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3年生
旅立ち
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新学期が始まり、あっという間に2ヶ月が過ぎ去った。いよいよ明日、僕はバーバリア学園を卒業する。
部屋の片付けや掃除をして、寮を出ていく準備をする。3年間お世話になったこの部屋とも明日でお別れだ。
リュゼは卒業式でするスピーチの練習をしていた。僕は皆よりも一足先に、リュゼのスピーチを5回も聞く事ができた。これは同室者の特権だ。
翌日、僕たちの卒業式は、昨年の卒業式よりはやや劣りはするが大いに盛り上がった。
あちこちで鼻を啜る音や嗚咽が聞こえる。リュゼのスピーチは大成功だった。
式が終わって一旦解散した後は、卒業パーティーが行われる。
パーティーの時間になるまで寮で休もうと思い廊下を歩いていると、不意に横から呼び止められた。
「久しぶりだね、マリス」
「え、フィオーネ様……フィオーネ殿下!?」
フィオーネは髪が伸びてきたのか、絹のような綺麗な金髪を後ろで1つにまとめていた。
「殿下なんて言い直さなくても大丈夫だよ」
「申し訳ありません、フィオーネ様。でも、どうしてここに?」
「マリスに卒業おめでとうって言いたくて来たんだ」
フィオーネはにこりと笑った。
「そんなわざわざ……ありがとうございます」
幸い廊下には誰もいないが、フィオーネと2人で話しているところを見られたら面倒くさいことになりそうなので、僕の部屋に移動することにした。
すっかり生活感のなくなった部屋の、元々備え付けられているソファに腰を下ろす。
「……最後に会った時、話がしたいと言ってくれたよね。それなのにこんなことになってしまって申し訳なかった」
「いえ、フィオーネ様は悪くないですよ」
僕の言葉に、フィオーネはゆるく首を振った。
「この前のことだけじゃない。マリスとの婚約がなくなってから、ちゃんと自分と向き合ったんだ。俺は今までマリスに酷い事をしてきたんだって……今更ようやく理解したよ」
「フィオーネ様、そんな……」
「許してほしいなんて言わない。けど、謝罪はさせてほしい。今まで本当に申し訳なかった」
フィオーネが深々と頭を下げる。一国の王子が僕に向かって頭を下げる姿は、かなり衝撃的だった。
「フィオーネ様、頭を上げてください!」
「ごめん、本当に……」
フィオーネはゆっくりと頭を上げて、心底申し訳なさそうな顔で僕を見つめる。
「あの、僕……フィオーネ様のこと、たしかに何度も嫌だって思いました。だけど、それと同じくらい楽しかった思い出もあります。
烏滸がましいかもしれませんが、フィオーネ様の事は家族のように思っておりました。だからこそ、酷いことをされたらすごくショックだったし、優しくされたらとても嬉しかったです」
僕は、言いながら自分が転生したのだと自覚する前のマリスの記憶を思い出していた。
「フィオーネ様には謝ってほしいことだってたくさんあります。それと同時に、感謝の気持ちもたくさんあるんです。
今までのこと、許すとか許さないとか、そんな一言では片付けられないくらい僕たちにはいろんなことがあったと思っています」
心の中にあったものを全て吐き出す。いろんな思いが交錯して、涙が出そうになる。
「そう……ありがとう、マリス。君の気持ちを聞けてよかった」
そう言うフィオーネの声は震えていて、瞬きすれば溢れそうなくらい瞳は潤んでいた。
フィオーネは人差し指で涙を拭い、再び僕に微笑みかけた。
「王宮は出禁ということになっているけど、法的な効力があるわけではないんだ。だから、何かあったら気軽に俺を頼ってくれると嬉しいな」
「そんな、フィオーネ様もお忙しいのに」
「いいんだ。その方がマリスに会える口実にもなるしね。そういえば、マリスは今もセオの事が好きなの?」
突然のセオという単語に心臓が跳ねる。
「あ、はい……あの、好きです」
心臓がドキドキとうるさくなる。フィオーネにセオリアスの話をするのは少しだけ気まずかった。
フィオーネはふっ、と小さく笑った。
「いつまでも待っているから、セオが嫌になったら俺のところにおいで。それじゃあね、卒業パーティー楽しんで」
