上 下
93 / 120
3年生

突撃! セオリアスの部屋

しおりを挟む
「アリバイか。それはいいかも! ……ただ、もしかしたらもう王宮騎士団の方で確認済みかもしれないな。調べてみようか」

 そう言い、リュゼはソファから立ち上がった。

「調べるってどうやって?」

 僕も慌てて立ち上がる。リュゼは、テーブルの上に置いていたメモ用紙を手に取った。

「もちろん。直接本人に聞きに行くのさ」
「本人? セオリアスに?」
「うん、そうだよ。セオはまだ疑いの段階だから、普通に学園寮にいるし」
「あ、そうだったの……なんだぁ、話はできるんだ」

 僕は、てっきりどこかに閉じ込められているのかと想像していた。

「本当はね、疑いが晴れるまではマリスとエチカとは会わせちゃダメな決まりなんだけど……まあ、いいよね! じゃ、このメモを提出してこよう」

 リュゼの後に続いて僕も客間に出る。リュゼは王宮の廊下をしばらく歩き、渡り廊下を抜けて、王宮騎士団のいる宿舎まで来た。

 ロビーを抜けて、階段を上がる。副騎士団長の部屋は4階にあった。

「マリスは外で待っててね」

 リュゼが副団長室に入っていくのを見届け、大人しく廊下で待つ。

 ドアに耳を当ててみたが、物音ひとつ聞こえなかった。さすが王宮騎士団、警備は厳重だ。

「おまたせ」

 数分してリュゼが部屋から出てきた。

「僕も勝手に帰っちゃっていいのかな」
「うん、ロセウムさんにも言っておいたよ」

 リュゼは、バッチリ、というように軽くウインクした。

「ありがとう!」
「いえいえ~。それじゃ、セオの部屋に行こうか」

 宿舎から王宮に戻り、外に出る。夕日が落ちて、空は赤紫色になっていた。

 慣れ親しんだ学園に戻り、寮に入る。そういえば、誘拐事件はもう学園中に広まってしまっているのだろうか。

「ねえ、僕たちのことってもう噂になってる?」

 セオリアスの部屋に向かう途中の廊下で、リュゼに話しかける。

「ううん。奴隷が関わってる事件だから、まだ表には出てないよ。マリスとエチカが休んだのもまだ2日だけだから、そこまで大事にはなってないよ」
「そっか。それならよかった」



 セオリアスの部屋につき、リュゼがノックをする。
 すぐにドアが開き、顔を出したセオリアスが僕を見て驚いた顔をした。

「何の用だ? 悪いが、俺はマリスとは……」
「事情は殿下から聞いてる。3人で話したい事があるんだ。部屋に入れてくれない?」
「駄目だ、俺はマリスとは……って、おい!」

 リュゼは、僕の手を引っ張りセオリアスの返事も待たずに部屋に入った。

「おい!! コラッ!」

 空いてる手をセオリアスに引っ張られ、体が後ろにつんのめる。

「いいからその手を離せリュゼ!」
「ちょ、痛いよ」
「あー、はいはい離す離す。ごめんねマリス」

 リュゼがパッと僕の手を離した。セオリアスも僕の手を離し、ようやく体が解放される。

「あのねえセオリアス君。俺たちは大事な話をしに来たの。つまらない嫉妬をしてる場合じゃないの!」
「はあ? 何だよマジで……」

 リュゼはずかずかと部屋の奥まで行き、セオリアスの個室に入った。

「おい、勝手に入るなよ!」

 僕たちもリュゼの後に続く。個室のドアを閉めて、セオリアスと共にベッドに腰を下ろした。
 リュゼは既に、1人用の椅子に座っていた。

「それで、何しに来たんだ? フィオーネ殿下から事情を聞いているのに何でマリスを連れてきた?」

 セオリアスが低い声で唸るが、リュゼはけろりとしている。

「そんなに怒らなくても。いいかい、俺たちはセオの疑いを晴らしに来たんだよ」
「どういう事だ?」
「経緯を話そう」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したらめちゃくちゃ嫌われてたけどMなので毎日楽しい

