101 / 120
3年生
新聞
しおりを挟む
「マリス、もう帰るだろ? 一緒に帰ろうか」
「ありがとう、助かるよ」
夕日が沈み月が顔を出した夜は、1人で帰るには少し心細かった。
王宮を後にして、来た道を戻る。学園と王宮を繋ぐ道中は、ここ数日の間にすっかり馴染みの道となっていた。
数日後の朝、いつものように寮から校舎へ行くと、廊下から何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「どうしたんだろう?」
隣にいたリュゼが人混みを眺める。
人集りは、掲示板のあたりで起こっていた。
掲示板は、寮生活で閉鎖された空間にいる生徒たちのために各地の新聞が貼られていたり、学園内でのお知らせが貼られていたりする。
背の高いリュゼが人集りをかき分けて、掲示板の前まで行く。僕もリュゼの後に続いた。
「えー、どれどれ……赤毛の誘拐犯7名のうち、2人に国内初の公開死刑……こ、公開死刑!?」
リュゼは大きな声を出したが、周りの声にすぐにかき消された。
「リュゼ、公開死刑って!?」
大声でリュゼに尋ねる。
「王宮内にある処刑場で行うって書いてあるよ!」
「日付はいつ!?」
「ええっと、8月1日! 夏休み初日!」
もうすぐ6月になるから、処刑まで約2ヶ月しかない。
僕たちはとりあえず、集団から抜けることにした。
「ふう……もうすぐ授業が始まるってのに、すごい人だな」
リュゼの言う通り、僕たちもそろそろ教室に向かわなければならなかった。
先生たちが教室に戻るよう叫んでいるが、生徒たちの耳には入っていない。
僕とリュゼはそれぞれの授業のある教室に向かった。しかし、この様子だと休講の可能性もあるだろう。
教室の中はガラガラで、あと数分で授業が始まるというのに2、3人しか来ていなかった。
とりあえず着席し、教科書を机の上に広げる。
(やられた……ああやって大々的に国民に知らせることで、死刑を覆すのを難しくしてるんだ)
新聞の内容を読むことはできなかったが、掲示板の前に行っても特に注目されることはなかったから、僕とエチカの名前は書かれていなかったのだろう。
数分後、ぞろぞろと生徒たちが教室に入ってきて、最後に先生が入ってくる。授業は無事に開始された。
放課後、僕は改めて掲示板へ向かった。掲示板を読んでいる生徒はかなり少なくなっていたので、近づいて新聞を読むことができた。
新聞には、僕とエチカが誘拐された事件について、少し過剰ではあるが事実に基づいて書いてある。
「マリス!」
不意に名前を呼ばれ、振り返るとセオリアスが立っていた。
「セオリアス! この新聞もう読んだ?」
「あぁ、朝に読んだよ」
セオリアスは僕の隣に並び、新聞をじっと見た。
「僕は死刑に反対だよ。ちゃんと生きて償ってもらいたいんだ」
僕はセオリアスに愚痴っぽく言った。
「大体、誰も死んでないんだよ? 世論も反対するんじゃないのかな」
「マリス落ち着け。この新聞、やたら身分が書かれているだろ? 『被害者の伯爵家、侯爵家両御子息は、高貴なる身体を穢され今もなお被害を思い出し震えている』……世論は、マリスが思っているよりも身分制を重んじている人が多い」
伯爵家は僕で、侯爵家はエチカのことだ。リュゼのいるプリースト家は、身分でいうと侯爵にあたるのである。
「そ、それじゃあ……」
「もちろん、死刑はやりすぎだと思う人もいるだろうが、まぁ妥当だと思う人が大半だろうな。それに加害者は、『身元不明の浮浪者。かつては某伯爵家から社会支援も受けていた』とも書かれている」
セオリアスは新聞を見つめ、腕を組んだ。
「つまり、かつては貴族に助けてもらっていた下層階級の人間が犯人だと言っているんだ。
それに、新聞の最後の方……『被害者は、王宮騎士の活躍により1日で救出することができたが、もし救助に失敗していたら、最悪のシナリオも十分考えられる状態にあった』」
「……奇跡的に助かったから良かったけど、死んでた可能性だってあった。下級階層の人間が貴族の子供を誘拐し殺しかけた、だから見せしめに公開処刑……」
「この新聞の言いたい事は、そういうことだろうな」
「セオは死刑に賛成?」
「いや、俺は賛成なんてできないよ。そもそも奴隷なんて作らなければ、今回の事件も起こらなかったはず……そういえば、彼らはなんでマリスとエチカを攫ったんだ?」
「たしかに……」
とても大切な事を聞きそびれていたようだ。僕はセオリアスに向き直った。
「セオ。僕、もう一度アルたちに会いに行ってくる」
「ありがとう、助かるよ」
夕日が沈み月が顔を出した夜は、1人で帰るには少し心細かった。
王宮を後にして、来た道を戻る。学園と王宮を繋ぐ道中は、ここ数日の間にすっかり馴染みの道となっていた。
数日後の朝、いつものように寮から校舎へ行くと、廊下から何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「どうしたんだろう?」
隣にいたリュゼが人混みを眺める。
人集りは、掲示板のあたりで起こっていた。
掲示板は、寮生活で閉鎖された空間にいる生徒たちのために各地の新聞が貼られていたり、学園内でのお知らせが貼られていたりする。
背の高いリュゼが人集りをかき分けて、掲示板の前まで行く。僕もリュゼの後に続いた。
「えー、どれどれ……赤毛の誘拐犯7名のうち、2人に国内初の公開死刑……こ、公開死刑!?」
リュゼは大きな声を出したが、周りの声にすぐにかき消された。
「リュゼ、公開死刑って!?」
大声でリュゼに尋ねる。
「王宮内にある処刑場で行うって書いてあるよ!」
「日付はいつ!?」
「ええっと、8月1日! 夏休み初日!」
もうすぐ6月になるから、処刑まで約2ヶ月しかない。
僕たちはとりあえず、集団から抜けることにした。
「ふう……もうすぐ授業が始まるってのに、すごい人だな」
リュゼの言う通り、僕たちもそろそろ教室に向かわなければならなかった。
先生たちが教室に戻るよう叫んでいるが、生徒たちの耳には入っていない。
僕とリュゼはそれぞれの授業のある教室に向かった。しかし、この様子だと休講の可能性もあるだろう。
