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3年生
事情聴取
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「まずは自己紹介をいたします。私、王宮騎士団副団長のロセウム・ノクサスと申します」
「自分はアズール・ルクスと申します!」
真ん中にいる年配の騎士と若手の騎士がそれぞれ自己紹介をした。
「あ、どうも……ぼ、わ、私はマリス・アスムベルクと申します」
「ありがとうございますマリス様。それでは、お答えできる範囲で構いませんので、攫われた時のことを詳細に教えてください」
ロゼウムがそう言うと、アズールはペンを構え、メモの準備をした。
「それではまず、攫われたときのことを最初から詳しく教えてください」
「はい……。その日は王宮パーティーがあって、エチカと一緒に帰ってたんです。途中でエチカと共に文房具店に寄って、学園に戻ろうとしたら、後ろから馬車が近づいてきました。僕たちは走って学園まで向かったんですけど、既に待ち伏せをされていたみたいでした」
アズールが一生懸命紙にペンを走らせている。
「……僕たちは手足を拘束されて、洞窟まで連れて来られました。僕とエチカは別々の部屋に入れられて、手足に枷をつけられて……その……」
「なるほど。大体わかりました、ありがとうございます」
僕の言葉が震えてきたのを察したのか、ロゼウムは僕の話を一旦終わらせた。
深呼吸をして心身を落ち着かせる。今は冷静にできるだけ事実を述べることに集中しなければ。
「洞窟の中で、何かこう……暴力等を振るわれたりはしましたか?」
「あ、えっと、そうですね……暴力……その……」
ヤンの顔が頭によぎり、再び身体が震え出す。僕は、両手で反対の腕をさすり、身体の震えを抑えた。
「申し訳ありません。質問を変えましょう。マリス様は、洞窟内で暴力行為を受けましたか?」
「……はい」
「それは、殴ったり蹴ったりするような、身体に危害を加える暴力でしたか?」
「違います……」
「では、それは性的暴力でしたか?」
「っ……、……」
両手を握りしめて身体を守るように抱え込む。言葉が喉に詰まって、思うように声が出ない。
「マリス、ここまで捜査に協力してくれてありがとう。よく頑張ったね」
今まで静かに僕たちの様子を見ていたフィオーネが口を開いた。
「辛いだろうけど、ちゃんと話してくれなければ君たちを攫った犯人たちに正当な処罰を下せないんだ。だから、もう少しだけ頑張ってほしいな」
「はい……」
「繊細な内容だから、親しい人と2人の方がいいかな。誰かリクエストはあるかい?」
「同級生のセオリアスに話す、でもいいですか……?」
以前フィオーネから酷いことをされたときにも話を聞いてくれたセオリアスになら話せそうだった。
「いや、セオリアスは駄目だ」
フィオーネがぴしゃりと言い放つ。
「意地悪で言ってるんじゃないんだ。セオリアスはこの事件の重要参考人なんだよ」
「重要参考人……!? どうしてセオリアスが?」
「そもそもこんなに早く君たちを見つけることができたのはセオリアスのおかげなんだけど、それはセオリアスが、マリスたちが誘拐されたことも洞窟の場所もなぜか知っていたからなんだ」
それはおそらく、ループの記憶があったからだ。しかし、「ループの記憶があったから」なんて理由を話したとしても納得してもらえるわけがないし、むしろ場を混乱させてしまうかもしれない。
「セオリアスがこんなことする訳がありません」
「俺も同意見だよ。だけど、今のところセオリアスの潔白を証明できる決定的な証拠が無い……話を戻そうマリス。今は君の話を聞かなければならない」
「わかりました……えっと、じゃあ、同室のリュゼに話してもいいですか……?」
「わかった、リュゼに協力してもらおう。授業が終わり次第この部屋に来てもらうよう言っておくよ。君は悪くないんだから、気に病まないようにね」
僕たちは一旦解散となり、最初に用意された個室に戻された。
