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3年生
リュゼの記憶
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「セオリアスが疑われてるって話は聞いた?」
「うん、聞いたよ」
僕の返事を聞いたリュゼは、ぐっと両手に力を入れ、何かを覚悟したような顔つきで僕の目を真っ直ぐ見た。
「実は……こんな話、もしかしたら信じてもらえないかもしれないけどさ、俺も、エチカが誘拐されることは知っていたんだ」
「え!?」
リュゼの言葉に、思わず立ち上がりそうになる。
「それって……」
そういえば1年生の頃、リュゼは僕が死ぬ夢を見たと言っていた。
あの時はてっきり予知夢だと思っていたけど、もしかしてリュゼも、ループの記憶を思い出していたのではないか。
「あは、ごめん……突然こんなこと言われても意味わかんないよね……」
リュゼはへらりと笑顔を見せたが、口角は上がり切れていなかった。
「ううん、僕はリュゼの言うことを信じるよ。というか、セオリアスからも同じような話を聞いてたからさ、嘘だとは思えないんだ」
僕の言葉に、リュゼの顔色は明るくなっていく。
「やっぱりセオも……! そうだったんだ、俺だけじゃなかったんだ」
リュゼは胸を抑えてほーっ、と大きな息を吐いた。この2年間、ずっと不安だったのだろう。
「マリス、俺の記憶について話しておくよ」
「うん」
「俺は、1年生のときからずっとマリスと恋仲だった」
「うん?」
初っ端からぶっ飛んだ事を言われ、耳を疑う。
「だから、俺たちは恋仲だったの! そりゃあもう、セオや殿下の入る隙がないくらい熱々カップルだったね」
「本当に? しかも1年生の頃から……?」
リュゼと僕が熱々カップルだなんて想像もできないが、とりあえずこの話は置いておこう。
「ね、ねえ、そのときって僕とエチカは仲が悪かった?」
「ううん。グランはいなかったけど、俺とマリスとエチカでいつも一緒につるんでた」
ということは、この時もゲームの世界とはかなり違う展開になっていたということだろう。
「フィオーネ様との婚約は?」
「えーっと、フィオーネ殿下はマリスにまるっきり興味ナシって感じだったよ。だから卒業後に円満婚約破棄をするはずだった。
それでね、俺たちは順調に学園生活を満喫していたんだけどさ、 3年生になって、エチカが奴隷の賊に誘拐されたんだ。エチカは奴隷の賊から無事に救助できたんだけど、数日後に、マリスが突然死んだ」
「突然死んだ……?」
林間学校のとき、セオリアスも僕が一度突然死んだと言っていたような気がする。
「そう。授業中に突然倒れたんだ。俺は、入学してから度々マリスが突然死する夢を見ていた。だから不安でさ。マリスの体温を確かめたくなる日が何度もあったよ」
「そう……なんだ」
「でも、俺の記憶の中にいるマリスと今のマリスは、雰囲気が違うんだよねぇ。俺が好きだったのは、記憶の中にいるマリスの方だった……」
リュゼの表情が、一瞬だけ翳りを見せる。リュゼのこんな表情は初めて見た。
「あ、もちろん恋愛の意味ってことね! 今のマリスも友達として大好きだよ」
リュゼは慌てて付け足した。
「……話を戻すよ。だから俺は、エチカが洞窟に誘拐されることは知っていたんだ。だけど、ただの悪い夢だと思ってた。今回のことがあって、初めて夢が夢じゃないってわかったんだ」
リュゼの口ぶりからすると、ループ前の記憶は1つだけしかないようだった。
つまり、リュゼ視点では現在は2周目ということになるのだろう。
(人によってループの回数が違う……? いや、回数は同じだけど、リュゼは1つだけしか思い出していないということなのかな)
どちらにせよ、僕はいまだにループの記憶を思い出す事はできなかった。今のところ、記憶にかすりもしていない。
「マリスは、セオから似たような話を聞いたと言っていたね。それなら、セオが君たちが監禁されていた場所を知っていたのも説明がつく」
「そうだね。でも、こんな話信じてもらえないよね……」
僕の言葉に、リュゼが肩を落とす。
「だよねえ……むしろ、マリスがすぐに信じてくれたのが奇跡だよ」
「あぁ、まぁ……ね。アハハ」
それは僕が、既にゲームの世界に転生という非現実体験をしているからなのだ。
だが、転生の話をリュゼにしたところで余計に混乱させるだけだと思うので、今はまだ黙っていようと決めた。
それよりも、どうやってセオリアスの疑いを晴らすかを考えなければ。
「あ、いいこと思いついた。僕とセオリアスは、去年からずっと、エチカを奴隷にさせないために作戦を練っていたんだ。奴隷の事を調べているうちに突き止めた……なんてどう?」
リュゼの方を見て、同意が得られるか確認する。
「うーん。でも、それはセオの潔白を証明する決定的な証拠にならないな。それに……カンテミール家は奴隷容認派だ。セオが奴隷反対派であることを公にするのは危険だよ」
リュゼが難しい顔をして答える。
(決定的な証拠、かぁ……)
そんなものあるのだろうか。そもそも「ない」を証明することは難しいのだ。
(セオリアスが完全にやってないのは……そうだ、アリバイだ。アリバイが証明できれば疑いは晴れる!)
