転生した悪役令息は破滅エンドをなかなか回避できない

ハバーシャム

文字の大きさ
上 下
92 / 120
3年生

リュゼの記憶

しおりを挟む
「奥さんは大丈夫だったか?」
 病院から帰ってきたウェルネルに社長のカルセドニーは心配そうに声をかけた。
「ええ、おかげさまで大丈夫でした。ヨンキョクさんに助けられて盗られた物も返ってきました。捻挫してしまったんですけど、ヨンキョクさんが家まで送ってくれるというので」
 ウェルネルは汚れた軍手をはめながら安心の笑みを浮かべた。
「ヨンキョク? 」
「はい。なんか調査で城から来てるそうです」
「……そうか」
「社長」
 社長秘書のロドが作業場に現れた。
「社長、お電話です」
「ああ、今いく。ウェルネル、今日は早く帰れよ」
「はい! ありがとうございます! 」
 カルセドニーの背中にウェルネルが頭を下げる。そんなウェルネルをロドは冷めた目で一瞥すると、カルセドニーと共に作業場を後にし、社長室に入った。カルセドニーは簡単な会話を終わらせると電話を切った。
「振り込みの確認だったよ」
「そうですか。それより社長、明日の件ですが延期なされた方が。スキャが言っていた通り城からの四局がうろついているようですし」
「山の工事のことだろう。慎重にすれば大丈夫だ、ロド。明日で終わるのだ。明日で全てが。ウェルネル達には感謝しないとな。申し訳ないが」
 カルセドニーの安心したような横顔とウェルネルのさっきの笑みを比べ、ロドは色が違うと思った。どちらの色もロドは目に映したくなかった。


「何するのー? 鬼ごっこ? 」
「駄目だ。鬼は今あれだ、里帰り中だから駄目だ」
シズと手を繋いで歩くシリマは、えーと不満そうに背中をのけ反る。
「お兄さん、鬼やってー」
「お兄さんじゃなくてお姉さんな。それにお姉さん鬼はできないんだ。心が清らか過ぎて」
「冗談は脳みそだけにしてください」
 カザンが呆れたため息を吐く。
「子連れで調査できませんよ。どうするんですか? 」
「僕、ちょーさ手伝うよ! 」
 シリマはきらきらした顔する。
「お気持ちだけで結構です」
 カザンはそれを容赦なく遮った。シズはどうしようかと辺りを見回すと、昨日の絵描きが目に入った。
「よし。あそこに預けよーぜ」
 シズはシリマを抱えると絵描きのじいさんの所まで行く。
「あんたまた来たのかい? 」
「今日はこの子描いて。一時間ぐらいたっぷりと。後で迎え来るから」
「えー。嫌だー。ひとりやだー」
 シリマはじたばたし出した。
「じゃあ僕ひとりだけ調べに行きます」
「十五分あったら終わるから二人ともおりなさい」
 絵描きにそう言われ、結局絵が描き終わるまで昨日みたいに、シズは木箱に座って待つことにした。
「なんですか、この無駄な時間」
 預ける作戦が上手くいかず、カザンが不満をシズにぶつける。
「思った通りにいかないことは沢山あんだよ」
「僕のパパはね、カルセドニー工場で凄いお仕事してるのー」
「ほお、それは凄いな」
 シズ達の気持ちをよそに、シリマと絵描きは楽しそうに話していた。
「カルセドニー工場は百五十年以上続く歴史がある会社なんじゃ」
 絵描きがそう教えるとシリマはその大きな数字に驚いて喜んだ。五歳にしたら百五十年なんて宇宙みたいなモノだろうな、とシズは思った。
「百年以上も鉄道とか車ってあるんだな」
「あるに決まってるじゃないですか。授業で何聞いていたんですか。だから三点なんですよ」
「三点は入学試験の時ですー。だから授業関係ありませんー」
 カザンは見下すような嘲笑をした。シズは嫌味より腹立った。
「武器屋じゃよ」
 絵描きが呟いた。
「え? 」
「だからカルセドニー工場は最初、武器屋だったと、わしのじいさんが話しておった。戦争が終わって、四ヵ国条約できて武器が製造できなくなったから、鉄道の会社に鞍替えしたらしいぞ」
 シズはカザンを見る。カザンは頷いた。
「意外に有効な時間でしたね」
「思いがけないことは沢山あるんだよ」
 自分の顔の絵を見て喜んだ。そんなシリマを引き連れて聞き込みを続けた。銃の調査のことは極秘なため、山の工事のことについて来ている風を装い、世間話を織り交ぜてカルセドニー工場のことを聞いた。こういうのはカザンの方がうまかった。顔もまあ良い方だからおばちゃん二人相手に色々引き出していた。
「城人さんの顔タイプだわ」
「そんな」
 カザンは可愛らしく微笑んだ。ザ・猫かぶりだ。シズは少し離れ地面に絵を描くシリマのそばにいた。
「やだ、可愛い」
「息子にしたいわ」
 おばちゃん達の楽しそうな笑い声が聞こえてくる。しばらくしてカザンが戻ってきた。シズはシリマから少し離れる。
「カルセドニー工場は数年前に事業を拡大しようとして失敗して多額の借金があったようですが、今は持ち直しているようです」
「どうやって持ち直したかは? 」
「そこまでは分かりませんが、借金返済のために手を出してはいけないものに、手を出したのかもしれませんね」
 銃の製造に。カザンが腕時計を見る。
「そろそろシリマ君を送り届けましょう」
「ああ」
 シリマはくたびれたようで足取りがおぼつかなかった。しょうがないから、シズがおんぶしてやるとものの数秒で寝た。
「子ども背負ってもあなたから母性を感じませんね」
「ああ? なんだよ、てめぇ。じゃあお前抱っこしてみろよ。父性が感じられるかジャッジしてやるよ」
「遠慮します。制服に涎つくのは嫌なので」
「お前本当に嫌い」
「光栄です」
 スキャ家の前に着くと後ろから声をかけられた。
「ヨンキョクさん! 」
 ウェルネルだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

推しのために、モブの俺は悪役令息に成り代わることに決めました!

華抹茶
BL
ある日突然、超強火のオタクだった前世の記憶が蘇った伯爵令息のエルバート。しかも今の自分は大好きだったBLゲームのモブだと気が付いた彼は、このままだと最推しの悪役令息が不幸な未来を迎えることも思い出す。そこで最推しに代わって自分が悪役令息になるためエルバートは猛勉強してゲームの舞台となる学園に入学し、悪役令息として振舞い始める。その結果、主人公やメインキャラクター達には目の敵にされ嫌われ生活を送る彼だけど、何故か最推しだけはエルバートに接近してきて――クールビューティ公爵令息と猪突猛進モブのハイテンションコミカルBLファンタジー!

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

愛しい番の囲い方。 半端者の僕は最強の竜に愛されているようです

飛鷹
BL
獣人の国にあって、神から見放された存在とされている『後天性獣人』のティア。 獣人の特徴を全く持たずに生まれた故に獣人とは認められず、獣人と認められないから獣神を奉る神殿には入れない。神殿に入れないから婚姻も結べない『半端者』のティアだが、孤児院で共に過ごした幼馴染のアデルに大切に守られて成長していった。 しかし長く共にあったアデルは、『半端者』のティアではなく、別の人を伴侶に選んでしまう。 傷付きながらも「当然の結果」と全てを受け入れ、アデルと別れて獣人の国から出ていく事にしたティア。 蔑まれ冷遇される環境で生きるしかなかったティアが、番いと出会い獣人の姿を取り戻し幸せになるお話です。

【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」 知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど? お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。 ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?

MEIKO
BL
【完結】そのうち番外編更新予定。伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷うだけだ┉。僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げた。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなの何で!? ※R対象話には『*』マーク付けますが、後半付近まで出て来ない予定です。

処理中です...