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3年生

糸口

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 翌朝、僕はルシスの運転で登校した。バーバリア学園は全寮制であり、馬車登校をする生徒は僕だけだ。

 校門をくぐると、毎日朝から外で鍛錬している、主に騎士志望の生徒たちに訝しげな眼差しを向けられる。

(今だけ透明人間になりたい……)

 僕はなるべく俯きながら、玄関ホールまで急いだ。

 玄関ホールに到着すると、リュゼが眉を吊り上げ腰に手を当てて仁王立ちで立っていた。リュゼの隣にいる苦笑いのエチカと目が合う。

「あ、おはよう2人とも」
「マーリース! おはよう! なんだよあのメモ書きは!!」

 玄関ホールにリュゼの声が響く。僕は本日2回目の注目の的となった。

「ごめんリュゼ。昨日の放課後には既に迎えの人が来ていて時間がなかったんだ」
「おはようマリス。昨日リュゼから少し聞いたけど……大丈夫なの?」

 エチカか心配そうに僕の顔を覗く。

「うん。僕は大丈夫なんだけど、陛下が僕のことを病んでるって勘違いしてるみたいで」
「陛下が?」
「そう。陛下の認めている医師の方がそうおっしゃっていたらしくて……」

 玄関ホールで立ち話をするのも何なので、僕たちは歩き出した。

「思ったんだけど、直接マリスを診断したわけでもないのに病んでるって言うのおかしくない?」

 教室に向かう廊下を歩きながら、エチカが口を開いた。リュゼがうんうんと頷く。

「そうだよ、それにそもそもマリスはなんで病んでることになってんの?」
「僕、刑の重さに納得が行かなくて何度か牢屋を訪ねたり、副騎士団長にも僕の気持ちを伝えたりしたんだ。副騎士団長は一度陛下に僕の気持ちを伝えてくださったんだけど、陛下はそれを心が疲れてるって……」
「うーん……それだけで病んでる扱いして、マリスを王宮から通わせるの? 何かがおかしい気がするけど……」

 エチカがぶつぶつと呟いた。

「とりあえずぼく、こっちの教室だから……マリス、リュゼ。昼休みに一度食堂に集まって話をしよう!」
「う、うん」
「おっけー!」

 エチカと別れ、僕たちも各々の教室に向かった。

 午前中の授業が終わり、食堂へと足を運ぶ。既にリュゼとエチカは集まっていて、席を確保していた。

「お待たせ、席ありがとう」

 僕は2人に礼を言った。昼休みは混雑するので、3人分まとめて席を確保するのは難しいのだ。
 食堂の他にも売店があり、僕は、普段は売店で昼食を買っていた。

「どういたしまして。たまたま授業が早く終わったんだ」

 エチカがにこりと笑った。3人分の料理を注文し、運ばれるのを待つ。

「授業中に考えてたんだけどさ……陛下はマリスの行動を制限したいんじゃないかな」

 エチカは顎に手を当てながらそう言った。

「なんで?」

 すかさずリュゼが聞き返す。

「だって、本当に精神を病んでるって思うならさ、まずは医者に行かせるべきだし、王宮じゃなくて実家に帰さない?」
「た、たしかに。マリスのお父上って過保護そうだし、マリスが病んでるってわかったら飛んできそうだよな」

 エチカとリュゼの言う通りだ。僕はまだ一度も医者と会っていない。
 それに、たしかに僕の父は親バカで、母の事もあってか病気に関してはすごく心配してくれる。

 それなのに、父や兄から手紙も届かないという事は、もしかしたら僕の話は実家の方に行っていないのかもしれない。

「そういえば、フィオーネ様から、とりあえず処刑の日までは王宮から通うようにって言われた……」
「え、それって……」

 僕の言葉に、エチカが戸惑いを含む声を出した。

「国王陛下はどうしても刑を変えたくない。だから、反対派のマリスが行動を起こす前に見張ろう、的な?」

 リュゼは空いてる手でナプキンをいじりながら続けた。

「マリスは被害者だから、マリスが反対意見を呼びかけたら、世論も反対派が多くなるかもしれない。それを阻止するために……?」
「死刑の反対派って、今は少数派なの?」

 僕の疑問に、エチカがすかさず答える。

「そうだと思う。だって反対派が多くなったら、デモやら何やらが起こるはずだよ。人の命がかかってるんだし」

 エチカの言葉に、今回の刑を軽くする糸口が見えた気がした。

(世論を動かす事ができれば、もしかしたら……)

 しかし、まだまだ考える余地がありそうだ。

 出来たての料理が運ばれ、3人の前に並べられる。昼休みも残り半分となっていた。

「食堂ってご飯は美味しいけど提供が遅いのが難点だよな」

 リュゼは涙目になりながら熱々の料理を口に運び、そうぼやいた。
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