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3年生
脱出作戦
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「まずは状況を整理しよう」
エチカが小声で続ける。
「ぼくとマリスの部屋はすぐ隣にある。ドアの前には見張りが1人ずつ。ぼくたちの部屋は洞窟の最奥にあって、脱出するためにはあいつらの生活しているスペースまで出なければならない」
「それじゃあ、脱出できないんじゃ……そもそも、鎖はどうすればいいの? 僕の鎖、ドアにすら届かないんだよ?」
僕は鎖を引っ張って見せた。少し錆びてはいるが、僕の力ではびくともしない。
「手枷も足枷も鍵があるはず。そこで、アルっていう少年を説得して鍵を取ってきてもらうんだ」
「でも、もし説得が成功したとして、僕たちに協力することがバレたらアルは……」
僕も最初は、アルが助けてくれるかもと思っていた。だが、僕のためにアルが犠牲になることだけは避けて通りたい。
「大丈夫、アルも一緒に脱出するんだよ。ところでマリス、体調は大丈夫そう?」
エチカが僕の顔を覗き込んだ。元気そうに振舞っているが、エチカの目の下にもうっすらと隈ができている。
「うん。エチカと話していたらだいぶ落ち着いたよ。本当に治癒能力はないの?」
「残念ながらないんだよねぇ。そこはゲーム通りでよかったのにね」
エチカはへら、と笑い、またすぐ真剣な顔に戻った。
「……おそらくだけど、朝と夜で見張り当番がいるはずなんだ。アルに夜の見張り番になってもらい、鍵を取ってきてもらう。ここで重要なのはスピードだ。他の奴らが起きる前に、一晩で脱出しないといけない」
「一晩で……そういえば、朝と夜はどうやって見分ければいいの?」
ここは洞窟だから、外の様子がわからない。今が朝なのか夜なのかさえわからないのだ。
「時間感覚が狂わないよう、奴らも時間管理はきっちりしてる。ぼくたちは夜に攫われて、最初に寝ろ、と言われたはずだ。その後食事が運ばれた。つまり朝ごはんが出されたんだ。だから今は昼くらいだと思う」
「なるほど……」
それなら、きっと今頃学園では僕たちが居なくなって大騒ぎになっているだろう。
「多分、これからも夜に寝ろってアナウンスが来ると思うんだ。そうじゃないと体内時計が狂って時差ボケしちゃうからね。
奴らの目的は、ぼくたちをどっかの貴族に売り飛ばすことだと思うんだ。だから地上と生活リズムは合わせておくはずだ」
「僕たち、売られちゃうの?」
「売られる前に脱出するんだよ」
エチカは、僕の不安な気持ちを悟ったのか、明るい声色で言った。
エチカも不安なはずなのに、気を遣わせてしまい申し訳ない気持ちになる。
「とりあえずマリスにやってほしいことは、アルの説得だ。アルはマリスの部屋の前の見張りになっているから、なるべく早く説得して。マリスの手錠が外れたらぼくの部屋まで来てくれ。
奴らは部屋に入る時にノックはしないから、合図はノックにしよう」
「エチカの部屋の前の見張りは大丈夫なの?」
「大丈夫。大きな物音を立てなければ起きないと思う。だから、ノックも静かにやってほしい」
「わかった、頑張る」
ひと通り話し終えると、喉がカラカラに乾いた。
エチカの唇もカサカサで、水分不足が目に見える。
しばらくして、男が2人分のパンと水を持って部屋に入ってきた。
エチカが小声で続ける。
「ぼくとマリスの部屋はすぐ隣にある。ドアの前には見張りが1人ずつ。ぼくたちの部屋は洞窟の最奥にあって、脱出するためにはあいつらの生活しているスペースまで出なければならない」
「それじゃあ、脱出できないんじゃ……そもそも、鎖はどうすればいいの? 僕の鎖、ドアにすら届かないんだよ?」
僕は鎖を引っ張って見せた。少し錆びてはいるが、僕の力ではびくともしない。
「手枷も足枷も鍵があるはず。そこで、アルっていう少年を説得して鍵を取ってきてもらうんだ」
「でも、もし説得が成功したとして、僕たちに協力することがバレたらアルは……」
僕も最初は、アルが助けてくれるかもと思っていた。だが、僕のためにアルが犠牲になることだけは避けて通りたい。
「大丈夫、アルも一緒に脱出するんだよ。ところでマリス、体調は大丈夫そう?」
エチカが僕の顔を覗き込んだ。元気そうに振舞っているが、エチカの目の下にもうっすらと隈ができている。
「うん。エチカと話していたらだいぶ落ち着いたよ。本当に治癒能力はないの?」
「残念ながらないんだよねぇ。そこはゲーム通りでよかったのにね」
エチカはへら、と笑い、またすぐ真剣な顔に戻った。
「……おそらくだけど、朝と夜で見張り当番がいるはずなんだ。アルに夜の見張り番になってもらい、鍵を取ってきてもらう。ここで重要なのはスピードだ。他の奴らが起きる前に、一晩で脱出しないといけない」
「一晩で……そういえば、朝と夜はどうやって見分ければいいの?」
ここは洞窟だから、外の様子がわからない。今が朝なのか夜なのかさえわからないのだ。
「時間感覚が狂わないよう、奴らも時間管理はきっちりしてる。ぼくたちは夜に攫われて、最初に寝ろ、と言われたはずだ。その後食事が運ばれた。つまり朝ごはんが出されたんだ。だから今は昼くらいだと思う」
「なるほど……」
それなら、きっと今頃学園では僕たちが居なくなって大騒ぎになっているだろう。
「多分、これからも夜に寝ろってアナウンスが来ると思うんだ。そうじゃないと体内時計が狂って時差ボケしちゃうからね。
奴らの目的は、ぼくたちをどっかの貴族に売り飛ばすことだと思うんだ。だから地上と生活リズムは合わせておくはずだ」
「僕たち、売られちゃうの?」
「売られる前に脱出するんだよ」
エチカは、僕の不安な気持ちを悟ったのか、明るい声色で言った。
エチカも不安なはずなのに、気を遣わせてしまい申し訳ない気持ちになる。
「とりあえずマリスにやってほしいことは、アルの説得だ。アルはマリスの部屋の前の見張りになっているから、なるべく早く説得して。マリスの手錠が外れたらぼくの部屋まで来てくれ。
奴らは部屋に入る時にノックはしないから、合図はノックにしよう」
「エチカの部屋の前の見張りは大丈夫なの?」
「大丈夫。大きな物音を立てなければ起きないと思う。だから、ノックも静かにやってほしい」
「わかった、頑張る」
ひと通り話し終えると、喉がカラカラに乾いた。
エチカの唇もカサカサで、水分不足が目に見える。
しばらくして、男が2人分のパンと水を持って部屋に入ってきた。
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