に殺す。そうしたら私は心配する事なく暮らせる。全く、完璧だとは思わぬか?お主の王国もこれで平穏が保たれるのだからな。」
そういうと魔王は笑った。
「して疑問なのですが、26名の勇者はどうされるのですか?殺すのであれば此方でも対処可能ですが…」
「ああ…魔物に食わせるんだよ。勇者は基本スキル持ちだからな。知ってるか、スキルを持った相手を喰らうとスキルが手に入る場合もあるんだ。まあ、魔物にしか出来んだろうがな。」
「すみません!お初お目にかかります!赤崎聖と申します。魔王様にお話があって参りました。」
赤崎は今しかないと思った。
ここでの会話で生きるか死ぬかが決まる。
「ほう…お主は勇者の1人か。今の会話を聞いておったな。何故出てきた?殺されると思わなかったか?」
「魔王様を目の当たりにして私が盗み聞きしているのはバレていると思いました。魔王様…どうか私を魔王様に従わせては貰えないでしょうか?」
「何故だ?理由を言ってみろ。つまらなかったり嘘を付けば殺すがな」
「私は死にたくありません。ただ、それだけです。しかしその為ならなんでも出来ます。」
赤崎は素直に答え、ただ真っ直ぐに魔王の目を見ていた。
「いいだろう。ただしお前を除く12人の勇者を殺してこい。そうしたら側近にしてやる。」
「ありがとうございます!」
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「わかったかい。僕らは殺される為に呼ばれたんだ。まあ僕だけは生き残るけどね。」
(クソっ!そんな事ってあるかよ。)
柳原は一矢報いようとするが、その瞬間赤崎の飛ぶ斬撃が直撃した。
赤崎が倒れている柳原に近寄り、首を切断した。
「はい。これで終わり。じゃあみんな帰ろっか?」
赤崎は兵士と帰り支度を整える。
報告の為に全員の首が必要なので集めていくと2つ足りない。
遠藤と堺が見当たらない。
(いつからだ。あいつらが姿を消したのは!?)
赤崎は記憶を辿っていく
(兵士達が足場を落とすまでは確かにいた。落ちた後から姿が見えなくなった。何処だ…。そうか!しまった。遠藤のスキルは「転移」だ!)
「洞窟内を隅々まで探せ!まだ勇者が2人残っている。急いで見つけろ!まだどう遠くには行ってない筈だ。)
(クソッ!もしかしてあいつらも気付いてやがったのか。ふざけやがって!絶対に殺してやる。)
一方、2人はとっくに洞窟から出て、見知らぬ土地を歩いていた。
「助けてくれてありがとう。ところで遠藤くん。他のみんなは助けないで良かったのかな。」
「みんなは難しいね。結局誰が裏切り者かわかんなかったし。堺さんだけで精一杯だったよ。」
「そうなの?でも誰が裏切り者かあらかた検討はついてたんじゃないの?」
「まあ、赤崎だと思ってはいるよ。赤崎みたいにいい奴なら、みんなを訓練に参加するよう説得するのが定石だけど、それを一度もやらずに自分だけ一心不乱に訓練してたからね。裏があるとは思っていたよ。」
「それだけで疑うのは可哀想じゃない?まあ私も赤崎くんだと思っているけど…だってあの人いつも誰かがやられた後でしか行動しないんだもん。小心者といえばそれまでだけれど…」
「まあ誰でもいいよ。核心を持てなかったから、こうして2人だけで逃げた訳だし」
「そうだね。でも遠藤くんには聞きたい事が色々あるんだけどいいかな。」
「いいけど、とりあえずは行き先決めようよ。話は歩きながらでもいいし。」
「わかった。先ずはどこか村に寄りたいかな。地図や食料が必要だしね。」
「了解。じゃあ村がありそうな方に歩こうか?」
「うん。でもこれからどうする?遠藤くんは何か決めてるの?」
「特にないけど、俺は平和に過ごせたらそれでいいなぁ」
「ふふ、魔王がいるんだよ。遠藤くん変なの」
「笑わなくてもいいのに。」
2人は笑いながら村に向かって歩き出した。
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スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
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