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3年生
明日なんか
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翌日から、学校でセオリアスの姿を見かけることはなくなった。
僕の見張りも強化するとは言っていたが、せいぜいルシスの迎えの時間が早くなる程度で済んだ。
処刑まであと2週間しかなく、王宮内もバタバタし始めている。
直前になってしまったが、僕は兄に手紙で伝える事にした。
国民が最も一箇所に集まるであろう処刑の日に、僕は奴隷の事を国民に話す、と。
手紙がルシスに見つかったら中身を確認されてしまうかもしれないので、エチカに頼んで出してもらうことにした。
僕は毎日、言うべき事を紙にまとめて脳内シミュレーションをした。失敗したら、イェルグとヤンは死んでしまう。
そんなこんなであっという間に時間が経ち、とうとう処刑の前日になってしまった。
(明日は騎士も国王もフィオーネも皆処刑場に注意が行くはず。隙を見てこの部屋から脱出しなければ)
心臓がずっとドキドキしている。決行は明日の午前中だ。失敗は許されない。
ベッドに腰掛け深呼吸を繰り返す。
(セオリアス……)
「また話そう」と言ってから今日まで1度も話すことは叶わなかった。
(会いたいよ……)
不安でたまらない気持ちで胸が落ち潰されそうだった。一目でいいから会って話がしたい。
明日が終われば会えるだろうか。明日なんか早く終わってしまえばいいのに。
不意に、ノックもせずにドアが開いた。
「え……」
部屋に入ってきたフィオーネは、目の下に大きなくまをつくって明らかにやつれていた。
綺麗な服も着崩れていて、第一ボタンが開いている。
フィオーネはふらふらと僕のところまできて、僕の隣に腰掛けると、寄りかかるように抱きついた。
「ごめん、マリス。勝手に……」
「い、いえ。それより大丈夫ですか?」
フィオーネがこんなにやつれた顔をしているのは初めて見た。
「大丈夫じゃない」
フィオーネの声は少し震えていた。少しでも落ち着くように、僕はフィオーネの背中をさする。
「明日、遂に国が人を殺すんだ」
フィオーネは震える声でぽそりと呟いた。改めてフィオーネの口から聞こえる小さな言葉に、思い切り背中を叩かれたような衝撃が波か走る。
「今日、初めて人を殺すための手続きを終えた」
フィオーネはこの国の第一王子で、学校を卒業さえしたが、まだ19歳だ。日本だったらまだお酒だって飲めない年齢の子供なのだ。
「だから僕、ずっと反対だったんですよ」
僕の言葉を聞いたフィオーネの手にきゅ、と力が入る。
「人を殺すって簡単な事じゃないです」
「……マリスの言う通りだな。どうして今日まで気がつかなかったんだろう」
フィオーネは自嘲気味に呟いた。
「明日なんか来なければいいのに」
しばらく僕は、僕の肩に顔を埋めるフィオーネの背中を優しくさすることしかできなかった。
動かなくなったフィオーネの小さな呼吸音が聞こえる。てっきり寝たのかと思ったが、少ししたらフィオーネは体を起こした。
「すまない。本当にありがとう。明日、マリスの事はちゃんと解放するから」
そう言い残してフィオーネは部屋から出ていった。もう夜だというのに、フィオーネはまだまだ忙しそうだった。
僕の見張りも強化するとは言っていたが、せいぜいルシスの迎えの時間が早くなる程度で済んだ。
処刑まであと2週間しかなく、王宮内もバタバタし始めている。
直前になってしまったが、僕は兄に手紙で伝える事にした。
国民が最も一箇所に集まるであろう処刑の日に、僕は奴隷の事を国民に話す、と。
手紙がルシスに見つかったら中身を確認されてしまうかもしれないので、エチカに頼んで出してもらうことにした。
僕は毎日、言うべき事を紙にまとめて脳内シミュレーションをした。失敗したら、イェルグとヤンは死んでしまう。
そんなこんなであっという間に時間が経ち、とうとう処刑の前日になってしまった。
(明日は騎士も国王もフィオーネも皆処刑場に注意が行くはず。隙を見てこの部屋から脱出しなければ)
心臓がずっとドキドキしている。決行は明日の午前中だ。失敗は許されない。
ベッドに腰掛け深呼吸を繰り返す。
(セオリアス……)
「また話そう」と言ってから今日まで1度も話すことは叶わなかった。
(会いたいよ……)
不安でたまらない気持ちで胸が落ち潰されそうだった。一目でいいから会って話がしたい。
明日が終われば会えるだろうか。明日なんか早く終わってしまえばいいのに。
不意に、ノックもせずにドアが開いた。
「え……」
部屋に入ってきたフィオーネは、目の下に大きなくまをつくって明らかにやつれていた。
綺麗な服も着崩れていて、第一ボタンが開いている。
フィオーネはふらふらと僕のところまできて、僕の隣に腰掛けると、寄りかかるように抱きついた。
「ごめん、マリス。勝手に……」
「い、いえ。それより大丈夫ですか?」
フィオーネがこんなにやつれた顔をしているのは初めて見た。
「大丈夫じゃない」
フィオーネの声は少し震えていた。少しでも落ち着くように、僕はフィオーネの背中をさする。
「明日、遂に国が人を殺すんだ」
フィオーネは震える声でぽそりと呟いた。改めてフィオーネの口から聞こえる小さな言葉に、思い切り背中を叩かれたような衝撃が波か走る。
「今日、初めて人を殺すための手続きを終えた」
フィオーネはこの国の第一王子で、学校を卒業さえしたが、まだ19歳だ。日本だったらまだお酒だって飲めない年齢の子供なのだ。
「だから僕、ずっと反対だったんですよ」
僕の言葉を聞いたフィオーネの手にきゅ、と力が入る。
「人を殺すって簡単な事じゃないです」
「……マリスの言う通りだな。どうして今日まで気がつかなかったんだろう」
フィオーネは自嘲気味に呟いた。
「明日なんか来なければいいのに」
しばらく僕は、僕の肩に顔を埋めるフィオーネの背中を優しくさすることしかできなかった。
動かなくなったフィオーネの小さな呼吸音が聞こえる。てっきり寝たのかと思ったが、少ししたらフィオーネは体を起こした。
「すまない。本当にありがとう。明日、マリスの事はちゃんと解放するから」
そう言い残してフィオーネは部屋から出ていった。もう夜だというのに、フィオーネはまだまだ忙しそうだった。
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