上 下
3 / 8

3

しおりを挟む
Bグループが洞窟から出ると、他のグループは既に休憩場所に集まっていた。

しかし、どうにも雰囲気が悪い。
なにやら騒ぎのする方に目を向けると翠川達が兵士に掴みかかっていた。

「ふざけんじゃねえよ!あんなに強いなんて聞いてねえぞ!」

「そうよ!なんなのよあれは!私達は最強の能力だって言ってじゃない!まるで当たらないし…使えないじゃない!」

「見た目もキモいし。マジで最悪なんですけど…私もう絶対に戦わないから。」

翠川、百瀬、大黒の3名が兵士の詰め寄る。

「みんなやめろよ!」

赤崎が兵士との間に割って入った。

「聖…テメェそっちにつくのかよ。ハッお前は良いよなぁ、一人で勝てるような強い能力でよ!俺を見てみろよ!腕がなくなったんだぞ!こんなとこ連れて来られて腕まで無くなってやってられっかよ!」

「それは…」

赤崎は言い返せなくなった。

赤崎は優しい。この場合は魔物を甘く見ていて訓練をしなかった3人が悪い。ただの自業自得だ。
しかし赤崎はその事を口に出来ない。
なぜなら赤崎にとって3人は大切な友達だから。
はあ…仕方ないな

「あの…少しいいかな」
柳原は声をかけた。

「兵士の人達から聞いたけど、Aグループ酷かったんだって。でもさ、それは兵士や赤崎くんにあたるべきじゃないと思うよ。君達のスキルは確かに強い。だけど、今まで訓練しなかったから負けたんじゃないの?現に君達以外のグループは全員大きな怪我もなくミノタウロスに勝っている。訓練をしなかった君達も悪いと思うけど…」

「なんだテメェは急に…自慢かよ。自分達は無傷で勝ちました。お前らより強いぞってか?ふざけんなよ!実際の世界じゃ俺らに怯えてたクズどもが調子に乗りやがって!いい気になってんじゃねえよ。よし、決めた。前の世界に戻ったらテメェの事虐めてやんよ。死にたいって思うくらいにな!精々この世界でイキってろ。俺たちを元の世界に戻すために動きやがれ。」

「おい!そんな言い方ないだろう。」

「聖、テメェもだぞ!1人だけいい気になりやがって。言っとくが俺はもう戦わねぇ。腕がなくなったんだ、元の世界に帰るまでの面倒は見てくれるよなぁ!兵士様よお!お前らがこっちの世界に呼んだせいでこうなってるんだからよ!」

翠川に続き、百瀬と大黒も戦わない意志を示した。
最悪の空気だ。
そんな中思わぬ人物が声を上げた。

「はあ、どうでもいいよそんなやつら。放って置いてさっさとミノタウロスの討伐終わらせましょう。兵士の方々案内お願いします。」

遠藤圭介だ。クラスで頭がよく、誰とでも話してはいるが深くは関わらない。休み時間や弁当の時は必ず1人でいる。おそらく1人が好きなタイプなんだろうといった感じの生徒だ。

「遠藤。お前もなんだ急に。」

「別に。君たちは戦わないんでしょ。それならその話はもう終わりだから戦う人だけでさっさと洞窟行って早く帰りたいなって思っただけだよ。」

「なんだよ。わかってんじゃねえか。それならいい。おい!お前ら!遠藤の言う通り俺様の為にさっさと片付けて来いよ!」

一同は渋々準備を始め洞窟に入って行く。
最後尾に翠川、百瀬、大黒が付いて来ていた。
まるで自分達を守れとでも言わんばかりの態度だ。
しかし

「なんで来てるの?君たちは外にいなよ。早く王宮に帰ったら。着いて来たら危ないよ?」

遠藤がまたしても翠川達に声を掛ける。

「あはは。遠藤くんって頭良いのにちょっと抜けてるね。外にいたら魔物に襲われた時危ないじゃん。みんなに守って貰わないとね。」

百瀬がそう言うとまたしても空気は悪くなった。
当たり前だ。誰だってこんな奴ら守りたくない。

「百瀬さんも面白いこと言うね。戦わないのについて来られたら邪魔じゃん。さっき外でも言ったじゃん。戦う人だけで洞窟いくって…人の話はちゃんと聞きなよ。」

「遠藤くん冗談だよね。私達戦う力ないんだよ。だから怒ってたんじゃん。」

「大黒さんなに言ってるの?スキルがあるでしょ。みんなが訓練している間、サボってたから3人のスキルは訓練時間を補えるほど強力なスキルなんでしょ。羨ましいな。」

「テメェ。調子に乗ってんのか。この腕見てみろよ。片腕ねえんだよ。戦えない俺を守る義務はテメェらにはあるんだよ!」

「じゃあ、これで良いかしら。」

Cグループの堺がそう言うと、回復魔法を使った。
「聖女」のスキルの回復力は凄まじく、なくなっていた腕が元に戻った。

「さっきから貴方達うるさい。私も早く帰りたいんだから邪魔者は帰ってくれない?腕もあるしこれで義務とやらもなくなったでしょ。」

堺京香。頭脳明晰、運動神経抜群。その上、容姿端麗なので1年の時はクラスのマドンナ的存在だった。
しかし、少しきつい性格や人といる事を好まない所から徐々に評判は落ちていった。

「テメェら調子に乗りやがって…」

翠川の右腕が輝き、力が集まっている。
これは「竜覇拳」だ。
いち早く気付いた赤崎が叫ぶ。

「翠川のスキルだ!みんな危ない!」

みんなが岩陰に隠れる。
しかし、2人だけ翠川の前に立ったままだった。
遠藤と堺だ。

「テメェら舐めてんのか?さっきから馬鹿にしやがって!今から俺のスキル喰らわせてやるから逃げんじゃねえぞ!」

そして翠川の拳から「竜覇拳」が放たれた。
済まさじい威力だ。周囲は煙に覆われて、何者かが壁に激突していた。
(ああ…犠牲者が出てしまった。)

しかし煙がはれて現れた人物に驚いた。
なんと壁に埋もれていたには翠川だった。

「へー。凄い威力だね。これなら帰り道くらいなんとかなるでしょ。実演してくれてありがと。」

「そうね。これならそこら辺の魔物は倒せそうだし大丈夫でしょう。」

遠藤と堺はそういうと、瀕死の翠川を全開まで治した。

「なんで…俺が俺の攻撃をくらったんだ…遠藤テメェ!なにしやがった!」


「別にお前がバカ正直に攻撃してくるからお前が攻撃を放った後に俺とお前の位置入れ替えたんだよ。」

治った翠川が遠藤に殴りかかろうとしたが、一瞬で遠く離れた場所に移動させられた。

「無駄な事やめてさっさと帰れ。言っとくけど俺のスキルで洞窟の外に一瞬で出せるからな。次突っかかってきたら飛ばす。せめて自分達の意志で行け。」

遠藤にそう言われると翠川は悔しそうに歯を噛み締めながら外に向かった。百瀬と大黒もその後をついて行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

処理中です...