教室の中はガラガラで、あと数分で授業が始まるというのに2、3人しか来ていなかった。
とりあえず着席し、教科書を机の上に広げる。
(やられた……ああやって大々的に国民に知らせることで、死刑を覆すのを難しくしてるんだ)
新聞の内容を読むことはできなかったが、掲示板の前に行っても特に注目されることはなかったから、僕とエチカの名前は書かれていなかったのだろう。
数分後、ぞろぞろと生徒たちが教室に入ってきて、最後に先生が入ってくる。授業は無事に開始された。
放課後、僕は改めて掲示板へ向かった。掲示板を読んでいる生徒はかなり少なくなっていたので、近づいて新聞を読むことができた。
新聞には、僕とエチカが誘拐された事件について、少し過剰ではあるが事実に基づいて書いてある。
「マリス!」
不意に名前を呼ばれ、振り返るとセオリアスが立っていた。
「セオリアス! この新聞もう読んだ?」
「あぁ、朝に読んだよ」
セオリアスは僕の隣に並び、新聞をじっと見た。
「僕は死刑に反対だよ。ちゃんと生きて償ってもらいたいんだ」
僕はセオリアスに愚痴っぽく言った。
「大体、誰も死んでないんだよ? 世論も反対するんじゃないのかな」
「マリス落ち着け。この新聞、やたら身分が書かれているだろ? 『被害者の伯爵家、侯爵家両御子息は、高貴なる身体を穢され今もなお被害を思い出し震えている』……世論は、マリスが思っているよりも身分制を重んじている人が多い」
伯爵家は僕で、侯爵家はエチカのことだ。リュゼのいるプリースト家は、身分でいうと侯爵にあたるのである。
「そ、それじゃあ……」
「もちろん、死刑はやりすぎだと思う人もいるだろうが、まぁ妥当だと思う人が大半だろうな。それに加害者は、『身元不明の浮浪者。かつては某伯爵家から社会支援も受けていた』とも書かれている」
セオリアスは新聞を見つめ、腕を組んだ。
「つまり、かつては貴族に助けてもらっていた下層階級の人間が犯人だと言っているんだ。
それに、新聞の最後の方……『被害者は、王宮騎士の活躍により1日で救出することができたが、もし救助に失敗していたら、最悪のシナリオも十分考えられる状態にあった』」
「……奇跡的に助かったから良かったけど、死んでた可能性だってあった。下級階層の人間が貴族の子供を誘拐し殺しかけた、だから見せしめに公開処刑……」
「この新聞の言いたい事は、そういうことだろうな」
「セオは死刑に賛成?」
「いや、俺は賛成なんてできないよ。そもそも奴隷なんて作らなければ、今回の事件も起こらなかったはず……そういえば、彼らはなんでマリスとエチカを攫ったんだ?」
「たしかに……」
とても大切な事を聞きそびれていたようだ。僕はセオリアスに向き直った。
「セオ。僕、もう一度アルたちに会いに行ってくる」
11
お気に入りに追加
405
あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました
西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて…
ほのほのです。
※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
時々おまけのお話を更新しています。
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!

マリオネットが、糸を断つ時。
せんぷう
BL
異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。
オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。
第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。
そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。
『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』
金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。
『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!
許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』
そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。
王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。
『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』
『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』
『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』
しかし、オレは彼に拾われた。
どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。
気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!
しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?
スラム出身、第十一王子の守護魔導師。
これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。
※BL作品
恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。
.
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる