108 / 120
3年生
同じ事考えてた
しおりを挟む
王宮からルシスの送り迎えでバーバリア学園に通う生活にも慣れ始めてきた。
僕は漠然と日々を過ごしていて、処刑の日まで刻々と迫っていることに焦りを感じている。
今日もいつものように放課後を迎え、鞄に教科書を詰めて玄関ホールへと急いだ。
(あれ……?)
玄関ホールの雰囲気がいつもと違う。人だかりはないものの、ホールにいる生徒たちの熱を帯びた視線がある一点に集まっていた。
「あ!」
皆の視線の先には、壁に寄りかかり佇んでいるセオリアスの姿があった。
僕がセオリアスの方へ行くと、セオリアスはすぐに僕に気づいた。
「セオリアス! 珍しいねこんな所にいるなんて。なんか目立ってるけど……」
「マリスを待ってたんだよ」
「ぼ、僕を?」
不意に真剣な顔で見つめられ、心臓がドキドキと高鳴る。ここが玄関ホールで、しかも今の僕たちがかなり目立っているのだということも忘れてしまいそうだった。
「あぁ」
セオリアスは軽く頷くと、顔を僕に近寄せてきた。
「へ、え、ちょっ」
「話がある。テラスに移動できるか?」
小さな声で耳打ちされる。僕の顔はみるみるうちに熱が集中してきて、汗も噴き出てきた。
「あ、うん……でも迎えの人が来てるかもしれないから、ちょっと校門まで行ってくるね」
「わかっ……いや、悪いが俺も一緒に行っていいか? ここは少し……居心地が悪い」
「いいよ! 一緒に行こう」
「悪いな、助かる」
セオリアスと玄関ホールから校門までの広く長い道を、少し早歩きで進む。
「あれ?」
校門の前には、いつもの馬車は止まっていなかった。
門から顔を出して辺りを見回すが、王宮仕様の白い馬車は見当たらない。
「珍しいな。ま、いっか」
「大丈夫なのか?」
「うん。テラスに行こう」
僕たちは来た道を引き返して、寮にあるテラスへと移動した。
空いている席に腰を下ろし、机を挟んでセオリアスと向かい合う。
「マリス。明後日が過ぎれば、処刑まであと1か月になる」
セオリアスは、少しだけ声のトーンを落ち着けて言った。
「もう、そんなに……」
「あぁ。もう時間が少ししかない。それで考えたんだが、俺、皆の前で父のことを全て話してしまおうと思うんだ」
「え!?」
セオリアスの言葉に、僕は目を見開いた。僕と全く同じ事を考えているではないか。
「死刑だけでもやめさせたいんだ。奴らの生い立ちや苦労を知れば、死刑に反対する国民だって増えてくる。そうすれば、国は死刑を取りやめるかもしれない」
「セオリアス。実はね、僕も全く同じ事を考えてたんだ」
セオリアスは、先ほどの僕と同じように目を丸くさせた。
「僕も、それはすごく良いアイデアだとは思うんだ。だけど……」
「……あぁ、そうだな」
セオリアスは静かに相槌を打った。
僕とセオリアスの懸念点は、きっと同じところにある。
特に、カンテミール家は『公爵』なのだ。僕の知識が正しければ、この爵位は王族の親戚でないと与えられない。
きっとセオリアスは、失うものが僕よりも大きいだろう。
「セオリアスはいいんだ。僕が皆の前で言う」
「だが」
「もしかしたら、芋づる式にカンテミール公爵のことも調べられちゃうかもしれないしさ、どっちが言っても変わらないよ」
「マリス」
「まずは僕が皆の前で、僕の父の事や奴隷について、ちゃんと説明する」
セオリアスはまだ納得してなさそうな顔をしていた。
「ただ、証拠がないんだ。実際に悪事はあったのかっていう明確な……証……」
不意に、カツンカツンと靴底が地面を叩く音が、テラス空間に響いて外に広がった。
「今の会話は一体どういうことですか?」
背後から、学園内では聞き馴染みのない、最近嫌という程よく聞く声が聞こえてきた。
僕は漠然と日々を過ごしていて、処刑の日まで刻々と迫っていることに焦りを感じている。
今日もいつものように放課後を迎え、鞄に教科書を詰めて玄関ホールへと急いだ。
(あれ……?)
玄関ホールの雰囲気がいつもと違う。人だかりはないものの、ホールにいる生徒たちの熱を帯びた視線がある一点に集まっていた。
「あ!」
皆の視線の先には、壁に寄りかかり佇んでいるセオリアスの姿があった。
僕がセオリアスの方へ行くと、セオリアスはすぐに僕に気づいた。
「セオリアス! 珍しいねこんな所にいるなんて。なんか目立ってるけど……」
「マリスを待ってたんだよ」
「ぼ、僕を?」
不意に真剣な顔で見つめられ、心臓がドキドキと高鳴る。ここが玄関ホールで、しかも今の僕たちがかなり目立っているのだということも忘れてしまいそうだった。
「あぁ」
セオリアスは軽く頷くと、顔を僕に近寄せてきた。
「へ、え、ちょっ」
「話がある。テラスに移動できるか?」
小さな声で耳打ちされる。僕の顔はみるみるうちに熱が集中してきて、汗も噴き出てきた。
「あ、うん……でも迎えの人が来てるかもしれないから、ちょっと校門まで行ってくるね」
「わかっ……いや、悪いが俺も一緒に行っていいか? ここは少し……居心地が悪い」
「いいよ! 一緒に行こう」
「悪いな、助かる」
セオリアスと玄関ホールから校門までの広く長い道を、少し早歩きで進む。
「あれ?」
校門の前には、いつもの馬車は止まっていなかった。
門から顔を出して辺りを見回すが、王宮仕様の白い馬車は見当たらない。
「珍しいな。ま、いっか」
「大丈夫なのか?」
「うん。テラスに行こう」
僕たちは来た道を引き返して、寮にあるテラスへと移動した。
空いている席に腰を下ろし、机を挟んでセオリアスと向かい合う。
「マリス。明後日が過ぎれば、処刑まであと1か月になる」
セオリアスは、少しだけ声のトーンを落ち着けて言った。
「もう、そんなに……」
「あぁ。もう時間が少ししかない。それで考えたんだが、俺、皆の前で父のことを全て話してしまおうと思うんだ」
「え!?」
セオリアスの言葉に、僕は目を見開いた。僕と全く同じ事を考えているではないか。
「死刑だけでもやめさせたいんだ。奴らの生い立ちや苦労を知れば、死刑に反対する国民だって増えてくる。そうすれば、国は死刑を取りやめるかもしれない」
「セオリアス。実はね、僕も全く同じ事を考えてたんだ」
セオリアスは、先ほどの僕と同じように目を丸くさせた。
「僕も、それはすごく良いアイデアだとは思うんだ。だけど……」
「……あぁ、そうだな」
セオリアスは静かに相槌を打った。
僕とセオリアスの懸念点は、きっと同じところにある。
特に、カンテミール家は『公爵』なのだ。僕の知識が正しければ、この爵位は王族の親戚でないと与えられない。
きっとセオリアスは、失うものが僕よりも大きいだろう。
「セオリアスはいいんだ。僕が皆の前で言う」
「だが」
「もしかしたら、芋づる式にカンテミール公爵のことも調べられちゃうかもしれないしさ、どっちが言っても変わらないよ」
「マリス」
「まずは僕が皆の前で、僕の父の事や奴隷について、ちゃんと説明する」
セオリアスはまだ納得してなさそうな顔をしていた。
「ただ、証拠がないんだ。実際に悪事はあったのかっていう明確な……証……」
不意に、カツンカツンと靴底が地面を叩く音が、テラス空間に響いて外に広がった。
「今の会話は一体どういうことですか?」
背後から、学園内では聞き馴染みのない、最近嫌という程よく聞く声が聞こえてきた。
11
お気に入りに追加
413
あなたにおすすめの小説

