道草食ってスキル獲得

sou

文字の大きさ
上 下
68 / 99

仕事は暇でもサボりはいけない

しおりを挟む
「今日も平和だねぇ。」

 那覇ギルド職員、山本隆二は窓の外に見える空を眺めていた。

「山本さん、仕事をして下さい。」

 受付の仕事を碌にせず、空を眺めている隆二を同僚の女性職員は叱咤する。

「でもねぇ。どうせ俺が受付したところで誰も来やしねえからな。」

「そんな事ありませんよ。隆二さんの受け持った方は凄い探索者になるって評判なんですから。まあ、同時に態度が悪いって不評もあるんですけど…」

「知ってるよ。草介と茉央が強くなったからそういう噂が流れてんだろ。言っとくけど偶々だからな。俺なんも教えてないし。」

「わかってますよ。それでも探索者の中には貴方の受付に来たがる人もいるんです。そうでなくとも仕事なんですからやって下さい。」

 彼女の言い分はもっともだ。仕事をサボっているのは俺の方なのだから。仕方ねぇ、そろそろ行くか。

 いい加減仕事に戻ろうとすると慌てた様子でこちらに向かい一人の女性職員が走ってくる。

「はぁはぁ、隆二さん!急いで受付に戻って下さい!」

 走ったせいで呼吸が荒れている。

「ほら、お仕事ですよ。良かったじゃないですか。」

「良くねえよ。俺を呼ぶって事はそれだけ受付が混んでるって事だろ。めんどくせぇ。探索者は気が短えからこういう時煩いんだよな。」

「違います!あの人が……榊草介さんが帰って来たんです!隆二さんを呼んでるので早く来て下さい!」

「マジかよ!あいつ帰って来たのか!連絡くらいしろっての。」

 呼びに来た職員と共に駆け足で受付へと向かう。そこには半年前まで頻繁に俺の受付へと通っていた榊草介の姿…そしてその横に知らない女性の姿があった。

「草介、久しぶりだな。ところで……隣の女の子は誰だ?別にお前は独り身だから構わね~んだけど、なんつーかその…茉央がいるんだからその辺、気を使ってやれよ。」

「なに言ってんだ。こいつは氷華のパーティメンバーだよ。次の依頼が来るまで各々自由に過ごす予定だったんだが、氷華に騙されてついてきたんだ。」

「パーティメンバーねぇ。それはわかったが今日は何のようだ?帰って来たばっかでダンジョンに潜りたい訳でもねえだろ。」

 休暇で帰って来ておいて、すぐにダンジョンに潜るわけが無い。他に何か用事があって俺に会いに来たに違いない。

「なあ、この辺にホテルないか?泊まるところがないみたいで…」

「ちょっと…言い方を考えて下さい。恥ずかしい。携帯で調べたんですけどスタンピードの影響でこの辺り全部潰れてるみたいで…ギルドならネットに載ってない探索者専用施設があるので、何処か空いてないかと思いまして。」

「そういう事か。待ってろ、ちょっと探してくる。」

 席を離れ隆二が資料を探しに行く。
 暫くして2枚の資料を持ち受付へと戻って来た。

「この2か所なら空いているが流石に今日すぐに泊まれる訳じゃねえ。出張の探索者用施設だからな…その辺は勘弁してくれ。」

「いえ、ありがとうございます。今日はこの人の家に泊まるので大丈夫です。」

 笑顔で草介を指差す。

「は?なんで俺が…」

「私に野宿しろというんですか?貴方以外知り合いがいないんだから仕方ないでしょう。今日だけでいいので泊めて下さい。」

「絶対嫌だ!」

 ギャーギャーとギルド内で言い争っていると騒ぎを聞きつけ人が集まってくる。
 すると人混みの中から一人の少女が飛び出して来た。

「草介さん…家に泊めるってどういう事ですか?その人一体誰ですか?」

 光のない目で草介を見つめる茉央。
 不思議と感じる威圧感に草介は答えることができなかった。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━
 よろしければお気に入り登録よろしくお願いします!!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

処理中です...