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3年生
緊張
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それから僕たち家族は1日中、今後について話し合った。
父は、奴隷として奴隷商人のもとに閉じ込めていた人々や貴族に買われてしまった人々を解放し、爵位を返上するつもりだと言った。
また、爵位返上後はできる限りのケアとサポートをしたいと語った。母がやってきたことを、また一からやり直すらしい。
兄は、これから傾くであろうアスムベルク領の運営を続け、領民の生活を良くするために尽くすと言っていた。
後日、国王とアスムベルク家、カンテミール家の人身売買の問題は大々的に新聞に載った。
王の社会的信頼を失墜させた僕は王宮出禁となり、フィオーネとの婚約もあっさりと解消された。
セオリアスは機密文書を公開した事により一部職業への就業制限がつくことになった。
一部職業とは、王宮騎士や宰相のような、いわゆる公務員的な仕事のことだろう。
グランは王位継承権が4位に下がったらしい。
僕とエチカを誘拐した誘拐犯たちは、改めて2年の禁固刑を言い渡され、イェルグとヤンは5年の禁錮刑となった。
国側はこの問題を早く終わらせたいみたいで、夏休みの間に異例のスピード解決をした。
学校についても、そのまま通っていいことになった。アスムベルク先生が僕たちの為に手を回してくれたらしい。
アスムベルク先生だけじゃなくて、エチカやリュゼも協力してくれていたようだった。
カミールは「何かあったらいつでも私の国に移住してくれ」と言ってくれた。
たくさんの人が僕にしてくれたことが嬉しくて、空っぽだったものが一気に満たされたような幸福感でいっぱいになった。
そんなこんなで、あっという間に冬を迎えた。
王宮出禁となった僕は、いまだにきちんとフィオーネと話せていない。
最後に見たフィオーネのあの切なげな表情からして、僕たちはもう会えないのだということを悟っていたのだろう。
あんなに嫌だったのに、こんな風に別れの言葉さえ告げられずに縁を切られてしまい、釈然としない気持ちだけが残った。
冬の長期休暇は原則として実家に帰省しなければならないが、僕とセオリアスは学園で生活するように言われた。
最後の長期休暇ということもあり、ほとぼりが完全に冷めるまでは無闇矢鱈に出歩くなという事らしい。
他にも家庭の事情で寮に残る生徒はちらほらいた。
完全に2人きりというわけではないが、それでもこんなに閑散とした学園内は新鮮だ。
昼食を済ませた後、僕はセオリアスの部屋を訪れていた。
「あと3ヶ月で卒業だね」
「そうだな」
セオリアスが淹れてくれた紅茶を口に運ぶ。室内とはいえ寒い空気に、身体の中から温まる感覚がする。
今日僕がセオリアスの部屋を訪れたのには理由があった。それは、僕とセオリアスの関係についてはっきりさせるためだ。
たしかに僕はセオリアスに、フィオーネとの婚約が解消されたら恋人になってくれと言った。
だが、あんな形で婚約破棄されてしまい、空虚さに苛まれていた僕は、今までこの話題に触れる事を避けていたのだった。
「セオリアス、その……」
「どうした?」
歯切れの悪い僕に、セオリアスが気遣わしげな顔をする。
「その……僕たちって、今……えっと、こ、恋人って事でいい、のかな」
言っている最中に恥ずかしくなって、顔がどんどん熱くなる。冬だというのに、額がじんわりと汗ばんできた。
「俺は……」
なかなか続きを言わないセオリアスの方をチラリと見れば、セオリアスは耳まで真っ赤にさせていた。
「マリスの恋人になりたいよ」
セオリアスに真っ直ぐに見つめられ、危うく手に持っていたカップを落としそうになるくらい心臓がドキドキとうるさい。
さっき水分をとったばかりなのに、喉がカラカラに渇いている。
「あ、えっと、じゃあ改めてよろしく……」
「あぁ……」
この間にセオリアスは紅茶を3杯も注いでいた。
父は、奴隷として奴隷商人のもとに閉じ込めていた人々や貴族に買われてしまった人々を解放し、爵位を返上するつもりだと言った。
また、爵位返上後はできる限りのケアとサポートをしたいと語った。母がやってきたことを、また一からやり直すらしい。
兄は、これから傾くであろうアスムベルク領の運営を続け、領民の生活を良くするために尽くすと言っていた。
後日、国王とアスムベルク家、カンテミール家の人身売買の問題は大々的に新聞に載った。
王の社会的信頼を失墜させた僕は王宮出禁となり、フィオーネとの婚約もあっさりと解消された。
セオリアスは機密文書を公開した事により一部職業への就業制限がつくことになった。
一部職業とは、王宮騎士や宰相のような、いわゆる公務員的な仕事のことだろう。
グランは王位継承権が4位に下がったらしい。
僕とエチカを誘拐した誘拐犯たちは、改めて2年の禁固刑を言い渡され、イェルグとヤンは5年の禁錮刑となった。
国側はこの問題を早く終わらせたいみたいで、夏休みの間に異例のスピード解決をした。
学校についても、そのまま通っていいことになった。アスムベルク先生が僕たちの為に手を回してくれたらしい。
アスムベルク先生だけじゃなくて、エチカやリュゼも協力してくれていたようだった。
カミールは「何かあったらいつでも私の国に移住してくれ」と言ってくれた。
たくさんの人が僕にしてくれたことが嬉しくて、空っぽだったものが一気に満たされたような幸福感でいっぱいになった。
そんなこんなで、あっという間に冬を迎えた。
王宮出禁となった僕は、いまだにきちんとフィオーネと話せていない。
最後に見たフィオーネのあの切なげな表情からして、僕たちはもう会えないのだということを悟っていたのだろう。
あんなに嫌だったのに、こんな風に別れの言葉さえ告げられずに縁を切られてしまい、釈然としない気持ちだけが残った。
冬の長期休暇は原則として実家に帰省しなければならないが、僕とセオリアスは学園で生活するように言われた。
最後の長期休暇ということもあり、ほとぼりが完全に冷めるまでは無闇矢鱈に出歩くなという事らしい。
他にも家庭の事情で寮に残る生徒はちらほらいた。
完全に2人きりというわけではないが、それでもこんなに閑散とした学園内は新鮮だ。
昼食を済ませた後、僕はセオリアスの部屋を訪れていた。
「あと3ヶ月で卒業だね」
「そうだな」
セオリアスが淹れてくれた紅茶を口に運ぶ。室内とはいえ寒い空気に、身体の中から温まる感覚がする。
今日僕がセオリアスの部屋を訪れたのには理由があった。それは、僕とセオリアスの関係についてはっきりさせるためだ。
たしかに僕はセオリアスに、フィオーネとの婚約が解消されたら恋人になってくれと言った。
だが、あんな形で婚約破棄されてしまい、空虚さに苛まれていた僕は、今までこの話題に触れる事を避けていたのだった。
「セオリアス、その……」
「どうした?」
歯切れの悪い僕に、セオリアスが気遣わしげな顔をする。
「その……僕たちって、今……えっと、こ、恋人って事でいい、のかな」
言っている最中に恥ずかしくなって、顔がどんどん熱くなる。冬だというのに、額がじんわりと汗ばんできた。
「俺は……」
なかなか続きを言わないセオリアスの方をチラリと見れば、セオリアスは耳まで真っ赤にさせていた。
「マリスの恋人になりたいよ」
セオリアスに真っ直ぐに見つめられ、危うく手に持っていたカップを落としそうになるくらい心臓がドキドキとうるさい。
さっき水分をとったばかりなのに、喉がカラカラに渇いている。
「あ、えっと、じゃあ改めてよろしく……」
「あぁ……」
この間にセオリアスは紅茶を3杯も注いでいた。
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