メイドの女性が軽食を持ってきてくれて、ようやく自分が空腹であることに気が付いた。
数時間後、リュゼが王宮に来たことを知らされ再び客間に案内される。
先程副騎士団長のロゼウムが座っていた場所にリュゼが座っていた。
「マリス! 会えてよかった!!」
リュゼは立ち上がって僕の方まで来ると、父と兄がしたみたいに僕を抱きしめた。
リュゼの銀色の長髪が、さらりと僕の顔を撫でる。
「リュゼ、無理言って、わざわざ来させてしまってごめんね」
「ううん。むしろ、マリスが俺を頼ってくれて嬉しいよ。さ、座って話そうか」
僕たちはソファに移動した。リュゼの提案で、僕はリュゼの向かいではなく隣に腰を下ろした。
「ええっと、フィオーネ殿下からざっくりとだけ聞いたんだけど……洞窟の中でされたことについて、ゆっくりでいいから教えてほしい」
「うん……洞窟の中で体調を崩してしまって、エチカに部屋に来てもらったんだ。神子の癒しの力がどうとかって言ってた。
だから、僕たちは脱出する作戦を練ったんだ。アルっていう子に協力してもらおうと思ったんだ」
「アル?」
「そう。でも、いざ実行ってなったときに失敗してしまって……」
時折りリュゼが背中をさすってくれたので、僕は落ち着いて話す事ができた。
「それで、洞窟の外の池に連れて行かれて、えっと……服を破かれた。池の水で体の汚れを落として、何回も口を濯いだあと……舐めろって……その、陰部を……」
ふう、と深い息を吐く。ようやくちゃんと言う事ができた。
「舐め、たの……?」
「うん……」
一瞬だけ沈黙が流れた後、リュゼが深呼吸をして話を続けた。
「わかった。教えてくれてありがとうマリス。辛かったよね。じゃあ最後に、君にそういうことをした人の特徴を教えて」
「うん。僕の服を破ったのは、イェルグって呼ばれてた大きな男だった。舐めろって言ってきたのは、ヤンって呼ばれてた、ヘラヘラした男だったよ」
「なるほど。イェルグにヤンね」
リュゼは、メモ用紙に僕が言ったことを書き留めた。
メモを書き終えたリュゼは、メモ用紙をテーブルに置いて顔を上げた。
「よし、王宮からの宿題は終わり! 次の話に移ろう」
「つ、次の話?」
「そう。セオリアスの件だよ!」
「自分はアズール・ルクスと申します!」
真ん中にいる年配の騎士と若手の騎士がそれぞれ自己紹介をした。
「あ、どうも……ぼ、わ、私はマリス・アスムベルクと申します」
「ありがとうございますマリス様。それでは、お答えできる範囲で構いませんので、攫われた時のことを詳細に教えてください」
ロゼウムがそう言うと、アズールはペンを構え、メモの準備をした。
「それではまず、攫われたときのことを最初から詳しく教えてください」
「はい……。その日は王宮パーティーがあって、エチカと一緒に帰ってたんです。途中でエチカと共に文房具店に寄って、学園に戻ろうとしたら、後ろから馬車が近づいてきました。僕たちは走って学園まで向かったんですけど、既に待ち伏せをされていたみたいでした」
アズールが一生懸命紙にペンを走らせている。
「……僕たちは手足を拘束されて、洞窟まで連れて来られました。僕とエチカは別々の部屋に入れられて、手足に枷をつけられて……その……」
「なるほど。大体わかりました、ありがとうございます」
僕の言葉が震えてきたのを察したのか、ロゼウムは僕の話を一旦終わらせた。
深呼吸をして心身を落ち着かせる。今は冷静にできるだけ事実を述べることに集中しなければ。
「洞窟の中で、何かこう……暴力等を振るわれたりはしましたか?」
「あ、えっと、そうですね……暴力……その……」
ヤンの顔が頭によぎり、再び身体が震え出す。僕は、両手で反対の腕をさすり、身体の震えを抑えた。
「申し訳ありません。質問を変えましょう。マリス様は、洞窟内で暴力行為を受けましたか?」
「……はい」
「それは、殴ったり蹴ったりするような、身体に危害を加える暴力でしたか?」
「違います……」
「では、それは性的暴力でしたか?」
「っ……、……」
両手を握りしめて身体を守るように抱え込む。言葉が喉に詰まって、思うように声が出ない。
「マリス、ここまで捜査に協力してくれてありがとう。よく頑張ったね」
今まで静かに僕たちの様子を見ていたフィオーネが口を開いた。
「辛いだろうけど、ちゃんと話してくれなければ君たちを攫った犯人たちに正当な処罰を下せないんだ。だから、もう少しだけ頑張ってほしいな」
「はい……」
「繊細な内容だから、親しい人と2人の方がいいかな。誰かリクエストはあるかい?」
「同級生のセオリアスに話す、でもいいですか……?」
以前フィオーネから酷いことをされたときにも話を聞いてくれたセオリアスになら話せそうだった。
「いや、セオリアスは駄目だ」
フィオーネがぴしゃりと言い放つ。
「意地悪で言ってるんじゃないんだ。セオリアスはこの事件の重要参考人なんだよ」
「重要参考人……!? どうしてセオリアスが?」
「そもそもこんなに早く君たちを見つけることができたのはセオリアスのおかげなんだけど、それはセオリアスが、マリスたちが誘拐されたことも洞窟の場所もなぜか知っていたからなんだ」
それはおそらく、ループの記憶があったからだ。しかし、「ループの記憶があったから」なんて理由を話したとしても納得してもらえるわけがないし、むしろ場を混乱させてしまうかもしれない。
「セオリアスがこんなことする訳がありません」
「俺も同意見だよ。だけど、今のところセオリアスの潔白を証明できる決定的な証拠が無い……話を戻そうマリス。今は君の話を聞かなければならない」
「わかりました……えっと、じゃあ、同室のリュゼに話してもいいですか……?」
「わかった、リュゼに協力してもらおう。授業が終わり次第この部屋に来てもらうよう言っておくよ。君は悪くないんだから、気に病まないようにね」
僕たちは一旦解散となり、最初に用意された個室に戻された。
メイドの女性が軽食を持ってきてくれて、ようやく自分が空腹であることに気が付いた。
数時間後、リュゼが王宮に来たことを知らされ再び客間に案内される。
先程副騎士団長のロゼウムが座っていた場所にリュゼが座っていた。
「マリス! 会えてよかった!!」
リュゼは立ち上がって僕の方まで来ると、父と兄がしたみたいに僕を抱きしめた。
リュゼの銀色の長髪が、さらりと僕の顔を撫でる。
「リュゼ、無理言って、わざわざ来させてしまってごめんね」
「ううん。むしろ、マリスが俺を頼ってくれて嬉しいよ。さ、座って話そうか」
僕たちはソファに移動した。リュゼの提案で、僕はリュゼの向かいではなく隣に腰を下ろした。
「ええっと、フィオーネ殿下からざっくりとだけ聞いたんだけど……洞窟の中でされたことについて、ゆっくりでいいから教えてほしい」
「うん……洞窟の中で体調を崩してしまって、エチカに部屋に来てもらったんだ。神子の癒しの力がどうとかって言ってた。
だから、僕たちは脱出する作戦を練ったんだ。アルっていう子に協力してもらおうと思ったんだ」
「アル?」
「そう。でも、いざ実行ってなったときに失敗してしまって……」
時折りリュゼが背中をさすってくれたので、僕は落ち着いて話す事ができた。
「それで、洞窟の外の池に連れて行かれて、えっと……服を破かれた。池の水で体の汚れを落として、何回も口を濯いだあと……舐めろって……その、陰部を……」
ふう、と深い息を吐く。ようやくちゃんと言う事ができた。
「舐め、たの……?」
「うん……」
一瞬だけ沈黙が流れた後、リュゼが深呼吸をして話を続けた。
「わかった。教えてくれてありがとうマリス。辛かったよね。じゃあ最後に、君にそういうことをした人の特徴を教えて」
「うん。僕の服を破ったのは、イェルグって呼ばれてた大きな男だった。舐めろって言ってきたのは、ヤンって呼ばれてた、ヘラヘラした男だったよ」
「なるほど。イェルグにヤンね」
リュゼは、メモ用紙に僕が言ったことを書き留めた。
メモを書き終えたリュゼは、メモ用紙をテーブルに置いて顔を上げた。
「よし、王宮からの宿題は終わり! 次の話に移ろう」
「つ、次の話?」
「そう。セオリアスの件だよ!」
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