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3年生
アリバイ証明
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放課後、授業が終わって玄関ホールまで向かうと、既にエルヴィが――下級生に囲まれていた。
「あー……」
今までエルヴィとはあまり過ごすごとがなかったので忘れていたが、エルヴィはかなりモテるのだった。
騎士団長の息子であり、将来の騎士団長候補でもある。さらに顔も整っていて、鍛え抜かれた肉体美は、老若男女の目を惹くものだ。
(迂闊だった。部屋で待ち合わせすればよかったなぁ)
しかし、約束の時間が迫っている。嵐が去るのを待つわけにはいかなかった。
「あ、お、お待たせエルヴィー……」
僕の声に、下級生たちの鋭い視線が突き刺さる。エルヴィはほっとしたような顔をすると、下級生をかき分けて僕のところまで来た。
「遅くなってごめんね」
「いい、気にするな。それより早く行こう」
エルヴィに背中を押され王宮を出る。背中に刺さる視線が痛く、怖くて後ろは振り返ることができない。
学園の門をくぐり、エルヴィと並んで道を歩く。
「そういえば、どうして面会は宿舎なんだろうね」
王宮までの短い道中、暇だったのでエルヴィに素朴な疑問をぶつけてみた。
騎士関連には詳しいのか、エルヴィが得意げな顔をする。
「王宮騎士の仕事は、王宮内と王都の警備と王族の警護だからな。専用の応接室は設けられていないんだ」
「そういう事ね。でも、今日みたいな時はどうするんだろう。ロビーで話すのかな」
「なんだ、ロビーでは話せない内容なのか?」
「うん、多分……ごめん、ロセウム様の許可がおりたら全て話すよ」
慌てて謝る僕に、エルヴィがふっと笑う。
「いや、すまない冗談だ……まあ、そういう場合は空き部屋を利用するだろう。何も騎士の全員が宿舎で生活するわけではないからな。結婚したらだいたい出ていく」
「へえ。じゃあ団長も宿舎には住んで無いの?」
「あぁ。家を持っている。ただ、大きな事件が起こったときは宿舎に泊まり込んでいると聞いた」
「そっかぁ。大変そうだけどかっこいいね、騎士って」
「ああ、そうだな」
大きな事件が発生したら泊まり込みで仕事って、なんだか警察官みたいだ。実際警察官みたいなものなのだが。
王宮の前に着くと、アズールが門のところで待っていた。
昨日と同様、アズールに続いて宿舎まで行く。今度はロビーで待たされずにロセウムのいる部屋まで案内された。
アズールが部屋をノックし、中から短い返事が聞こえる。
ロセウムの部屋は、奥に机があり、手前にはローテーブルを挟んでソファが向かいあっていた。
空き部屋を応接室風に改装したのだろうか。
ソファに座るよう促されたので、エルヴィと並んで座る。向かい側にはロセウムとアズールが座った。
「それで、セオリアス様のアリバイについて話したい事があると伺いましたが」
まずはロセウムが口を開いた。
「はい。今日はセオリアスの潔白を証明するために、セオリアスと同室のエルヴィに来てもらいました。また、こちらはセオリアスの外出記録のコピーです」
僕は机の上にコピーを2部置いた。ロセウムとアズールがそれぞれ手に取る。
アリバイの聴取は、ロセウムが質問し、エルヴィがそれに答えるという形で行った。
「……わかりました。セオリアス様のアリバイを認めましょう」
「え、本当ですか!?」
20分ほどの聴取で、思っていたよりもあっさりと認められた。
「はい。しかし、加害者側から新たな証言が出た際には、また嫌疑がかかる可能性はあります」
「それはわかってます。でも、これでセオリアスと話しても大丈夫なんですよね!?」
興奮のあまり、少し声が上ずってしまう。
「え、ええ。そうですね、大丈夫でしょう。ただ、何か怪しい行動をしている事が発覚したら、直ちに騎士の誰かに報告し、距離を置いてください」
「あと、あの……事件のこと、エルヴィにも説明して大丈夫ですか? 協力してもらったので、事情は話しておくべきかなって思って」
「そうですね。マリス様が構わないのなら、私から説明しましょうか」
「はい、お願いします」
僕の返事を聞いたロセウムは、今回の誘拐事件についての概要や、セオリアスが疑われた経緯を説明した。
ロセウムは、犯人が奴隷だということは、エルヴィには伏せていた。
「なるほど……そういう事情があったのか」
エルヴィは眉間に皺を寄せて呟いた。
「教えてくださりありがとうございます。マリスも、辛かったな」
「ううん、もう大丈夫だよ。ありがとう」
話が終わった僕たちは、宿舎を後にした。
セオリアスについては、ロセウムがまた改めて皆に報告してくれるらしい。
ようやくこれでセオリアスとゆっくり話ができる。
洞窟の中でセオリアスが言っていたことや、キスの意味について……。
(あれは、前向きに捉えていいって……事だよね?)
