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3年生
新聞
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「マリス、もう帰るだろ? 一緒に帰ろうか」
「ありがとう、助かるよ」
夕日が沈み月が顔を出した夜は、1人で帰るには少し心細かった。
王宮を後にして、来た道を戻る。学園と王宮を繋ぐ道中は、ここ数日の間にすっかり馴染みの道となっていた。
数日後の朝、いつものように寮から校舎へ行くと、廊下から何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「どうしたんだろう?」
隣にいたリュゼが人混みを眺める。
人集りは、掲示板のあたりで起こっていた。
掲示板は、寮生活で閉鎖された空間にいる生徒たちのために各地の新聞が貼られていたり、学園内でのお知らせが貼られていたりする。
背の高いリュゼが人集りをかき分けて、掲示板の前まで行く。僕もリュゼの後に続いた。
「えー、どれどれ……赤毛の誘拐犯7名のうち、2人に国内初の公開死刑……こ、公開死刑!?」
リュゼは大きな声を出したが、周りの声にすぐにかき消された。
「リュゼ、公開死刑って!?」
大声でリュゼに尋ねる。
「王宮内にある処刑場で行うって書いてあるよ!」
「日付はいつ!?」
「ええっと、8月1日! 夏休み初日!」
もうすぐ6月になるから、処刑まで約2ヶ月しかない。
僕たちはとりあえず、集団から抜けることにした。
「ふう……もうすぐ授業が始まるってのに、すごい人だな」
リュゼの言う通り、僕たちもそろそろ教室に向かわなければならなかった。
先生たちが教室に戻るよう叫んでいるが、生徒たちの耳には入っていない。
僕とリュゼはそれぞれの授業のある教室に向かった。しかし、この様子だと休講の可能性もあるだろう。
教室の中はガラガラで、あと数分で授業が始まるというのに2、3人しか来ていなかった。
とりあえず着席し、教科書を机の上に広げる。
(やられた……ああやって大々的に国民に知らせることで、死刑を覆すのを難しくしてるんだ)
新聞の内容を読むことはできなかったが、掲示板の前に行っても特に注目されることはなかったから、僕とエチカの名前は書かれていなかったのだろう。
数分後、ぞろぞろと生徒たちが教室に入ってきて、最後に先生が入ってくる。授業は無事に開始された。
放課後、僕は改めて掲示板へ向かった。掲示板を読んでいる生徒はかなり少なくなっていたので、近づいて新聞を読むことができた。
新聞には、僕とエチカが誘拐された事件について、少し過剰ではあるが事実に基づいて書いてある。
「マリス!」
不意に名前を呼ばれ、振り返るとセオリアスが立っていた。
「セオリアス! この新聞もう読んだ?」
「あぁ、朝に読んだよ」
セオリアスは僕の隣に並び、新聞をじっと見た。
「僕は死刑に反対だよ。ちゃんと生きて償ってもらいたいんだ」
僕はセオリアスに愚痴っぽく言った。
「大体、誰も死んでないんだよ? 世論も反対するんじゃないのかな」
「マリス落ち着け。この新聞、やたら身分が書かれているだろ? 『被害者の伯爵家、侯爵家両御子息は、高貴なる身体を穢され今もなお被害を思い出し震えている』……世論は、マリスが思っているよりも身分制を重んじている人が多い」
伯爵家は僕で、侯爵家はエチカのことだ。リュゼのいるプリースト家は、身分でいうと侯爵にあたるのである。
「そ、それじゃあ……」
「もちろん、死刑はやりすぎだと思う人もいるだろうが、まぁ妥当だと思う人が大半だろうな。それに加害者は、『身元不明の浮浪者。かつては某伯爵家から社会支援も受けていた』とも書かれている」
セオリアスは新聞を見つめ、腕を組んだ。
「つまり、かつては貴族に助けてもらっていた下層階級の人間が犯人だと言っているんだ。
それに、新聞の最後の方……『被害者は、王宮騎士の活躍により1日で救出することができたが、もし救助に失敗していたら、最悪のシナリオも十分考えられる状態にあった』」
「……奇跡的に助かったから良かったけど、死んでた可能性だってあった。下級階層の人間が貴族の子供を誘拐し殺しかけた、だから見せしめに公開処刑……」
「この新聞の言いたい事は、そういうことだろうな」
「セオは死刑に賛成?」
「いや、俺は賛成なんてできないよ。そもそも奴隷なんて作らなければ、今回の事件も起こらなかったはず……そういえば、彼らはなんでマリスとエチカを攫ったんだ?」
「たしかに……」
とても大切な事を聞きそびれていたようだ。僕はセオリアスに向き直った。
