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3年生

ディクショニア王国の死刑騒動

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「勝手な真似はするな!」
「証拠がないじゃないか!」

 案の定、処刑場はざわめきに包まれ、最前列にいる国民の誰かが野次を飛ばした。この野次は想定内だったが、今僕が国民に示せる証拠はここには無い。

 僕の言葉だけで世論を動かさなければならないだが、国民の強い目線に早くも心が折れそうになる。

「聞いてください! 僕は彼らを許した訳ではありません! しかし、死刑はやりすぎだと思っています。生きてしっかり罪を償ってもらいたいのです!
 それに僕は、彼らを奴隷にしてしまった張本人であるエルランドの息子であり、被害者であると同時に加害者でもあります。彼らだけが悪いのではありません!」

 僕の中にある精一杯の思いを国民にぶつける。僕は浅くなった呼吸を整えるために深呼吸をした。

 グランの様子を窺うと、そろそろグランも限界に近いようだった。

(ここまでか……?)

 僕の脳裏に「諦め」という言葉がちらついた、その時だった。

「マリス!!」

 セオリアスが国民をかき分け最前に出た。僕の隣まで来たセオリアスの手には、2枚の紙が握られていた。

「証拠ならここにある! これはカンテミール家とアスムベルク家、そして王族であるディクショニア家が結んだ人身売買の契約書だ!!」

 セオリアスが2枚の紙を掲げた。国民たちは近くまで見に来ようと、セオリアスの方に押し寄せた。

 騎士たちが、雪崩が起きないよう必死に食い止めている。

「本物だ!」

 最前にいた国民の誰かが叫んだ。

「本物の契約書だ! 人身売買は本当にあったんだ!!」

 野次が伝染し、人伝いにセオリアスの持ってきた証拠が本物だと証明される。

「死刑はやめろ!」

 1人が声を上げれば、何倍もの声が後に続く。「死刑はやめろ」のシュプレヒコールが始まった。

「国民の皆様!」

 突如、凛とした声が処刑場に響き、一瞬だけ時が止まったかのように静まった。

 声の主はフィオーネだった。フィオーネが処刑の壇上に上がり、僕とセオリアスのすぐ側まで来る。

 フィオーネは僕たちに目もくれず、真っ直ぐと国民の方を向いていた。

「この度はお騒がせして申し訳ない。今回の死刑は、ディクショニア王国第一王子フィオーネ・ディクショニアの命により、中止とする!」

 真っ直ぐはっきりとしたフィオーネの声が、処刑場に貫かれる。

「今日の事については、後日新聞にて報告する。解散!」

 国民たちの勢いも段々と力が弱くなっていき、その場は解散となった。

「っ……」

 ぞろぞろと王宮を出ていく国民たちを眺めていくうちに、僕の足の力が抜ける。

「マリス、大丈夫か」

 セオリアスが僕の腕を支えてくれて、なんとか立ち上がる。

「ありがとう……本当に」
「いいんだ」

 フィオーネは無駄な動きなく王宮騎士たちに片付けの指示を出していた。
 くるりと僕たちの方に向き直り、真剣な眼差しを僕たちに向ける。

「マリス・アスムベルク、セオリアス・カンテミール。君たちにはこの後正式な処罰が下るから覚悟しておいてくれ」
「はい」

 フィオーネの事務的な宣告に、僕とセオリアスは声を揃えて返事をした。
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