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3年生

同じ事考えてた

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 王宮からルシスの送り迎えでバーバリア学園に通う生活にも慣れ始めてきた。
 僕は漠然と日々を過ごしていて、処刑の日まで刻々と迫っていることに焦りを感じている。

 今日もいつものように放課後を迎え、鞄に教科書を詰めて玄関ホールへと急いだ。

(あれ……?)

 玄関ホールの雰囲気がいつもと違う。人だかりはないものの、ホールにいる生徒たちの熱を帯びた視線がある一点に集まっていた。

「あ!」

 皆の視線の先には、壁に寄りかかり佇んでいるセオリアスの姿があった。

 僕がセオリアスの方へ行くと、セオリアスはすぐに僕に気づいた。

「セオリアス! 珍しいねこんな所にいるなんて。なんか目立ってるけど……」
「マリスを待ってたんだよ」
「ぼ、僕を?」

 不意に真剣な顔で見つめられ、心臓がドキドキと高鳴る。ここが玄関ホールで、しかも今の僕たちがかなり目立っているのだということも忘れてしまいそうだった。

「あぁ」

 セオリアスは軽く頷くと、顔を僕に近寄せてきた。

「へ、え、ちょっ」
「話がある。テラスに移動できるか?」

 小さな声で耳打ちされる。僕の顔はみるみるうちに熱が集中してきて、汗も噴き出てきた。

「あ、うん……でも迎えの人が来てるかもしれないから、ちょっと校門まで行ってくるね」
「わかっ……いや、悪いが俺も一緒に行っていいか? ここは少し……居心地が悪い」
「いいよ! 一緒に行こう」
「悪いな、助かる」

 セオリアスと玄関ホールから校門までの広く長い道を、少し早歩きで進む。

「あれ?」

 校門の前には、いつもの馬車は止まっていなかった。
 門から顔を出して辺りを見回すが、王宮仕様の白い馬車は見当たらない。

「珍しいな。ま、いっか」
「大丈夫なのか?」
「うん。テラスに行こう」

 僕たちは来た道を引き返して、寮にあるテラスへと移動した。
 空いている席に腰を下ろし、机を挟んでセオリアスと向かい合う。

「マリス。明後日が過ぎれば、処刑まであと1か月になる」

 セオリアスは、少しだけ声のトーンを落ち着けて言った。

「もう、そんなに……」
「あぁ。もう時間が少ししかない。それで考えたんだが、俺、皆の前で父のことを全て話してしまおうと思うんだ」
「え!?」

 セオリアスの言葉に、僕は目を見開いた。僕と全く同じ事を考えているではないか。

「死刑だけでもやめさせたいんだ。奴らの生い立ちや苦労を知れば、死刑に反対する国民だって増えてくる。そうすれば、国は死刑を取りやめるかもしれない」
「セオリアス。実はね、僕も全く同じ事を考えてたんだ」

 セオリアスは、先ほどの僕と同じように目を丸くさせた。

「僕も、それはすごく良いアイデアだとは思うんだ。だけど……」
「……あぁ、そうだな」

 セオリアスは静かに相槌を打った。
 僕とセオリアスの懸念点は、きっと同じところにある。

 特に、カンテミール家は『公爵』なのだ。僕の知識が正しければ、この爵位は王族の親戚でないと与えられない。
 きっとセオリアスは、失うものが僕よりも大きいだろう。

「セオリアスはいいんだ。僕が皆の前で言う」
「だが」
「もしかしたら、芋づる式にカンテミール公爵のことも調べられちゃうかもしれないしさ、どっちが言っても変わらないよ」
「マリス」
「まずは僕が皆の前で、僕の父の事や奴隷について、ちゃんと説明する」

 セオリアスはまだ納得してなさそうな顔をしていた。

「ただ、証拠がないんだ。実際に悪事はあったのかっていう明確な……証……」

 不意に、カツンカツンと靴底が地面を叩く音が、テラス空間に響いて外に広がった。

「今の会話は一体どういうことですか?」

 背後から、学園内では聞き馴染みのない、最近嫌という程よく聞く声が聞こえてきた。

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