「セオ。僕、もう一度アルたちに会いに行ってくる」
「ありがとう、助かるよ」
夕日が沈み月が顔を出した夜は、1人で帰るには少し心細かった。
王宮を後にして、来た道を戻る。学園と王宮を繋ぐ道中は、ここ数日の間にすっかり馴染みの道となっていた。
数日後の朝、いつものように寮から校舎へ行くと、廊下から何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「どうしたんだろう?」
隣にいたリュゼが人混みを眺める。
人集りは、掲示板のあたりで起こっていた。
掲示板は、寮生活で閉鎖された空間にいる生徒たちのために各地の新聞が貼られていたり、学園内でのお知らせが貼られていたりする。
背の高いリュゼが人集りをかき分けて、掲示板の前まで行く。僕もリュゼの後に続いた。
「えー、どれどれ……赤毛の誘拐犯7名のうち、2人に国内初の公開死刑……こ、公開死刑!?」
リュゼは大きな声を出したが、周りの声にすぐにかき消された。
「リュゼ、公開死刑って!?」
大声でリュゼに尋ねる。
「王宮内にある処刑場で行うって書いてあるよ!」
「日付はいつ!?」
「ええっと、8月1日! 夏休み初日!」
もうすぐ6月になるから、処刑まで約2ヶ月しかない。
僕たちはとりあえず、集団から抜けることにした。
「ふう……もうすぐ授業が始まるってのに、すごい人だな」
リュゼの言う通り、僕たちもそろそろ教室に向かわなければならなかった。
先生たちが教室に戻るよう叫んでいるが、生徒たちの耳には入っていない。
僕とリュゼはそれぞれの授業のある教室に向かった。しかし、この様子だと休講の可能性もあるだろう。
教室の中はガラガラで、あと数分で授業が始まるというのに2、3人しか来ていなかった。
とりあえず着席し、教科書を机の上に広げる。
(やられた……ああやって大々的に国民に知らせることで、死刑を覆すのを難しくしてるんだ)
新聞の内容を読むことはできなかったが、掲示板の前に行っても特に注目されることはなかったから、僕とエチカの名前は書かれていなかったのだろう。
数分後、ぞろぞろと生徒たちが教室に入ってきて、最後に先生が入ってくる。授業は無事に開始された。
放課後、僕は改めて掲示板へ向かった。掲示板を読んでいる生徒はかなり少なくなっていたので、近づいて新聞を読むことができた。
新聞には、僕とエチカが誘拐された事件について、少し過剰ではあるが事実に基づいて書いてある。
「マリス!」
不意に名前を呼ばれ、振り返るとセオリアスが立っていた。
「セオリアス! この新聞もう読んだ?」
「あぁ、朝に読んだよ」
セオリアスは僕の隣に並び、新聞をじっと見た。
「僕は死刑に反対だよ。ちゃんと生きて償ってもらいたいんだ」
僕はセオリアスに愚痴っぽく言った。
「大体、誰も死んでないんだよ? 世論も反対するんじゃないのかな」
「マリス落ち着け。この新聞、やたら身分が書かれているだろ? 『被害者の伯爵家、侯爵家両御子息は、高貴なる身体を穢され今もなお被害を思い出し震えている』……世論は、マリスが思っているよりも身分制を重んじている人が多い」
伯爵家は僕で、侯爵家はエチカのことだ。リュゼのいるプリースト家は、身分でいうと侯爵にあたるのである。
「そ、それじゃあ……」
「もちろん、死刑はやりすぎだと思う人もいるだろうが、まぁ妥当だと思う人が大半だろうな。それに加害者は、『身元不明の浮浪者。かつては某伯爵家から社会支援も受けていた』とも書かれている」
セオリアスは新聞を見つめ、腕を組んだ。
「つまり、かつては貴族に助けてもらっていた下層階級の人間が犯人だと言っているんだ。
それに、新聞の最後の方……『被害者は、王宮騎士の活躍により1日で救出することができたが、もし救助に失敗していたら、最悪のシナリオも十分考えられる状態にあった』」
「……奇跡的に助かったから良かったけど、死んでた可能性だってあった。下級階層の人間が貴族の子供を誘拐し殺しかけた、だから見せしめに公開処刑……」
「この新聞の言いたい事は、そういうことだろうな」
「セオは死刑に賛成?」
「いや、俺は賛成なんてできないよ。そもそも奴隷なんて作らなければ、今回の事件も起こらなかったはず……そういえば、彼らはなんでマリスとエチカを攫ったんだ?」
「たしかに……」
とても大切な事を聞きそびれていたようだ。僕はセオリアスに向き直った。
「セオ。僕、もう一度アルたちに会いに行ってくる」
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