転生した悪役令息は破滅エンドをなかなか回避できない

ハバーシャム

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3年生

転生した悪役令息はようやく破滅エンドを回避した

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「どこから話そうかな……」

 そう言いながら、エチカはマリエラ像の前まで歩いた。なんとなく僕もエチカの後に続く。

「まず、この世界は、本当はぼくが作ったゲームの世界じゃないんだ。厳密には、ぼくの作ったゲームの世界がたまたまここと酷似していたってだけなんだよ」
「えっ……と、どういうこと? 僕たちはゲームの世界に転生したわけじゃないってこと?」

 エチカは僕を見て軽く頷いた。しかし、たまたまほとんど同じ世界を作るなんて、そんな事ありえるのだろうか。

「信じられないよね。ぼくも最初は信じられなかったよ」

 僕の顔を見てか、エチカは笑いながらそう付け足した。

「ぼくの作ったゲームとこの世界はほとんど同じなんだけど、1つだけ違うところがあったんだ。それはぼく……エチカの存在。マリエラの創った世界では、エチカなんて人間はいなかった」

 エチカは淡々と話を続けた。

「ある時、この世界を創造したマリエラは、手違いでマリスに入れるはずの魂を見失ってしまったんだ。前世で僕と君が殺された通り魔事件があったよね?」
「う、うん」

 今でも鮮明に思い出せる。前世でサイン会イベント中に起こった悲劇の事件だ。

「通り魔事件の被害者の魂であることは確かなんだけど、どの被害者の魂だったのかわからなくなっちゃったんだ。だから1人ずつ試すことにした」
「試すって……どうやって?」
「マリエラはもともと時空を司る神だから、マリスがバーバリア学園に入学してから卒業するまでの3年間を繰り返して、魂が適合するかどうか1つずつ確かめたんだ」
「違う魂だったらまた時間を戻してやり直すってこと?」
「そういうこと! それで、今回ようやく君の魂が本当のマリスの魂だったってことが判明したんだよ」

 エチカの話している内容は、次々に線になって形が見えてくる。
 だから僕にはループの記憶が微塵もなかったのだ。この世界で、僕だけがループを経験していないから。

 エチカは話を続けようとまた口を開いた。

「さっき、この世界にエチカはいないと言ったでしょ。マリエラは、自分が創った世界とよく似た世界のゲームを作ったぼくに目をつけて、この世界に呼ぶことにしたんだ。そこでエチカという人間を生み出した。ぼくは文字通り、神の子と書いて神子になったんだ。
 それからぼくはマリエラの操り人形だった。マリエラの指示通りマリスが物語の本筋から離れないように導いて、マリスの中に入っている魂が本当のマリスの魂かどうかを見届けていたんだ」
「マリエラ様の指示って、」
「1年の王宮パーティーではお酒を飲んで中庭に行ったし、学園祭のときは体育倉庫に入った。2年目の学園祭ではカンテミール公爵たちに近づいて賊に襲われるためのフラグを立てた。わざと夜道に文房具屋に寄って奴隷の賊に捕まった」

 エチカは淡々と説明したが、僕にはいささか受け入れ難い内容だった。

「え、ちょっと待ってよ……そんな……それじゃあ僕は今までずっと、エチカの掌の上で転がされてたっていうのか?」
「ぼくの……っていうよりは、マリエラの、かな。ぼくだってこんな……マリスを騙すようなことしたくなかったよ。でも、言おうと思ってもマリエラに口止めされてて言えなかったんだ」

 エチカは申し訳なさそうに、ごめんと呟いた。

 想像してなかった情報量に頭がパンクしそうだ。僕は意味もなく両手で頭を抱えた。

「……林間学校の時は少し焦ったよ。本当はマリスじゃなくてぼくが落ちる予定だったから。だからなのかな、セオがループの記憶を思い出しちゃった」
「ループの記憶といえば……リュゼも思い出していたよ。僕と恋人だったって言ってた」
「あぁ……」

 エチカは苦虫を噛み潰したようような顔をした。

「たしかに、前回のループでマリスはリュゼの恋人だった。しかも、今回と同じくらいうまくいっていたんだ。本当はあの時ループが終わるんだと思ってた。でも、マリスは突然死したんだ」

 エチカは一瞬だけ辛そうな顔をしたが、すぐに元に戻った。

「厳密には突然死じゃなくて、魂が抜けたって感じかな……もしかしたら、魂が元の世界に戻っちゃったのかもね」
「そんなことあるの?」
「さぁ。全てはマリエラのみぞ知る、だからね」

 そう言い、エチカはマリエラの像を小突いた。エチカがマリエラを蹴飛ばしたいと言った理由も、何となくわかってきた。

「リュゼの父……オリヴェール様はやっぱり司教になるだけあって霊感があったんだろうね。唯一ぼくが神の子で、マリエラと繋がっていることに気づいたんだ。
 オリヴェール様はすぐにぼくを養子にし、彼なりにサポートしてくれた。表向きはマリエラ神から授かった癒しの力がある神子として、ぼくとマリエラ神が直接繋がっていることを隠してくれたんだ」
「す、すごいな。さすがは司教様……」
「本当にね。オリヴェール様の霊感はこのぼくが保証するよ」

 エチカは得意げに胸を張った。育ての親が褒められ、嬉しそうに頬を染める。

「大体全部話せたかなぁ。マリエラから詳しく説明してあげてって言われたからさ。ほーんと、全部人任せなんだから」

 ちくちくと棘のある声で、マリエラ像に文句を垂れる。エチカのこんな姿を見たら、アンドレア先生は卒倒するだろう。

「今もマリエラ様の声は聞こえるの?」
「ううん。もう役目は終わったから聞こえない」

 エチカはぶっきらぼうに答えた。

「そっか……なんだかちょっと寂しいね」

 窓は開いていないというのに、どこかから吹き込んだ柔らかい風が僕の頬を撫でた。

 窓の隙間から差し込む月光がマリエラ像とエチカを照らす。エチカはとびっきりの笑顔で、

「ぜーんぜん。神様なんてね、声が聞こえないくらいがちょうどいいんだよ!」

 と、マリエラ像を蹴りつけた。
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