やこにく
BL
「穢らわしい!」「近づくな、この野郎!」「気持ち悪い」 異世界に転生したら、忌み人といわれて毎日罵られる有野 郁 (ありの ゆう)。 しかし、Mだから心無い言葉に興奮している! (美形に罵られるの・・・良い!) 美形だらけの異世界で忌み人として罵られ、冷たく扱われても逆に嬉しい主人公の話。騎士団が(嫌々)引き取 ることになるが、そこでも嫌われを悦ぶ。 主人公受け。攻めはちゃんとでてきます。(固定CPです) ドMな嫌われ異世界人受け×冷酷な副騎士団長攻めです。 初心者ですが、暖かく応援していただけると嬉しいです。

悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~

トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。 しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。 貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。 虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。 そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる? エブリスタにも掲載しています。

召喚されない神子と不機嫌な騎士

拓海のり
BL
気が付いたら異世界で、エルヴェという少年の身体に入っていたオレ。 神殿の神官見習いの身分はなかなかにハードだし、オレ付きの筈の護衛は素っ気ないけれど、チート能力で乗り切れるのか? ご都合主義、よくある話、軽めのゆるゆる設定です。なんちゃってファンタジー。他サイト様にも投稿しています。 男性だけの世界です。男性妊娠の表現があります。

藤枝蕗は逃げている

木村木下
BL
七歳の誕生日を目前に控えたある日、蕗は異世界へ迷い込んでしまった。十五まで生き延びたものの、育ててくれた貴族の家が襲撃され、一人息子である赤ん坊を抱えて逃げることに。なんとか子供を守りつつ王都で暮らしていた。が、守った主人、ローランは年を経るごとに美しくなり、十六で成人を迎えるころには春の女神もかくやという美しさに育ってしまった。しかも、王家から「末姫さまの忘れ形見」と迎えまで来る。 美形王子ローラン×育て親異世界人蕗 ムーンライトノベルズ様でも投稿しています

猫が崇拝される人間の世界で猫獣人の俺って…

えの
BL
森の中に住む猫獣人ミルル。朝起きると知らない森の中に変わっていた。はて?でも気にしない!!のほほんと過ごしていると1人の少年に出会い…。中途半端かもしれませんが一応完結です。妊娠という言葉が出てきますが、妊娠はしません。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

孤独な王弟は初めての愛を救済の聖者に注がれる

葉月めいこ
BL
ラーズヘルム王国の王弟リューウェイクは親兄弟から放任され、自らの力で第三騎士団の副団長まで上り詰めた。 王家や城の中枢から軽んじられながらも、騎士や国の民と信頼を築きながら日々を過ごしている。 国王は在位11年目を迎える前に、自身の治世が加護者である女神に護られていると安心を得るため、古くから伝承のある聖女を求め、異世界からの召喚を決行した。 異世界人の召喚をずっと反対していたリューウェイクは遠征に出たあと伝令が届き、慌てて帰還するが時すでに遅く召喚が終わっていた。 召喚陣の上に現れたのは男女――兄妹2人だった。 皆、女性を聖女と崇め男性を蔑ろに扱うが、リューウェイクは女神が二人を選んだことに意味があると、聖者である雪兎を手厚く歓迎する。 威風堂々とした雪兎は為政者の風格があるものの、根っこの部分は好奇心旺盛で世話焼きでもあり、不遇なリューウェイクを気にかけいたわってくれる。 なぜ今回の召喚されし者が二人だったのか、その理由を知ったリューウェイクは苦悩の選択に迫られる。 召喚されたスパダリ×生真面目な不憫男前 全38話 こちらは個人サイトにも掲載されています。

パラレルワールドの世界で俺はあなたに嫌われている

いちみやりょう
BL
彼が負傷した隊員を庇って敵から剣で斬られそうになった時、自然と体が動いた。 「ジル!!!」 俺の体から血飛沫が出るのと、隊長が俺の名前を叫んだのは同時だった。 隊長はすぐさま敵をなぎ倒して、俺の体を抱き寄せてくれた。 「ジル!」 「……隊長……お怪我は……?」 「……ない。ジルが庇ってくれたからな」 隊長は俺の傷の具合でもう助からないのだと、悟ってしまったようだ。 目を細めて俺を見て、涙を耐えるように不器用に笑った。 ーーーー 『愛してる、ジル』 前の世界の隊長の声を思い出す。 この世界の貴方は俺にそんなことを言わない。 だけど俺は、前の世界にいた時の貴方の優しさが忘れられない。 俺のことを憎んで、俺に冷たく当たっても俺は貴方を信じたい。

処理中です...