「あー……」
今までエルヴィとはあまり過ごすごとがなかったので忘れていたが、エルヴィはかなりモテるのだった。
騎士団長の息子であり、将来の騎士団長候補でもある。さらに顔も整っていて、鍛え抜かれた肉体美は、老若男女の目を惹くものだ。
(迂闊だった。部屋で待ち合わせすればよかったなぁ)
しかし、約束の時間が迫っている。嵐が去るのを待つわけにはいかなかった。
「あ、お、お待たせエルヴィー……」
僕の声に、下級生たちの鋭い視線が突き刺さる。エルヴィはほっとしたような顔をすると、下級生をかき分けて僕のところまで来た。
「遅くなってごめんね」
「いい、気にするな。それより早く行こう」
エルヴィに背中を押され王宮を出る。背中に刺さる視線が痛く、怖くて後ろは振り返ることができない。
学園の門をくぐり、エルヴィと並んで道を歩く。
「そういえば、どうして面会は宿舎なんだろうね」
王宮までの短い道中、暇だったのでエルヴィに素朴な疑問をぶつけてみた。
騎士関連には詳しいのか、エルヴィが得意げな顔をする。
「王宮騎士の仕事は、王宮内と王都の警備と王族の警護だからな。専用の応接室は設けられていないんだ」
「そういう事ね。でも、今日みたいな時はどうするんだろう。ロビーで話すのかな」
「なんだ、ロビーでは話せない内容なのか?」
「うん、多分……ごめん、ロセウム様の許可がおりたら全て話すよ」
慌てて謝る僕に、エルヴィがふっと笑う。
「いや、すまない冗談だ……まあ、そういう場合は空き部屋を利用するだろう。何も騎士の全員が宿舎で生活するわけではないからな。結婚したらだいたい出ていく」
「へえ。じゃあ団長も宿舎には住んで無いの?」
「あぁ。家を持っている。ただ、大きな事件が起こったときは宿舎に泊まり込んでいると聞いた」
「そっかぁ。大変そうだけどかっこいいね、騎士って」
「ああ、そうだな」
大きな事件が発生したら泊まり込みで仕事って、なんだか警察官みたいだ。実際警察官みたいなものなのだが。
王宮の前に着くと、アズールが門のところで待っていた。
昨日と同様、アズールに続いて宿舎まで行く。今度はロビーで待たされずにロセウムのいる部屋まで案内された。
アズールが部屋をノックし、中から短い返事が聞こえる。
ロセウムの部屋は、奥に机があり、手前にはローテーブルを挟んでソファが向かいあっていた。
空き部屋を応接室風に改装したのだろうか。
ソファに座るよう促されたので、エルヴィと並んで座る。向かい側にはロセウムとアズールが座った。
「それで、セオリアス様のアリバイについて話したい事があると伺いましたが」
まずはロセウムが口を開いた。
「はい。今日はセオリアスの潔白を証明するために、セオリアスと同室のエルヴィに来てもらいました。また、こちらはセオリアスの外出記録のコピーです」
僕は机の上にコピーを2部置いた。ロセウムとアズールがそれぞれ手に取る。
アリバイの聴取は、ロセウムが質問し、エルヴィがそれに答えるという形で行った。
「……わかりました。セオリアス様のアリバイを認めましょう」
「え、本当ですか!?」
20分ほどの聴取で、思っていたよりもあっさりと認められた。
「はい。しかし、加害者側から新たな証言が出た際には、また嫌疑がかかる可能性はあります」
「それはわかってます。でも、これでセオリアスと話しても大丈夫なんですよね!?」
興奮のあまり、少し声が上ずってしまう。
「え、ええ。そうですね、大丈夫でしょう。ただ、何か怪しい行動をしている事が発覚したら、直ちに騎士の誰かに報告し、距離を置いてください」
「あと、あの……事件のこと、エルヴィにも説明して大丈夫ですか? 協力してもらったので、事情は話しておくべきかなって思って」
「そうですね。マリス様が構わないのなら、私から説明しましょうか」
「はい、お願いします」
僕の返事を聞いたロセウムは、今回の誘拐事件についての概要や、セオリアスが疑われた経緯を説明した。
ロセウムは、犯人が奴隷だということは、エルヴィには伏せていた。
「なるほど……そういう事情があったのか」
エルヴィは眉間に皺を寄せて呟いた。
「教えてくださりありがとうございます。マリスも、辛かったな」
「ううん、もう大丈夫だよ。ありがとう」
話が終わった僕たちは、宿舎を後にした。
セオリアスについては、ロセウムがまた改めて皆に報告してくれるらしい。
ようやくこれでセオリアスとゆっくり話ができる。
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