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3年生
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イェルグの部屋の奥にある扉を開ければ、ヤンの部屋がある。
奥に行けば行くほど、地下のじめじめした空気は強くなっていた。
ヤンに会うのはまだ少し怖い。震える右手を、セオリアスがそっと握った。
「マリス。無理はするな」
「平気だよ。ありがとう」
アズールは、ヤンの部屋へと続く扉を開けた後、イェルグの時と同じように部屋の外で待機してくれた。
ヤンの姿は、初めて会ったときよりもやつれていた。僕たちに気づいたヤンは、鉄格子の近くまで来た。
「やあ、マリス」
ヤンはへらりと笑った。
「何しに来たの? 隣にいるのは彼氏?」
「君たちが僕とエチカを誘拐した目的を教えてほしいんだ」
「そんな事知ってどうするの? どうせ俺たちのこと殺すくせに」
「殺させたりなんかしない」
僕の言葉に、ヤンは肩をすくめた。
「君にあんな事をしたのに? もしかして俺の事好きになっちゃった?」
「違うよ。特に君のことは、簡単には許せない」
「じゃあ、俺が死んだ方がマリスにとってもいいんじゃないの?」
「良くないからこうやってここに来てるんだろ。君とイェルグが死んで、他の奴らが一生牢屋で生活してハイ解決ってされるのが嫌なんだ。
君たちが自分の行いを心の奥底から悔い改めるまで、死んだりなんかさせないから」
僕はセオリアスの手をぎゅっと握り返した。
「ふうん。じゃあ俺、マリスのことは結構好きだからさ、なんでマリスを誘拐したのか教えてあげるよ」
ヤンが、繋がれている僕とセオリアスの手を見てにこりと微笑んだ。
「ちょっと彼氏くん、そんなに睨まないで。あの時、イェルグの兄貴からアルを庇ってくれたのが嬉しかったんだよ。アルは俺たちにとって、弟も同然だから。あとはやっぱり、顔がリリアン様に似ているからねぇ」
「御託はいいから早く目的を教えてくれ」
セオリアスは苛立ちを隠せない声で言った。
「あー、わかったよ。でもせっかちな男は嫌われるよ? ごめんごめん、誘拐の目的ね。
俺たちは、エルランド・アスムベルクに教えてやりたかっただけなんだ。今まで、売られていく仲間やボロボロになって帰ってくる仲間をたくさん見てきた。アルの母さんだって……」
ヤンはそこまで言うと、下唇を噛んだ。
「……俺たちの言葉は聞き入れてもらえないから、同じ目に合わせて思い知らせてやろうって思って。だからマリスを、どっかの貴族に売ろうと思ったんだ。神子は、最初は攫うつもりはなかったけど、マリスと一緒にいたから攫った」
「じゃあやっぱり……エチカが狙いではなかったんだ。そう言えば、エチカに癒しの力があるってどこで知ったの?」
「神子が自分で言ってた」
「自分から!?」
「俺たちを金目的だと思ったんだろうな。神子の力はマリス2人分の価値があるから、マリスは解放しろってさ」
「し、信じられない……」
リュゼは、癒しの力があることがバレたら問題だと言っていた。
そんな大切な情報を、誘拐犯たちに言ってしまうなんて。
「本当だよ。まあ俺たちの目的は最初からマリスだったから、解放はしなかったけど」
「僕のために……」
「ほんと、健気な奴だよね」
「……教えてくれてありがとう、ヤン。どうせ死ぬからって諦めずに、ちゃんと反省してね」
「期待しないで待ってるよ」
ヤンはひらりと手を振った。ヤンの方に背を向け、扉の外に出る。
アズールに言い、地下牢から地上に上がる。
ヤンから誘拐の目的が聞けたことを伝えるため、僕たちはそのままロセウムの部屋へと向かった。
奥に行けば行くほど、地下のじめじめした空気は強くなっていた。
ヤンに会うのはまだ少し怖い。震える右手を、セオリアスがそっと握った。
「マリス。無理はするな」
「平気だよ。ありがとう」
アズールは、ヤンの部屋へと続く扉を開けた後、イェルグの時と同じように部屋の外で待機してくれた。
ヤンの姿は、初めて会ったときよりもやつれていた。僕たちに気づいたヤンは、鉄格子の近くまで来た。
「やあ、マリス」
ヤンはへらりと笑った。
「何しに来たの? 隣にいるのは彼氏?」
「君たちが僕とエチカを誘拐した目的を教えてほしいんだ」
「そんな事知ってどうするの? どうせ俺たちのこと殺すくせに」
「殺させたりなんかしない」
僕の言葉に、ヤンは肩をすくめた。
「君にあんな事をしたのに? もしかして俺の事好きになっちゃった?」
「違うよ。特に君のことは、簡単には許せない」
「じゃあ、俺が死んだ方がマリスにとってもいいんじゃないの?」
「良くないからこうやってここに来てるんだろ。君とイェルグが死んで、他の奴らが一生牢屋で生活してハイ解決ってされるのが嫌なんだ。
君たちが自分の行いを心の奥底から悔い改めるまで、死んだりなんかさせないから」
僕はセオリアスの手をぎゅっと握り返した。
「ふうん。じゃあ俺、マリスのことは結構好きだからさ、なんでマリスを誘拐したのか教えてあげるよ」
ヤンが、繋がれている僕とセオリアスの手を見てにこりと微笑んだ。
「ちょっと彼氏くん、そんなに睨まないで。あの時、イェルグの兄貴からアルを庇ってくれたのが嬉しかったんだよ。アルは俺たちにとって、弟も同然だから。あとはやっぱり、顔がリリアン様に似ているからねぇ」
「御託はいいから早く目的を教えてくれ」
セオリアスは苛立ちを隠せない声で言った。
「あー、わかったよ。でもせっかちな男は嫌われるよ? ごめんごめん、誘拐の目的ね。
俺たちは、エルランド・アスムベルクに教えてやりたかっただけなんだ。今まで、売られていく仲間やボロボロになって帰ってくる仲間をたくさん見てきた。アルの母さんだって……」
ヤンはそこまで言うと、下唇を噛んだ。
「……俺たちの言葉は聞き入れてもらえないから、同じ目に合わせて思い知らせてやろうって思って。だからマリスを、どっかの貴族に売ろうと思ったんだ。神子は、最初は攫うつもりはなかったけど、マリスと一緒にいたから攫った」
「じゃあやっぱり……エチカが狙いではなかったんだ。そう言えば、エチカに癒しの力があるってどこで知ったの?」
「神子が自分で言ってた」
「自分から!?」
「俺たちを金目的だと思ったんだろうな。神子の力はマリス2人分の価値があるから、マリスは解放しろってさ」
「し、信じられない……」
リュゼは、癒しの力があることがバレたら問題だと言っていた。
そんな大切な情報を、誘拐犯たちに言ってしまうなんて。
「本当だよ。まあ俺たちの目的は最初からマリスだったから、解放はしなかったけど」
「僕のために……」
「ほんと、健気な奴だよね」
「……教えてくれてありがとう、ヤン。どうせ死ぬからって諦めずに、ちゃんと反省してね」
「期待しないで待ってるよ」
ヤンはひらりと手を振った。ヤンの方に背を向け、扉の外に出る。
アズールに言い、地下牢から地上に上がる。
ヤンから誘拐の目的が聞けたことを伝えるため、僕たちはそのままロセウムの部屋へと向かった。
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