上 下
86 / 120
3年生

脱出作戦

しおりを挟む
「まずは状況を整理しよう」

 エチカが小声で続ける。

「ぼくとマリスの部屋はすぐ隣にある。ドアの前には見張りが1人ずつ。ぼくたちの部屋は洞窟の最奥にあって、脱出するためにはあいつらの生活しているスペースまで出なければならない」
「それじゃあ、脱出できないんじゃ……そもそも、鎖はどうすればいいの? 僕の鎖、ドアにすら届かないんだよ?」

 僕は鎖を引っ張って見せた。少し錆びてはいるが、僕の力ではびくともしない。

「手枷も足枷も鍵があるはず。そこで、アルっていう少年を説得して鍵を取ってきてもらうんだ」
「でも、もし説得が成功したとして、僕たちに協力することがバレたらアルは……」

 僕も最初は、アルが助けてくれるかもと思っていた。だが、僕のためにアルが犠牲になることだけは避けて通りたい。

「大丈夫、アルも一緒に脱出するんだよ。ところでマリス、体調は大丈夫そう?」

 エチカが僕の顔を覗き込んだ。元気そうに振舞っているが、エチカの目の下にもうっすらと隈ができている。

「うん。エチカと話していたらだいぶ落ち着いたよ。本当に治癒能力はないの?」
「残念ながらないんだよねぇ。そこはゲーム通りでよかったのにね」

 エチカはへら、と笑い、またすぐ真剣な顔に戻った。

「……おそらくだけど、朝と夜で見張り当番がいるはずなんだ。アルに夜の見張り番になってもらい、鍵を取ってきてもらう。ここで重要なのはスピードだ。他の奴らが起きる前に、一晩で脱出しないといけない」
「一晩で……そういえば、朝と夜はどうやって見分ければいいの?」

 ここは洞窟だから、外の様子がわからない。今が朝なのか夜なのかさえわからないのだ。

「時間感覚が狂わないよう、奴らも時間管理はきっちりしてる。ぼくたちは夜に攫われて、最初に寝ろ、と言われたはずだ。その後食事が運ばれた。つまり朝ごはんが出されたんだ。だから今は昼くらいだと思う」
「なるほど……」

 それなら、きっと今頃学園では僕たちが居なくなって大騒ぎになっているだろう。

「多分、これからも夜に寝ろってアナウンスが来ると思うんだ。そうじゃないと体内時計が狂って時差ボケしちゃうからね。
 奴らの目的は、ぼくたちをどっかの貴族に売り飛ばすことだと思うんだ。だから地上と生活リズムは合わせておくはずだ」
「僕たち、売られちゃうの?」
「売られる前に脱出するんだよ」

 エチカは、僕の不安な気持ちを悟ったのか、明るい声色で言った。
 エチカも不安なはずなのに、気を遣わせてしまい申し訳ない気持ちになる。

「とりあえずマリスにやってほしいことは、アルの説得だ。アルはマリスの部屋の前の見張りになっているから、なるべく早く説得して。マリスの手錠が外れたらぼくの部屋まで来てくれ。
 奴らは部屋に入る時にノックはしないから、合図はノックにしよう」
「エチカの部屋の前の見張りは大丈夫なの?」
「大丈夫。大きな物音を立てなければ起きないと思う。だから、ノックも静かにやってほしい」
「わかった、頑張る」

 ひと通り話し終えると、喉がカラカラに乾いた。
 エチカの唇もカサカサで、水分不足が目に見える。

 しばらくして、男が2人分のパンと水を持って部屋に入ってきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したらめちゃくちゃ嫌われてたけどMなので毎日楽しい

やこにく
BL
「穢らわしい!」「近づくな、この野郎!」「気持ち悪い」 異世界に転生したら、忌み人といわれて毎日罵られる有野 郁 (ありの ゆう)。 しかし、Mだから心無い言葉に興奮している! (美形に罵られるの・・・良い!) 美形だらけの異世界で忌み人として罵られ、冷たく扱われても逆に嬉しい主人公の話。騎士団が(嫌々)引き取 ることになるが、そこでも嫌われを悦ぶ。 主人公受け。攻めはちゃんとでてきます。(固定CPです) ドMな嫌われ異世界人受け×冷酷な副騎士団長攻めです。 初心者ですが、暖かく応援していただけると嬉しいです。

悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~

トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。 しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。 貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。 虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。 そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる? エブリスタにも掲載しています。

藤枝蕗は逃げている

木村木下
BL
七歳の誕生日を目前に控えたある日、蕗は異世界へ迷い込んでしまった。十五まで生き延びたものの、育ててくれた貴族の家が襲撃され、一人息子である赤ん坊を抱えて逃げることに。なんとか子供を守りつつ王都で暮らしていた。が、守った主人、ローランは年を経るごとに美しくなり、十六で成人を迎えるころには春の女神もかくやという美しさに育ってしまった。しかも、王家から「末姫さまの忘れ形見」と迎えまで来る。 美形王子ローラン×育て親異世界人蕗 ムーンライトノベルズ様でも投稿しています

召喚されない神子と不機嫌な騎士

拓海のり
BL
気が付いたら異世界で、エルヴェという少年の身体に入っていたオレ。 神殿の神官見習いの身分はなかなかにハードだし、オレ付きの筈の護衛は素っ気ないけれど、チート能力で乗り切れるのか? ご都合主義、よくある話、軽めのゆるゆる設定です。なんちゃってファンタジー。他サイト様にも投稿しています。 男性だけの世界です。男性妊娠の表現があります。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

猫が崇拝される人間の世界で猫獣人の俺って…

えの
BL
森の中に住む猫獣人ミルル。朝起きると知らない森の中に変わっていた。はて?でも気にしない!!のほほんと過ごしていると1人の少年に出会い…。中途半端かもしれませんが一応完結です。妊娠という言葉が出てきますが、妊娠はしません。

処理中です...