フィオーネはそう言って部屋から出て行った。
1人になった静かな部屋で、しばらくぼうっとする。このソファにこうやって座るのも、今日で最後なのだ。
部屋の片付けや掃除をして、寮を出ていく準備をする。3年間お世話になったこの部屋とも明日でお別れだ。
リュゼは卒業式でするスピーチの練習をしていた。僕は皆よりも一足先に、リュゼのスピーチを5回も聞く事ができた。これは同室者の特権だ。
翌日、僕たちの卒業式は、昨年の卒業式よりはやや劣りはするが大いに盛り上がった。
あちこちで鼻を啜る音や嗚咽が聞こえる。リュゼのスピーチは大成功だった。
式が終わって一旦解散した後は、卒業パーティーが行われる。
パーティーの時間になるまで寮で休もうと思い廊下を歩いていると、不意に横から呼び止められた。
「久しぶりだね、マリス」
「え、フィオーネ様……フィオーネ殿下!?」
フィオーネは髪が伸びてきたのか、絹のような綺麗な金髪を後ろで1つにまとめていた。
「殿下なんて言い直さなくても大丈夫だよ」
「申し訳ありません、フィオーネ様。でも、どうしてここに?」
「マリスに卒業おめでとうって言いたくて来たんだ」
フィオーネはにこりと笑った。
「そんなわざわざ……ありがとうございます」
幸い廊下には誰もいないが、フィオーネと2人で話しているところを見られたら面倒くさいことになりそうなので、僕の部屋に移動することにした。
すっかり生活感のなくなった部屋の、元々備え付けられているソファに腰を下ろす。
「……最後に会った時、話がしたいと言ってくれたよね。それなのにこんなことになってしまって申し訳なかった」
「いえ、フィオーネ様は悪くないですよ」
僕の言葉に、フィオーネはゆるく首を振った。
「この前のことだけじゃない。マリスとの婚約がなくなってから、ちゃんと自分と向き合ったんだ。俺は今までマリスに酷い事をしてきたんだって……今更ようやく理解したよ」
「フィオーネ様、そんな……」
「許してほしいなんて言わない。けど、謝罪はさせてほしい。今まで本当に申し訳なかった」
フィオーネが深々と頭を下げる。一国の王子が僕に向かって頭を下げる姿は、かなり衝撃的だった。
「フィオーネ様、頭を上げてください!」
「ごめん、本当に……」
フィオーネはゆっくりと頭を上げて、心底申し訳なさそうな顔で僕を見つめる。
「あの、僕……フィオーネ様のこと、たしかに何度も嫌だって思いました。だけど、それと同じくらい楽しかった思い出もあります。
烏滸がましいかもしれませんが、フィオーネ様の事は家族のように思っておりました。だからこそ、酷いことをされたらすごくショックだったし、優しくされたらとても嬉しかったです」
僕は、言いながら自分が転生したのだと自覚する前のマリスの記憶を思い出していた。
「フィオーネ様には謝ってほしいことだってたくさんあります。それと同時に、感謝の気持ちもたくさんあるんです。
今までのこと、許すとか許さないとか、そんな一言では片付けられないくらい僕たちにはいろんなことがあったと思っています」
心の中にあったものを全て吐き出す。いろんな思いが交錯して、涙が出そうになる。
「そう……ありがとう、マリス。君の気持ちを聞けてよかった」
そう言うフィオーネの声は震えていて、瞬きすれば溢れそうなくらい瞳は潤んでいた。
フィオーネは人差し指で涙を拭い、再び僕に微笑みかけた。
「王宮は出禁ということになっているけど、法的な効力があるわけではないんだ。だから、何かあったら気軽に俺を頼ってくれると嬉しいな」
「そんな、フィオーネ様もお忙しいのに」
「いいんだ。その方がマリスに会える口実にもなるしね。そういえば、マリスは今もセオの事が好きなの?」
突然のセオという単語に心臓が跳ねる。
「あ、はい……あの、好きです」
心臓がドキドキとうるさくなる。フィオーネにセオリアスの話をするのは少しだけ気まずかった。
フィオーネはふっ、と小さく笑った。
「いつまでも待っているから、セオが嫌になったら俺のところにおいで。それじゃあね、卒業パーティー楽しんで」
フィオーネはそう言って部屋から出て行った。
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