僕はさっそく、リュゼに提案してみることにした。
「うん、聞いたよ」
僕の返事を聞いたリュゼは、ぐっと両手に力を入れ、何かを覚悟したような顔つきで僕の目を真っ直ぐ見た。
「実は……こんな話、もしかしたら信じてもらえないかもしれないけどさ、俺も、エチカが誘拐されることは知っていたんだ」
「え!?」
リュゼの言葉に、思わず立ち上がりそうになる。
「それって……」
そういえば1年生の頃、リュゼは僕が死ぬ夢を見たと言っていた。
あの時はてっきり予知夢だと思っていたけど、もしかしてリュゼも、ループの記憶を思い出していたのではないか。
「あは、ごめん……突然こんなこと言われても意味わかんないよね……」
リュゼはへらりと笑顔を見せたが、口角は上がり切れていなかった。
「ううん、僕はリュゼの言うことを信じるよ。というか、セオリアスからも同じような話を聞いてたからさ、嘘だとは思えないんだ」
僕の言葉に、リュゼの顔色は明るくなっていく。
「やっぱりセオも……! そうだったんだ、俺だけじゃなかったんだ」
リュゼは胸を抑えてほーっ、と大きな息を吐いた。この2年間、ずっと不安だったのだろう。
「マリス、俺の記憶について話しておくよ」
「うん」
「俺は、1年生のときからずっとマリスと恋仲だった」
「うん?」
初っ端からぶっ飛んだ事を言われ、耳を疑う。
「だから、俺たちは恋仲だったの! そりゃあもう、セオや殿下の入る隙がないくらい熱々カップルだったね」
「本当に? しかも1年生の頃から……?」
リュゼと僕が熱々カップルだなんて想像もできないが、とりあえずこの話は置いておこう。
「ね、ねえ、そのときって僕とエチカは仲が悪かった?」
「ううん。グランはいなかったけど、俺とマリスとエチカでいつも一緒につるんでた」
ということは、この時もゲームの世界とはかなり違う展開になっていたということだろう。
「フィオーネ様との婚約は?」
「えーっと、フィオーネ殿下はマリスにまるっきり興味ナシって感じだったよ。だから卒業後に円満婚約破棄をするはずだった。
それでね、俺たちは順調に学園生活を満喫していたんだけどさ、 3年生になって、エチカが奴隷の賊に誘拐されたんだ。エチカは奴隷の賊から無事に救助できたんだけど、数日後に、マリスが突然死んだ」
「突然死んだ……?」
林間学校のとき、セオリアスも僕が一度突然死んだと言っていたような気がする。
「そう。授業中に突然倒れたんだ。俺は、入学してから度々マリスが突然死する夢を見ていた。だから不安でさ。マリスの体温を確かめたくなる日が何度もあったよ」
「そう……なんだ」
「でも、俺の記憶の中にいるマリスと今のマリスは、雰囲気が違うんだよねぇ。俺が好きだったのは、記憶の中にいるマリスの方だった……」
リュゼの表情が、一瞬だけ翳りを見せる。リュゼのこんな表情は初めて見た。
「あ、もちろん恋愛の意味ってことね! 今のマリスも友達として大好きだよ」
リュゼは慌てて付け足した。
「……話を戻すよ。だから俺は、エチカが洞窟に誘拐されることは知っていたんだ。だけど、ただの悪い夢だと思ってた。今回のことがあって、初めて夢が夢じゃないってわかったんだ」
リュゼの口ぶりからすると、ループ前の記憶は1つだけしかないようだった。
つまり、リュゼ視点では現在は2周目ということになるのだろう。
(人によってループの回数が違う……? いや、回数は同じだけど、リュゼは1つだけしか思い出していないということなのかな)
どちらにせよ、僕はいまだにループの記憶を思い出す事はできなかった。今のところ、記憶にかすりもしていない。
「マリスは、セオから似たような話を聞いたと言っていたね。それなら、セオが君たちが監禁されていた場所を知っていたのも説明がつく」
「そうだね。でも、こんな話信じてもらえないよね……」
僕の言葉に、リュゼが肩を落とす。
「だよねえ……むしろ、マリスがすぐに信じてくれたのが奇跡だよ」
「あぁ、まぁ……ね。アハハ」
それは僕が、既にゲームの世界に転生という非現実体験をしているからなのだ。
だが、転生の話をリュゼにしたところで余計に混乱させるだけだと思うので、今はまだ黙っていようと決めた。
それよりも、どうやってセオリアスの疑いを晴らすかを考えなければ。
「あ、いいこと思いついた。僕とセオリアスは、去年からずっと、エチカを奴隷にさせないために作戦を練っていたんだ。奴隷の事を調べているうちに突き止めた……なんてどう?」
リュゼの方を見て、同意が得られるか確認する。
「うーん。でも、それはセオの潔白を証明する決定的な証拠にならないな。それに……カンテミール家は奴隷容認派だ。セオが奴隷反対派であることを公にするのは危険だよ」
リュゼが難しい顔をして答える。
(決定的な証拠、かぁ……)
そんなものあるのだろうか。そもそも「ない」を証明することは難しいのだ。
(セオリアスが完全にやってないのは……そうだ、アリバイだ。アリバイが証明できれば疑いは晴れる!)
僕はさっそく、リュゼに提案してみることにした。
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