BLゲームのモブに転生したので壁になろうと思います
雪
BL
前世の記憶を持ったまま異世界に転生!
しかも転生先が前世で死ぬ直前に買ったBLゲームの世界で....!?
モブだったので安心して壁になろうとしたのだが....?
ゆっくり更新です。
推しのために、モブの俺は悪役令息に成り代わることに決めました!
華抹茶
BL
ある日突然、超強火のオタクだった前世の記憶が蘇った伯爵令息のエルバート。しかも今の自分は大好きだったBLゲームのモブだと気が付いた彼は、このままだと最推しの悪役令息が不幸な未来を迎えることも思い出す。そこで最推しに代わって自分が悪役令息になるためエルバートは猛勉強してゲームの舞台となる学園に入学し、悪役令息として振舞い始める。その結果、主人公やメインキャラクター達には目の敵にされ嫌われ生活を送る彼だけど、何故か最推しだけはエルバートに接近してきて――クールビューティ公爵令息と猪突猛進モブのハイテンションコミカルBLファンタジー!
転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!
梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。
あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。
突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。
何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……?
人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。
僕って最低最悪な王子じゃん!?
このままだと、破滅的未来しか残ってないし!
心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!?
これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!?
前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー!
騎士×王子の王道カップリングでお送りします。
第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。
本当にありがとうございます!!
※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。

嫌われ変異番の俺が幸せになるまで
深凪雪花
BL
候爵令息フィルリート・ザエノスは、王太子から婚約破棄されたことをきっかけに前世(お花屋で働いていた椿山香介)としての記憶を思い出す。そしてそれが原因なのか、義兄ユージスの『運命の番』に変異してしまった。
即結婚することになるが、記憶を取り戻す前のフィルリートはユージスのことを散々見下していたため、ユージスからの好感度はマイナススタート。冷たくされるが、子どもが欲しいだけのフィルリートは気にせず自由気ままに過ごす。
しかし人格の代わったフィルリートをユージスは次第に溺愛するようになり……?
※★は性描写ありです。
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。
婚約破棄された俺の農業異世界生活
深山恐竜
BL
「もう一度婚約してくれ」
冤罪で婚約破棄された俺の中身は、異世界転生した農学専攻の大学生!
庶民になって好きなだけ農業に勤しんでいたら、いつの間にか「畑の賢者」と呼ばれていた。
そこに皇子からの迎えが来て復縁を求められる。
皇子の魔の手から逃げ回ってると、幼馴染みの神官が‥。
(ムーンライトノベルズ様、fujossy様にも掲載中)
(第四回fujossy小説大賞エントリー中)

悪役のはずだった二人の十年間
海野璃音
BL
第三王子の誕生会に呼ばれた主人公。そこで自分が悪役モブであることに気づく。そして、目の前に居る第三王子がラスボス系な悪役である事も。
破滅はいやだと謙虚に生きる主人公とそんな主人公に執着する第三王子の十年間。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる